東京近郊の下町にあるちょっと不思議な雰囲気の古道具屋(決して骨董店でないところがミソ)でアルバイトする主人公ヒトミ。その不思議なお店とそこに集う人たちの物語。ダメ男感満載の店主中野さん。その姉で男っぽいマサヨさん。その恋人。そして私が気になる同じアルバイトのタケオ。波風のあまりたたない毎日がたんに流れて行くだけでなく、なにかちょっとしたものを含みながら流れて行く。
古道具屋さんという、最近ではもしかするとリサイクル店という名前に変わっていってしまってるお店の雰囲気、それがすごくいい。ちょっとくたびれているけれど、骨董というわけではなくて、ちゃんと使える味わいのあるものものたち。まったく意味のないものたち。それらが雑然と並んでいるという姿を想像しただけでなんだかほっこりしてしまう。
中野さんと”銀行”という隠語で呼ばれる恋人(だった)サキ子さん、マサヨさんと恋人の丸山、そして私とタケオ。じれったくも儚く、でもなんだか深い恋愛がじわじわとつづいて、付かず離れず、盛り上がりもせず、そんな展開がじれったくも愉快。川上さんの小説にしては湿度もひくく(カラッとはしてないけど)、ほんわかした感じでいいな。出てくる人の顔が想像できそうな、味があっていい。
新潮文庫 2008