いしいしんじ – きんじよ

一年前ぐらい、コロナの自粛期間が始まった頃にSNSで流行った「好きな本を紹介するバトン」みたいなので、悩んだあげく栗本さんの「グイン・サーガ」シリーズを選んだとき、懐かしさのあまりページを開いたもんだから、またこのシリーズの再読に火がつき、気がついたらずーっとこればっかり読んでいるので、すっかり他の本を読んで来てなかった。(現在56巻)

少し前にひょんなことでいしいさんの話になり、面白いよーなんて言ってたらこの本面白かったよと貸してもらい(面白い本って人に勧めたり、あげたくなるもの)、読み始めたら面白く、一瞬で読むのがもったいなかったので、1つずつ(エッセイです)ゆっくり噛み締めて読んだ。

東京から三崎、松本と居住地を移って来たいしいさんが現在住んでいるのは実は京都。もう10年以上になるはずだけど、このエッセイはそのタイトル通り自宅の「きんじょ」の話ばかり。10年前に生まれた息子ひとひくんの成長とともに、いしいさんのまた新たな世界が”きんじょ”で広がっていくようすが、いしいさんの人となりが見えるような、口でしゃべってるような、そんな文体で面白く描かれていくのが楽しく、またそこに登場する書店やカフェや自転車やさんや学校などがとても魅力的で、知らなかった京都の魅力がまたずんずん迫ってくるようで、読みながらいしいさんと同じ体験をしたくて、これらの場所を覗きに行きたくなるような、そんなお話ばかり。

そしてこの本がミシマ社の手売りブックスというしりーずで、まずそ題字が息子さんの字というのも愛着わくんだけれど、本に子供がよくやるようにシールが貼ってあって、その手作り感(ほんとに出版の方が手て貼ってるのかしらん?)がまた楽しい。

いしいさんって、物事を面白がる達人なんだと思う。面白がるというか、まっすぐ感じたままに見えたままに見る/楽しむ、というか、子供のようにまっすぐに没頭できて、その対象に魅力を存分に楽しんでしまえる能力の持ち主なんだとおもう。ふつう大人がつまらないと切って捨ててしまうようなことでも、別の角度からそれがとても魅力的に感じられる見かた/感じ方を発見できる子供用なひとなんだろうなーと思う。そのまっすぐさが文章にも素直にあらわれて、読んでいて清々しい気分に、楽しい気分にさせてくれるんだと思う。いしいさんの書く物語も好きだけれど、こういうエッセイ、ほんと好きだな。

ひとひくんの成長も微笑ましく(しかもとても面白い)どのエピソードも楽しいけど、ぼくはお父さんの話が好きだったな。この家族あってのいしいさんなんだなーと思う。

いしいさんのこのテリトリーをウロチョロして、いつかいしいさんに出会いたいなーとほんと思う。でもあったらなんて言ったらいいかわかんないので、とりあえず「好きです!」ていうことに決めてます^^;

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いしいしんじ – 東京夜話

tokyoyawa

もともとは「とーきょー いしい あるき」というタイトルで出版されたいしいさんデビュー当時の短編集。もしかしてほとんどが東京在住時のいしいさんの実体験と東京のあちこちの街から感じたインスピレーションで形作られてるんじゃないかと思うのだけれど、全部が全部ぜんぜんばらばらでとても面白い。ここに描かれる作品の切り口や語り口や、話のパターン、もうてんでばらばらなのだけれど、でもそこには”いししさん”という作家というか人間のキャラクターが横たわっていて、どの短編読んでもいしいさんだなーと思える。僕自身も普段やってる演奏はジャンルとかスタイルがばらばらだけれどよく聞いてみれば(うまくいってるのかな?)僕自身はずっと変わらない感じで一緒になってる(と思ってる)同じようなことなのかもしれない。

