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池井戸潤 – 銀行仕置人

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池井戸さんの銀行話の本もいくつか読んできたけれど、なかなか飽きさせないのはさすがだなあ。メガバンクという巨大で、一人の人間では動かしがたい大きな組織。渋っていたのに稟議を通してしまったばっかりにその結果焦げ付いた融資の責任を取らされた主人公・黒部。彼は「座敷牢」というところに追い込まれるが、そこで出会った人物に、このメガバンク内の不正を暴くという影の仕事が舞い込む。。。

表側から見ているとちっともわからない(あんまり用事ないし)銀行。株式もそうだけれど、お金のやりとり、とくに融資というのは、本来その会社なり組織に対して応援するものであったはずなのに、今やそれはたんなる投資、金が金を産むという形でしか成り立たないものになってしまっているように見える。そこに義もへったくれもない。そして、そんな巨額の金を動かす影に銀行と他との人間的な癒着があり、、、本当にこの池井戸さん描くような事件があるのかどうかわからないけれど。明るみにでないのも、こういう大きな組織ならではかもしれない。

銀行員といえ、金を扱っている以上、組織は揺るがなくとも、個人としては弱いもの。大きな陰謀に一銀行員がどう立ち向かっていくのか、、、ちょっとハリウッド映画のネタになりそうなお話。

双葉社文庫 2008

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田中啓文 – 落語少年サダキチ

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いつだったか田中さんが「落語少年の本だすで」と言っておられて、どんな本だろうと楽しみにしていたこの本。一応子供向けってことになっているけれど、落語(とそこに含まれる文化的なもの)の魅力を存分に伝えているという点では、大人が入門書(?)として読んでもいいんじゃないかと思う。実際これ読んだら落語を聞きたくなりました。とくにこの物語にキーとなっている「平林」というネタ、聴いたことないので。もちろん寄席で生で聞きたいです。

物語は小学生の主人公・忠志がひょんなことで出会って、一隻落語を聴かせてもらい、大笑いすることから落語に興味をもって、、、という話だけれど、やもすれば古臭い昔話でよくわからん、と言われがちなところを、この「平林」というどの時代で聞いても楽しめる仕掛けのある落語を題材にして、誰もが経験した小学校時代のあの懐かしい感じや、鍋奉行シリーズでもいつも感心する見事な時代考証(というかどこで調べてるんだろう)を伴って、落語の世界をうまくいまの話のように感じて面白く読めるようにつくってあって見事。桂九雀さんの面白い解説もあって、この本で確実にとくに子供の落語の裾野を広げたんじゃないかな。ほんと素晴らしいと思う。そう長くないお話なので(これも児童書ということを鑑みてだろう)すっと読めて楽しいです。落語に興味ある人ぜひ。

朝倉世界一さんの絵もロマンチック(という書き方おかしいかもだけど)でいいし(女の子の絵が好きなのです)、写植さん(っているの?)がいろいろ工夫しただろう字が飛んでる感じも楽しい。

そして主人公がどんどん田中さんに重なっていってしまう。田中さんこんな子供でこんな子供時代だったんじゃないかなあとか想像したり。田中さんはぼくの身の回りでは「サダキチ」と呼ばれてますからねw

福音館書店 2016

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田中啓文 – お奉行様の土俵入り(鍋奉行犯科帳5)

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鍋奉行シリーズの5冊目。たまたまいま読んだのだけれど、世間の話題は相撲に相撲。この作品のひとつめのお話は相撲のお話「餅屋問答」。江戸時代、相撲は大名の楽しみのひとつでもありお抱え力士がたくさんいたそう。タニマチが大名だったというわけね。それで権威を示すのに大名たちはこぞって強い力士を抱えたそう。ということは、古くは奉納されるものでもあった相撲に権力争いが持ち込まれるわけで、それに相撲部屋自体が翻弄されたりしたそう。ほんとよく時代考証してるなーとまたまた感心。一見ひ弱そうな関取とものすごく強い関取の一番は手に汗握る攻防で、いまの相撲見てるよりよっぽど面白い。

今作品は3編でこの「餅屋問答」、忠臣蔵の討った側/討たれた側の子孫がひょんなことで関わりになり大騒動を起こす「なんきん忠臣蔵」、そして前作にも登場した釣り名人の孫三平が鯉で儲けようとして騒動に巻き込まれる「鯉のゆくえ」。いずれも大坂の様子をよく知らせてくれて面白い。現在とは違うもっとほのぼのとしてでも勢いのある街の様子が伝わってきて、大坂ってええとこやなーと思ったり。いつかこれらの作品のいくつかを現在の場所で現代劇でやったらおもしろそうなのになーとか思う。ブラタモリとコラボしたりしたら面白そう、かな(?)^^;

