渋谷さん

渋谷さん、とすごく親しみを込めて呼びかけてみるけれど、実は渋谷さんとはそんなに顔を合わせたことはない。あって20回ぐらいかも。演奏は10回あるかないかぐらい。10年ほど前に思い切って声をかけて清水さんとのピアノデュオのアルバムを作れたのは、とても大きな財産。

渋オケも好きだし、1・2・3でやるようなおかあさんといっしょ向けに書かれた曲たちや、由紀さおりさんや佐良直美さんが歌ってたような曲(そういえばモダチョキでカバーしている初恋の丘も渋谷さん作曲だ)も本当にどれもいいメロディ、楽しい曲ばかりで好き。一緒に演奏するのもいいけれど、やはり渋谷さんのあのピアノで聴きたくなる。

きっとたくさんの偉大なピアニストの音を耳を澄ませて聴いて、その中にあるものをいっぱい見つけてきたんだろうなと勝手に想像してる。渋谷さんのピアノにはいろんなものが詰まっている感じがする。ロマンチックで暖かくて、譜面で書けない何か。ジャズや音楽そのものに対する尊敬と感謝の気持ち。渋オケや渋谷さんといっしょなんかの時のアンコールでソロピアノを弾く時、ひょいと足を組んで躊躇なくピアノに手を落とすと、長いジャズの歴史が育んできたいろんな音がそこから聞こえてくる。

いつもひょいとドアを開けて、ああ、こんにちは、お元気ですか?と、つい先週も会ったような感じで声をかけてくれる渋谷さん。演奏してても、おしゃべりしてても、一緒に呑んでても、ステージでMCしてても、特別なことが何も起こってるように感じさせない渋谷さん。こちらはさすがに敬称をつけて渋谷さんと呼びかけるけどそれ以外はタメ口になってしまっても、ああそうですか、どうしましょう、昔これこれこういうことがありましねー、なんて敬語で話してくれる渋谷さん、どっちが先輩だか分かんなくなってくる。

ひそかにとてもとても嬉しかったことは、渋谷さんが僕にあだ名をつけて呼んでくれたこと。実は子供の頃からあだ名で呼ばれることが少なくて(つけにくいのよね、きっと)、それがずっとさみしかったんだけれど、渋谷さんはライブ前にいつもみんなでいく中華屋さんで僕が同じものばかり(しいたけ焼きそば。好きなんだもん)頼むので、どうもそれが面白かったようで、僕のことを折に触れて”しいたけちゃん”と呼んでくれてた。本当に嬉しかったんです。

去年奈良に渋オケを聴きにいって、終わってからちょっとご挨拶したのが最後になってしまった。ちょっと転けたり闘病したりしてると聞いていたけど、また元気になってひょいとドアを開けて顔を合わせられる日がくるだろうなーと思っていたのに、突然の訃報で言葉も出ない。寂しいです。

まだまだ教えてもらいたかったこと、お話を聞かせてもらいたかったことたくさんあるけれど。安らかに。ご冥福をお祈りしています。本当に本当にありがとうございました。

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