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浅田次郎

浅田次郎 – プリズンホテル【3】冬

プリズンホテル第3巻。冬になるとここ奥湯元あじさい温泉 – 通称プリズンホテル – は雪に閉ざされる世界となる。深い雪のせいでだれも来ないこのホテルに気分転換にと来た看護婦長の阿部(またの名を血まみれのマリア)。そして天才登山家、安楽死が問題とされた医者、などなどまたいろんな人が集まり、それぞれのドラマが交錯する。

この巻のテーマはたぶん命、生と死。そんな大げさな感じでは描いてはいないけれど。救急でとにかく失いかけた命を救い続けることを使命とする看護婦長。苦しい延命治療の果てに患者に死という権利を与えた医師。矛盾しているけれど2人とも見ているものは同じなのかもしれない。しかし不器用にもその自分のできることを信じて止まない。そして死と隣り合うところにこそ生を感じることができるという登山家。本人にはすごく大きなことだが客観的にみるとほんと些細なことで死を選ぼうとする男の子。冬山の厳しさを通して生きるていることの素敵さ不思議さ厳しさを伝えようとする男とその不思議な魅力に気づく少年。これら2組の人物の間でかわされる言葉によって、生きていることの素晴らしさ、命への愛を描く浅田さん。この巻では、ホテルの人たちはあまり活躍せずになりをひそめている分(というわけでもないけれど大暴れしたりはしない)、このテーマがくっきりと浮き彫りになってるように読めて、感触が違うのだけれど、やはりなにか気持ちが安らぐ、そんなお話だった。

しかし今まで粋でかっこいい感じできてた仲蔵親分のうろたえぶりったらw カッコ悪ーw かといって自分がその立場になったら、、、、同じことになりそうな気がするけれど。ぼくもお医者さん苦手だし。

集英社文庫 2001

浅田次郎 – プリズンホテル【2】秋

2作目。任侠団体専用の宿として別名「プリズンホテル」と呼ばれる奥湯元あじさいホテル。ちょっとした偶然から今回投宿することになったのは、警視庁の慰安旅行団体だった。同宿するのは桜会の大曽根一家、往年のスター真野みすず、アイドル崩れの歌手とそのヒモのようなマネージャー、そして実は指名手配されている男。もちろんホテルオーナー仲蔵の甥である作家・木戸孝之介もなぜか秘書兼愛人清子の娘・美加を伴ってやってきた。さぁ、ヤクザとマル暴が同居する一夜、どういう騒ぎが起るのか?

分かりやすいといえば分かりやすいネタかもしれないけれど、今回もとてもいい感じ。普段は公僕とその敵対組織。宴会が隣同士だったことからホテルサイドはすごく警戒するが、その警戒を吹っ飛ばすかのような騒ぎ。でもどちらも実は社会の隅においやられた男たち。ちょっとした諍いから始まるが、最後はなぜか傷をなめ合う仲間になったり。ほんとどじくさい男達が可愛くなってくるから不思議。

でも一番かわいいのは美加ちゃんかな、けなげだわ。

集英社文庫 2001

浅田次郎 – プリズンホテル【4】春

プリズンホテル、最終巻。季節毎に訪れることのできたこの物語もこれで最後。任侠もので売れっ子になった作家・孝之介。しかし彼はそれより恋愛ものを書きたがっていた。その彼の書いた渾身の恋愛小説「哀愁のカルボナーラ」が文壇最高の権威「日本文芸大賞」にノミネートされる。根っからのひねくれものの孝之介は記者に追いかけられるのを嫌がって、奥湯元あじさいホテル –  通称プリズンホテルへと逃げ込みそこで選考結果を待つ。それにくっついていく編集者や関係者の団体で賑やかな様相を醸すが、実は孝之介はノミネートのニュースが流れたとたんに姿を隠してしまった継母の富江が気になって仕方ない。

それとは別に同じ頃、ある手違いから52年の服役を終えてシャバにでてきた一人の老人がいた。彼は孝之介の叔父でありプリズンホテルのオーナーであり、関東桜会の顔役である正真正銘のヤクザである仲蔵のオジキにあたる博徒だった。行く宛のない彼は途中で偶然出会った月末の支払いに困る工場主を連れ、その足は昔教えられた宿、プリズンホテルへと向かう。そしてそこにまたしても偶然やってきた演劇に熱心に打ち込む母子、ホテル支配人の不詳の息子の担任などが集まって、今宵も名物宿のどたばたがはじまる。

いくつかのお話が並行して進んで行って、それがこの宿での出会いによってまとまって行く。今回も同じような感じだけれど、今回は演劇母子と先生の出会い、大学で同志だったものの再会、そして小僧時代の仲蔵とオジキの半世紀ぶりの出会い。そんな時間を超えたドラマに焦点があたっているよう。

そして一番の焦点はいなくなった富江、そして孝之介を捨てた母。その2人の間で孝之介はどう振る舞うのか?

