角田光代 – 八日目の蝉

初めて読む角田さん。たしか映画化もされて話題になったのでこういう本があるのは知っていたが、手に取ったのは又吉さんが(芥川賞おめでとうございます!)何かのブログで紹介していたから(だったと記憶)。人が読んでいるものって世間の評価とは関係なく気になるもの。

不倫相手であった男の家庭に生まれた幼子を、その気はなかったのについ連れだしてしまい、そのまま逃亡して、やがて本当の自分の子供のように育て上げようとした女。追っ手から逃れるように東京から名古屋へ、そして女だけの団体に隠れ、やがて小豆島へ。長い月日が彼女たちを本当の母子のように育んでいく。女はいつもどこからか迫ってくる影におびえ、本当の母子でないことをひた隠しにして暮らしていた。誰もが誘拐事件のことを忘れ、彼女たちも世間にうまく紛れ込んでしまえたかに思えていたが、そんな平穏な生活もやがてほんの小さな油断から破綻することに。。。

ーー

事件の発生から、女が捕まるまでの日々を日記のように女視点で描いた1章と、子供が成人した頃に昔の記憶をたどる旅をする2章の2部構成。その長い文章から事件の背景や事実、世間、女の心理、残された子供の心理、などが多面的に描かれ、読者を物語に深く引き込む。

単にすこし風変わりな事件の顛末ということではなくて、母子とはなにかとか、(単純に親の/子供の愛といった単純な言葉では書きにくい)愛情とはなにかとか、子供を持つこと、親をもつことの意味などなど、たしかにいろいろな形で存在するけれど、とても言葉であらわしにくい情感や関係性などを寄せては去る小さな波のように幾度もゆるやかに教えられ諭されているような気になる。読んだ後にほのかに胸のあたりにのこる、暖かいけれどすこし淋しい感じが、なんといっていいかわからないけれど、ああ、と納得したような、気付かされたような気持ちを起こさせる。

救いのないように(それは仕方ないことかもしれないけれど)なってしまいそうなところを、最後にすこし救ってくれた角田さんに感謝。いいお話だった。素敵。素晴らしい。

第二回中央公論文芸賞受賞作
中公文庫 2011

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小路幸也 – スタンド・バイ・ミー(東京バンドワゴン3)

東京バンドワゴンの第三弾。今回はいつも何をしているのかいまひとつ分からない、でもロックスター(だった?)東京バンドワゴンの堀田家の息子我南人が日向に影に大活躍。といっても派手な立ち回りも何もないけれど。毎度同じように東京バンドワゴンに持ち込まれる難題の解決に(影で)奔走する。

謎のアナグラムや買い取った古本に記されていた謎の言葉、ずっと以前に海外から送られてきていたという極秘文書、本当に存在していたら怖い羊男、そして堀田家最大(?)の秘密が暴かれそうになり、、、などなど、今回も4編とも楽しく軽快に読める。

こういうシリーズものも巻を重ねていくとつまらなくなったり、二番煎じっぽくなったりしがちなのだけれど、このシリーズはまだ全然ならない。サザエさんが飽きないかのように、それこそたいしたことが起こったりするわけでもないけれど、日常のちょっとしたことを近所の人たちでわいわいいいながら乗り越えていく、ほんとホームドラマの典型みたいな感じで、退屈と言われてしまうとそうなのかもしれないけれど、でもそこにしかない暖かさ、落ち着き、ほのぼのさなんかもあるわけで、このシリーズはほんと上手いバランスで描かれてると思う。楽しい。憧れる日本のよき下町界隈。

集英社文庫 2010

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村山由佳 – 夜明けまで1マイル


久々の村山さん。大学生が主人公の青春小説。

偶然の出来事からアイドル的先生と深い仲になってしまう主人公僕。簡単にいうとこれは不倫なので公にはできない。僕は彼女にすごく恋をしているけれど、彼女はいったいどうなのだろう?どうやら夫は海外赴任しているようで、彼女はほとんど僕の家に入り浸っている。でも夫が帰ってきている間は会えなくてたまらなく寂しい。そして僕はバンドをしていて、その4人の中でも実はいろいろ。僕はその性格からかまとめ役になることが多い。男勝りですごくいい歌をうたうボーカルのうさぎ。彼女はいつも恋愛下手。その慰め相手もなぜか僕。でも僕はすこし彼女が気になるのだった。