お奉行さんの食いっぷりはほんと気持ちいいけれど、役者にやらせるとしたら誰だろうなー、とか配役想像するのもまた楽し。

集英社文庫 2015

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江國香織 – 犬とハモニカ

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江國さんの短編集。空港への到着からロビーまでの同乗者たちそれぞれから見た人生の一瞬のかさなり「犬とハモニカ」、素晴らしくうまくいっていた恋はずの恋人からの突然のわかれ「寝室」、愛しくてやまない男「おそ夏のゆうぐれ」、近しいのにどこか決定的にずれていて僕をみていないような気がする「ピクニック」、源氏物語の超意訳版「夕顔」、夏のバカンスに訪れるゲイのカップルとそのコテージや街での人間模様「アレンテージョ」

いつも江國さんの物語はその最初の一行から彼女の世界にすっと入るという感じじゃなくて、その空気感に掴まれて身動きできなくなって、そのまま物語の傍観者や登場人物にさせられてしまう力がある。そしてどんな爽やかさの中にもひそむ濃い湿度。それが魅力でもあり魔力でもあり、少し怖い。

とても非現実的な感じがするのに、でもそれらは普段のぼくたちのすぐ隣や自分自身に起ることのよう。だれもが持つ、どうしようもない感情、欲望、あきらめといったものが、濃くなったり薄くなったりしてぼくたちと包み込んでいる。そこらに垣間見えるその模様を織り取ったかのような江國さんの物語たちは、お話としてはときに楽しく、ときに悲しく、ときにへんてこに読ませてくれるけれど、どれもが気づいてない心の隙間に忍び入ってくる感じがして、それが怖くもあり気持ち良くもあり、とても不思議な体験をする。江國さんの物語を読んでいるときだけ、時間が遅く流れたり、ここではないどこかに行ってしまっている気がするのは、選ばれる言葉の魔力もあるけれど、そういった体験をするからだろうなと思う。

川端康成賞受賞作(2012)

新潮文庫 2015

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三浦しおん – 星間商事株式会社社史編纂室

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星間〜というタイトルをみて、三浦さんと宇宙の話か?なんだこりゃ、とか勝手な想像して手に取ったらある会社の社史編纂室とその人間模様のお話だった。これはこれで面白そう。一癖も二癖もある人間があつまる、車内では窓際扱いされている星間商事株式会社の社史編纂室。社長の鳴り物で社史をつくることになり組織されたが、いるのかいないのかわからない幽霊部長に、やる気あるのかどうかわからない遅刻常習犯の課長、女の子にしか興味のなさそうな先輩、ダイナイトボディの後輩、そんな彼らに囲まれた主人公・幸代は真面目一筋、でも彼女の趣味はBLの同人誌製作だった。

そんな彼らが遅々としながらも進める社史編纂。しかしそれを進めていくうちに、高度成長期のどさくさのころの会社の秘密・闇に気づく。難航する取材、どこからともなくやってくる横槍。そんなてんやわんやのなか、幸代は妙齢の同人誌仲間の離脱、同棲している不思議な彼とのいざこざなど彼女の人生にも風雲がやってくる。

三浦さんのお話にでてくる人間たちはどこか滑稽で、ダメ人間でも許せちゃったりする人もいれば、取りつくシマもないほど冷徹な人もでてきたり、でもみんな人間だな、って感じがする。人間くさいというか。どちらかというとそれなりにいい人というか。だから物語がシリアスになりすぎないような、そういうところが読んでいて心地いい。

この編纂室の奮闘と、社史がどうなったかという筋ももちろん面白いけど、この本で興味そそられるところは同人誌製作のほう。コミケに出店するやりかたやら、同人誌をつくるノウハウ、印刷のこと、中身のことなどなど、結構詳しく描かれていて(もちろん幸代が書いた文章も散りばめられてるし)、三浦さん詳しいんだなーと思ってたら、実は三浦さんその世界では右に出る物いないほどの婦女子だそう。へーー!知らなかった。いままで何冊か読んできてそんな風に感じたことなかったし。やおいに興味あるわけじゃないけど^^;

昔アニメや漫画が好きだったので、この感じちょっとわかるんだなあ。オタクという言葉もまだなかった頃もそういう趣味のひとはたくさんいて、共通するある”匂い”みたいなんがあったんだよなあ。雰囲気というか。ぼくもその一人だったはず。だからこのコミケの雰囲気とか(実際行ったことはないけど^^;)、同じ趣味の人が集まった時の感じとか、なんかよくわかって、うんうんと思ってしまったり。懐かしいな。

