2013 ありがとうございました。

20131231

あと7時間ほどでこの2013年も終わりを迎え、新しい2014年がやってこようとしています。

思い起こせば今年もたくさん演奏できましたし、おかげでいろいろな場所にも行くことができました。そして新しい人との出会いもあって充実した一年だったと思います。もう少しCDなどの作品づくりをやりたかったですが、それはまた来年以降への楽しみにしたいと思います。

今年の自分なりのトピックは、やはりCorner PocketのDVDの制作〜完成、そして仔猫(とはもう言えないぐらい大きくなっちゃいましたが)Pちゃんがやってきたことです。演奏はコンスタントにつづけるものが多かったように思います。今年はちゃんとしたリーダーライブを一本もやらなかったが残念ですが、そういう年があってもいいのでは、といまとなっては思います。曲も一曲も書けなかったですし。

いろいろ迷うことや悩むことも多いですが、それでも何かが停滞していたわけでも、大きく躍進したわけでもなく、でも自分なりに自分のペースで、自分のことを少しは表現できて、ちょっとは前進できたかなーとは思えるので、それは良かったということなのでしょうね。

来年も変わらず、でも少しは変わって、いろいろ頑張りたいと思います。やってみたいこともたくさんありますし。

こんなことをのんびり言えるのも、今年お会いした、お会いしなくても応援してくれる、なにか関わりもつ方々のおかげです。みなさん、本当にありがとうございました!!

来る年がみなさんにとってまた充実した素晴らしい一年となりますよう。

2013.12.31 武井努

伊坂幸太郎 – SOSの猿

他人の心情が映像となって見える男、二郎。そしてとにかく物事の原因を調べ上げる男、五十嵐。彼等の前に幻想なのかそうでないのか出現しては謎のヒントを残す孫悟空。絵の修行にイタリアにいったのに悪魔払いのまねごとをするようになった二郎がひきこもりの男を助けたり、ちょっとした入力ミスで会社に三百億という負債を負わせた男のミスの原因を調べ上げる五十嵐。やがてこの2つの話が交錯していく。そしてその間には孫悟空。。。。

なんかこうやって書くとトンデモ話みたいだけれど(いや実際へんてこりんな話というか、ちょっとトリップ感あるよねぇ)謎が謎を呼ぶということでもないのだけれど、いろんなキャラがテンポよく現れてちょっとずつ物語が紐解かれたり、意外な部分がちょっとずつリンクしていったりするあたりがとてもおもしろく(伊坂さんらしい)一気読みしてしまった。ちなみにこの物語はもともと2008から2009にかけて読売新聞に連載されたものだそう。さらにこの物語は五十嵐大介の『SARU』という漫画と対になっているそう(なので入手したw、はやいとこ読もう)。物語の中だけではなくこうやって別作品と関連性をつくっていったりする試みすごいなぁ。

このところ伊坂さんの作品てわりと明確(でもないか)にテーマを提示している感じがする。この本の場合は”本当に悪いのは誰?”というのが一番出てくるテーマか。あと「モダンタイムス」あたりから”本当のことは隠れていてわからない”てのもずっと引っ張っているような気がするな。どんどんわかりやすく読者に現代社会が抱える問題を提示しているような気がするんだけれどどうだろう。

この本のおかげで西遊記を読みたくなってしまった。実際どんなお話か知らないし、孫悟空が山から出たあとの話しか知らないし、その前がどんなかも知りたいもんなー。

中公文庫 2012

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田中啓文 – 禍記


「落下する緑」などの音楽ものとか、笑酔亭梅寿謎解噺のシリーズとか「蹴りたい田中」や「銀河帝国の弘法も筆の誤り」のような作品には触れてきたけれど、いままで田中さんの気色悪い系は避けていた。だって気色悪そうだから。昔からスプラッタ系の映画とかも不得意なので、もう文章読むだけでおえっとなったらどうしようとか思ってこのあたりの作品は読んでいなかったのだけれど、魔がさしたのかふと手にした本。

「禍記(マガツフミ)」といわれる謎の古史古伝には闇に葬られた世界の話が記されているという。その書物に興味をもったオカルト雑誌の編集者である主人公がふとしたことからその世界に足を踏み入れてしまい。。。。という背景で描かれている伝奇もの。5つの短編(エピソード)からなるのだけれど、どれもいつもの軽快な(?)ギャグは足を潜めて、おどろおどろしい世界が展開される。でも想像していた「読んだだけでウエッとなる感じ」は大丈夫だった。それでも描かれている様子(赤子大の蝶の中身とか、ひゃくめさま、とか)はするっと読んでしまわないと、じっくり想像なんかした日には気持ち悪くてウエッとなってしまうので、なるべく考えないようにして読まないと、やっぱり気色悪かった。

