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花村萬月 – ワルツ

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ずいぶん前に読んだので備忘録的に。

戦後すぐ、占領下の東京が舞台。特攻隊に選ばれた方死に損なった男・城山。朝鮮人である自分を隠し自分が何者であるか悩み強くなりたいと願う男・林。そして疎開先から単身流れてきた天涯孤独の美女・百合子。彼らがその怒涛の時代に出会い、惹かれあい、憎しみあい、また交わっていく。三人の人生がからまる様子を踊るワルツにたとえて。

現在の個人主義がすっかり台頭してしまった世では、戦前戦後のような、たとえそれが間違っていたとしても貫く義であったり礼であったり、そんなものはよしともされないし、思い出しもされない。でも人と人との間には憎しみであっても愛情であっても義理であってもたしかに熱いものがあふれていて、そうして人間は生きてきた。どこかに死に場所を求めるにしろ、この世で成り上がっていくにしろ、何かと戦うにしろ。

物語の三人が運命に翻弄されながらも一生懸命に生きていく姿、それがうまくいったりいかなかったり、いろいろあっても、そういう姿と意思に心打たれる。熱くなる。正しいとか正しくないとかじゃなくて、どう生きていくかを悩んで一生懸命に生きる姿に。ほとんど任侠物語みたいなところあるけれど、芯の部分は人間の物語。

戦後のどさくさあたりの雰囲気が、生々しく感じられるのもいいなあと思う作品だった。

角川文庫 2008

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宮部みゆき – あかんべえ

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宮部さんの江戸もの。深川に出店した料理屋「ふね屋」。長年の念願であった出店だったが、最初の宴でいきなり抜き身の刀が出現して暴れまわるという怪異現象がおこって宴はめちゃめちゃに。いきなり出鼻をくじかれ、客もさっぱりになったふね屋に今度は霊払いの宴の話までもちあがって、、、、お化けのでる料理屋として有名になってしまった。

一方この料理屋の娘おりんはある日高熱をだして生死をさまよい、不思議な夢をみる。それはまるで三途の川のようだった。そこで不思議な男に出会う。その夢を見て以来、おりんはこの料理屋で起こる怪異の原因は亡者だと知るようになる。あかんべえをする少女、美しい侍、艶やかな姉さん、あんまをして病人を治癒するおじいさん、そして例の騒動のもとになったおどろ髪の侍。

すこしずつ彼らと打ち解け、なぜ彼らがここにいるのか、どうしたいのか?そういうことを知るようになっていき、やがて昔の大きな事件へと繋がっていく。

彼らは何者なのか?成仏できるのか?おりんは、料理屋ふなやはどうなるのか?

ミステリーとしても、時代を感じる小説としてもよくできてるなーとひたすら感心。目の覚めるような話の展開をしたり、大きな感動を呼ぶわけでもないけれど、しみじみとした味を感じる。怖いけど怖くなくて、優しい気持ちになれる作品。よかった。

新潮文庫 2007

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岡嶋二人 – ちょっと探偵してみませんか

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岡嶋二人さんの短編推理小説。25の短編が収録されていて、そのタイトルからわかるように、読者に謎解きを挑んでくる。犯人はだれか?なぜ犯人だとわかったのか?謎はどう解く?などなど。全部シチュエーションもパターンも違うお話だし、短いのさっと読めるのだが、なかなか答えを出すのは難しい。いろんな知識やひらめき、読解力が必要だったり。

短いのでさっと読めるのもいいし、どの短編も秀逸なので飽きない。これすごいなあ。

講談社文庫 1989

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五代ゆう – 永訣の波濤(グイン・サーガ143巻)

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そして一気に143巻へなだれ込む。一冊刻みで読んでいると「ああ、もう終わっちゃった」と思うけれど、二冊続けて読めるのは幸せ(たんに本屋に行ってなかった、というだけですが)。

ヤガと黄昏の国、そして並行してマルコたち一向のヴァラキア到着が描かれる。偉大なカメロンはみなに惜しまれながら故郷の海へと還って行った。物語の中でここまで男気あって正義でかっこよかった男がいなくなるというのは、なかなかすごいこと。でも彼はこのグインサーガという大きな物語の中では普通の一人の男ということだったのかも。物語を進めるものたちはもっと稀有な存在のものばかり。現実世界もそういうものなのかもしれないが、違うかもしれない。

