有川浩 – 図書館戦争


久しぶりの有川さん。この図書館戦争シリーズは彼女自身はじめてのシリーズもので、代表作になりますと言った通りとてもおもしろい。本編4冊、別冊が2冊あるそう。その最初の刊。やはり今回も裏切らない有川さん、ありえない設定からはじまるのが面白すぎ。そして一連の自衛隊ものからきたのかメカメカ(というほどでもないか)しいのも楽しい。戦場ラブコメ(笑)。

少し未来のお話(でも年号は平成ではない)。30年前に公序良俗を乱す表現を取り締まる「メディア良化法」という法律が成立し、憲法21条(表現の自由)ぎりぎりのところで検閲というものが堂々とまかり通る時代、唯一その権力に対抗するべく整えられたのが図書館を守る図書隊であった。メディア良化法を盾に検閲を進めるのは良化委員会であり、その執行組織である良化特務機関は日々検閲の名のもとに出版物を狩るが、図書館法による「図書館の自由」を保証されている図書館はあらゆる図書を収蔵し公開する。そのため良化委員会と図書館は(ある一定の制限の範疇でではあるが)武装部隊同士の戦闘が繰りかえされる — そんな時代。

その図書隊を希望して入隊した笠原郁。上司の堂上や同期の手塚や柴原(彼らはとても優秀)から心配されながら(あまりにも郁が不器用なので、でも運動神経だけはとてもいい)日々がんばっていき、やがて良化特務機関と直接対決する図書特殊部隊(タスクフォース)への配属が決まる。郁がもともとこの図書士を目指したのは高校生の頃に本屋さんで検閲にでくわし、そのとき救ってくれた図書隊の男性への憧れ(彼女は”王子様”と呼んでいる)から。

いろいろ戦闘やら組織やら社会的背景やら(この辺のこまかさが有川さん見事)がでてきて一見モノモノしい感じがするかもしれないけれど、やはりこれはラブコメだ。女の子っぽくてきゅんきゅんした感じ(笑)。郁は結構男っぽい設定のキャラだけれど、やっぱり内実は女子なのである。そこがまたいいんだけれど。この一巻ではこのラブコメ的な部分はまだそんなにあからさまではない代わりに、このシリーズの世界観、そして検閲というもの、ひいては明に暗に世に存在する制約や権利や義務のことを考えさせるきっかけになるような要素をたぶんに含んでいると思う(巻が進むともっとわかるようになる)。物語はもちろんだけれどこういう部分も有川さんが描きたかったテーマなんじゃないかなぁ。

現に今の社会でも「人道的な側面から」などの理由により表現は制限されている(いまはメディア自身による自主規制がほとんどらしいけど)。実際こういうところでも(まぁ個人的なブログは大丈夫だろうけど、書くのを好ましくないと言われる言葉が多数ありますよね)書いちゃいけない言葉がある。たしかに明らかに差別的表現なものはNGだろうけれど、グレーゾーンなものも多数ある。それは倫理や良識や状況でいろいろ変化するもののはずだけれど、長い時間にわたって自主的にであっても制限していると、制限していること自体わからなく(世にその表現が存在しなくなる、もしくは表現しようとするものがいなくなる)なるし、制限自体が力をもってしまうのではないか? 例えばこれは検閲の話だけれど、もっともっと他のことでも人々の自由を密かに奪っているものは隠れて見えないだけでたくさんあるのかもしれない。そんなことを知らせてくれているのかもしれない。

ま、難しい話はともあれ、このシリーズ、ほんとおもしろいです。次巻につづく。
文庫版にはおまけがついてます(番外編のようなもの)。また児玉清さんとの対談もすごくいい。

角川文庫 2011

有川浩 – 三匹のおっさん


還暦を迎えた3人の男たち。彼らは「おじいちゃん」と呼ばれるのをいやがり自ら「おっさん」と名乗る。高年齢化してきていまや60歳なんて若く見える人もたくさん。そんな幼なじみの三匹のおっさんたちがある事件を境に自警団を組み、”地域限定の正義の味方”として街のトラブルに陰となり日向となって立ち向かう。剣道の達人キヨ、柔道の達人シゲ、達人エンジニア ノリ。この3人がいろんな事件を解決してくプロセスが面白く、なるほどーうんうん的な落としどころになるのがいい。