どちらかというとそういった映像的気色悪さよりもこの本は心理的じわじわ気色悪さのほうが濃いような気がする。夜中に読んでいて、ふとまわりのしずけさにじっとりとした重みを感じるような、あの感じ。何もないのに何かいるような感じ。純日本的妖怪的気持ち悪さ、それが見事に描かれてるなーと思う。面白くて一気読みしてしまった。

しかし田中さんの物語はいろいろ蘊蓄がわんさかで楽しい。よくここにこんなことひっぱってきたなーとか感心しまくってしまう。あまりにも細かいというか深いので、どこからどこまでが本当でどっから先が作り物なのか区別できない。調べてもいいのだけれど、そのまま鵜呑みにしたほうが面白いのでなんでも「へー」と思って読んでいくのだけれど、いやしかしよく集めたなーと思う。

個人的には「妄執の獣」が好き。気色悪かったのは「天使蝶」。

次何読んだらいいだろう。「ミズチ」は読んだけど、ずっと前に。

角川ホラー文庫 2008

有川浩 – ラブコメ今昔


有川さん、相変わらず甘アマですごくこっ恥ずかしくて楽しい。「クジラの彼」につづくような自衛隊が舞台のラブコメの小作品集。でも最後の話がまた最初にくるっと戻ってくるちょっとした芸が憎かったり。

いわゆる自衛隊3部作でもその「クジラの彼」でもおもったけれど、有川さんの自衛隊(とかメカとか)に関する知識というか観察眼が徹底しててまずそこがすごくいいなぁと思う。そしてそのメカメカしたところに甘アマの恋愛話をするっとくっつけられるあたりにこの人の物語をつくる高い才能を感じてしまう。でも甘アマといっても全面的にべたべたしてるわけでなくて、うまいポイントでするっと出してくるのがまたいい。すごく濃厚なジャムがちょろっと使ってあるあんぱんのような(違うかw)。

でもこのシリーズの面白さというのはそういう部分だけではなくて、解説で誉田哲也氏が書いているように、描かれている自衛隊員さんたちの姿勢がぶれていないこと、だと思う。物語はおもしろおかしく描かれているけれど、彼等が常に心に誓っていることは「国を守る」ということであって、それをぶれさせることなくきちんと描いていることなんだと思う。ただたまたま面白い素材が自衛隊にあった、ということではなくて、こういう話を書くことによって、普段政治に左右され世論にさらされる自衛隊という組織、無論そこには生身の人間がいるわけなんだけれど、彼等がどういう立場におかれようと「国を守るのだ」という姿勢を第一に常に考えていて、彼等がいるからこそ市井のぼくたちは国の外で起こる物事に対して安心していられる(自分がその立場にはならなくてよい)のだ、ということをぼくらに語りかけているんじゃないかと。

この辺のことは文庫本には「文庫本あとがき」として有川さんの心情が書かれている。「(前略)総理大臣が出す命令ならどんな命令でも従わなくてはならないということで、近年は非常に歯がゆい命令が多すぎました。しかし、どんな理不尽な命令でも、彼らは命を懸けるんです。」、(自衛隊だけでなく警察や消防なども含め)「それを「仕事ですから」と誇ることさえせずに命を懸けるすべての人々が、正しく報われる世の中であってほしいと思います。」

全くそのとおりだと。いままで有川さんのこのシリーズを読んでいてもそんなこと意識できなかったけれど、これはとても大切なこと。ちゃんと意識しないといけない。とおもうと、自衛隊三部作もクジラの彼も、この本も、そして図書館戦争シリーズも有川さんは同じような立場で繰り返し同じことを言っているんじゃないかなと。

2012 角川文庫

LAST NIGHT AT CORNER POCKET

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当初は9月3日の発売予定で制作していた昨年閉店した西宮北口のジャズ喫茶コーナーポケットのラストライブのDVD「LAST NIGHT AT CORNER POCKET」だったのですが、技術的な問題があったり(素人がやってたもんですから)、権利的な問題があったり(これが大きかった)、おまけとして作り始めた「Momory of Corner Pocket」が予想以上の大作となってしまいえらく時間がかかったり(2時間半以上ありますw)したために、ずるずると延期につぐ延期をしてきてしまいましたが、ようやく、やっとこさ、この12月の上旬に完成して発売できるようになりました!!!みなさん、本当にお待たせしました。

