奥田英朗 – 東京物語


1978年、名古屋出身の18歳の青年が上京する。なれない大都会、学生時代の淡い恋、仕事に追われるだけの日々、少し得意になっていてもまだまだと実感する20代半ば、そして30歳を前にして思うこと。友人と、恋人と、仕事の仲間と過ごす青春の日々。そのときどきにはその時代のトピックがあった。ジョンレノンの射殺、キャンディーズの解散、ベルリンの壁崩壊などなど。80年代を経験した人は(そうでないひとも)あのころのことを追体験するような時代の匂いがする小説。

奥田さんの作品でも初めての感じ。これとてもいい。まあたんにこの時代が懐かしいからというのもあるのかもしれないけれど、バブルにむけて時代が大きく派手に動いていた時代、みんな忙しくも楽しく輝いて生きていた。なにもすべてが良かったというわけじゃないけれど。そういう気持ちをすごくよく思い出させてくれる。とくにキャンディーズの解散は懐かしい、70年代が終わったって感じしたもんなぁ、幼かったけど何か変わるんだって感じた。

まあ20代ってほんと甘酸っぱかったり青春って感じで、誰も大なり小なりこういう経験してきているとおもうけど、僕らぐらいの年代の人間にはさらにその青春に80年代というのがかぶさると堪らない気持ちになってしまう。懐かしい、ほんと懐かしい。いい時代だったとおもう。読みながらあのころの空気の感じとか、街の変わっていく様子とか、音とか、匂いとか、いろいろフラッシュバックしてしまう。

またなんとなーく片岡義男っぽいところもあったりして(ブランド名の出てき方とか、服装の描き方とかとか)それもまた好きな要因かな。「彼女のハイヒール」なんてタイトルそのまんまぽいもんw

楽しかった。

集英社文庫 2004

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池井戸潤 – 株価暴落


半沢直樹シリーズとおなじ銀行もののお話。ただしこっちのほうが半沢シリーズより前にかかれたのかな。巨大スーパー・一風堂が爆破される。それは企業テロだった。顧客は不安になって店から離れていく。拡大路線一筋だったこのスーパーはまさにいま業績不振からの経営テコ入れ、銀行融資を受けたところだったのに、事件によってさらに業績は悪化、株価は下がっていく。こんなときその主力銀行はどうすればいいのか。倒産を免れるために支えるのか、それとも・・・。融資を審査し苦い反応をしめす主人公・坂東と銀行経営を上手く行かせたい企画部の二戸は正面衝突する。

そしてこの事件の犯人と目された人物の親は一風堂出店により軋轢が生じた小さな商店街で反対運動をした男でだった。その男は自殺をしていた。これは恨みからの犯行なのか?

長年に亘って築かれたシステムを守るのが大事なのか、それともあくまでバンカーとしての姿勢を貫くことが大事なのか。テーマはお金に翻弄され人生を狂わされる人たちや社会を守ること、そしてやもすればそれと対立する銀行という私企業のあり方、それらが天秤にかけられることが描かれる。今が大事なのか、先のことを考えるべきなのか、お金というものの力を思い知らされる。たしかにこれは判断するに難しいこと。大企業の倒産というのはそれだけでたくさんの人を巻き添えにすること。でも一方銀行は金を正しく運用することが一番大事なこと。これらは時には相反する。

そこで悩む主人公。根回しして主人公を追い落そうとする誹機の中の敵。企業テロの陰に見え隠れする別の顔。一体犯人の狙いは何なのか?

銀行のことは組織もなにもわからないので組織名や役職を読んでもぴんとこないので、最初は少々読み解きにくい部分もあるけれど、まあなれたら大丈夫。でも、読めば読むほど銀行っていうのは特殊な組織・体質なのだなと思う。彼らは実際には何かを産んだりしないもんな。だからこそ権力を握ろうとしたりするんじゃないだろか。バブル以降、銀行も潰れるというような世の中になってさえ、やはり銀行はどこか違う地平にあるような気が、読んでいてする。

銀行の組織の話、そして企業との関係、そしてテロとそれにまつわる企業の評価の推移。それらをうまくつなげて犯人は見事な作戦を練り上げている。それがどう解かれていくのか、そのあたりもスピード感あってぐんぐん読めて面白い。でも、もう少し(銀行というところを描こうとするからそうなるのかもだけれど)スムーズに読めるといいんだけどなあと思う。ムズカシイ言葉がおおいから、か。

