いしいしんじ – 東京夜話

tokyoyawa

もともとは「とーきょー いしい あるき」というタイトルで出版されたいしいさんデビュー当時の短編集。もしかしてほとんどが東京在住時のいしいさんの実体験と東京のあちこちの街から感じたインスピレーションで形作られてるんじゃないかと思うのだけれど、全部が全部ぜんぜんばらばらでとても面白い。ここに描かれる作品の切り口や語り口や、話のパターン、もうてんでばらばらなのだけれど、でもそこには”いししさん”という作家というか人間のキャラクターが横たわっていて、どの短編読んでもいしいさんだなーと思える。僕自身も普段やってる演奏はジャンルとかスタイルがばらばらだけれどよく聞いてみれば(うまくいってるのかな?)僕自身はずっと変わらない感じで一緒になってる(と思ってる)同じようなことなのかもしれない。

ちょっと不思議なSFぽいともいえる「真夜中の生ゴミ(下北沢)」「ベガ星人はアップルパイが得意なの(原宿)」「そこにいるの?(大久保)」「アメーバ横丁の女(上野・アメ横)」とか、いしいさんの体験のレポートみたいな「クリスマス追跡(渋谷)」「うつぼかずらの夜(田町)」「天使はジェット気流に乗って(新宿ゴールデン街)」「吾妻橋の下、イヌは流れる(浅草)」とか、もう想像力の賜物みたいな「クロマグロとシロザケ(築地)」「お面法廷(霞ヶ関)」「二月二十日 産卵(東京湾)」とかとか、もっとあるんだけど、様々も様々。どれも違うのでページをめくる食べ違う作家さんに出会うようでおもしろい。あと、話をまたがって登場する(たぶん同じであろう)シチュエーションや犬がいたりも楽しいところ。

個人的には浅草のと田町のが好きかなあ。前後して鬼海さんの写真集みてたりしたからかな。もともと浅草は好きなところだし、田町はちょっと思い出あるところってのもあるのかも。あと池袋が登場人物としてでてくるってのも面白いなあ。

あと主人公ぽい人が(まあ本人なのだろうけど)大阪弁なのも面白い。で、字で書いているのに大阪弁にちゃんと読めるのがおもしろい。関西弁しゃべらない人が書くとなんか違う感じがする(テンポ感の問題のような気がする)んだけど、いしいさんはさすが大阪の人なので、書いてある字も大阪弁のイントネーションで読めてしまうのが不思議。

これらの短編の延長に、いままでいろいろ読んできたいしいさんの作品があるんだろうなあ。物語的なものはだいぶ柔らかいというか少しまろやかなオブラートにつつまれた世界観になってる感じがするけれど、こういうトンがった感じがするのもいいな。いしいさんの別の面(というか物語的な作品にももちろん内包されているんだろうけど)を見た気がした。なのでまた同じ作品読んでも感触かわるかも。

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4/19 MITCH ALL STARS 泉の森ホール公演キャンセルのお知らせ

【公演中止のお知らせ】
みなさま、こんばんは。4/19のお昼に予定しておりました泉の森ホールでのMITCH ALL STARSの公演は、昨今のコロナウイルスの感染拡大の状況を鑑み、中止(無期延期)となりました。

ご予約いただいていた皆さま、来場を予定してくださっていた皆さま申し訳ありません!万全の体勢で、必ずや第10回お届けしますので、どうぞ、先の楽しみにしておいて下さい。

4/12 夛左ヱ門でのライブのキャンセルのお知らせ

【公演キャンセルのお知らせ】
4/12に予定しておりました、丹波篠山市の夛左ヱ門での石崎道男5のライブは、コロナウイルス感染拡大の状況を鑑みてキャンセルさせていただくことになりました。楽しみにして下さっていたみなさま、申し訳ございません。

なお、夛左ヱ門でのライブは延期になる予定ですが、メンバーはまだ未定とのことです。

山本幸久 – ある日、アヒルバス

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久しぶりに山本さん。名古屋への往復電車で読み終えちゃった。やっぱり山本さんの作品はいいなあ。心がキュンとする。甘酸っぱいけれど照れくさくなくて、そして登場人物たちを素直に好きになれる。、朗らかな気持ちにさせるお話ばかり。

