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2009-11

ごとうやすゆき – ダメ犬グー

著者が飼っていたダメ犬グーの生涯をつづった、詩的な本。ぽつりぽつりと語るように書かれた文章と、それに添えられるグーの絵がかわいい。

犬を飼ったことがないからいまひとつグッとくる感じが薄いのだけれど、家族の一員として(ま、猫もそうなるけれど)存在していたグーはほんとにみんなに愛されていたんだなーと。ごとう氏(とその家族)の私的な気持ちばかりが描かれているけれど、それがわが子可愛や的なめんどくさい感じもせず、ある意味淡々と語られるグーの生涯が浮き出ていて、読んでいてホロリとしたり。

いなくなるのは、悲しいなぁ。いなくなるのがわかっていても。

幻冬舎文庫 2006

菊地成孔 – 憂鬱と官能を教えた学校

分厚かったし、内容が濃かったので読むのに時間がかかった。以前読んだ「東京大学のアイバート・アイラー」の2年ほど前にさる美学校で短期間開講された菊地氏の講義の実録。いわゆるバークリー・メソッドとそれを取り巻く商業音楽を俯瞰し、20世紀の音楽の歴史をたどっていく内容になっている。

「東京~」よりはぐっと実学に近い内容になっていて、いわゆる音楽の理論専門書のような難解なものではなく、歴史の時間軸に沿って、どうしてそんな音楽が生まれ、それを理論体系化していったのか、そこから生まれたものは何であったのか、なんてことをそこかしこで脱線しつつ解説していく。菊地氏の軽妙な話術と言葉に魅了されながら、あぁこんな講義受けてみたいなーとつくづくおもう。

確かに音楽の素養がまったくない方にはかなり難解かもしれないけれど、少し(とくにジャズ寄りの)音楽理論等に興味がある人なら、十分読めて楽しめるとおもう。また単に音楽理論とその中身というと、えてしてつまらないものになりがちだが、ここでは20世紀以前の音楽の歴史から20世紀の商業音楽の成り立ち/変遷を見ながら、音楽理論(ここではバークリー理論)がどう立ち上がっていったか、そしてその中身はこうこう、みたいな順で話が進むので、表層だけさらっとさらうといっても、全体を体系的に知ることができるので、とても勉強になる。この本からもっと知りたい人は自分であちこち的を絞っていけるヒントや雑学がたくさんちりばめられているのもうれしい。

音韻と音響。言語と律動。なるほどなーとおもうことがたくさん書かれていた。いままで「どうしてあんな曲が思いついたりできるのか?」とおもっていた謎が少し解明されたような。

菊地さん、もっと本出してください!

河出書房新社 2004

乃南アサ – 暗鬼

愛されて望まれて幸せ一杯の結婚をした主人公法子。最初は旧家の大家族の中にうまく溶け込めるか心配であったのだが、あまりにも穏やかで仲のいいその家族に好感を持ち、自分もその輪の中に早く溶け込みたいと真に願う。が、何かがおかしい。実際はそうではなく恐ろしい場所なのではないか、と、疑心暗鬼になりそうになるが、それでもいやいや違うと心を改め再び家族になろうと努力していく・・・が・・・。

ここでは家族を題材にしてるけれど、何かの小さな団体、集団なんかにも同じようなことがあるはず。それらにはそれらの中ではごく普通だけれど、外から見ると異常/異様なことがなにかしら存在する。家の中ならちょっとした食事の習慣やら生活の習慣なんかがそれにあたる。でもそれがとてつもなく異常なものであった場合、はたしてそれを拒絶するべきなのか、それとも受容してその輪の中にはいるべきなのか。後者を選べたならそれは幸せといえるのかもしれない。

ここで描かれている家族はかなり異様だ。のろわれているのかもしれない。けれども彼らは彼らの論理で真剣に生き、社会との接点も正しく持ち、貢献もしている。しかし一般社会常識からはかなり逸脱したシステムをもつ。実際気色悪いと思えてしまうのだが、その中に入り込めれば/溶け込めれば、幸せと思えるのだろう。

文春文庫 2001

乃南アサ – 死んでも忘れない

タイトルが怖い。どんなことを「死んでも忘れない」のか。なので内容も怖いのかなと読み出し始めると、これまた不幸な事柄が絶妙のタイミングで連鎖し、個人の力ではどうしようもない、取り返しのつかないどん底へ落ち込んでいく家族が描かれる。実際こうなりうるようなリアルな設定が、読者を物語に引き込む力をさらに与えているよう。

痴漢の冤罪、いま注目されているもののひとつ。男にとってこれは実際恐ろしいもの。社会における自分を守るため、家庭や家族を守るため、誰しもこの男のような判断をするに違いない。でも、その間違ってはいないはずのやさしさが、時に家族の、人との溝を生み、それがあっという間に取り戻せない深さになってしまう。怖い。

家族の間で、人との関係のなかで、やさしさや、立場、タイミング、いろんな要素が刻々と変わっていくなか、ちょっとしたずれが生み出す不幸の連続。言葉の足りなさが生む誤解、やさしさゆえに口をつぐむことにより生じる誤解、言葉にできずに生じる誤解。人のうわさの恐ろしさ。どこにでもあることが何を生み出してしまうかわからないこの世。こわい。

「死んでも忘れない」この意味は物語を読む人にのみ明かされる。

新潮文庫 1999

川上弘美 – 神様


「くまにさそわれて散歩にでる。」

という書き出しでもうノックアウト。名著には印象的な書き出しで始まる物語が多いというけれど、これほど非現実的なのにとてもロマンチック/メルヘンに満ちた書き出しもなかなかないなーと。また、「くま」とひらがなで表記するあたりもとても素敵。この書き出しがダメなひとはたぶん最後まで読んでも「?」て感じかもしれない。あとがきで書かれているように、この本に収められている物語たちは、川上さんの夢/空想/無意識のお話なんだろう。

収められた9つの短編は、主人公(なんだろな)わたしのある春先から次の春先までにおこる小さな出来事たちを記したもの。どのお話にもなにか不思議な人や生物が登場する。くま、なにか白い毛のはえたもの、亡くなった叔父、カッパ、壷に住んでる女の子、などなど。どれも捉えどころのない霞のような感じ。でも確かにそこに存在するような。不思議で魅力的。これらがお話を楽しくしてくれる。

個人的には壷に住んでるコスミスミコが楽しい。あんな子が年末の忙しいときに「いそがし~んですかぁ」なんてのんびりなテンポでしゃべってたら、なんかなにもかもがあほらしくなりそうで楽しい(笑)。また人魚が実にコワい。

とにかく、大事に読みたくなる本。

中公文庫 2001

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