相変わらず有川さんの物語のシチュエーション作りというか目のつけどころが素晴らしくて、読んでいてもすごくわくわく、ほのぼの(は少し違うかも)した気分になる。三匹の活躍を読んでいると痛快で、久々にすっきりした気分になる本だった。こんな素敵な(?)還暦を迎えられるなら年を食うのも悪くないなーとか思ったり。でもそれにはちゃんと生きていかないとなーとかも思ったり。こういう祖父が身近にいてくれたら、また楽しかっただろうなぁ。

三匹のうちの一人キヨの孫 祐希、家庭やじいさんに反抗しつつも仲良くなっていくところとか、ノリの娘が清楚でかわいいあたりもキュンとする(この辺は有川さんぽい)のもとてもいい。続編もあるので早く読みたいなぁ。

文集文庫 2012

有川浩 – 空の中

有川さんの自衛隊3部作と呼ばれる作品の1作目。ずいぶん前にこのシリーズの「塩の街」を読んで、そのアイデアというか、本人曰く「自衛隊ラブコメ」という新ジャンル(笑)に非常に興味を覚えて一気に読んでとても面白かったのだけれど、それからずいぶん経ってから、やっと手に取った。

タイトルから想像できるように、今回は航空自衛隊のお話。あるときようやくたどり着いた”純国産ジェット機”の試験飛行中に期待が爆発。そしてそれを調査していた自衛隊機も謎の爆発・・・・。純国産ジェット機の命運は?(これ想像上のお話じゃなくて、結構リアルに今後どうなるのか気になる、というかなんとかなってほしい話題)事故の原因は?と真相究明に乗り出す大手重工メーカーの下っ端設計社員と、男勝りなのにずいぶんかわいい(らしい)女性パイロット – ああ、この時点でもうメロメロ(笑)。

同時並行して、高知の海で謎の生物?を拾う少年。その少年を見守る同級生の少女。このクラゲのような、そして乾かしてみたら円盤のような謎の生物が物語の鍵を握る・・・

で、ネタばれになっていくけれど、この事故の原因が人類創生よりずっと以前からこの星にいた(あった?)すごく巨大な円盤型の生物(といっていいのかわからないような、カテゴライズ不可能なUMA)なのだけれど、物語が社員とパイロットそして少年少女の恋や葛藤などのドラマがメカメカしい物語の合間にさわやかに流れていく中で、なぜかこの不思議な生物にえらく興味が湧いてしまって、読み進むにつれて気付いたらこの謎の生物に感情移入してしまっていたという(笑)普通主人公たちの誰かになりそうなのに、どうしてかなぁ(笑)。物語上でさえなかなか表現困難な未知の生物の描写や設定やそのコンタクトの仕方の工夫なんかを読んでいるうちに実際こんなものがいたらどうなるのかなぁなんてぼんやり考えていたら、夢中になっていた、というような。

有川さんも書いていたけれど、出版や編集者とのすり合わせの中で一応少年少女向けという趣向で物語は少年少女が主人公になるように描かれているけれど、いやいや大人のあまりにもツンデレな恋もなかなか面白く、そこだけ抜き出したら本当にただのラブコメ。でもこれに自衛隊というメカメカしいものや、細かな専門的な描写が割り込んでくるもんだから、このギャップ感がたまならく、「塩の街」やら「クジラの彼」で感じたあのわくわくぞわぞわした感じをまた体感できてとても楽しい。

文庫版には後日談として「仁淀の神様」という短編が描かれている。その後の主人公たちがどうなっていったかを知ることができて、なんか後味がいい。自然、繋がっていく命、のびのびした空気。そんなものがやはりありがたい。SFの世界でも自然は自然なのだ。