ちょっと不思議なSFぽいともいえる「真夜中の生ゴミ(下北沢)」「ベガ星人はアップルパイが得意なの(原宿)」「そこにいるの?(大久保)」「アメーバ横丁の女(上野・アメ横)」とか、いしいさんの体験のレポートみたいな「クリスマス追跡(渋谷)」「うつぼかずらの夜(田町)」「天使はジェット気流に乗って(新宿ゴールデン街)」「吾妻橋の下、イヌは流れる(浅草)」とか、もう想像力の賜物みたいな「クロマグロとシロザケ(築地)」「お面法廷(霞ヶ関)」「二月二十日 産卵(東京湾)」とかとか、もっとあるんだけど、様々も様々。どれも違うのでページをめくる食べ違う作家さんに出会うようでおもしろい。あと、話をまたがって登場する(たぶん同じであろう)シチュエーションや犬がいたりも楽しいところ。

個人的には浅草のと田町のが好きかなあ。前後して鬼海さんの写真集みてたりしたからかな。もともと浅草は好きなところだし、田町はちょっと思い出あるところってのもあるのかも。あと池袋が登場人物としてでてくるってのも面白いなあ。

あと主人公ぽい人が(まあ本人なのだろうけど)大阪弁なのも面白い。で、字で書いているのに大阪弁にちゃんと読めるのがおもしろい。関西弁しゃべらない人が書くとなんか違う感じがする(テンポ感の問題のような気がする)んだけど、いしいさんはさすが大阪の人なので、書いてある字も大阪弁のイントネーションで読めてしまうのが不思議。

これらの短編の延長に、いままでいろいろ読んできたいしいさんの作品があるんだろうなあ。物語的なものはだいぶ柔らかいというか少しまろやかなオブラートにつつまれた世界観になってる感じがするけれど、こういうトンがった感じがするのもいいな。いしいさんの別の面(というか物語的な作品にももちろん内包されているんだろうけど)を見た気がした。なのでまた同じ作品読んでも感触かわるかも。

新潮文庫 2006

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いしいしんじ – プラネタリウムのふたご

puranetarium

いしいさんの本は、いつもどこかへ連れて行ってくれる。今いる世界とどこかで繋がっているような気もするけど、もしかしたら時間も空間も別な場所なのかもしれない。でもなぜか知ってるような世界。

山に囲まれた小さな村、そこは田舎で人々が和気藹々と暮らしている。そこには大きな製紙工場があってたくさんの人がそこで働いている。製紙工場からでる煙や、昔からの土地の成り立ちのせいで一年中もやがかかったような空。そこにプラネタリウムがある。泣き男とよばれる男が毎日その素敵な語り口でその町では見ることのできない夜空を投影している。ある日、そこに綺麗な銀髪をした幼いふたごが捨てられていて、泣き男は彼らを受け入れて育てていくことにする。テンペルとタットルと名付けられた2人はすくすく賢く育ち、彼らの側にはいつも泣き男の夜空の、星座の神話のおはなしがあった。

ある時町に手品師のテントがやってきてふたごは魅了される。そしてひょんなことからテンペルはその一座についていってしまうことになり、やがてテンペルは手品師(しかもすこぶる腕のいい)に、そしてタットルはプラネタリウムの星の語り部となる。二人の行く末は、村の未来は?

いしいさんは村のはずれにすむ不思議なおばあさんの口を借りて言う「だまされる才覚がひとにないと、この世はかっさかさの世界になってしまう」。手品はその高い技術でもって現実にはありえないことを目の前で起こせてみせる、そしてプラネタリウムは実際の夜空ではないのに、それ以上に美しく星々を投影してみせる。夢のあること。でも両方ともたねや仕掛けがあって、目にはそう見えたとしても、本当は上手につくりあげたうそ。でもそれを信じて騙されないと楽しめない。悪い人に騙されるのは違うけど、そうやって気持ちよくちゃんと騙されることによって世界はとても滑らかに繋がっていく。

とかくなんでも四角四面に、細かなことも明らかに、ルール、とりきめ、そういうものでしか回せないような世の中はもうギスギスしてきている。そうじゃない、いい嘘とそれとわかって気持ちよく騙されることによって滑らかになることはたくさんある。そんなことを教えてくれる物語。実際そうあって欲しい。いやだ、いまの世の中のかっさかさ加減。