学生と先生の恋、アマチュアバンドがデビューしようとするときにぶち当たる壁。これらってかなり使い古されたネタだと思うけれど(これを両方同時につかってるのってもの、きっとあるよね)このお話は陳腐なことになってない。陳腐になりそうな感じを見せつつ、そこでないところにうまく持っていってるのが上手いなあと思う。

無論この物語のあとに僕らがどうなるのか、先生がどうなるのか、なんてことを書き出したらきっと別の物語をつくってしまえると思うのだけれど、いい意味でコンパクトに(そういう意味では実に学生の日常、世界のいい意味での狭さ)まとまっていていいと思う。恥ずかしげもなく青春だなーと思える、そんなお話。二十歳頃の青かった自分を思い出す。こういうのって永遠に変わらないものなのかなぁ。

集英社文庫 2005

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R.I.P.関さん

昨夜、ロイヤルホースの関基久氏の訃報がもたらされた。

ぼくはそんな数多くロイヤルホースに出演させてもらったわけではないけれど、でも少なくはないはず。たしか学生のころに学生ビッグバンドのイベント的なものか、それかTBの広兼さんらと組んだOBフルバンドでわりと定期的に出してもったのがロイヤルホースへ足を踏み入れることになった最初だったと思う。そのとき初めてお会いした関さんは(だからまだだいぶ若かった。いまでも年齢不詳的なところあったけれど)いい意味で”怖そうな大人”だった。いや、実際怖いところも多々あるのだけれど。

なので細々とだけれど付き合いはまあまあ長く、ぺーぺーの時代から見知ってもらっていたのもあって、いつも呼び方は「たけいー」だったし(こういう風に呼んでくれるお店の人も少なくなったので、うれしいものだった)、よく怒られたりもしたし(そういうことをする人ももう珍しくなった)、可愛がってもらっていたなという感じがする。怖かったけど。最近ではライブのときに挨拶にいって一言二言言葉を交わすのがほとんどで、ゆっくり飲んだり話したりしたことは数えるくらいしかない。

なので関さんのことは実はあまりよく知らないのだけれど、ロイヤルホースのようなジャズクラブの老舗的な看板を背負ってやっていくというのは想像を絶するようなことだったと思う。いろんな修羅場もあっただろうし無茶もあっただろうし、書けないようなこともきっとたくさんあったはず。でも、ジャズを愛して、ミュージシャンを愛して、それらを世に出すために惜しみない努力もきっとされただろうし、そういうことがなかったらジャズシーンというものはなかなか根付かなかっただろうし、ミュージシャンも世に出るチャンスがもっと少なかっただろうと言ってもおかしくないとおもう。ホースの表に誇らしげに飾っている数多の写真がそれを物語っていると思う。

あの深い絨毯と暗めの照明の空間で数多のミュージシャンと丁々発止を繰り広げてきた、ある意味、魔物のような偉大な人がいなくなった。音楽の世界には明るい場所だけではなくて、暗くてよく見えない魑魅魍魎の世界があってこそ、より全体が深まったり輝いたりする、そんなことを暗に示してくれてた、というと深読みしすぎ、かな。