春先から初夏までの東京が舞台。東京の街をめぐる観光ツアーを企画するバス会社「アヒルバス」。5年目になるバスガイド高松秀子(通称デコ)は頼りにしていた先輩が会社を去り、同期も2人だけになってしまい、ついでに新人の研修まで任されるはめに。鉄鋼母さんとあだ名される大先輩にしごかれながら、まだまだ半人前だと思っている彼女の泣き笑い、奮闘の日々。

東京の魅力を伝えるべく企画されたツアーには老若男女いろんな人がやってくる。彼らに翻弄されながらも忙しい日々を過ごす。地方から嫁探しにきたらしい男たち、学生時代からつづく女友達の老女たち。やたらダンディーなおじさん、カップル、お一人様の女の子。彼らはそれぞれにバスツアーを楽しむ。そんな中デコは東京出身(でも八王子)ながら、自分でも東京の魅力をわからずにいる部分も。

単純な成長の物語でも、ドラマチックでも、大きな成功の話でもなく、日常の少し延長、もしかしたら隣にいるような人の人生を垣間見てるような気にさせてくれる山本さんの作品は、すごくわかりやすくて単純なお話と一言でいえない魅力がとてもある。なんだろうこの共感できる具合は。憧れとかそんな感じじゃなく、読者と同じ目線で、まるで読者の経験にもあることのように描くからかなあ。いつもホッとしてホロリとされる。

ちょうど春先のお話だったので、車窓から見える桜と相まって、懐かしい、胸が少し熱くそして寂しくなる感じがした。いいお話。つづきもあるみたいなのでいつか読みたい。小路さんの解説もとてもいい。

実業之日本社文庫 2010

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YY’s Especial公演キャンセルのお知らせ

みなさんこんにちは。4/2に予定しておりました靱公園ショビシュバでのベーシスト山田さん率いるYY’s Especailのライブですが、昨今のコロナウイルス感染拡大の状況を鑑みてキャンセルさせて頂くことになりました。

来場を予定されていたり、楽しみにしてくださっていたみなさま、申し訳ありません。状況がよくなったらやりたいとおもいますので、その時はまたよろしくお願いします。

大前チズル4+TeN Youtubuに

先日3/22に川西wedgeにて無観客ライブを行い配信した大前さんのChizuru Ohmae A Piece of JAZZ quartet with TeN、当日はFacebook内だけの配信となってしまいましたが、Youtubeの方にも再アップしましたので、これでアカウント持たないみなさんにも見ていただけることになりました。

とてもいいライブですし、wedgeやスタッフのみなさんのおかげでとてもいい音と映像とライブとなりました。いいライブだったと思います。お時間ありましたら、ぜひご覧になってくだいさいね!

【配信】大前チズル4+Ten

3/22に川西のwedgeでライブを行う予定だったChizuru Ohmae A Piece of JAZZ quartet with TeNですが、お知らせしました通りライブはキャンセルすることになってしまいましたが、無観客ライブとして配信を行うことになりました。

配信はYoutubeおよびFacebook内で行います。

Youtube Live
https://www.youtube.com/channel/UCHnrX7_09HrBP_33EhmVtyw

Facebook
https://www.facebook.com/nousugi

両方ともボーカリストTeNさんチャンネルおよびページになります。Facebookは登録している人しか覗けないかと思いますが、Youtubeはどなたでもご覧になれると思います。時間は15時から1時間ほどの予定です。日曜のお昼間お時間ありましたらご覧いただけると嬉しいです。

また配信されたものはある程度アーカイブとして残る予定ですので。配信時間にご覧になれなくともまた後からご覧いただけると思います。

余談ですが、まだこれは決めてなくて当日決めようと思っていますが、個人的に別の画角でのライブ配信(同時中継とでもいいますか)をやろうかなーと思っています。自分の手元だけ、とか、配信ではフューチャーされない見え方も面白いかなーとも思いますので。まあこちらは回線の状況など余裕があれば、やってみるつもりです。