もっと感想あるんだけど、物語のこまかいことより、この言葉が嬉しかった、沁みる物語。いしいさんありがとう。

講談社文庫 2006

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いしいしんじ – ポーの話

なんのかんのでいろいろ読んできているいしいさん。この物語はだいぶ時間がかかってしまった。うなぎ女と呼ばれる川にすむ黒い女たちの間に生まれたポー。彼は手足の指の間に水かきがあって人とはちょっと違うのかも。大事に育てられたポーは恐ろしいほどに純粋無垢。裕福な人々が住む街と貧乏な人が住む街の間を流れる川に住み、泥の中を自由に泳ぎながら、川に架かるたくさんの橋を眺めたり、陸の音を聞いたり、泥の底に沈むものを拾い上げたり、そんな日々を送っていた。たまには陸にも上がって、何人かの変わった人物にも出会い、無垢な彼はいろんな人生の物事を知っていく。悪とは?本当に大事なものとは?

そんな中大雨が降って街は水浸しになり、それを機会に母なるうなぎ女たちから離れてポーは下流へと旅立つ。そしてまた流れた先で、狩をする老人と犬と少年に出会い、鳩レースに勤しむ参拝埋め立ての夫婦に出会い、人生について、いろいろ教えられる。そしてやがて彼は海へと出る。

細々としたポーにまつわるエビソードもいしいさんらしくて、怖かったり、何気に恐ろしかったり。するものもあるけれど、いしいさんの手にかかると何もかもかも少し可愛らしく感じるから不思議。ポーの半生(なんだろうか?)がうなぎの一生になぞられて描かれるのも面白く、そういう過程を経て、たいせつなものとは何かを教えてくれるように思う。あからさまじゃなくて、少し遠慮がち、というか、静かに。

ひとつひとつはちいさくても、それらは実はおおきな流れのなかのひとつであって、その大きさを感じた時に、ぞわわと迫ってくる表現しにくい感覚が素敵。この物語を読んでいても、まだお会いしたこともないのに、いしいさんが目の前で、もしかしたら寝そべりながら、いや、きちんと正座をして、話してくれているような気がしてしまう。ああ、感想うまく書けないや。

2005 新潮文庫

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いしいしんじ – 三崎日和

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まったくもっていしいさんにはまっている。なんだろうねえ、この読んでてほのぼのというか、可愛い動物を見ているかのような感覚。そして美味しそうなごはんと、気持ち豊かな生活。いしいさんが順調にやっていけてるというのもあるのかもしれないけれど、やっぱり人柄なんだろうなあ。

いしいしんじのごはん日記」につづいて2003年のWEB連載していた日記をまとめたもの。神奈川の西のほうの昔すごく栄えたらしい三崎に引っ越してからのいしいさんの毎日の生活。お魚がおいしそうだし、東京行ったり松本行ったり、たまには実家(大阪)帰ったり。いろいろ生活の様子が丸見えで面白いし、ご近所さんとの付き合いも、仕事も含めていろいろ楽しそうでいいなーと思う。羨ましいというより、いいなーって感じw ただの日記なのに読んでて飽きないのよね。この本のおかげで、いしいさんの他の作品が、まるでいしいさんが目の前で物語をその場で作りながら話してくれるような気分で読めるようになった。

まだつづきあるようなので、読もうっと。

新潮文庫 2008

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いしいしんじ – トリツカレ男

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最近いしいさんにトリツカレております。まあそれの主は日記のほうだけれど。いままでポツポツと読んできたけど、いしいさんの描く物語はほんと唐突なまでに夢っぽくていい。説明もなく、感覚ですっとそのいしいさんの世界へ入っていけるからいい。男性作家でこの感じする人ってなかなかいないのじゃないかなあ。歳が近いというのも嬉しいし。日記を読んでいると、それはいしいさん本人がしゃべっているそのままの感じがするけど、その感じのまま本を読むと、これまたいしいさんが話してくれる面白い話を聴かされているような気持ちがして、心地いい。そして話が面白いのよねえ。

