乃南アサ – 氷雨心中

表面上はするっとした物語だけれども、最後にギクっとするような怖い終わり方をする短編6つ。どれもが人間のドロドロっとしたところを表していてコワイ。

家業である線香屋の秘密が怖い「青い手」、男が変わる度に着物を染め直す女と着物屋の人間模様「鈍色の春」、表題にもなっている造り酒屋の時代を越えた愛憎物語「氷雨心中」、ジュエリーデザイナーを夢見る歯科技工師の甘い思いが壊れるとき「こころとかして」、能面に自分のすべてを賭ける舞踊家と能面作家のふれあい「泥眼」、そして提灯屋の妻の密かな思いが突き刺さる「おし津提灯」。どれも秀逸。

怖いけれど、どの話も日本の美しい事柄が描かれていて素敵。それらが美しいから、人間の気持ちの恐ろしささえ美しく感じてしまう。日本てこういう国、人柄だよな。

一番好きなのは「泥眼」。泥眼とは能で用いられる、女の生霊を表すといわれる面。自分の納得のいく面を追い求める女流舞踊家が求める泥眼とは何かということを通して、面打師は彼女の思い、生き方、そして女の人生への諦観、それらを垣間見る。そこに同じような立場である自分を少し重ねて考えてみてしまったりする。少しわかる。分かりたくないけれど、そうなりたくないけれど、すこし近いところにいる自分をみつけて、こわくなってしまう。

幻冬舎文庫 1999

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