***

孝之介を筆頭にして、へんてこな人間ばっかりがでてきて、おもしろおかしく読める、そんな小説「プリズンホテル」だけれど、実のところこうやって面白く思えるのは、登場人物たちがあまりにも必死で、一生懸命だから、というようなニュアンスを解説で中井さんは書いている。それを読んで、はたと気づく。まさにそのとおりだな、と。読者は小説の世界を上から(横から?)覗きながらその世界を楽しめるわけだけれど、このプリズンホテルを読んでいると、そこに出てくる人たちの姿が自分に、じゃあ君はどうなんだ?って問いかけているように思えてくる。「君はどうなの?一生懸命に生きてるの?」と。別に正しいとか間違ってるとかそんなことは関係なくて、何かにがむしゃらに頑張っているか?と。

曲がりくねったり、あちこちより道してしまうかもしれないし、間違うこともあるけれど、一生懸命にやってたら、やがて何か素敵なことがやってくる(かもしれない)、と思える/信じられるというのはなんて素敵なことなんだろう。そう信じられる人間がああやって頑張ってる姿はおもしろいけれど、でもやがてすごく羨ましくなってくる、というのは僕はそう出来ていないからだろう。

そう。読み始めたときに、なんでこんな根性曲がってんねん!と思った孝之介も、殴られるだけの情けない女・清子も、罵られるだけの継母・富江も、何も言わなかったという父も、酔狂なヤクザである仲蔵も、融通聴かない支配人・花沢もその息子も、黒田も、大曽根も、仲居の外国人のねーちゃんたちも、どの人も困ったちゃんなイメージしかなかったのに、読み終えた今となってはすごく親しい、身近にいる、ちょっとまぶしく羨ましい人たちのように見えてきている。そういう人たちの姿をこうも見事に、というか、あっけらかんと描いてみせる浅田さんにほんと感謝と拍手を送りたい。

ほんとこんな宿があったらなら、季節毎に訪れてゆっくり湯につかったり、怖いバーで呑んでみたりしたいな。とかくスマートに物をはこびたがる今の時代にはこんな時代遅れ(といったら失礼だけれど)な、人間臭さのある場所というのが、とても貴重で、懐かしい感じがして、実はちょっとうっとおしいなーと思うかもしれないけれど、飛び込んでみたらすごく暖かな世界であるということが分かるんだろう。いい話だった。ほっこり、うるる。

集英社文庫 2001

浅田次郎 – プリズンホテル【1】夏

たまに読みたくなる浅田さんの本。いままで読んだものもいろんな方向で、まだ浅田さんの感じというのが掴めてないのだけれど、今回目にとまったのは4冊シリーズになっているこの「プリズンホテル」。監獄ホテル?なんだろうとおもって見た裏面の紹介みて、これはおもしろそうだぞと4冊とも入手。その1冊目。

本人はそんな意志がなかったのに極道小説で売れっ子になってしまった、かなり性格に難がある(一応物語全体での主人公というか、狂言回し的立場の)小説家・木戸孝之介。メリヤス衣料の職人だった父の七回忌に現れたたった一人の叔父であり、関東桜会という組織の五人衆のひとり、ヤクザである仲蔵。その叔父が実は温泉リゾートホテルを経営しているという。最初はうさん臭がる孝之介であったが、高齢な叔父のことを考えるとそのままそっくり相続してしまえるな、など浅はかに考えホテルを訪れたことから騒動は始まる。叔父が経営するその「奥湯元あじさいホテル」、実は別名「プリズンホテル」と呼ばれ、その筋の方々(つまり任侠団体)専用のホテルだったのだ(普通の人も来るにはくるのだが)。

ホテルの支配人はホテルマンを絵に描いたような男だが、番頭以下従業員は強面の男ばかりで、仲居は外国人ばかり。先代から居続ける頑固な板前がいるとおもえば、名門ホテルが喉から手が出るほどほしがる腕利きのシェフもいる。

そんなホテルに迷い込むようにやってきた訳ありの子連れの夫婦。定年退職してその足でやってきた老夫婦。謎の旅の男。そして作家・孝之介とその連れ清子。さて、どんな騒動が巻き起こるのか?

