以前彼女の「天使の骨」という作品を読んですっごく引き込まれて別の作品も読みたいなあと思っていたら手にやってきた「猫背の王子」。中山さんのデビュー作。「天使の骨」の前のおはなし。芝居に人生のすべてを賭ける、主演男優(でも女性である)で演出家の王子ミチル。レズで女たらしでどうしようもない彼女の突き抜けた生き方、まっすぐであるがゆえに傷ついてばかりの彼女の姿に吸い込まれてしまう。
ちょうど「天使の骨」を読んだころちょっと芝居にも出てたこともあって、あの劇団特有の雰囲気とかクローズドな世界とかが少しわかることもあって、作品にのめりこんだのだけど、この「猫背の王子」ももっと強烈にそのときの想いや匂いを思い出させるものだった。そして主人公王子ミチルの姿。実際字を追っているだけでもその強烈な個性と若い女性を虜にしてしまうのであろうカリスマ性、スキャンダラスな存在感、それらを目の当たりにしてしまう。
何よりもこのミチルの生き方そのものに憧れを抱かずにはいられない。普通の人間(ちょっとした芸術家でさえ)からはまったくかけ離れた生き方。きっと苦しいことばかり、めちゃくちゃ。でもその尖った感じ、狂おしいまでに求める姿、そこに自分にはきっとできない/到達できないある意味理想の芸術家の姿を垣間見てしまう。すこし映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」でのBjork(ビョーク)演じたセルマ(だったか)の頑固さ狂気さを思い出してしまった(彼女は普通の主婦の役だったが)。
そしてエロティック。女性が描くもののほうがより鮮烈におもう。男性とは違うことがきっと見えて感じるから。電車で読んでたら結構恥ずかしくなってしまうぐらい。でもこれもミチルの魅力を増させるひとつになっている。
とにかくまだ荒削りだけどその分めちゃくちゃストレートに突き刺さってくるこの物語、面白い以前に恐ろしく、でも読まずにはいられない感じだ。
集英社文庫 2000