あと最後ももうひとつ物語欲しかったなぁ。ラストがだいぶ急いだ感じするから、ちょっとだけでも頭取という人間を見てみたかった。

文集文庫 2007

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田中啓文 – 猿猴


「大きな猿が世に生まれだして人類を食らうだろう」という聖徳太子の予言から話は広がっていく。雪山で遭難した主人公奈美江が助かったのは偶然転がり込んだ土仏が並んだ奇妙な奇妙な洞窟のおかげだった。その失敗を拭おうをもう一度雪山にチャレンジした奈美江だったがやはり遭難してしまい、同じ洞窟にまたたどり着き、猿人のようなものに襲われる。まるで猿のような子供、猿の仮面をかぶった男たち、、、猿にまつわる奇妙な物事が奈美江をとりまいていく。

物語が進んで、いろんな謎が謎を呼んでいくなかで、「このままギャグ落ちだったらどうしよう」とか思ってしまったけれど、すごくシリアスな展開のまま最後まで怒涛のように進んで一気読みしてしまった。エピローグもいい感じ。なんか映画・猿の惑星を思い起こさせる(物語中にも何度か猿の惑星でてきた)。

聖徳太子、豊臣秀吉、出雲の国譲りの神話、中国の秘境などなど、田中さん、また今回もいろんな世界を見せて、教えてくれる。しかしこのたくさんの知識をどっからもってきて詰め込んでるんだろう。ほんとに中国いったんかなー。まるで見てきたかのように文章から絵が浮かんでくる。すごい。田中さんが見せてくれるいろんなものからまた別の興味が湧いたり、知らなかったことを知りたいと思ったり。今回も日本の神話の下りや(自分の国の創世の物語をしらないのは日本人ぐらいではないか、という指摘もあった、その通りかも)、聖徳太子あたりの時代の話なんかはとても興味惹かれる。知らずにいままできたけれど、もっと色々知ってみたい。大いなる秘密というか、神秘的なもの、でもそこにも人間がいただろうし、もっと自然は過酷だっただろうし、そういうものを知らしてめてくれる昔話をもっと知りたいなと思った。

あー、面白かった。

講談社文庫 2012 書き下ろし

猿猴 (講談社文庫)
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[猫日和]2015.5.19 Pちゃん

Happy Birthday!!! 2nd Anniversary!

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Pちゃん、2歳の誕生日おめでとう!!すっかりでかくなってしまって、来た当時の可愛さはどこへやらだけれど、甘えたでやっぱり可愛いです。
P3rdHBD-2
で、大きさ比較。右のアイロンは普通の大きさです。アイロン台になんとか載ってる大きさです。でか!

 

ケース

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Walt Johnsonのケース。またたくさん働いてもらいます。で、大事にします。

テナーのケースを新調しました。新調といっても中古なのですが。同じものが良かったのですが気に入って使っているWalt Johnsonケースはもう作ってないのだそうです。というのも最近は作りがよくなくてクレームが多かったからだとか(じゃあちゃんと作ってよ、という話なのですが)。なので新品を入手することもできないし、中古にするならばできれば昔の(10年以上前の)作りよかった頃のものが欲しかったのです。で、いろいろ探していたらたまたま中古品でいいものがでたので早速入手しました。毎回ケースを選ぶときは、軽さや見た目よりも丈夫さ(移動も多いし扱いも荒いし。飛行機もあるし)を重視して、そのとき一番頑丈そうだなと思えるものを選んでいるのですが、それでも壊れるんですよね。

それに伴い、今まで使っていたケース(これもWalt Johnson)や、その前に使っていてほったらかしになっていたもの(Jacob Winter 壊れかけてる)、だいぶ前に買い換えたて使ってないバリサクのケース(これも壊れかけてる&ハードケースで重い)などを処分することにし、粗大ごみとして処分場に出してきました。