スーティを守っている瑠璃が見せた彼の兄弟の惨劇により、幼いスーティはさらに幼い弟を助けようと決心する。そこにつけ込んできたのはグラチウスだったが、この闇の司祭もなんか昔よりひょうきん者になって、完全な悪じゃなくなったような感じ。おもしろい。ヤガではイエライシャに救われたブランやヨナ。フロリーたちだったが、彼らを助けんとしたスカールたちとはまた入れ違いになってしまう。が、ついに彼らも出会えそう。

なんだかキタイの竜王に見捨てたれた感のあるヤガだけど、どう決着がつくのか。蛇人間や竜騎兵たちはどうなるのだろう。はやく次巻ががよみたいのです。五代先生がんばってください!

ハヤカワ文庫 2018

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五代ゆう – 翔けゆく風(グイン・サーガ142巻)

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グイン・サーガの142巻。このシリーズだけは栗本さんがいなくなった今もいつも本当に楽しみで、本屋にたまに立ち寄っては新刊でてないか探したりしている。あらかじめいついつ本がでるよ、という情報を入手しておけばいいと言われるかもしれないけれど、ある日立ち寄ったら新刊が!っていう出会いが楽しいので^^;

ミロクの聖地ヤガで「新しきミロク」と名乗る者たちがミロクの降臨という一大イベントを打ち上げた。それによりヤガに集まっていた人たちはみな熱狂し、その渦に巻き込まれ、大混乱がおこる。その頃神殿の地下では魔導師たちの果てしない戦いがつづいていた。それはヤガに囚われたヨナとフロリーを助けんとする戦いでもあり、その戦いの中の隙をついてイエライシャは見事に彼らと彼らを探していた戦士を救い出す。また別ではそんなことが起こってるとはつゆも知らずスカールとザザ、ウーラが幼いスーティを連れて黄昏の国からヤガを目指すのだった。

一方パロをようやく逃れたマルコたちはカメロンの棺を携えて沿海州に入らんとしていた。故郷ヴァラキアに入るまえにたどり着いた待ちで彼らを待っていたものは。。。。

タイトル通り、いろんなことが一気に大きく転換していく前夜のような感じ。ヤガとヴァラキアは実は近いからこの二つの話が交わったりするんだろうか?ほんと早く早く続きが読みたくてたまらない。というか、これ生きてるうちに終わるんかな、という不安もなきにしもあらず^^; 宵野ゆめ先生がいま執筆できないそうで、、、、がんばって五代先生!(って書いたら、めぞん一刻みたいやなw)

ハヤカワ文庫 2018

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田中啓文 – 猫と忍者と太閤さん(鍋奉行犯科帳7)

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鍋奉行シリーズの7冊目。今回も大坂西町奉行・大邉久右衛門が食べまくり、、、挙げ句の果てにお腹壊すの巻?

市中見回りをしていた同心村越が武家たちが何かをやっている現場に出くわすが、それを押さえようとしたときに手傷を負わされた。それは手裏剣だった。この平穏な時代に忍びのものが暗躍しているのか?時を同じくして街では老舗の味を盗む味泥棒も暗躍し、畏れ多くも西町奉行所の糠床を狙ってくる。奉行を毒殺しようとするものもあらわれ、、、、裏で糸を引く武家とは?忍びはいるのか?などを描く「忍び飯」。そして演技は素晴らしいのにサル顔だというだけで看板役者になれない役者が泣きつき、そして久右衛門の天敵のような講談師が繰り広げる大食い騒動「太閤さんと鍋奉行」。広い街からたった一匹の猫を探す羽目になる村越たちと、まるで公家のような者たちが飼うその猫が握る秘密とは「猫をかぶった久右衛門」。いやー、三本ともおもしろい!そして三本とも美味しそう!

