浅田次郎 – 椿山課長の7日間

浅田さんってこんなに面白いのかー!と思えた作品。主人公椿山は仕事中に倒れてそのまま死んでしまったのだが、あまりにも現世に残した悔いや心配事があるので、天国にいく手前にある罪を悔い改めるお役所のようなところ(SAC=スピリッツ・アライバル・センター)にて申し立てをして現世に初七日までの7日間だけ戻ってくるというお話。ああ、なんて面白い設定!

少し長編でその厚みとともに読み応えもある作品。その設定もさることながら、死んでから蘇るまでの流れが現代社会(とくにお役所関連)の風刺のようで(免許の更新センターを思い出す人はたくさんいるはずだ)、すこしとぼけた書き方をしているのも愉快。またキーとなる3人の死者たちと彼らが思いを残す生きている人たち、それらがそれぞれ少しずつ重なり合ってやがて見事な大団円へと向かう筋立ても見事。最近伊坂さんのどちらかといえばクールでスマート、スピードのある展開とオチへのもっていきかたばかりに目を奪われていたが、いやいやこの作品のようなゆるやかだけれど確実に安心して進んでいく、言っちゃえばアナログ的な展開、そしてまさに大団円!というような話のもっていきかた、これもやはりとてもいいなぁと思ってしまう。飛行機と船の違い、のような感じかな。

もちろんおもしろいお話でそれだけで十分だけれど、ここに描かれる人情、死んだ人間とその人を喪った人間、両者が感じるお互いへの思い、もう会えないと分かったからこそ明らかになる感情、そんな普通は主観的にしか見られない/感じられないことごと(人と死に別れるというのはごく個人的な出来事とおもう)を、こういう風に描いてもらえば、ああ、自分もあの時はああいう感情もったよな、とか、逆の場合こんな風に思われるのかな、とかとか客観的に振り返ることができる。

もしかして、ちょっと語弊というか誤解が生じるかもしれないけれど、少し前に近しい方を亡くされたりした人が読むとすこし気が安らぐかもしれない。亡くなった人もこんな風に生きている(いや、生きているわけじゃないけれど)と思えたら寂しくないかも。

余談だけれど、この主人公たちが生き返ったときに違う人間として生き返り、本来の自分とのギャップに苦しむってくだりが非常に面白いのだけれど、特に椿山氏のように女性として生まれ変わって、初めて女性の心理や体のことが腑に落ちるシーン、面白いなぁ。よくこんなこと想像したなーと脱帽(笑)。

朝日文庫 2005

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