これまでにケースを捨てたことは確か一度だけあった(さらにその前につかってたテナーのケース、これもwinter)のですが、このときはどうやって捨てたのか忘れてしまいました。が、今回は粗大ごみとして持って行ってもらうのではなく、直接処分場にいったので、目の前でゴミになって、他のガレキと一緒くたに粉砕処分待ちのゴミ捨て場に投げ入れられるのを見て、心が痛くなりました。たかがケースなんですけどね。楽器と違って。ケースは楽器を守るもの、ケースが壊れても楽器を守ってくれたらそれで十分役目を果たしてくれている、そういう性質のものなのですけど。なぜか「あああ」とか思ってしまいました。そして、もしかしたら別の場所では同じように廃棄されていく楽器たちもあるんだと思うとさらに「ああああ」と思ってしまいました。正しく人の手がかかって産まれてきたモノが粉々になるのは忍びないです、たとえそれが十分に役目を果たした後だとしても。

もちろん楽器が大事なわけですけれど、ケースも長い時間一緒にあって、あちこちへ一緒に行ったりしてるわけです。楽器があるところ、つまりぼくがいった場所にはケースも行ってるわけですよね。一番重労働させられて、それで傷だらけになって、テープで補修してあったり、懐かしい公演のシールが貼ってあったり。そんなケースを初めて愛おしいというと変だけど、そんな気持ちになりました。

ケースだけに限らず、モノってお金と交換したらどういうように使おうが自分の勝手だ、というのが普通の感覚かなと思うけれど、例えば時計とか服のように嗜好品として愛用するものとは違って、明らかに消耗品/耐久品であるこういうケース(鞄とかはまた扱い違うのかもしれないですが)などにも同じように思えたら、もっと世の中、いわゆる「もったいない」の精神が広まると思うのですが、どうでしょうか。

ちょっと話は逸れますが、その処分場の帰り道にラジオで、外国語の文化すなわち(とくに英語)いろいろ口にして説明する文化について話題になっていたのですが、何かを口に出して相手に気持ちを伝えたり説明したりすることはとても大事なことですが、一方口に出さないことは思ってないのと一緒、というようになってしまってるんじゃないかと思います。主張しないことは存在しない、のような。東洋圏ではなんとなく伝わる以心伝心の文化があって、口に出さずに察して伝わるという文化(もしくは察しさせられる)がありますけど、これはとてもいい文化だと思っています。察すること、は、思いやることに通ずるんじゃないかと。もちろん両者とも長所短所あってどちらがいいとは言えないですけど、ケースを処分したときに、もの言えないモノがもつ何かの雰囲気、どんなものにでも魂が宿ると考える我々祖先からの価値観なんかが、ふっとよみがえってきて、大事にしないと(気持ちもモノも)なと思ったのでした。

たくさんのケースたち、いままで長く付き合ってくれてありがとう。新しいケースも大事にします。

マイスティース レコーディング

20150509-1
今回の足元。アルトが綺麗でしょ?w

 

復活後初のワンマンを2月に行った際に発表した「Greeting CD」につづき、THE MICETEETHでまたミニアルバムの制作をしています。ベーシックは4月中旬に録ったのですが、そこからしばらくあいて、GW明けにホーンセクションのレコーディングを行いました。

前回はホーンアレンジのほとんどをやったのですが、今回はTb前田くんと半分こしてみました。そのほうがサウンドやアレンジのカラーも幅が出るし面白いなーと思ったからもあります。で、実際出来上がってきたアレンジはぼくのはやはりぼくっぽく、前田くんのは前田くんぽい感じで違いがあっていい感じです。前田くんががっつり作ったアレンジ吹くのもPANDEMIK以来かも、なので、なんだか懐かしい感じがしました。

2日間に亘ってホーンのためだけにスタジオを使ったのですが、今回は前作で歌どりやミックス・マスタリングをしたスタジオ、そしてエンジニアのOさんでの録りでした。Oさんに録ってもらうのはもう随分前に同じマイスティースでクリスマスのコンピを作った時以来でとても嬉しかったです。というのも、あの時とても音がよかったので(まあ先日の時もつくづくいいなーと思っていましたが)今回の録りもとても楽しみだったのでした。で、実際録ってもらっているとやっぱりいい音。スタジオそのものやセッティングや機材(とくにマイクね。今回は結構古いノイマンのu87だった。これがいい)もですけれど、やはりこれはOさんの腕によるところが大きいです。録った音そのものもですけど、録っているときにストレスなく気持ちいい音でできるのもとても重要なことですし。