素人制作ですが、実のところ手前味噌といわれるかもしれないですが、めちゃくちゃ良い出来です。その辺のジャズのライブDVDなんかより断然いい作品になってるのではと思っています。まあ演奏が抜群に素晴らしいのもありますが、コーナーポケットのあの音をそのまま封じ込められたし、どちらかといえばミュージシャン目線での映像編集になってるので、音と絵がちゃんとリンクしていることが見て聴いてわかってもらえると思います。

思えばこのライブが決まってからしばらくしてから「何か形に残したいね」という話が出たのですが、まぁきちんと録音してCD化する、というのであれば、いままでいろいろCDを作ってきたノウハウもあるし、人脈とかも揃っているので結構容易く進んだと思うのですが、話が「映像で」ということになれば全然レベルが違うのだ、ということに気づいたのはもう編集初めてずいぶん経ってからでした。10倍以上大変なんじゃないかなー。実際の編集作業も膨大ですが(でも、まあ映画とかとは違ってライブなので、映像の時間が決まっているというか、絵をうまくあわせて行くコマ割り作業でできる)、編集を終えてからDVDと言う形に落とし込むときにこんなに手間と苦労があるのだということを全然分かってなかったです。あと権利処理のめんどくささとか。(この辺の話を書き始めるとキリがないのでやめときます)

でも要所要所で素晴らしく力になってくれる人が現れてくれたので、今回の発売に至ることができました。協力して下さった皆さん、本当にありがとうございました!!感謝してもしたらないぐらいです。

この作品多くの人に見て頂きたいのですが、実は数量限定なのもあって流通にはいまのところ流す予定がないのです。なのでコーナーポケットを通しての振込&郵送という方法(もしくは僕自身が自分のライブ会場とかで手売りする)しかありません。でも是非見て頂きたいです!なので、興味ある方は corner.pocket.dvd@gmail.com  まで「DVD購入したいです」という旨のメールをお願いします。

DVDの詳細

タイトル 「LAST NIGHT AT CORNER POCKET」
内容 2012年9月1日、2日の二日間にわたる北川潔(B)氏と岩佐康彦(Pf)、大野浩司(Gt)各氏とのDUO LIVEより各日それぞれ選りすぐりの3曲、計6曲75分に及ぶ熱演を収録。Corner Pocket37年間の歴史の最後を飾る、これぞJazz Live Performance !!その圧倒的な美しく素晴らしい演奏をどうぞ心ゆくまでお楽しみ下さいませ。各氏の特別インタヴューも収録しています。

[収録曲]
北川-大野DUO
 1. On Green Dolphin Street
 2. Alter Ego
 3. Backstage Sally
岩佐-北川DUO
 4. Stablemates
 5. My Ideal
 6. Good Bait

 

***

ホントこの1年間ほとんどこれにかかりっきりだったといっても過言じゃないぐらいずーっとやってて、途中で何度かへこたれそうになった(実際へこたれたこともあります)のですが、その度に「いやいやそんな弱音吐いてる場合じゃない、きちんとやらなきゃ」と思ったり、制作途中の映像見ながら(とくに Memory の方ですが)マスターのこととか思い出して「いやいやマスターなら言ったことは最後まできっちりやるよな」と思ったり(この辺りは Memory のほうの’マスターについて’というコーナーの幼なじみの方々のインタビューを見てもらうと分かります)、閉店するという話が出たときに最初に感じたモチベーション — ずいぶん僕は勝手気ままやらせてもらったし、マスターにも可愛がってもらった(僕は愛想なかったけれどマスターはずいぶん気にかけてくれてた、と今更ながら思う)し、何よりもあの店が大好きだったから — が「何かぼくにできることでちょっとでも恩返ししたい」という気持ちを強く持たせてくれて、また立ち上がってなんとかやり続けさせてくれました。でもずいぶんまわりの人に迷惑をかけたんじゃないかなーと思います。

でも、しんどいことばっかりじゃなかったです。基本的に何か知らないことを知るのは大好きなので、いままで短いPV程度のものは作ってきたけれどこんなに本格的な映像作品は初めてだったので、いろいろ新たに知ることがたくさんあって楽しかったです。以前(というかまたチャンスあったらやりたい)舞台役者やったときも、如何に演技というのが難しくおもしろいものか(役をいかに自然にやるか)というのを知りましたが、今回は映像編集のおもしろさ、奥深さというのを知りました。