ほんと毎回大坂の描写が素晴らしくて、読んでいてウキウキする。村越がどこを歩いているのかとか、寺町はそうやってできたのかーとかとか。とくに歴史に詳しくなくても、こうやって見せてくれると、江戸時代といまが地続きなんだなと実感できる。そして街々だけでなく、人々もいまと脈々と続いてるんだなと思える。

猫好きとしては猫の話に食いつきたいところだが(笑)、今作では太閤さんの話が面白かったなあ。講談師っていうのはまだ拝聴したことないけれど、テレビの連続ドラマより絶対おもしろそう。こんな芸(というとおかしいかもだけど)あるなら、学校の歴史の事業はこれにすればいいのにね。こっちのほうがよっぽど頭に入るというか、人物が像を結びそう。数字や文章では何もわからないもんな。一回聞いてみたいなあ。毎日通っちゃったりするかなあw

太閤さんだけじゃなくて、いろんな人物のものを聞いてみたい。それこそ平家物語とかああいうの語りきかせてもらいたいなあ。。。そっか、震災とかの記憶を語りつぐ語り部も、やはり語るから伝わることがあるのか。文章もいいけど、人が語ったり、音がでたり、同じ時間を共有して目の前で繰り広げられるものというものは、芸がよければより印象的に伝わるものなのだろうな。ということを本の感想に書くというのは如何なものかってのもあるけど^^;

おおや・ひろこさんの解説も素敵。
面白かった。次巻も楽しみ!

ps
桂歌丸師匠が亡くなった。粋な人がまた一人。寂しいな。ご冥福を。

集英社文庫 2016

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江國香織 – 泣く大人

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江國さんのエッセイ。四つのパートからなる。江國さんの日常の身の回りがみえてくるような「雨が世界を冷やす夜」、彼女の魅力的な男友達(恋人ではない)の話「男友達の部屋」、相変わらず江國さんらしい視点だなーと思わされる「ほしいもののこと」、そして紹介された本をどれもよみたくなってしまう「日ざしの匂いの、仄暗い場所」

江國さんが紡ぐ物語もそうだけれど、エッセイから彼女の一種の湿っぽさとか、仄暗さとか、そういう肌触りや匂いが感じられるのが好きで、なのでそこで描かれるものものからも同じ様なイメージを感じる。すこしフィルターを通して写した写真のように。鮮明ではなくて、青や緑がかっている感じ。そんな感触が好きなので、いつまでも彼女が書くものは読めてしまう。決して親近感を感じるっていう感じじゃないのだけれど、なんだろう、一種のあこがれかな。

どれもこれもが魅力的で、かつ、そうでないものさえ魅力的に感じさせてしまうその視点、視線に感じ入ってしまう。素敵。そうとしか言えない。

角川文庫 2004

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鈴木光司 – シーズ ザ デイ

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はじめましての鈴木さん。男っぽい文章だなという印象。

学生時代からヨットにはまった主人公・船越は、いいヨットマンだったが若いときに預かっていた船を謎の原因で沈めてしまい、以来マリン関係の営業の仕事に甘んじ、ヨットから遠ざかっていた。不甲斐ない人生を歩む彼は突然妻から離婚を言い渡され、それを機に天気とするべく家を手放してヨットを買う。そこから彼の人生が大きく動きだす。

そんな彼のまえに、その謎の沈没を遂げたヨットの沈没位置を示す海図を示す女性があわられ、さらには昔付き合っていた女から生まれなかったはずの子供の存在を知り、やがては行方不明だった父の影までチラつき始める。船越は自分の人生を掴み直すため、出向することを決意する。

ミステリーぽくもあるけどハードボイルドな感じで(というわりには主人公は控えめだが)、知らない海の世界、ヨットの世界の話ということもあって楽しく読めた。でも基本的に海に潜る、とかはこわいので、ぼくにはないなあーという話なのだけれど、ところどころに差し込まれる美しい海の描写や、大海の真ん中で降るような星を眺める描写にはうっとりした。

新潮文庫 2003

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聴く鏡Ⅱ – 菅原正二

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以前読んだ「聴く鏡」の続編。岩手の一関にあるジャズ喫茶ベイシーのマスター菅原さんの著作。季刊ステレオサウンドに連載されている記事をまとめたもので、Ⅱは2006年から2014年にかけて書かれたもの。つまり東北の震災をまたいでいる。