とにかくでてくる登場人物(どちらかといえばホテルのひとたち)がどの人も、クセがあるけれどかっこいい。見てくれの姿ということではなくて、その生き方が。きっと普通の世界では苦労してしまうだろうけれど、こういうある意味狭い特殊な世界(あとがきで浅田さんは’マイナーな世界’と表現してる)では真っ当にチカラが発揮されて、不器用だけれどまっすぐな心意気が伝わってくる。暴力団とかヤクザとか書くとどうしても荒っぽいイメージしかできないけれど、任侠はちょっと違うよう。もっと筋が通っていて、男気あって、情が深い感じ。そんなところがちゃんと描かれていて(というかそこがメインなのかもだが)、まるで、子供の頃に近所に一人はいた口うるさかったり、すぐゲンコをくれるような怖いおっちゃんが、実はちゃんと見ていて、どうしようもなくなったら優しく助けてくれる、あんな感じ。

さて訳ありの子供連れ夫婦、老夫婦、かれらがこのホテルでの2泊3日、そして仲蔵という人物によりどうなっていくのか。孝之介と仲蔵はどうなるのか。それは読んでのお楽しみ。わりとこまかく章わけされていて、そこについてるタイトル(本文の中から抜粋してる)も粋でいい。

こんなホテルがあったら行ってみたいかと聞かれれば迷うけど、覗いては、みたいかも。。。

集英社文庫 2001

夕映え天使 – 浅田次郎

浅田さんの本は重松さんの物語たちよりより切ないというかもう少しハードボイルドというか、うまく言葉で書けないけれどなんだかもう少し客観的とか俯瞰的に物語を見ているような感じがする。主人公たちに同化するというよりも、間近から見ているという感じ。なのでこちらのほうがよりドラマチックでものすごいこと起こったりもするのだけれど、なんだか冷静に眺めていられる、とか、そんな気がする。

表題である詳しく事情を知らないが一時居候していた女性を描いた「夕映え天使」、子供の別れの言葉が切ない「切符」、のどかな男の退職風景かと思えば恐ろしくSFだった「特別な一日」、寂しい北の漁師町で男達が出会う「琥珀」、夢の中の少し残酷なおとぎ話のような感じがする「丘の上の白い家」、そして作者自身の経験も含んで描かれたのか「樹海の人」。全6短編ともぜんぜんタッチも素材も違っていて面白く、一気に読んでしまった。

特に好きだったのは「特別な一日」。そういえば会社を退職したときってこんな感じの気持ちがしたよなぁとか思い出す。そんな男の悲哀の話かと思ってたら、一転して「え?」的な展開になって、やがてなるほどそういうことねと納得させられる話の進みようが非常におもしろかった。ちょっと伊坂さんの本思い出すなあ。あと、「切符」はやたらと国鉄のガードとかあの固い厚紙の切符を思い出させたし、「琥珀」は先日のNHKの朝ドラ「あまちゃん」のベンさんを思い出させた。そう、なんだか浅田さんの物語はなにか想い出をくすぐるものがある。そこに惹かれるのかな。

あとがきを読んで浅田さんがすごく面白いというか変わった経歴の持ち主とだということを初めて知った。敬愛する作家の謎を追って自衛隊に入隊したそう。なので最後の「樹海の人」はほんと本人の体験談なんじゃないかなと思ってしまう。子供の頃は裕福な家庭に育ったそうだけれど、両親が失踪したり、また母が引き取りにきたり、自衛隊退官後後も会社を興しては倒産させてしまったりもしていたそう。そういった人生の層というか浮沈というかが浅田さんの描く物語の世界観につながってるのは間違いないと思うけれど、しかしいろんな世界をみてきたんだろうな。想像できない。だから本をこうやって読ませてもらえる。いい物語を。

新潮文庫 2011

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