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田中啓文 – 浪花の太公望(鍋奉行犯科帳3)

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鍋奉行犯科帳シリーズの3冊目。今回も大阪西町奉行、大邉久右衛門が縦横無尽に食いまくる(?)

ちょうど季節もあってた話「地車囃子鱧の皮」、大阪はやっぱり夏は鱧よねーという気分。そして行ったことないんだけれど天神祭。そんな夏前から夏にはいるころの大坂の様子がよく描かれていて、それだけで江戸時代にタイムスリップ。時代物というとどこか劇画風なイメージ持ちがちだけれど、田中さんが書くと、現在と地続きな、ちょっと前のことって感じがする。それは描き方の上手さもあるとおもうけれど、作者も読者も一緒になってその時代の住民のひとりになっているという感覚をもたされるからじゃないかな。特有の難しい知らない言葉もなく(あるんだけどそれがひっかからない)すっと没頭できるのが素晴らしい。話逸れたけど、なんせ鱧が美味そう。見栄から無茶な約束をしてしまい、それを部下に押し付けるお奉行の無茶ぶりが、やがて功を奏する展開になるあたりが田中さんらしかったり。

あとは、さびれた居酒屋の賑わいを取り戻そうと同心勇太郎らが奮闘する「狸のくれた献立」、タイトルがもうふざけてて楽しい、謎のバラバラ殺人と釣りの名人が結びつく「釣りバカに死」。3話とも大坂の風俗とともに、そこに生きている人たちがほんとその辺にいるように生き生きと描かれていて楽しい。今回は無茶無茶な展開になったりはしなくて、それも落ち着いて読めた要因かな。しかしお腹の空く小説w 次も楽しみ。

そしてちょっとずつ勇太郎まわりの人情ごとがいろいろとでてくるようになって、なんか微笑ましい。恋の話もでてくるのかなあ。純愛物とかになったらどんな風に描かれるのかなーなんてのも楽しみ。

PS 表紙裏の著者近影、若いなあー

集英社文庫 2014

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カズオ・イシグロ – 夜想曲集

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「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」というサブタイトルが付いているとおり、外国を舞台にした音楽家(音楽)をめぐる人生の物語。

かつて名声を得た老歌手が妻への愛を歌うがそれは届くのか?「老歌手」、危機にある夫婦のもとへ友人が訪ねてくる「降っても晴れても」、仲睦まじく旅行に来ていたと見える夫婦音楽家の本音が語られる「モールバンヒルズ」、優秀なのにその風貌のために売れずそそのかされて手術をした先でスタートとの不思議な數夜を過ごす「夜想曲」、そして魅力的な謎めいた女性にチェロの手ほどきを受ける「チェリスト」。

音楽からみの話となっているけど、音楽そのものよりも、それをとりまく人々の悲哀を描く。夕暮れという時間を描写していなくても、どの話もどこかもの悲しげな感じをうける。それはどれもがハッピーである話ではないからか。これから先の人生があるとしても、その瞬間主人公たちはなにか人生の夕暮れともいえる時間にいる。その景色がもの悲しさを醸し出しているんじゃないかな。サックス奏者の話に関しては、ちょっとわかるなあ、と思うこともあり、自分に置き換えて自分ならどうするかなあとか考えたり。

訳は悪くなかったけれど、ちょっとだけ読みにくかった。音楽にまつわることって訳しにくいニュアンスもきっとあるよねえ。

ハヤカワepi文庫 2011

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白洲正子 – ものを創る

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勧められて読んだ本。戦争でなにもかも失った時代。ものを創り出すこと、美しいものについて考えることを探し求め、芸術家や陶芸家、職人などを訪ね歩く。そして彼らと対話することによって、彼らが創ろうとしているもの、考えていること、作品との関わりなどを考察していく。かんたんにいうとただの訪ね歩き記なのだが。

世代もあるだろうけれど、ぼくらより二世代ほど前の方々のもの創りに対する執念・執着、そしてそれを観る目などについて、訪ね歩く人物たちを通して白洲さんが考察する。名前は聞いたことあるけれど、実際どんなひとかは知らない人たち(その筋では大成された方ばかりだが)が、彼らと親しかった白洲さんの目と耳を通してどんな人物で何を考えてものを創っていたのかを語ってくれる。無論作品を通してすべてを語ってくれることもあるだろうけれど、それは実物を見てみて初めて感じられることだろうし(写真で見てもさっぱりわからない)、それを創り出した人物を知っている白洲さんだからこを見えてくることもあるんだとおもう。どの人物についても興味深かった。北大路魯山人、浜田庄司、井上八千代、青山二郎、細川護立、黒田辰秋などなど。