角川文庫 2008

有川浩 – 海の底

そして有川さんの自衛隊3部作の2作目(でも読むのはこれが3つ目)。塩の巨大物体がおちてきて人類が大変になる話(塩の街)、未知の生命体が空にいた話(空の中)、ときたからにはこの「海の底」は海底に謎の火山が・・・(たぶん底というからには潜水艦がらみだろうと、決して洋上艦ではないだろうと)とかそんな展開かーと思っていたけれど、ああ、こんな怪物たちがわさわさと、という展開は想像だにしてなかった!悔しい。これがいちばん単純で、昔はそれこそB級映画としてパターン化したものだったのに、本でこれを描くかーという驚き(笑)

ある平和な、横須賀の自衛隊基地が開放されて見学できる日に、突然海から巨大なザリガニのような生物が大量に上陸してきて、人間たちを貪り食う・・・。突如起こった惨劇になすすべもなく逃げまとう人間たち。ちょうど停泊中だった潜水艦きりしおの問題児2人がその辺にいた子供たちを逃がすが逃げ切れずに結局潜水艦に立てこもることになる・・・。

B級映画そのまんまな巨大化した○○がどーのこーの、国を挙げて対応するが難しく・・・という、映画ならヒーローが出てくるかウル●ラ警備隊がでてくるか、みたいな展開になるところを、まことにまっとうな(つまりリアルな)対応をしていくあたりや(警察なのか自衛隊なのか、とかの葛藤や駆け引きなどや)、実際あるメカがでてくるあたり、一体どうやってこれだけの資料を集めたのかと感心するぐらいリアル。面白い。そして本当に起こったら怖いなと思う。そして同時並行して描かれる15少年漂流記のような閉ざされた空間での話。

よりリアルでより複雑、でもちょっと子供向け(こんかいラブコメ度はちょっと低し)なすごくうまいトーンで書かれていて見事だと思う。最後まで面白いし。怪物たちの殲滅もほんとリアルにその通りになるだろう展開だし。何も言うことなく面白い。

で、この話を読んでようやく「クジラの彼」に繋がった。なんか妙にうれしい。

そして文庫版には「海の底・前夜祭」というタイトルの短編も収録されている。本編の中でちょっと触れられる潜水艦を狙ったテロを試してみる話。これもリアルに面白いなぁ。

角川文庫 2009

有川浩 – 塩の街


再び有川さん。先日読んだ「クジラの彼」がとても面白かったので、その元になっている話を読みたかった。この本はデビュー作。文庫版ということで本編の後日のストーリーを加筆したもの。

ある日宇宙から謎の物体~巨大な塩の柱~が降って来る、というかやってくる。因果関係は不明だが時を同じくして人間が塩になってしまうという塩害が発生し、社会システムは混乱し、人口はみるみる減ってしまい、この世の終わりの様相を呈する。そんな中、生き延びようとする秋葉と真奈。偶然彼らと出会う人間たちを通して世界のありようを理解していく。あるとき秋庭の昔の仲間が現れて言う「世界とか、救ってみたくない?」

いやー、面白い。設定がいきなりなところから始まるし、話が進むにしたがってこの世界がはっきり見えてきて、いったいどうなるのか?と思いながらぐいぐい引き込まれてしまう。こんな感じの突飛なでも今の時空間と地続き的なエピソードのSFは大好き。塩になってしまう、という意味のわかんない、けれどありそうな感じがいいなあ。そして後半になるとやっぱり出てくるメカメカした要素など、ほんと女性が書いてるの?と思ってしまう。

でもやはりメインはラブコメであるところは外してない。主人公が女子高生なのもあってその辺りの描写がすごく女の子女の子してるのも楽しいし、それがどちらかといえばシリアスな設定の話に明るいアクセントを置いてると思う。追記している後日のエピソードもすこしほんのり心温かくなったり、ニヤとしたりするもので、本全体がうまくまるくなってるなーと感心。

有川さんはこの作品を称して「あまりにも拙い」とあとがきでおっしゃっているが、いやいや勢いスピードがあってすごくいいし、この話はこの感じ以外ないように思えるなー。

角川文庫 2010

有川浩 – クジラの彼


有川さん2冊目。表題作を含む6つの短編集。この本の前に別のシリーズがあってその後日譚やらいろいろなのだが、共通する話題は主人公もしくはその恋人、または両者が自衛隊員という設定、そしてラブコメ!ありそうでなかったパターン。

