川上弘美 – 物語が、始まる


「神様」のときに衝撃を受けた川上さんだけれど、さてこの本はどうかなーと読み出したら、これまたいきなり「雛形を手に入れた。何の雛形かというと、いろいろ言い方はあるが、簡単に言ってしまえば、男の雛形である」から始まる、また「?」な展開。突飛やなぁ、突飛すぎる!

このひとの物語たちはどれも恐ろしく突飛なところから突然出てきて、そのままのテンションというか密度で話が進み、読者が嚥下するより速いスピードで繰り出されて、しかもさらに濃密になってゆく、、、というようにスピード感満載というよりは、怖い話がテンポ速くエンドレスに続く、みたいな感じの進み方するように読める。なので話を理解するというか感触を掴むのに苦労するのにそれより先に話を進められてしかも怖い、みたいな。一体どういう頭の構造してるんやろ。

というか、きっと物語が発想されて、そこから煮詰めて煮詰めて、ドロドロのイメージが出来上がったそのままの温度で全部言葉に一気にしてしまっている感じ。だからダレるところがなく、突っ走っていくような。この本はそんな感じだった。

その男の雛形を拾って、それと一緒に生活し(しかも男として成長する)なんか同棲のような生活になる表題作「物語が、始まる」、小さな幸運のトカゲをもらったことから生活が狂っていく「トカゲ」、閉じた空間から手招きするおばあさん「婆」、ある日突然自分のルーツである先祖の墓を探したくなる「墓を探す」。これら4編とも全然味が違う。でも共通して何か切羽詰った怖さ、ひたひたと角の向こうからやってくる恐怖、暗くて湿度の高くて、みたいなものを感じる。

とにかくなんか濃い。苦い練乳のよう。

中公文庫 1999

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