一つのことを深く掘り下げること。ものの原点を見極めようとすること。そこに至るための道筋、技を極めること。これはもの創りだけでなく、ぼくのような音楽やってるものにも相通じる部分が多分にある。それはたゆまぬ努力の部分もあれば、深く考える部分もある。広く、簡便で、スピーディーな時代になると、こういうことは難しくなってくるように感じる。でも流されずに留まり、時間がかかっても成し遂げようとする、その気持ちと努力が何よりも大事なんだ(しかもそれは大声でいうことではなく、ひっそりと心の芯に留め置いて)と思わされる。何事も天才が成し遂げることではなく、努力と思慮の集大成なのだとおもう。

いい本だった。

新潮文庫 2013

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上橋菜穂子 – 天と地の守り人

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上橋さん、守り人シリーズの最終章。ロタ王国編、カンバル王国編、新ヨゴ皇国編と3冊になっているけど、面白くて一気読みしてしまった。

ここまで6つの守り人シリーズ・旅人シリーズを経てのこの3冊はここまでが大いなる伏線だったかのように、以前のお話が絡んできて、この北の大陸にある三つの国の命運と新ヨゴ皇国の皇子チャグム、そしてバルサの運命を巻き込んでいく。ここにきて一気に壮大なドラマ感がでてきた。いままで大きな世界の一部の物語っていう感じだったけれど、ついに大きな世界から見える視点に、というか、頭のどこかにこの守り人シリーズの世界が宿って、グインの世界のように、きっといまこの世のどこかにある別の場所、というような感覚になった。

南の大陸の強国タルシュの囚われの身になった皇子チャグムは隙を見て海へ飛び込んで脱走し、行方知れずとなっていたが、無事ロタ王国へとたどり着いていた。しかしそこから苦難の道が。タルシュの侵攻は着実に進んでおり、もはや北の大陸にある一国ずつでは抗うことができないと感じたチャグムはまずロタ王にと足を進めるが、この国の内紛問題に阻まれ、おまけに刺客を差し向けられる。そして済んでのところでバルサに助けられた彼は王の弟と謁見し、やがてサンガル王国へ。

一方、現実世界と並行して存在しお互い影響しあう異界ナユグに春が訪れているいま、こちらの世界は温暖になりいつもより暖かな冬。そして急な雪解けが進んでいた。それはサンガルの別世界山の王の世界でも同じであり、異変を訴えるものが次々とでていた。南からのタルシュの侵攻と、北からの天変地異にはさまれた形になった新ヨゴ皇国。チャグムはこの危機をどう乗り越えるのか。父との確執は。

本当に手に汗を握る展開というか、いままで読んできた各国の物語がこの話でひとつにまとまるあたりが素晴らしい。見事としかいいようがない。いまから読んでみると、ああ、あそこにこんなエピソードがあったなあなど灌漑深い。最初の「精霊の守り人」で幼いチャグムと旅をした日々がもうずいぶん前のことのように実感してしまってる。物語を通して長い年月を過ごしたな(実際10年ぐらいか)と。

バルサの人となりはなんとなく最初からイメージが決まっているけれど、チャグムに関しては全然変わった。最初はかわいい子供のイメージだったけれど、いまは線の強い若い男って感じ。どのキャラが好きかと聞かれるとバルサかもだけど、一番成長していいなーと思うのはチャグム。タンダがもっと成長したりするかとおもったけどしなかったなあ^^;

最初は同じファンタジーもののグインシリーズと比べてしまったりしてたけれど、このシリーズはこのシリーズで良さがよくわかってきた。アジアぽいところ、魔法がでてこなくて(呪術はでてくるけど、おどろおどろしくない)、異世界がわりと現実的に存在するところ。タルシュと新ヨゴ皇国の緒戦の描写は見事で映画を見ているかのようだったし、ただの素敵なファンタジーというだけでなくて、すごくリアルな感じがあるのがとてもよかった。まさに大人も読めるファンタジー。

このシリーズ3冊はあとがきのかわりに、上橋さん、荻原規子さん、佐藤多佳子さんの対談が掲載されているのだけれど、お互いファンタジー作家としての経緯とか影響をうけたものとか、自己分析とか他人の分析とかやっていて面白い。ファンタジーを書いている人たちってもっと不思議ちゃんというか現実離れしてる感じがするかと(比較ばっかりして申し訳ないけど栗本さんはそうだよねえ)思ってたけど、この方たちは全然そんな感じがしない。まだ日本にファンタジーがなかったときから外国ファンタジーを読んでというあたりで、この守り人シリーズもなるほどねーとか思う。「指輪物語」「ナルニア王国物語」あたりだそうだけど、ほんとなるほどなー。まあ両方読んだことないけど(指輪物語は3冊目で断念した)。この対談読んでるとそれもまた読みたくなってくる。荻原さん佐藤さんの本も読みたいな。