鬼海弘雄 – ぺるそな

persona

いしいさんのごはん日記で(三崎日記だったか?)で、すごく素敵な写真集が出たと書いていた写真集の普及版。写真家・鬼海さんが1973年から2003年まで、東京は浅草の浅草寺の境内のほぼ同じところで撮影した人物の写真集。いしいさんが素敵という写真集ってどんなもんなんだろうと思って手に取って見たもの。こいうとこミーハーというのか、影響されやすいというのか^^; でもこういう風に数珠繋ぎ的に新しい本に出会っていくという行為は冒険のようで面白いと思う。

鬼海さんが構えるカメラの前に立つ浅草寺を訪れたのであろう人物たちが単にモノクロの写真に収まっているだけなのだが、きっと撮影の時に交わした一言二言から添えられたキャプション(「寡黙な人」だの。「万歩計をつけた、真っ赤なネクタイの人」だの、「パワーシャベルの操縦者」だの)と、その写真にうつる人の姿から、じわりじわりとその人となりが浮かび上がって物語が聞こえるような気がする。中には数年経って(長いと15年とか)同じ人物を撮影しているものもあって、その人の上に流れた時間を感じることができる。

何でもない(というと失礼なのかもだけど)市井のひとたちの、しかも決定的瞬間ってわけでも、写真的なドラマがあるわけでもなく、ただただ立っているだけの姿なのに、この説得力はなんなんだろう?もしかすると鬼海さんのすごい嗅覚によって選びに選ばれた人たちなのかもしれないけれど、やっぱりどんな人にも同じ時間の分だけの物語があるってことなのだろうか?それほど写真から、その人となり(それが単に想像の代物だったとしても)が見えてくるのが面白く、何度でもページをめくりたくなる。モノクロで、背景もほとんど同じというために、より一層人物が浮かび上がって見えるのかもしれない。

あと70年代や80年代、90年代と移るにしたがって服装もだけれど、人々の中身(?)が垢抜けて言ってるように見えるのも面白い。70年代の写真なんてモノクロだからかもしれないけど昭和初期にも見えたりする。それと2000年代になると写真の質が違ってみえるのは、もしかしてデジタルカメラになったのかな?

写真を通して鬼海さんというひとの匂いが伝わってくるよう。音楽もそうだけど、こうやって作品からそういうものが見えてくるのはとても興味深いこと。とてもいい、そして面白い写真集だとおもった。ぺるそなシリーズはまだ続きがあるらしいので、そちらもいづれ眺めてみたいな。

あと、この普及版には鬼海さん本人のエッセイがあとがきも含めて5編収録されていて、これもまた鬼海さんの人が垣間見えるような文章でいいなーと思った。

草思社 2005

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大前チズル4+Ten公演中止および配信のお知らせ

3/22に予定しております川西wedgeでのChizuru Ohmae A Piece of JAZZ quartet with TeNですが、コロナウイルス感染の拡大の影響をうけ無観客ライブを配信するということになりました。お越しいただく予定をしてくださっていた皆さま、申し訳ありません。

まだ詳細は決定しておりませんが、配信は15:00からの予定です。日曜の午後、お時間ありましたらご覧いただけると嬉しいです。また詳細決まりましたらお知らせします。

Chizuru Ohmae A Piece of JAZZ quartet with TeN
大前チズル(P)、武井努(Sax)、中島教秀(B)、清水勇博(Ds)、TeN(vo)

20200322-1

伊坂幸太郎 – ガソリン生活

gasoline

コロナウイルスによるキャンセルの投稿ばっかりになって、めげてしまいそうなので、サボっていたレビューを。この作品、実はだいぶ前に読んでいたのだけれど、レビュー書かずに置いたままになってて、時間も経ったのでもう一回読んでみた。いやーーー、最初に読んだ時も面白いと思ったけれど、もっと面白く感じられた。やっぱり伊坂さんの作品は、緻密で、ユーモアに溢れている。そのおかげで実はかなり怖いこと書いてあっても(実際に現代社会のそこかしこにある闇)、そこまで怖く感じられないのがいい。