まあ、そういうのも、編纂室の面々の活躍も含めて、面白いお話だった。ほのぼの。

ちくま文庫 2014

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結城昌治 – 白昼堂々

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初めて手に取った結城さん。もちろん知らない作家さんだったのだが、別で読んでる(まだ読み終えてない)伊坂さんの本で紹介されていた(伊坂さんが好きって書いてた)ので、伊坂さんに興味ありありなので、いったいどんな本が面白いとおもうんだろうと思って手に取ってみた。

時は唱和40年代ごろ、高度成長期に入った時代。エネルギーも石炭から石油へのような時代。炭鉱であぶれてしまったものたちがスリを生業に細々と凌いでいたのだが、昔の仲間にそそのかされて窃盗団を結成し、全国各地のデパートに出没し店頭から組織的に物を盗んでいくという話。お話はその窃盗団のやりくちと、それを追う刑事たちのいたちごっこ。テンポは遅いけれど、なんだか憎めない感じの窃盗団(メンバーが個性的で名前も過去もおもしろい)とすこし抜けた感じの刑事たち(本人たちはいたって真剣)の丁々発止がとても楽しい。微笑ましいって感じかも。前途洋々だった窃盗団もやがてそのやり口がばれて、ちょいちょい捕まる仲間の失敗もあったりして、形成は不利になっていく。そこで最後に大私語ををして、、、と大きな窃盗を計画するが、それはいかにいかに。。。。

なんかのんびりしたハリウッド映画を見てるみたいな感じ。それは結城さんの筆によるところが大きいだろうけれど、描かれる時代もいまよりはずいぶんのんびりしてたというのもあるかな。ちょっと前に読んだ宮部さんの闇語りシリーズの中でもそういうスリや盗人の逸話あったのでちょっとそれも思い出したり。あれは明治の話だったけど。なんせ現代社会のようにギチギチしてなくて、おおらかで、悪人も憎みきれないし、お上もすこし頭がやわらかい。

憎めない人たちがいっぱいでてきたり、シリアスなシーンにもユーモアあったり、なるほど伊坂さんこういうの好きそうだなあとか思ったり。おもしろかった。

光文社文庫 2008

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朱川湊人 – かたみ歌

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はじめて読む朱川さん。本屋さんの棚で表紙の絵のなんともいえないレトロというか懐かしい感じに魅せられて手に取った。

昭和40年代半ばの東京の、都心からそう遠くない下町にある、アカシア商店街という古びた商店街ととその周りの街で起こる、少し不思議な話たち。古本屋、レコード屋、スナックなどが立ち並び、ザ・タイガースなどが流れる、昔はもう少し賑わった商店街。その商店街の横にある覚智寺というお寺はあの世とつながっているという噂があるという。

新しく街に引っ越してきた夫婦、漫画家になる夢をみて上京してきた若者、ジュリーに憧れる女の子、兄が失踪した小さな弟、、、いろんな人がいるそんな街で不思議なことが起こる。柱の陰に物言いたげな男の陰が見える男、死んだはずの旦那が帰ってきたと喜ぶ女、見知らぬ人と文通する女の子、人の死が色となって見えるようになった男、、、この世のものではないものとどこかでつながってしまった人たちの、少し怖くも、でもなぜか心が締め付けられそうになる切ないお話が7編。こういう懐かしい感じがする話には無条件に反応してしまうが、それだけでなくて、会えなくなった人、なくなったものなど、誰もが歳を経ると感じずに入れない寂しさや郷愁がさらりとはいってて、読んでいてほっこりしたり、切なくなったり。

猫が好きだからってのもあるけど、「ひかり猫」という話が好きかな。そして「枯れ葉の天使」も。一話一話は別の話だけれど、狂言回しのようにどの話にもでてくる気難しそうな古本屋の店主の姿が全編を通して少しずつ明かされていくのがまたいい。

短い作品だけれど、すごくよかった。朱川さんの他の作品も読んでみたい。

2008 新潮文庫

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池井戸潤 – シャイロックの子供たち

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東京の下町のある銀行支店のなかで起こるいろいろな事件。それはそのまま支店内部の人間模様、そしてその銀行そのものの組織の闇に繋がっている。 10編の短編で構成されてて、主人公が変わっていくのだが、どれも同じ支店内の人間。バラバラの人間模様かと思えば、それらが最後にまとまっていくのが面白い。