このシリーズ、アニメ化もドラマ化もしたけれど、普通本で読んでるものはこのイメージ壊したくなくて映像になったものはよっぽどじゃないと見ないようにしているけど、まあこのアニメもドラマも少し機会あってみたりしたけれど、本で出来上がったイメージがこれらに壊されることはなかった。ぼくの中にはちゃんとバルサやチャグムやタンダ、トロガイ師が生きている。読み始めた時はこんな熱量感じなかったけど、いまではすっかり虜。この先にあるあと二冊ほども読みたいし、上橋さんの他の作品もはやく手に取りたい。

なんせ大きなお話を語ってもらった気分。とても面白かった。ありがとう上橋さん。

新潮文庫 2011

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上橋菜穂子 – 蒼路の旅人

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上橋さんの守り人シリーズの7冊目。チャグムの物語、いよいよ物語は大きく進む。

密偵達の密かな報告から、海の向こうの隣国サンガル王国がいよいよ南の大陸の大国タルシュに征服されんとしているらしい。そしてほどなくサンガル王からの親書が届けられ、援軍を送って欲しいと頼まれた新ヨゴ皇国。それは必死の叫びのようにもみえるが、罠かもしれない。

一方その新ヨゴ皇国内部では第一皇子であるチャグムと第二皇子トゥグムとの間で帝の世継ぎの争いが生じていた。それは当の本人たちではなく、どこにでもある国のトップ達の間の派閥争い。そんな中でのサンガル王からの手紙にたいする帝に意見をしたチャグムは、帝の怒りを買い、サンガルへの遠征軍に入れられてしまう。それは同時に彼を支える派閥(海軍が主だったが)の一掃も計るものだった。援軍ならばよいが罠であれば負け戦はできず、かといって、海の王国であるサンガルに海戦で勝つのは難題。

やがて心配は現実となり、王からの手紙は罠であることが判明し、チャグムとその祖父であり後ろ盾であり海軍大提督であるトーサは苦渋の決断の末、自分たちを人質に残りの艦隊を帰国させたのだった。囚われの実となった彼らの命運は。

これまでの物語では北の大陸の国々の話ばかりであったが、ここにきて最初から地図には描いてあったけどほぼ話にでてこなかった南の大陸のことが描かれ、一気に世界の広がりを感じられるようになった。アジアぽいイメージの北の国々とちがって、ある意味エキゾチックな感じで描かれる南の国々があらわれることによって、世界が多様になったというか、複雑な模様になったというか。

自らが井の中の蛙ということがわかったチャグムがどういう心理になったのか。それにより彼はどう行動していくのか。チャグムの今後を大きく左右する出来事がこのお話でたくさんでてきて、そして最終章への布石となっていく。世界はどう変化していくのか、しないのか。この先がすごく気になってこの巻を読んですぐに、最終シリーズに入るつもり。息つかせない展開。

新潮文庫 2010

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上橋菜穂子 – 神の守り人

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上橋さんの守り人シリーズ、5、6卷。二冊で上下巻になってる。

女用心棒バルサはひょんなことから人買いから幼い兄妹を助け出す。彼らはロタ王国では虐げられている民だった。一方そのロタ王国では最近奇怪な事件が起きていた。牢獄である人物が磷付になったのと時をおなじくしてその牢獄が全滅していたのだ。しかもそれはまるで人間の手で起こしたことのようには見えない有様だった。

現実の世界とそれに並行して存在する異界ナユグ。この二つは微妙に関連しながら存在しているが、ナユグ側に春が訪れ始めてその影響が現実世界にも及んできている。そんな中バルサが助けた兄妹の妹アスラは異界の恐ろしい神を宿す者になっていたのだ。現実世界の子供達として庇護しようとするバルサと彼らを追うロタ王国の猟犬(カシャル)と呼ばれる者たち、そして王国を影から密かに支えてきた兄妹の民族たち。王国の未来をも左右しかねない彼らの力をあらゆるものが狙ってくる。この窮地をどうするのか。一方薄々としかこの一大事を感じていない当の本人アスラは自分が神を宿すことの意味をわかっていない。