ある街にすむ、なにかに取り憑かれるとそのことばかりになってしまうジュゼッペ。彼のあだ名は「トリツカレ男」。いままでにもサングラスやら三段跳びやらオペラ、息を止める、昆虫採集、潮干狩り、ハツカネズミの飼育、などなどいろんなものに取り憑かれてきた。街の人たちが次は何に取り憑かれるんだろう?と思っていたときに、ジュゼッペが取り憑かれたのは異国から来た風船売りの女の子だった。

面白いお話をつくるのが上手なお父さんに、おとぎ話を読んでもらっている感じ。ただただ不思議な感じがするけれど(現実じゃあないよねえという感じ)、どこかみんなに共通する、こうだったらいいなーとか、こうなって欲しいなあー、というような夢が詰まっていて、それが少しずつ溶けて目の前に広がっていく感じ。そしてこの物語の場合は、こういう話だとなかなかなさそうな伏線がすごくうまく結実していくのが素晴らしい。短い物語なのに、すごく長く誰かと人生を共にした感じがする。そして無理なく心があったかくなる感じがする。

ほんといい物語。あまりにも素敵なので、読み終わってから、すぐにもう一度読んでしまった。

新潮文庫 2006

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いしいしんじ – いしいしんじのごはん日記

gohannikki

このところ本はまあまあのペースで読んでいるけど、このレビューを書くのを怠っていて、パソコンの横に本が山積みになっている。書いておかないと忘れていくのでレビューにならない(というか自分のための備忘録という意味合いが大きいけど)ので早く書かなきゃと思うのだけれど、日々のバタバタにかまけてほったらかしにしているのはほんとよくないよなあ。

友人に勧められて手に取ったこの本。いしいさんの本は何冊か読んでいるけど、物語じゃなくて、こういうのは初めて。編集部かなにかに勧められてwebに連載し始めたのが最初だそう。2001年の9月くらいから2002年終わりまでのほぼ毎日のちょっとした日記と食べたものが記されているだけなのだけど、なんかこの毎日の短い文章からいしいさんのキャラクターが透けて見えて来てとても楽しく、読んでて飽きない。ただの日記なのに。

もともとご飯とかに無頓着だったのに、あるとき外食にいったらカードが使えなくて現金がたくさんなくて、それで何かを買って帰って自炊したのが自炊生活の始まりだそう。始まり方もとぼけているけど、最初は苦手だったのが楽しくなって、浅草から神奈川の三崎という港町に引っ越したのをきっかけに、近所の魚屋さんからいろいろ買うようになったり教えてもらったりして自炊がより楽しくなり、毎日地元でとれたものを美味しく料理して食べるというのがとても幸せなこと、というのが文章からビンビン伝わって来る。美味しそうでいいなー、というより、いしいさんが生活を楽しんでいるのが伝わって来て楽しい。近所のこどもたちもかわいいし。

本半ばぐらいにある写真のコーナーもなんか楽しいし、巻末のその近所の魚屋さんとの対談も面白い。なんか田舎で暮らしたくなる本。

新潮文庫 2006

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いしいしんじ – うなぎのダンス

unagidance

いしいさんはいくつか読んだことがあったけれど、こんなのは初めて。対談集なのだけれど、いやいやこれがw

20組のゲストの方と対談しているのだけど、きんさんぎんさん(懐かしい!)から始まり、赤塚不二夫さん、柳美里さん、トランプマン(懐かし!)、、、といろんな人とつながりあるんだなーとか面白く読んで(対談もなんかまともな感じではなく、ただの雑談みたいな感じなのをそのまま文章に起こしてる気がする!)いたのだけれど、進んでいくと、勝新太郎、、、あれ?亡くなってたんじゃ?、、、とか、謎のロッカーだの、やたらセラピストだの怪しげというか面白い方がでてきたり、挙げ句の果てには凸版印刷機まで。対談というより脳内インタビューになったりしてて、いしいさんだいぶやばいなーって感じ。

でもなんかおかしいのだけれど、この対談を通してすけ見えるいしいさんのキャラがなんか楽しくて、ついついなんでもオッケーと思ってしまったり、かわいいなとおもってしまったり。全くもって謎の方です。

河出文庫 2008

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