関さん、お疲れさまでした。そして、ありがとうございました。
ぼくらが会えなくなったたくさんのミュージシャンの演奏をまたこころゆくまで愉しんでください。安らかに。

2105.7月のスケジュール

2015.6 2015.8 >

201507

※先の予定は随時変更されることがあります。

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7/2(Thu) 中島・武井 北海道ツアー
北海道 札幌 くぅ 011-218-1656 (南1条西20)
20:00- 前\2,500 / 当\3,000
[メ] 中島教秀(B)、武井努(Sax)、satoko(Vo)
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7/3(Fri) 中島・武井 北海道ツアー
北海道 札幌 Lazy Bird 011-707-7388 (北24条西4)
20:00- 前\2,000 / 当\2,500
[メ] 中島教秀(B)、武井努(Sax)、南山雅樹(Pf)、舘山健二(Ds)
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7/4(Sat) 中島・武井 北海道ツアー
北海道 札幌 スパゲティハウス This-1 011-865-8621 (白石区南郷通1)
19:00- \2,000
[メ] 中島教秀(B)、武井努(Sax)、南山雅樹(Pf)
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7/5(Sun) 中島・武井 北海道ツアー
北海道 札幌 発寒 イオンモール 011-669-5515 (西区発寒8条12)
1F すずらん広場
13:00- / 15:00- 無料
[メ] 中島教秀(B)、武井努(Sax)、南山雅樹(Pf)
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7/5(Sun) 中島・武井 北海道ツアー
北海道 札幌 ジェリコ 011-231-2529 (南3条西3)
19:00- \2,000 (学生\1,400)
[メ] 中島教秀(B)、武井努(Sax)、南山雅樹(Pf)
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7/6(Mon) 武井・馬田DUO
兵庫 西宮 Three Codes 0798-55-5184
19:30~ \1,500 (つきだし\500)
[メ]武井努(Sax)、馬田諭(Gt)
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7/7(Tue) 大我
大阪 大日 HADOWS 06-6903-1778 (イオン大日店4F)
Start 18:30- \2,100
[メ] 大我(Ds)、木村知之(B)、トム兼松(Gt)、武井努(Sax)
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7/11(Sat) 武井努(ts)×高瀬裕(b)×広瀬潤次(ds)
高槻 JK RUSH 072-681-7473
19:00~ 前\2,500 / 当\3,000
[メ] 高瀬裕(B)、広瀬潤次(Ds)、武井努(Sax)

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7/12(Sun) The Big Wind Jazz Orchestra
大阪 梅田 ROYAL HORSE 06-6312-8958
Open 18:00 1st 19:00~ 2nd 20:30~
\2,500(別途1ドリンク1フード)
[メ]飯田憲司(As)、落合智子(As)、武井努(Ts)、後藤重樹(Ts)、松並真嗣(Bs)
横田健徳(Tp)、菊池寿人(Tp)、黒岩洋輔(Tp)、福中明(Tp)
堀田茂樹(Tb)、大島一郎(Tb)、太田健介(Tb)、坂本裕樹(Tb)、的場誠治(Tb)
志水愛(Pf)、宮詠子(Pf)、片岡耕一(B)、原満章(B)、箕作元総(Gt)、森山和弘(Dr)、山下嘉範(Dr)、飯嶋ももこ(Vo)
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7/13(Mon) 武井努(ts)×高瀬裕(b)×広瀬潤次(ds)
広島 福山 DUO 084-923-5727
20:00~ \3,500
[メ] 高瀬裕(B)、広瀬潤次(Ds)、武井努(Sax)

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7/14(Tue) 武井努(ts)×高瀬裕(b)×広瀬潤次(ds)
広島 中区 Bird 082-241-6906
20:30~ \3,500
[メ] 高瀬裕(B)、広瀬潤次(Ds)、武井努(Sax)

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7/15(Wed) MITCH
大阪 梅田 ニューサントリー5 06-6312-8912
Start 19:30 \1,800
[メ]MITCH(Tp,Vo)、武井努(Sax)、時安吉宏(B)、永田充康(Ds) ほか
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7/16(Thu) 武井努(ts)×高瀬裕(b)×広瀬潤次(ds)
大阪 芦原橋 cafe Make 06-6562-3294
19:30〜 \3,000 (1drink付)
[メ] 高瀬裕(B)、広瀬潤次(Ds)、武井努(Sax)

