久しぶりに荻原さん。といってもあんまり読んだことないけど。社長と社員2名にバイト1名のすごく小さな広告代理店。そこで働く杉山。彼はアル中でバツイチになってしまってやさぐれていた。娘の早苗が遊びに来てくれると嫌がりながらも嬉しい。そんな広告代理店に大きな仕事が舞い込んだ。ほいほいとクライアントの元にいくと、そこはヤクザの事務所だった。このご時世ヤクザもイメージ戦略をしたいとCI(コーポレートアイデンティティ)戦略を頼んできた。こんな強面の人たちに囲まれて、仕事は成功するのか?
ハードボイルドにもできそうだけれど萩原さんが手がけるとユーモラスなお話になる。もちろん本当のところは怖いんだろうけれど、組員たちもクローズアップされると少しずつその顔がみえてくる。中間管理職だったり、やっぱり人の親だったり。まあ実際本当に怖く感じるようには描かないとは思うけれど、こんなにユーモラスにできるんだなーと。出てくるクセのあるひと、アクのある人もどこか好きになってしまう。
そして、その仕事の行方や会社の尊像とともに描かれるのが杉山の再生の物語で、離婚してしまったけれど、たまに会う娘が家に泊まりにきたり、アルコールをやめてみたり、走ってみたり。元妻のことを考えるようになったり。過去を振り返り、自分を見つめ直して、できる範囲で再び歩き始める様子が、大々的に感動的に描くわけじゃないけれど、すんと胸にしみてくる。いいお話でした。
登場人物というか、この広告会社が舞台の別の(前の)作品があるそうなので、それも読みたいな。
集英社文庫 2003