- 2014-01-06 (月) 20:37
- 本
すごくぼくが思っているイメージの辻さんぽい作品だなと感じた。すこし鋭角で、すこし冷たい感じがするけれど、その奥に狂おしい感情を隠している感じ。作品の構成もすごく細かく章にわかれていて(短いところは1行だけってのもあった)、それがまた場面を変えるというかうまい区切りになっていてすごい。
同じ音楽制作会社で働いていたナオトとナナ。二人は恋に落ちて結婚したいと考えるが社内結婚は禁止という掟があって、片方がやめざるを得なくなった。ナナは新進気鋭のプロデューサーであり、辣腕でミリオンヒットをつぎつぎ飛ばすヒットメーカーで会社の稼ぎ頭となっていた。そのためナオトは以前からやりたかったという作家業に転職するのだが。
ヒットのためにはいかにヒットする音楽を作り上げるかということに情熱を燃やすナナとぜんぜん筆が進まないナオト。一緒に暮らすもののすれ違いの生活、お互いの仕事への干渉を薄くするにつれ少なくなる会話。情熱を燃やした結婚というものも一体どうしたらよいのかわからなくなっていく2人。そしてナナの前に現れる大人の男。。。。
歩み寄るためには「愛」あればいいのに、お互い自分の仕事への「プライド」や相手のために思いやっていると思っている「プライド」そんなものが邪魔をして気持ちと行動がちぐはぐになる感じ、誰しも少しは経験あることだろうから、すごくダイレクトに響いてくる。
読み進むにつれて分かってくるのだけれど(まだどっちがどっちか判別できてないけれど)、途中ぐらいからナオトまたはナナの本編のストーリー以外にナオトやナナという名前の主人公(とくにナオトがおおいんだと思うんだけど)でナオトが書く小説が混じってくる。なので(この本の物語上で)どちらがリアルでどちらがフィクションなのかがわからなくなってくるのだが、それでも何か両方に通じるもの/空気感があって、読んでいてどちらがどちらなのか混沌として行く感じがおもしろく感じられた。実際どっちがどっちかわかってないんだけれど。でも最後はすとんと上手く落としている(てのがどっちかも、判別しにくいんだけれど、それはそれでいいのかも)
特に音楽業界の描きかたはさすがその業界にいる辻さんだからできることとほんと感心。そして数字か内容か、なにが大事なのか、問題提起してくる。「売れなくてもいいと思って歌っているのなら、自主制作で十分でしょ?少なくともこの世界ではそういう理想は通用しません」ナナはこういう。(とくにメジャーと呼ばれるような業界では)そのとおりだけれど、そうだけであってほしくないというのが希望だけれど、どんどんそうでなくなっていってるのは何も制作側だけが悪いのではない、と思う。
幻冬社文庫 1998
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