さて、この話はタイトルにあるように、ガソリンで生活するものが主人公。それは緑のデミオ。つまり車。でも例えばアニメのカーズのように車が自分で行動して大冒険!みたいなメルヘンチックなものじゃなくて、車は所詮車で、人間に運転してもらわないと動けないし(もちろん自分の意思で行きたいところに行くってこともない)、人間とコミュニケーションできるわけでもない。でも車はみんな人格(車格とでもいうのか?w)を持っていて、車同士はその排気ガスが届く範囲では会話ができる。自家用車はたいがい自分の所有者のことが好きで、働く車は一目置かれやすく、タクシーはおしゃべりが多い。そして車輪が多い方が偉いと思われてて車はみんな貨物列車に畏怖の念を抱いている。そして彼らが一番恐れるのは廃車w。車検が近づくと落ち着かない気分になるそうw また同じタイヤを持つものでも、バイクや自転車のような2輪は少しバカなのか(車が言うところによると)会話は成り立たない(「※★Φ!」とか言うw)。でもデミオはいつか会話できるかもといつも声をかけたりする。

というような、設定がほんとに面白い。本当に驚いたら「思わずワイパーが動くような」気持ちになったり、憎いやつは「ボンネットで挟んでやりたく」なったり、悲しくなったら「マフラーから水滴が落ちる」ような気分になる、などなど、きっと伊坂さん車になりきって思いっきり想像したんだろうなー的な描写がたくさんで、これまた楽しい。

その緑のデミオの所有者は望月さんで、夫に先立たれた妻と子供3人の家庭。名前そのまんまの弟言うところのベリーグッドマンである長男・良夫。思春期に入って何かと反抗がちな長女・まどか。そして望月家でいちばん聡明で子供とは思えない10歳の次男・亨。ある日良夫と亨が車で出かけていた先で停車していると、乗り込んできた女性がいた。それは誰もが知る元女優・荒木翠だった。彼女は追われているらしい。ある人と合流するのだという彼女の言われるがまま送り届けて別れるが、次の日彼女が事故死したというニュースが。荒木を車に載せたことや、そのあとの急死を巡って新聞記者などと繋がるうちに、望月家はやっかいなものごとに巻き込まれて行く。。。

結局は傍観しかできない車たちが(物語は彼らを通して語られる)どう感じ、何を話し、そして望月家のみんなはどうなるのか?ハラハラドキドキするし、ものすごい怖い話もさらっと語られるけれど、伊坂さんのユーモアとめくるめく展開にすべては見事に昇華される。ああ、素敵、面白い!そして物語のエピローグが素敵すぎる。もし本当に車たちがこうやって会話してたらと想像するだけで本当に楽しいし、愛おしくなる。運転はきちんと、アクセルとブレーキは優しく。

しかしほんと読めば読むほど、伊坂さんの作品はちょっとしたことも無駄なく繋がって一つの物語を紡ぐように書かれている。ほんのちらっとでたことが後に大きなポイントになったり、ほんとに緻密だなーと思う。もしかしたら伊坂さんが作曲家になってても、すごく緻密な曲かけるんじゃないかーと思ってしまう。仙台でうろうろしてるときに、ふっと出会ったりしないかなあ、密かにいつかそういう機会ないかなーと楽しみにしてるのです。

p.s.
緑のデミオの所有者望月さんちの隣の細見さんちには古いカローラ、通称ザッパがいる(細見さんがフランクザッパが大好きだからw)。伊坂さんの作品は必ずといっていいほど音楽ネタがでてくるけど、今回はこのザッパの語るフランクザッパの名言たち。

「人間のやることの99パーセントは失敗なんだ。だから、何も恥ずかしがることはない。失敗するのが普通なんだからな。」

「一部の科学者は宇宙を構成する基礎単位は水素だと主張するが、それには賛成できない。水素はあちこちに存在しているから、というのなら、水素より数多く転がっているものは愚かさだ。愚かさが、宇宙の基礎単位だ」

他にもいくつか出てくるけれど、ほぼ聞いたことないフランクザッパに急に興味が湧いてきた。

p.s.2
ちなみにこの文庫本版には、気づきにくいけど、カバーの裏に「掌編小説」と銘打って短いエピソードが描かれている。これがまた素敵で、こんなことやってみても楽しいだろうなーって思ったりも。ほんと伊坂さんありがとう。

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