まあライブ盤のほうは時間が決まってる(演奏時間は変化しないから)ので、どのシーンにどのカメラの映像使うかということだけ考えたらよかったのですが、Memory のほうはDVDの収録時間の限界はあるものの、中身については何もない状態から(インタビューをいろいろ撮って、それをうまく並べてコーナーポケットという店の姿を浮き彫りにしよう、という発想から始まった)始めたので、インタビューを撮りながら、その話の内容を吟味して、じゃぁ作品のどういう部分に使おうか?なんて考えながらいろいろ撮りました(最初はある程度話題を決めてしゃべってもらってたのですが、そのうち完全フリーになったw)。そしてある程度インタビューを撮った時点で全体の骨子みたいなのが見えてきたので、どこそこに誰々のあのインタビュー入れようとか決めたり、インタビューだけでは足らないところは別の映像とMCで補うようにしてみたり、と編集しながら試行錯誤してちょっとずつ映像のパーツを作って行きました。やがて全体をくっつけて流してみれるようになったらなったで、全体のスピード感とか、話のつながりが自然になるようにとか、なんてことを見ながら、不必要な部分をカットしたり足らない部分を足したり、と延々と細かな編集をしていったのです。

するとまあDVDの収録時間の限界(映像の品質を犠牲にすれば結構なんぼでもいけますが、長けりゃいいというものではないから、一気にみて疲れないぐらいには短く)もあるので、インタビューも泣く泣く沢山カットしたし(ほんと全部見て欲しいのんなんぼでもあった)、懐かしい映像や写真など入れたいものは山ほどあったけれど厳選に厳選を重ね、最終的につながったものを見るとほんと意味のない部分なんて全くない映像が出来上がってました。どのシーンにもどの言葉にもどの写真にもすべてそれがそこに入ってる意味があります(というかそういうものしか入れられない)。そこで気づいたのですが、世の映画監督ってのはこういう作業をしてるのか、と。なので改めて自分の好きな映画とか見てみるといままで何も思わなかったシーンで「なぜこのシーンを入れたんだろう?」とか「ここでこういう風に言わせたのはなぜだろう?」とかいろいろ思うようになりました。どんな部分にもきっとそこをそうした意味がある、それが映像作品というものなんだ、と思えるようになって、また映画とかの見え方が変わりました。当たり前のことかもしれないけれど、これが今回の一連の作業で僕にとってすごく勉強になったことでした。演奏もそうである必要がある、かもしれないけれど。

***

ぐちゃぐちゃ書きましたが、映画監督はこんなこと書かないですよね。ああ恥ずかしい。でも書いてしまったからこれはこれでいいのだとこのまま残します。何よりほんとこの作品を多くの人に見て欲しいです。いま思うことはそれだけです。

そして、この作品たちを音楽を愛する人すべてに、コーナーポケットに集った方々に、何よりもマスター・故 鈴木喜一氏とかーちゃんこと優子さんに捧げます。こんな作品に携わらせてもらえて、とてもとてもうれしかったです。ありがとう。

[猫日和]2013.12.13 Pちゃん

午睡
午睡

 

生まれてもうすぐ7ヶ月。かまがでかいのであんまり意識してなかったけれど、もうすっかり大きくなったPちゃん。今日ワクチン打つ為にお医者さんに連れて行ったら、久しぶりの騒がしい外にビビっていたけれど、病院ではすぐに慣れていつもの態度。で、体重はかったら4キロ半でした。思ってたより重かった。まだ2キロぐらいかと思ってた。

半藤一利&宮崎駿 – 腰抜け愛国談義

引退を表明した宮崎さん。そして最後にするとしている作品「風立ちぬ」。かねてから会いたかったと宮崎さんが言う半藤一利氏との対談書。昭和史、飛行機、夏目漱石などを通して「風立ちぬ」で描きかたかったこと、この国のありかたなどを語りあう。

こんな対談を読んでいると、いかに自分が何も知らなくて、何も考えてないかを目の当たりにされて悲しくなってしまう。本当の意味で国を憂いたり、怒ったり、そんな人生の先輩たちの対談はとても刺激になる。そしてこのひとたち本当にいろいろ物識りだなとひたすら感心してしまう。いくら好きとはいえこんな細かなことまでよく知ってるなーと。彼等にくらべて僕のもの知らずさ加減に嫌気がさすぐらい。本当に好きでいろいろ自分で行動して勉強してるひとたちは(とくにこういう人生の先輩たちは)全然レベルが違う。自分がああいうふうになれるかとは到底思えない。

