恩田陸 – 光の帝国(常野物語)

hikarinoteikoku

恩田さんはずいぶん前に「ライオンハート」を読んだことがあるだけで、とても久しぶりだったのだけれど、この「光の帝国」はすごく読みたかった本だった。以前誰かがとても面白いといっていたのを聞いたので。

ぼくは結構本の世界に没頭できるタイプで、読み始めるとすぐにその物語がまるで映像のように(実際に見えているわけではないけれど、現実世界とはちがう物語の世界が見えているかのような感じがする)感じられることがままある。そうなるともう文字を読んでいるという感覚はなくて、ページをめくった瞬間からその世界にいるような感じになってしまう。

この本は読み始めからいきなりその感じだった。架空のお話であまり細かいディテールがなくて、それでもある特定の雰囲気の世界観があるから、もともともっているイメージと重なりやすかったからかもしれない。

常野という場所から来たと言われる不思議な能力をもった一族のお話。能力は人によりいろいろあるが、遠くのことが見えたり、聞こえたり、早く移動できたり、先のことがわかったり、いわゆる超能力という類のものだけれど、SFぽい感じではなく、もうすこしおとぎ話の中ででてくるような少し変わった人たち。いろんな時代で彼らの能力が生かされたり、そのために迫害されたり、戦いになったり。でも彼らは基本的に穏やかであり、知的で、権力を持たず、群れず、常に在野にありつづけるという精神をもっている。

この本は10の短編から構成されているけれど、あとがきで恩田さん自身が書いているように、”いろんな人物を出したがために、いちいち違う話にせねばならなくなり、もっている札を全部出した”そうで、どの短編も違う顔をしていて面白い。どれもがその話からもっと先の広い世界へと広がっていきそうなものばかりで、いちいち続き読ませてほしいなと思ってしまう。でもそのバラバラの話をやがてうまくまとめているあたりはさすがだなあと。

ごく個人的な乾燥だけど、最後の短編で音楽にまつわるエピソードがいろいろでてくるけれど、かなり考えさせられてしまう内容だった。音楽のありようというか、自分の音楽への関わりようというか。うーん。恩田さんどんなことを知っているんだろう。

集英社文庫 2000

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恩田陸 – ライオンハート

「いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ・・・」

時空間を超えて出会う男女の物語。簡単なタイムスリップものではなく、そのときによりその男女は違う年齢、シチュエーションで出会う。いつどういう形で出会うかはわからないけれど、出会った瞬間にその相手だとわかり、その出会う日を待ちこがれる2人。しかし彼らは決して結ばれることはない・・・・

SFと壮大な出会いの物語を巧くマッチさせた作品だと思う。解説によると恩田さんが好きな(影響うけた)結構たくさんの作品のオマージュなどもあるようだが、読んでないのでわからない。物語が時間、空間を超え、主人公2人も違う人間として現れるので、読んでいるこちらもたくさんの物語がどう結びついていくのか、最後までわからない。しかしこの2人の幸せな気持ちはずんずん伝わってくる。

すごくすてきなことに、この物語は5つの章から成り立っているのだけれど、各章のタイトルが実際にある絵画のタイトルと同じものになっており(各章に扉絵として掲載されている)、それぞれがその絵から(ヒントを得たのか、5枚の絵を持ってしてこの物語がうまれたのか、はたまた物語がこれらの絵を呼んだのか)関係する、もしくはその絵に描かれているシチュエーションを用いて、または連想される世界観を織り込んで描かれている。そのイメージがまた素晴らしい。絵から物語や音楽が生まれることはままあるけれど、複数の絵が複数の物語を生んで、それらが繋がっているなんていう状態を、しかもここまで完璧に描き上げた恩田さんはほんとすごいなと思う。

こんな出会いができる人ってうらやましいな。真実はそこにあるのかもしれない。一度読んだだけでは大筋は理解できるけれど、深く物語を読み解いていない気がする。何度か読みたい作品。

タイトルのライオンハートはケイト・ブッシュの曲からとったそう。

新潮文庫 2004