あくまでラブコメなのだが、潜水艦やら輸送機やらというメカメカした描写が出てきたり(自衛隊だし)、”国防”やら”駐屯地”のような普通こんな話には出てこない言葉でてきたりして、もしかすると文章自体がとても読みづらくなりそうなのに、説明も描写もちょうどいいぐらい余計でも足りなくもなくすごく読みやすい。んで、おもしろい。一般の人が読んだらすごく自衛隊やらこういうメカやら国防やらに興味湧くんじゃないかな?見事としかいいようなし。

「阪急電車」読んだときは、すっとしたさわやかな小説書く人なのかなーと思っていたけれど、いやいや、もしかして、結構オタクの気がある人なのかも?と、ちょっと親近感。また自衛隊の話ばかりでなく、メーカーにいた人間にとっては興味の湧く設計の話やら、女性の職場問題やら、いろんな要素がさらっと描かれていて、その視点と構成とさりげなさに感心ひたすら。

あと、今回は登場人物たちの台詞に加え心の台詞がどばどば書かれていて、普通ならこれめちゃ読みにくいのに、言葉の選び方とテンポ感(実際人がリアルに感じるぐらいのテンポ感)ですらすら読めるのも不思議。人って、口に出すこと考え感じること/それらを客観的に見る自分、てのが常に対比して存在してると思うのだけれど、この物語たちに出てくる人たちはいちいち客観的なほうが過分で、そこがなんかコミカル、男も女も可愛い。

有川さんは知人の話やら、取材やらして物語を書いたそうなのだけれど、もしかして自衛隊にいる人たちって頑固で畏まって融通利かないイメージばかりあるけれど、ほんとは純でやさしい人多いのかな。じゃないとまっすぐに国防なんかやってられないのかもな。

なんせおもしろくて一気に読んでしまった。このシリーズのほかの本「空の中」「海の底」「ラブコメ今昔」全部読みたーい!

恥ずかしながら今回あとがき読んでようやく有川さんが女性だと知りました。。。道理で読んでて楽しいわけだ。

角川文庫 2010

有川浩 – 阪急電車


今年2011年映画になることでも話題になってる本だそう。阪急電車、関西の人にはなじみの深い、あのえんじ色の車両の、ちょっと”ええとこ”なイメージのある電車。神戸に通うようになったころ、沿線の桜並木を眺めながら揺られたころが懐かしくて、こそばゆい。

で、このお話ではその阪急電車のいくつかある路線の中ではちょっとマイナー?な今津線を話題に物語が描かれる。その今津線はマイナーといえど、関西では”ええとこ”のひとつ宝塚を起点として、終点は西宮北口という少し大きな駅になっている。人の行き来もたくさんだけれど、すこしのんびりした雰囲気を残す、いい路線。こんなのを持ち出してくるあたりが素敵。有川さんはこの沿線に住んでいらしたとか。そんな今津線はたった8駅しかないのだが、路線の各駅をひとつのお話にして往復で16のお話で構成されている。行き帰りになってるあたりがちょっとニクイ。

ひとつひとつのお話はすごく短いのですいすい読めるし、エピソードもちっさなものなので、最初は「?」と思って読み始めたのだけれど、そう、電車は乗りあうもの、袖触れ合うも・・・じゃないけれど、1つのお話でちらっと出てきた別の人間が次のお話の主人公となり、その人もまた次のお話の主人公とすこしすれ違い・・・と、まさに電車という移動する閉ざされた空間だからこそ起こるほんの少しの人との繋がり、そんなものたちが、思わずふふふと微笑んでしまうような柔らかなタッチで書き綴られている。いいなぁ。

また、各駅に拡がる町の描写なんかが「ああいってみたいな」と思えるようなもので、近くに住んでいるけれど、わざわざ体験しにいってしまいたくなる。なにか明るい日差しを感じるよう。

そして復路へと話が進むにつれ、読者の視点は電車に揺られるがごとく時を重ね、いつの間にか往路からは月日が経過して、最初に出てきた人物たちのその後がほほえましいエピソードとなってまた描かれる。いやー、ニクイ構成。素敵。今津線に乗りに行きたくなった。

有川さんのほかの本も読みたいな。

幻冬舎文庫 2010