ある日起こった現金喪失事件。その犯人と目されたのは若い女性行員だった。しかし 時を同じくして別の男性行員が失踪。若手ナンバーワンと自他共に認める行員のおかしな成績、社内恋愛のもつれ、上層部の軋轢、、、、表からは見えない銀行の裏側の人間関係とそれを引き起こすゆがんだ体質、銀行そのもののおかしさが浮き彫りになる。

整然と冷静に、効率よく、数字がすべてできっちり動いているように見える銀行も、それらはすべて結局人間が動かしている。とするとそこには数字にはでない人間模様が。実際池井戸さんが描くような内実はどこにもあるようなものなのか、それとも突飛なものなのかわからないけれど、銀行という立場や組織が特殊であるのはなんとなくわかる。そして怖い。金と成績がすべて、というような世界には生きたくない。でもそうではなくて社会的意義に燃える人もいるのだろう。いろんな人がいて、そして彼らには家族がある。この物語では個人個人に焦点を当てながらかれらの家族とのことも描かれる。なぜ銀行で働くのか、どうしてそんなことになってしまったのか。

シャイロッックというのは、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に登場する悪辣、非道、 強欲な金貸しで、そこから転じてそういう人物をシャイロックと呼ぶそう。

2006 文集文庫

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上橋菜穂子 – 流れ行く者(守り人短編集)

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守り人シリーズの短編集。主にバルサとタンダの子供時代の話が絵が描かれる。彼らが出会った頃。

大好きだが村のはみ出者である叔父の死とそれにまつわる噂について悩む幼いタンダ「浮き籾」、しばらく定住したある街の宿にいた賭事師の老婆から人生について学ぶ「ラフラ」、商人の隊列に護衛として父子ともに雇われるジグロとバルサ、しかしその隊商の護衛が裏切る「流れ行く者」の3編。いずれもバルサは子供だが、守り人シリーズにつながっていく素質が垣間見えるように描かれている。

もしかしたらこの短編集から読んで本編にいっても大丈夫かも。本編を読み終えてからしばらく空いたけれど、すっかりこのバルサの世界も僕の体のどこかに出来上がってしまっているようで、すぐにこの世界に戻ってこれるようになった。解説で幸村さんが書いているように、それは上橋さんがこの世界を構築するにあたって、なんでもない日常のことをすごくきちんと描いているから。だからこそ世界がしっかりした土台の上に自由に作り上げられている。それはやはり人類学の研究者としての面をもつ上橋さんならではの視点なのかも。

2013 新潮文庫

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田中啓文 – 京へ上った鍋奉行

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鍋奉行シリーズ第4弾。今回も鍋奉行こと大坂西町奉行・大邉久右衛門が今回も難題を食で解決する?!

徳川のご落胤を名乗る男子が大坂城下にやってきた騒動が、また、同じくして問屋の騒動から油不足が城下で広まっていた。久右衛門はそんなことは関係なくうまい天ぷらを食べたいということばかり。しかしやがてこの三つが結びついて「ご落胤波乱盤上」、さる店の名前の件で問題が、、、しかしそれを解決したのは奉行ではなく、、「浮瀬騒動。そして謎の書置きをおいて奉行が消えた。それは実は京都のさるお方からのたっての願いだった「京へ上った鍋奉行」、の3話。

これまでと同じく奉行の食い意地がいろんな面倒を起こし、それがなぜか別の事件の解決の糸口になったりする、っていう展開は似ているものの、このシリーズどんどん時代風俗ものの体が濃くなってきたような気がする。面白おかしいというよりは、ふつうに大坂の人々の日常話を聞いているような。当時の時代背景や(とくに食に関すること)、時勢なんかのことがほんとよく映されてて、そうなんだ、とおもうことたくさん。どうも江戸時代とかいうことになると、テレビでやってるような時代劇のイメージしかないので(そもそもああいうのほとんど江戸だし)、大坂の風俗、時代が見えるというのはほんとすごいなあと思う。

移動にしても、船や、馬や、なんなら走ったり、歩いたりなわけで、いまの距離感、時間感覚とはずいぶん違うというだろうというのは想像はできても、実感はできない。きっといまと全然違うものの考えのものさしだったんだろうと思う。京都から大坂に魚の買い付けにいって戻ってくるってのがどれほど大変か、、、想像もできない。でもほんまにあんなことが可能なんだろうか?か、久右衛門の食い意地がなせる技なのか。

いやー。おもしろい。で、読んでてお腹減る!

集英社文庫 2014

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