ようやくこの物語ぐらいになってきて、この守り人シリーズが描く物語の世界の広さとか、国々や人々の違いなんかがわかってきて、”読んでいる物語”という感覚から、グインのように”世界のどこかにある世界”という感じになってきた。そうすると俄然物語が面白く感じるようになる。国や時代というおおきな流れと人という小さなものの対比というか、大きな流れに抗おうとする人間の姿というか。頑張れバルサ!とか思ってしまう。

そして物語は進むに従って三すくみのような様相を呈してくる。現実的な解決策がいいのか、個より全体を重んじた方がいいのか、それともやはり個が大事なのか。アスラはその兄は、そしてバルサはどうするのか。

面白くって上下卷一気読みしてしまった。はやくも続きが読みたくなってきて困ってるw

新潮文庫 2009

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田中啓文 – 道頓堀の大ダコ(鍋奉行犯科帳)

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鍋奉行シリーズの二冊目。今回もほんとなにも働かず(?)食ってばっかりいる大坂西町奉行である久右衛門が、その食道楽ゆえの能力を発揮して謎に満ちた事件を解決する。

「風邪うどん」「地獄で豆腐」「蛸芝居」「長崎の敵を大坂で討つ」の4短編。どれも楽しいけど、やっぱり反応してしまうのはうどんなのよねえ。田中さんなので時そば(うどん)のモジりか何かでくるかと思ったけど、そうではなかったw。この事件を解決するために町中のうどん屋にいっぱいずつうどんを提供される下りあたりがおもしろい。たしかに麺って時間によって印象がだいぶかわってしまうのでネタにするには難しいけど、お出汁なら冷えてもわかるかもね。お出汁の取り方も詳しく書いてあって楽しい。個人的にはやっぱり四国のうどんの方が好きだけど、大坂のうどんも好きで、やっぱり大坂はお出汁の食べ物って感じ(四国のは麺の食べ物って感じ)。

豆腐も蛸もお菓子も(西洋のや日本のも)、でてくる食べ物も描写がというより、ほんと美味しそうに(ときには不味そうに)登場人物たちが食べるものだから読んでるほうは字面よりも絵として食べ物ができきて、おもわずよだれが口に溜まってしまったりw。

そして前作でもおもったけれど、この江戸時代の大坂の風俗や町をほんと見事に描写していて、現在の場所として知っているところが昔はどうだったとか、かわってないなーとか想像しながら読めるのも楽しく素晴らしいと思う。昔の町のことなんてこうやって文章で想像させてもらうしかないわけで、夜の町の暗さや、道頓堀の賑やかさなどなど、解説で我孫子さんが少し言及しているように田中さんはすごく深く考証をしているんだろうなーとおもう。なので、へんに引っかからずに数百年まえの大坂に楽々とトリップさせてもらえる。そう、読んでいても時代小説って感じじゃなくて、現在と地続きの昔話を今の話のように話してもらってる感じ。続きも楽しみ。たまには奉行さんが大失敗したりしないんかなw

集英社文庫 2013

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残俠(天切り松 闇がたり 2) – 浅田次郎

天切り松 闇がたりの第2巻。留置されている人間たちにはなぜこの小さな老人が優遇されるのかわからない。そんな謎の老人が同じ留置される人間たちに夜な夜な昔話を語る。今やそれは看守はたまた所長までの愉しみとなっている。

大正ロマンあふれるある日、寺の境内でみた見事な剣さばきの老人。その人が目安一家の客人となった。話をきくと彼はかの清水次郎長の子分・小政だという。そんな昔話の人物、、、と皆思うが、実は大正はさほど江戸時代からは離れていなかったのだ。だから江戸の任侠を引きずる人間がこの文明開化の華咲く大東京にもまだ残っているのだ。

そんな昔かたぎの人物の話から、目安の親分の切れ味いい中抜きの話、松蔵の初恋の話、そして松蔵と姉を捨てた父親との話などなど、人情味篤い話が8編。どれも読んでワクワクすると同時に、すこし哀しくなって空を見上げてみたり。ほんとこのシリーズいいな。時代劇でもなく現代劇でもなく。でも間違いなく今の人に向けて浅田さんは書いてるよね、きっと。

集英社文庫 2002

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浅田次郎 – 闇の花道

大正ロマンあふれる時代。明治の維新は遠い昔になり、まだ東京を大震災が襲うすこし前。街や人々は新しい時代に心躍らせていたが、まだまだ江戸の昔を大切にしていた者たちもいた。それは盗人稼業においても。