この録りの前の日が愛知の蒲郡でのイベント出演だったので、その日は泊まって、早朝に起きてみんなで大阪まで戻ってのレコーディングだったので、結構体力的にきつかったのですが(移動もしんどいし、前の日飲みすぎたし < これが一番の原因かw)、初日のレコーディングは実にスムーズで、予定していた以上のことができました。まあ事前の準備がうまくいっていたというのもあるし、Oさんのエンジニアリングがよかったのいうのもあるし、何より今回ゲストで来てくれたTpの長山くんがとてもいい音をだしてくれたというのがありました。4管以上を重ねて作ったりはしているけど、同時にリアルに4人でハーモニーを作るというのはそれはとてもとても楽しいことなのです。

2日目はまた3人でのセクションでしたが、最後の曲に結構時間がかかってしまい(アレンジがいろいろ決まるのに時間が必要だった)なかなかスムーズにいかなくて一瞬暗雲立ち込めそうでしたが、ほんとこのバンドのいいところなのですが、そういう場合にみんなで頑張ってというのじゃなくて前向きに乗り越えようという文化があって、それによって結局はいい感じに、しかもあとで迷えるぐらいいろんなアイデアを盛り込んだものができました。いやーすごかった。それにささっと応えられるセクションというのもやってて楽しいですし。

あと、今回は普段そういうことまずしないのですが、自分がアレンジしたもので、自分が吹く音のイメージがどうしても普段出している音よりもっと違う感じにしたかったので、楽器を借りてみました。新しいタイプの楽器はコントロールもしやすいし、何より音が艶やか。ちょっと違う感じに聴こえると思いますが、そんなこと思って一人でニマニマしてるのはぼくだけかな?

今回も5曲。また5曲ともいろいろ色の違う曲が生まれてきています。どんな出来上がりになるのか、いまから楽しみです。乞うご期待!

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珍しい(というか初めての)4人セクション

 

宮部みゆき – パーフェクト・ブルー


宮部さんの本を読むのも久しぶり。最近のは長編が多いので読むのに時間がかかってしまう(当たり前か)のでちょっと避け気味になっていたのだけれど、たまには読みたいなーと思って手に取った本。何も考えずに手に取ったが、実は彼女の長編デビュー作だった。設定がおもしろくて元警察犬のマサが主人公。物語は彼の視点から描かれるのだけれど、途中から犬が主人公であることを忘れてしまうぐらい、スムーズに進む(例えば犬だから人との意思疎通が難しく、その説明があったりして話が横道にそれる、というようなことがない)ので楽しく読めた。

マサは出会いあって蓮見探偵事務所の用心棒として飼われている。そこに持ち込まれた少年・進也を連れ戻してくれという依頼に事務所の調査員・加代子と向かうのだが、彼を無事連れ帰る途中で不可解な事件に出くわす。それがすべての始まりだった。彼の兄で高校野球界のスーパースター・克也が焼き殺された。野球部内の確執か、それとも高校野球界の闇か、それとも。。。

謎がウエハースのように何層にもなってて、表面的に解決しても(物語上でも焼死事件はたやすく解決する)その裏にまた違う顔を潜めている、という構成がうまくできている。どんでん返しみたいなことにはならないんだけれど、それでも最後まで事件の全体像が見えず、それでも最後まで飽きずに読めるのもさすがという感じ。最後ちょっと説明おおくなっちゃうけどね。でも宮部さん初長編という感じはまったくせずに、すごくこなれた感じで素晴らしいとおもう。

人間の闇的を描くことはあまりなく、もうすこし軽い感じというか、徹底的な悪がなくてちょっとほっとした。そういうドロドロしたところがでてくるとこんな長さでは書けないだろうしなぁ。少年たちが主人公なので、爽やかな感じがするようにしたのかもね。

創元推理文庫 1992

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三浦しをん – まほろ駅前 多田便利軒


三浦さん本を読むのは久しぶりだけれど、今まで読んだのとはまた違うテイストの本。のんびりした感じというか。

郊外のまあまあ大きな街の駅前で便利屋を営む多田。あるとき得意先に出かけそこで高校時代の同級生に出会う。一言もしゃべらない変わったやつだった、行天。多田は実はこの行天に後ろめたいことがあったからもあり、彼に居つかれてしまう。そこから始まる奇妙な同居生活。お互いやもめの二人はなんとなくウマがあっているのかいないのか(笑)。勝手気儘に、でも仕事を適当に手伝ったり、たまに気の利いたことを言ったり、下手なことをするとどこかえ消えてしまいそうな行天を多田は追い出すことができない。