この本も、ベイシーのあの丸テーブルで菅原さんが喋っているような気分になってくる。レコードをかけながら、メガネを上げ下げしながら。前作同様日々のお店の音やオーディオ機器との格闘や、音楽仲間、ミュージシャンとの楽しい話などたくさんだけれど、JBLの社長がやってくる話や、逆にアメリカに招かれる話がとても楽しい。そしてそれらの中で描かれる社長も技術者もみんなが、音楽を聞いて感動しているエピソードがとても熱くなる。いいオーディオをつくる人たちがいいリスナーであるのはとても楽しくうれしい事。どの文章からも音楽が好きでたまらないという気持ちがあふれていて読んでいて胸が熱くなる。だからまた早くあのお店へ帰りたい。

そして地震があってお店がぐしゃぐしゃになった話、そして落ち着くと音楽を聞きたいと人が集まってきた話、やがて東北のジャズ喫茶があつまってコンサートをする話などなど読んでいると、7年前のあの頃のことや、ずーっと走った三陸の海岸の無残な姿が蘇ってくる。それでもそこからみんな立ち上がって、またあんなすごい音を聞かせてくれて本当にうれしい。感謝しています。

実は先月ベイシーに訪れて、菅原さんには挨拶もせず片隅でずーーーーーーっと音楽に浸った。あの大音量(でもちっともうるさくない)を全身に浴びていると、耳だけでなく、体がジャズそのものに作りかえられていくような気分さえした。音楽的にどーのこーのというのもあるけれど、何を聞いても最初に感じるのは、かっこいいだろう、という吹き込んだジャズメンやエンジニアや、それらに息吹を吹き込む菅原さんのニヤリとした顔。いつか何日も通いつめたり、本のエビソードにあるように、夜中までわいわい騒いだりしてみたいな。

と、この記事を書いている今日、2018年6月18日の朝に大阪北部を震源とする地震があった。もうすっかり忘れかけていた23年前の震災のことを揺れたその瞬間に思い出して、とても怖い思いをした。最近地震がやたらと多いけれど、心のどこかで遠くのことと思い込んでいたよう。でもいつ足元で起こってもおかしくないんだということを改めて思い直す。悔いなく生きていきたいし、今日出せる精一杯の音を出していきたい。

ステレオサウンド選書 2014

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浦賀和宏 – 彼女の血が溶けてゆく

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少し前に読んだので備忘録的に。

初めての浦賀さん。医療ミスと思われる事故でなくなった女性をフリーライターの銀次郎が探る。しかもその主治医は彼の元妻であった。彼女を助け、あわよくばよりを戻すとまではいかなくとも関係修復をと願う銀次郎だが、この事件の闇は深かった。

なかなか医療系の物語には手を出しにくい。というのは血が苦手なのです。で、こういうのを読んで、治療とか手術とか、病気の進行とかそういうものが克明に描かれると(そのほうが物語のリアルさがでるし)、ありありと想像してしまって(っていうても見たことはない)、ぞぞーっとしてしまうので。この物語も溶血を巡るあたりで結構詳細な医療的な話がでてきて、苦手だなーと思って、でも読み進めたところ、その事件の影に隠れる愛憎劇、闇に葬ったものごとたちなどなど複雑に絡み合って、一見そう複雑でない話だとおもっていたのに、奥がかなり深く、面白かった。

医療のために頑なになること、信じること、でも科学はそれを容赦なくひっくり返すことなど、こと医療に関しては日進月歩で変わっていくので、ぼくらが子供の頃常識だとおもっていたことがまったく正反対であることなども現実にしばしば。そしてときが進むごとに病気という名前のものは複雑多様化し、何が正常で何がそうでないのかちっともわからないところにきている。怖い。

もしかしてもうややこしいことは知らずに、原因はわかんないけど、死んじゃった、と思える方が、複雑怪奇な治療をしたりするよりトータルで楽なのかなとかおもったりもする。やっぱりニガテだ。

この浦賀さんの他の物語も読んでみたいな。

幻冬舎文庫 2013

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