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川上弘美

川上弘美 – 古道具 中野商店


東京近郊の下町にあるちょっと不思議な雰囲気の古道具屋(決して骨董店でないところがミソ)でアルバイトする主人公ヒトミ。その不思議なお店とそこに集う人たちの物語。ダメ男感満載の店主中野さん。その姉で男っぽいマサヨさん。その恋人。そして私が気になる同じアルバイトのタケオ。波風のあまりたたない毎日がたんに流れて行くだけでなく、なにかちょっとしたものを含みながら流れて行く。

古道具屋さんという、最近ではもしかするとリサイクル店という名前に変わっていってしまってるお店の雰囲気、それがすごくいい。ちょっとくたびれているけれど、骨董というわけではなくて、ちゃんと使える味わいのあるものものたち。まったく意味のないものたち。それらが雑然と並んでいるという姿を想像しただけでなんだかほっこりしてしまう。

中野さんと”銀行”という隠語で呼ばれる恋人(だった)サキ子さん、マサヨさんと恋人の丸山、そして私とタケオ。じれったくも儚く、でもなんだか深い恋愛がじわじわとつづいて、付かず離れず、盛り上がりもせず、そんな展開がじれったくも愉快。川上さんの小説にしては湿度もひくく(カラッとはしてないけど)、ほんわかした感じでいいな。出てくる人の顔が想像できそうな、味があっていい。

新潮文庫 2008

川上弘美 – ゆっくりさよならをとなえる


川上さんの作品はいくつか読んできているけれど、エッセイははじめて。普段は物語というものを通してしか感じられない川上さんという人が、エッセイからだともっと濃く(そして思ってた感じだったり、そうでなかったり)感じられておもしろい。やっぱりちょっと(?)へんてこな人だなあと(いい意味で)思う。少し湿り気のある感じとか、そんなとこに引っかかるのか?と思わせるポイントがあったりとか。

新聞や雑誌なんかにちょろっと書かれた文章がほんとうにたくさん。なんとなく章に振り分けられている。でもどれもおもしろく、ひそやかで、あんまりがちゃがちゃしていなくていい。川上さんがあちこちぽつぽつ歩く姿が目に浮かぶ。

読んだ本から気になる一文をひっぱりだして、そこからいろいろ想像を膨らませたり、とるにたらないものにひっかってみたり、作者のなりを想像してみたりする、そんな章があるのだけれど、川上さんの視点で選ぶ本、文なんかを見ているとまたまた読みたい本が増えてしまってこまる。そのうち川上さんのように街に落ちている本を拾うようになったらどうしよう。たしかに本って他の落ちているもの/捨てられているものとちょっと異質感あるというか、存在感を放ってるかも。僕は本を捨てたりできないから余計にそうおもうのかも。

表題作、とても素敵でした。

2004 新潮文庫

川上弘美 – どこから行っても遠い町


以前読んだ「センセイの鞄」もよかったけれど、この本の方がさらに好きかもしれない。都心から電車で20分ほどの郊外にある小さな町が舞台。そこに住む普通の人たちが主人公。とくに目立った人がいるわけでもなく、予備校の先生だったり、魚屋さんだったり、喫茶店なのか居酒屋なのかわからないお店の店員さんとかとか全員がいわゆる普通の人たち。

でもそんな普通のひとたちでも人生は平凡なわけではない。その人本人が平凡と思っていても他所から見ると平凡ではないし、普通なことは普通ではなかったりする。誰もがすこしずついいところも悪いところもへんてこなところももって、それぞれ生きている。

この本は11の物語で描かれていて、それぞれ違う人が主人公のお話なのだけれど、小さな町が舞台なのでその主人公になるひともそれ以外の人もいろんな話にでてきたり、話題に上ったりする。一人称でかたる視点と、まわりから見える姿、そして人の口にのぼった姿、いろんな姿がちょっとずつ重なって、今の、この町の様子、人々の暮らしができあがっている。