しかしその博学者たちの対談は知らない話であっても非常に面白い。夏目漱石や他の文学のことも、飛行機のこと、戦争のこと、どれをとっても面白い話ばかり。もっと本が分厚つくてもいいから対談全部載っけて欲しかったなあ。もう少し映画について突っ込んだ話があるかとおもったけれど、それはあまり思ったほどでなかったのが少し残念。

文春ジブリ文庫 2013

江國香織 – すきまのおともだちたち


江國さんのちょっと不思議なファンタジーというかおとぎばなしというか。子供向けの感じかというとそうでもなくて、恋のおはなしでもなくて。でも不思議な感じがするところも、なんだかへんてこで頑固な部分があるところも江國さんらしくて好き。

ある街で郵便局を探しているうちに迷いこんだ世界は、いまの時間からきりはなされた別の世界で、おんなのこは「おんなのこ」という存在で、お皿は「お皿」として存在する。ここでは何もかもが決して変わらない。そんな世界にふとした偶然から(それは望むことはできず、どこにあるかもわからない)どこかにある’すきま’から落ちてしまう主人公とその世界に住む「おんなのこ」との友情の物語。

その世界では落ちてきたひとはすべて「客」なのだ。主人公は「おんなのこ」のお客さんとしていつ終わるかわからない(これまたふとしたタイミングで戻ってしまうのだ)その世界で過ごす。最初はなにもわからずぎこちなかった関係も、幾度か出会ううちに、静かに友情のようなものが芽生えて行く。いつ落ちてしまってもその世界は変わらない姿をしている。

過ぎ去る時間や想い出、そういうものを「おんなのこ」の視点から新鮮なものとして発見することができる、そんな物語。

集英社文庫 2005

辻仁成 – ピアニシモ・ピアニシモ


たしか辻さんには「ピアニシモ」って本もあって、それは以前読んだはずだけれど、この「ピアニシモ・ピアニシモ」と勘違いしてないかなーなんて心配しながら(よく同じ本買ってしまうのです。この本の前に同じ辻さんの「青空の休日」を買って読んでて、途中で読んだことあることに気づいたけれどおもしろかったので最後まで読みました、が)読み始めましたが、これは読んだことなかったのでほっとしました。最近の本だもんそりゃ当然ですねぇ。

うまくリアル社会との適合ができずにどこでも「いるだけの人」になってしまう主人公トオル。そして彼だけに見える親友ヒカル。彼が通う学校では以前生徒が殺されるという事件が起きていた。そしてまた同じような事件が起ころうとしている。そんなときにトオルがであう少女の幽霊。それは殺された女生徒だった。そして学校を徘徊する殺人者とおぼしき人物。謎をおうトオルがたどりつくこの中学校の地下にひそむもうひとつの中学校。トオルは生きて帰れるのか?

SFでもファンタジーでもノンフィクションでもない、ぼくにとってはすごく”辻さんぽいな”と思える作品だった。表現とか話の進みかたとか主人公の生き方の刹那的加減というか、ともすれば脈絡なくなってしまいそうな部分とか、無機質、ハード、暖かみが相容れないような感触とかとか、そういった世界観とか。そんな中で主人公トオルと不思議と心を通わせるこれまた不思議な同級生シラト。彼は身体は女性だけれど心は少年。そのどちらでもなくどちらももった人間が絶望しがちなトオルに生きる勇気と希望を与える。全体の雰囲気が暗く冷たいからシラトの存在が暗闇を遠くから照らす太陽のように暖かく感じる。温度とか、湿度とか、そういうものが吹き込んでくる。

全体の話の流れ方とか筋とかが緩急とか山谷とかそういう感じではなくて、破綻しているようでぎりぎり破綻してなくて、跳躍したりしてそうでしてなくて、という不思議な読感のある文章で、少年たちの心、社会のゆがみ、なんかの音がギシギシきこえてきそうで息苦しくなる感じ、これぞ辻ワールドだと思うんだけれど、どうだろう。うまく書けないけど。

いいのか、おもしろいのか、なんともわからないけれど、何か心に引っ掻き傷(嫌な感じじゃない)がのこる作品だった。

文集文庫 2010