便利屋にはいろんな仕事が舞い込み、それをこの凸凹というか、ぐだぐだ中年コンビが奔走し片付けていく。日々は流れ、彼らはその中でも役立つことや人との関わりに小さな幸せを見出す。しかし、彼らは根本的にぱっとすることがない。というのは実は彼らは理由は全然違うにせよ、妻子と別れており、妻はまだしも、子供と会うことができないという理由があった。さらにその影には複雑な事情が。

行天というのが読めば読むほどどうしようもないやつなので、多田が抱える後ろめたさがなければ「さっさと追い出せばいいのに」とか思ってしまうのだけれど、読み進むうちになにか憎めないようになってしまう。やせ細ったブチのある捨て犬のような感じ。彼らの関係を見ていると、取り返しのつかないことはつかないし、それを取り戻すことはきっとできないけれど、そこをスタートにまた新しい関係を産むことはできるんじゃないか?と問われているような感じ。

物語のテーマは幸せはとり戻せるか?というようなことなんじゃないかな。壊れたもの、壊してしまったものを同じ様に同じところにもどすことはできないけれど、違う方法で代替(というとおかしいか)したり構築して別だけどまた違う幸せを産むことは可能なんじゃないか、ということ。物語は軽妙に日常が過ぎていくけれど、彼らの会話や行動の端々にときどき陰がさし、そういうことを示唆するような言動がうまれる。それらの発端は行天と多田の高校時代の話、つまり多田のうしろめたさ(これを告白はしない)。

でも、そういう幸せを取り戻すことが明らかにできてなくとも、そこへ向かっていることが少しでも感じることができれば、やるせない気持ちを抱かえつつも日々を生きていくことはできるよね、と三浦さんに諭されているような気分になる。いい物語。

いくつかハッとする言葉がでてくる。少し挙げると「不幸だけど満足ってことはあっても、後悔しながら幸福だとういうことはない」(行天)、「愛情というのは与えるものではなく、愛したい感じる気持ちを、相手からもらうことをいうのだと」(行天の元妻・凪子)。その他にもいろいろ。噛みしめてしまう。

第135回直木賞受賞作。

文集文庫 2009

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小路幸也 – シー・ラブズ・ユー(東京バンドワゴン)


小路さんの東京バンドワゴンシリーズの2冊目。今回も懐かしいホームドラマの匂いがぷんぷん。

東京のどこかの下町にある古書店「東京バンドワゴン」。そこは大所帯家族・堀田家がやっている。三代目の勘一、その息子で伝説のロッカーだという我南人、その息子たち、その嫁たち、そして孫たち、、、いつも食卓は賑やかで、読んでいるこっちも微笑んでしまう。いまは失われつつあるのか、それともどこかにまだまだあるのか、日本的懐かしい長屋家庭の風景。ご近所さんも賑やかでいつも書店と併設されているカフェには人がいて、世間話に花が咲く。そしてときどき街や人の周りでおこるトラブルや不思議なことが持ち込まれる。。。。

今回も冬からはじまって、春夏秋と4つのお話が。前作では家族のそれぞれに焦点が当たるような感じだったけれど、今回はこれから増えるであろう家族のことやら、恋の話やら。前作と同じ設定で亡くなった勘一の奥さんサチが見えない姿で家族を見守る、俯瞰するテレビカメラのよう。彼女の説明で話は進んでいく。ほんとテレビドラマを想定したような物語と脚本の間のような感じ。

どのお話も少しずつミステリーぽくて楽しいけれど、信頼おける人のつながりでしか生まれない逸話「恋の沙汰も神頼み」と、どうしようもなくやるせない気分にさせられる表題作「SHE LOVES YOU」がいいなぁ。勘一の黙って動く感じ(昔の親父って感じ)もいいし、ときどきに我南人がいう「LOVEだねぇ」が効いている。簡単な言葉だけれど、たしかにそれですべて表せてしまうのもたしか。さすが伝説のロッカー、というか、音楽ってそういうところある。ぼくにはまだまだだけど(できたらいいけど)。

なんせ今回も楽しかった。ほっこり。

集英社文庫 2009

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