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7/17(Fri) 武井努(ts)×高瀬裕(b)×広瀬潤次(ds)
名古屋 新栄 中区 LAMP 052-252-7151
19:30〜 \3,500 (予約\3,000 / 学生\2,000)
[メ] 高瀬裕(B)、広瀬潤次(Ds)、武井努(Sax)

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7/18(Sat) 山内詩子
大阪 梅田 パイルドライバー 06-6341-6110
19:30~ 3,000(1ドリンク付き)
[メ] 山内詩子(Vo)、武井努(Sax)、畑ひろし(Gt)

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7/20(Mon) 武井・馬田DUO
寝屋川 萱島 OTO屋 080-6126-1529
20:00~ 2,500
[メ] 武井努(Sax)、馬田諭(Gt)
※現状のおとやさんでのラストライブです。ぜひお越しください。
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7/21(Tue) 中島教秀・武井DUO
兵庫 尼崎 JAMMER 06-7177-7501
20:00〜 カンパ制
[メ]中島教秀(B)、武井努(Sax)
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7/22(Wed) Words Of Forest
神戸 三宮 Big Apple 078-251-7049
19:30~ 前2,000 / 当2,300
[メ]森本太郎(Ds)、清野拓巳(Gt)、三原脩(B)、武井努(Sax)、今西祐介(tb)
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7/25(Sat) 中島教秀3
豊中 我巣灯 06-6848-3608
14:00- \2,500
[メ]中島教秀(B)、清水勇博(Ds)、武井努(Sax)
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7/27(Mon) THE MICETEETH
■ KOKORO FURUERU!
東京 渋谷 TSUTAYA O-WEST 03-5784-7088
Open 18:30 / Start 19:00
前\3,000(税込/スタンディング/ドリンク代別)
[出演] THE MICETEETH / ワンダフルボーイズ / odol / DENIMS
[チケット] ローソンチケット(Lコード:75532) / チケットぴあ(Pコード:268-982) / GET TICKET / イープラス
[問] ディスクガレージ:050-5533-0888(平日12:00~19:00)

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7/31(Fri) E.D.F.
大阪 桃谷 M’s Hall 06-6771-2541
20:00~ 1,800
[メ]清水武志(p)、武井努(Sax)、田中洋一(Tp)、西川サトシ(B)、光田じん(Ds)
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川上未映子 – すべて真夜中の恋人たち

あるネットの記事で作家としても活躍し始めている又吉さんが紹介した本というものの一覧にあって手に取った本。初めて読む川上未映子さん。芥川賞作家でもある川上さんの文章に初めて触れたけれど、すごく文節がながいのにちっとも読みにくくない。箇所によっては(登場人物の心理を矢継ぎ早に説明するために)非常にながい文節の時がある(しかも句読点だらけ)けれど、それすらぜんぜん嫌じゃない、というかうまい表現だなーと思ったり。

あまり自己主張することもなく流されるままにフリーの校閲の仕事をしている主人公の女性・入江冬子。人とうまく会話をかわせないし、誰もいない部屋で黙々と文字と格闘するだけの日々を過ごす彼女の楽しみはクリスマス前の誕生日の真夜中に散歩をすることだった。真夜中の光はとても綺麗。すべてが別のもののように見えるから。

そんな彼女の前にあらわれた三束さん。なんでもない会話を続けるうちに、冬子にもわからない感情が積もっていく。でもそれをうまく表現できない。表現しようとすると何かが詰まってしまう。空気の振動として口に出す前にどこかへ消えていく感情。。。。

全体に悲しいような気もするけれど、そういうわけでもない。彼女がもどかしいのはもどかしいけれど、でもそれも嫌な感じもしない。小さなさざ波がやがて大きな波になるように、彼女の小さな変化や感情が、毎日の積み上げが、知らず知らずに大きなものになっていっくようすがとても細やかに、繊細に、でも大胆に描かれていて、ドキドキしたりする。きっと女性が読んだ方がもっとよくわかるのかもしれないけれど。

すごくすごくながい助走につきあったような気分。いいペースで読めると、じん、と沁みそうな作品。また別の川上さんの作品を読もう。

講談社文庫 2014

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