時は変わっていまの時代。留置所の隅にうずくまる老人。彼は夜な夜な同部屋の留置人たちに昔話をする。それも昔の盗人が使ったという声音・闇がたりという方法で。知る人ぞ知るこの御仁こそ、その大正の時代に名を馳せた目安一家の小僧で、天切りという大技を継いだ盗人・松蔵だった。彼ら一家が狙うのは盗られても誰も困らない天下のお宝。そして貧しい人には手を差し伸べる。義理と人情、そして何より粋であることを大切にした、そんな人々の物語。

とかく、いまの若い者は、なんて言葉がよく出るけれど、いまも昔もそれはさほど変わっていない。しかしその中でもすこしずつ変化はしていっている。今のご時世に義理や人情、はたまた粋、なんてことを信条にしている人間がどれほどいるものか。昔は本当にそういうものを大事にしている人たちがいて(と信じたい)、彼らの話を聞き、自分のいまを見つめ直す。話は昔話だから古いけれど、そこに含まれる真理や人の情は色褪せるものじゃない。

何巻か続くシリーズ物。「天切り松 闇がたり」シリーズ。一巻目となるこの作品では天切り松こと松蔵が目安の親分に拾われるところから、小僧時代のお話が主。博打好きの父親が借金のかたにと姉を置屋に、そして弟・松蔵を奉公にだすところから始まる。一家の姉御おこんが意地から同じ人物から同じものを盗り、それが人生の中での大きな恋になるお話「槍の小輔」がかなり素敵な話。そして生き別れた姉が吉原の花魁になって再開、そして別れる話などなど。義理人情なんていま流行らないというか二の次にされるようなことだけに、こう話にしてじっくり聞かされると、今はなんなんだろうとか思ってしまう。ロマンとか今ないもんね。そして粋。ほんといまは無粋な事ばかり、嫌になる。

こんな話をみせてくれる浅田さん、いいなあ。続きも楽しみ。

集英社文庫 2002

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田中啓文 – UMAハンター馬子 完全版

 

UMA – 未確認生物、それらを追っている訳でもないのだが、いく先々(あることを探し求めている)でUMAらしきものやそうでないものに出会う、ただひとり”おんびき祭文”の伝承者を名乗る、蘇我屋馬子とその弟子イルカ。彼女たちのいく先々で出会うものは、ネッシー、ツチノコ、雪男、クラーケンなどなど、UMAとしてその正体も存在も謎だとされる生き物たち(なかには魔界のモノも混じってくるけど)。それらをなぜかやたらと湧き出す知識によって暴いていく馬子。そしてそこにつきまとう謎の男。彼らはなにを探し求めているのか。そしてそれはどういう結果を招くのか?

怪獣やら異形のものやら呪いやらジャズやらなんやら、サックスを吹いていてもまるで叫びか呪術かのような音を追い求めている、そんな田中さんはきっとオドロオドロしいものに興味を惹かれるんだと思う。そして同時に未知なるモノへのロマン。ネットやらなんやらで地上のことはいろいろ明るみにされていってるけれど、いやいや実は我々が見知ってることなんて宇宙のほんのちょっと。でも、そういうことさえ忘れ去られて、なんでも指先一つで調べられてしまうと思い込まされているこのご時世に、ああ、こんな世界がたしかにあった、いや、あるんだ、ということを再認識させてくれるのがこの馬子たちなのかも(大げさ?)

各エビソードはさておき、煮しめたような、皆が想像する最大公倍数的な典型的な大阪のおばはん、馬子のキャラが強烈で、それを読んでるだけでおもしろい。でもこれ面白いって思えるの関西や大阪の人間だけなのかなあ。こなもんやの馬子はもうちょいおとなしいというか、小学校の近くにあった駄菓子屋のおばちゃんぽい感じやったけど、ここでの馬子はもう怪獣のよう。実は小学校のときにお世話になった先生に被るのよねえw

各UMAに対する憧れも、それを現実的にみた正体らしきものも、いろんな夢やロマンを馬子の口を借りて田中さんが語っていくのが楽しい。そして最後にアレがでてきて、ウルトラQだかなんだかのような展開になるのがもう笑うしかなくてー。やっぱり大阪城や高いビルは破壊されなきゃならないですよねえ。完全に最後の方は脳内映像再生になってました。

各章の間に挟まれる解説というか私見もおもしろく読ませてくれるし、このUMA愛に溢れた作品とてもいいです。この完全版ができるまでに紆余曲折しまくったようだけど、よくぞ最後までいってくれたって感じ。なんかうれしい。馬子はそして幸せになれるのかな、石切あたりで商売やってたりするんかなあ、なんて思いながら街をいきかうおばはんを眺める日々なのでした。

ハヤカワ文庫 2005

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