どこかにあるんだけれど、そこにはたどり着くことのできない不思議な町。でも人はちゃんと生きて、そして死んでいく。決して何か大きなことが起るわけでもないけれど、何もないわけではない。ちょっと時間が止まったように感じてしまう世界感。川上さんが生み出すなにか実態のない実は得体の知れない不思議な空間に引き込まれると、もうその世界に自分も所属してしまっている錯覚に陥って、町の住人のひとりとなってあちこちうろつきはじめたりする。

この本の感想はうまくかけない。読んでいるときはしっかりとその世界を感じているのに、本を閉じるとまるでゆめうつつであったかのように、物語とその感触はすっと遠のいてしまう。だからまた本を開いてそこにいる人たちに会いに行ってしまう。どうなってるのかよくわからないけれど、この本は好きだ。

解説で松家仁之さんが上手く書いてくれているので、それを参考に。

新潮文庫 2011

川上弘美 – センセイの鞄


川上さんの作品は「神様」の”くまにさそわれて散歩に出る”という衝撃的な書き出しに出会って以来ファンと言うかちょっと虜になってしまっていて、いくつか作品を読んでいるけれど、どうもちょっとお話が怖かったり、うまくトーンが合わなかったりするときもある。その彼女の独特のペースというか、作品の中に沈んで行く感じが、あまりにも深かったり、淀んだりするとちょっと恐ろしい気がすることもあったりして、なかなかいろんな作品をつぎつぎ手に取ってという感じにはいかない。

でも、この「センセイの鞄」、”センセイ”とカタカナであるところに惹かれて手に取った。で、もしかしたら今まで読んだ中で一番好きな作品かも。ことばづかいも作品のなかの時間の流れも、まぶしくない感じも、そして終わり方も、どれも素敵。ある意味普通なのかもしれないけれど、それでもほんのちょっとしたことの積み重ねでできている文章が、淡く、儚げで、どこかにありそうでどこにもなくて、明日のことのようでずっと昔のことのようで。彼女が綴る物語のすこし次元のずれた世界にとっぷりひたれる感じが心地よかった。

へんてこりんな恋愛の話かもしれないけれど、いいなぁ。お酒を燗で呑みたくなる。

文集文庫 2004

川上弘美 – 物語が、始まる


「神様」のときに衝撃を受けた川上さんだけれど、さてこの本はどうかなーと読み出したら、これまたいきなり「雛形を手に入れた。何の雛形かというと、いろいろ言い方はあるが、簡単に言ってしまえば、男の雛形である」から始まる、また「?」な展開。突飛やなぁ、突飛すぎる!

このひとの物語たちはどれも恐ろしく突飛なところから突然出てきて、そのままのテンションというか密度で話が進み、読者が嚥下するより速いスピードで繰り出されて、しかもさらに濃密になってゆく、、、というようにスピード感満載というよりは、怖い話がテンポ速くエンドレスに続く、みたいな感じの進み方するように読める。なので話を理解するというか感触を掴むのに苦労するのにそれより先に話を進められてしかも怖い、みたいな。一体どういう頭の構造してるんやろ。

というか、きっと物語が発想されて、そこから煮詰めて煮詰めて、ドロドロのイメージが出来上がったそのままの温度で全部言葉に一気にしてしまっている感じ。だからダレるところがなく、突っ走っていくような。この本はそんな感じだった。

その男の雛形を拾って、それと一緒に生活し(しかも男として成長する)なんか同棲のような生活になる表題作「物語が、始まる」、小さな幸運のトカゲをもらったことから生活が狂っていく「トカゲ」、閉じた空間から手招きするおばあさん「婆」、ある日突然自分のルーツである先祖の墓を探したくなる「墓を探す」。これら4編とも全然味が違う。でも共通して何か切羽詰った怖さ、ひたひたと角の向こうからやってくる恐怖、暗くて湿度の高くて、みたいなものを感じる。

とにかくなんか濃い。苦い練乳のよう。

中公文庫 1999

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