という書き出しでもうノックアウト。名著には印象的な書き出しで始まる物語が多いというけれど、これほど非現実的なのにとてもロマンチック/メルヘンに満ちた書き出しもなかなかないなーと。また、「くま」とひらがなで表記するあたりもとても素敵。この書き出しがダメなひとはたぶん最後まで読んでも「?」て感じかもしれない。あとがきで書かれているように、この本に収められている物語たちは、川上さんの夢/空想/無意識のお話なんだろう。
収められた9つの短編は、主人公(なんだろな)わたしのある春先から次の春先までにおこる小さな出来事たちを記したもの。どのお話にもなにか不思議な人や生物が登場する。くま、なにか白い毛のはえたもの、亡くなった叔父、カッパ、壷に住んでる女の子、などなど。どれも捉えどころのない霞のような感じ。でも確かにそこに存在するような。不思議で魅力的。これらがお話を楽しくしてくれる。
個人的には壷に住んでるコスミスミコが楽しい。あんな子が年末の忙しいときに「いそがし~んですかぁ」なんてのんびりなテンポでしゃべってたら、なんかなにもかもがあほらしくなりそうで楽しい(笑)。また人魚が実にコワい。
とにかく、大事に読みたくなる本。
中公文庫 2001