重松清 – 口笛吹いて


相変わらず重松さんの描く文章はやさしい。とくにこの本におさめられている物語は弱きものに優しい。何かでつまずいたり、時代についていけなかったり、正直だけど不器用な人たちが必死に生きる姿を暖かく見守る感じ。

幼い頃近所にいた野球のヒーローと再会する「口笛吹いて」、全く生徒に感心を示さず淡々と授業をする毎日の教師を描く「タンタン」、リストラにあった父親を負け組だと決めつける息子「かたつむり疾走」、臨時代理教師の苦悩「春になれば」、嫁子どもが出て行き途方にくれる男の家に不思議な老人が遊びにやってくる「グッド・ラック」。どの物語も小品だけれど、なにか心をくすぐられる。というのはやっぱり歳を食ったからなんだろうか。ちょうどこの本が書かれたころ重松さんも同じ歳ぐらいだった。

中年の苦悩と諦観と少しの希望・夢。うーん。哀しくもまだ捨てられない。

文春文庫 2004

有川浩 – シアター!


子どもの頃ちょっとだけ引っ込み思案だったおかげでいじめられ、兄だけが遊び相手だったという巧は父の才能を受け継いだの話を作るのがうまく、やがて演劇にのめりこみ劇作家として劇団を主宰するまでになる。が、ファンが多いとはいえ彼が主催する劇団「シアターフラッグ」は多くの小劇団と同じように貧乏劇団。しかも劇団の方針を変えようとしたことから劇団員が激減、おまけにずっと見えていなかった負債が300万もあることが判明。

そんな危機的状況で巧が泣きついたのは兄・司。会社員として普通に働く司から見れば劇団の経営はずさん極まるものだった。そこで兄が負債を肩代わりするために出した条件、それは「2年間で劇団の収益のみでこの金を返せ」だった。

ふとしたきっかけで見に行った劇団から着想してこの物語を書いたという有川さん。相変わらずアンテナが広いというか、敏感。この物語をいろいろつくりあげる弟・巧の感じって有川さんそのものなんじゃないだろうか。小気味いいテンポで軽すぎず重すぎず、でも内容と背景はしっかりあって、ちょっと薄いけどいつもの恋愛要素もあって、と有川さん得意なパターン。でもぜんぜん劇団のことなんか知らなかった人が3ヶ月でこんな劇団よく知ってる人のような感じで物語を作り出せるもんだろうか?ほとほと感心。

読んでいて、以前劇団に参加させてもらったことをいろいろ思い出した、もうずいぶん前だけれど。練習はほんといくらやっても足りないし、何もないところにお客さんに景色を見せようとするといろいろ道具もいるし、それが大掛りになればなるほどいろんなものが必要になって大変になる。でもそんな苦労をしょってまで(結構肉体的にも精神的にもお財布にも厳しいw)しても芝居をしたい人はたくさんいる。でも「貧乏と芝居は3日やったらやめられない」(だったか?)と言われるように、あれは面白い。独特の世界。非日常にすべてを没頭できるということは、本を読んだり、映画をみたり、ゲームにのめり込んだりすることなどよりもっともっと刺激的でかつ現実から乖離できる(夢の世界で遊んでいられる)楽しさを与えてくれるので、やってみたらわかる、癖になるもの、なんだと思う(そう思った。また芝居やりたい!一度でいいから映画でたい!)。

この「シアター!」まだ続きがあるはずだから、はやく読みたい!

2009 メディアワークス文庫

伊坂幸太郎 – オー!ファーザー

割と最近映画化されたようだけれど、もちろん見る気はあんまりない。全然別作品として楽しめるならいいのかもしれないけれど、こうやって本を読んでしまうと、どうしてもそのイメージ(とくに勝手に作り上げたキャラの像など)を守りたくなるので、映像(それがとてもよくできていたとしても)に少しアレルギー反応起こしてしまうことがあるから。とくに日本が舞台になったりすると(いまのところ伊坂作品はほとんど日本ばかりですよね)、もちろん日本人の俳優さんや女優さんが出てくることになるわけだけれど、あまりイメージと合わないのよねぇ。あ、でも「陽気なギャングが〜」はなかなかいい線いってたような気がする。でももっともこれは映像を先見たからかも。

で、この作品。こうやって文庫本として出版されたのは結構最近なのだけれど、作品としては結構古く2006年に新聞に連載されていた作品だそう。なので、刊行された順に読んでいる身としては、「あれ?」と少しなってしまう感じがしたけれど(少し文章の感じが)、相変わらずうまく読ませてくれるのでそんなことは気にならずにずんずん読んでしまった。

ごく普通の高校生である由起夫なのだが、実は人にはいえない普通ではないところがあり、それは「父親が4人いる」ということだった。母親がこの4人と同時に結婚したのだ。もうこの辺でへんてこな設定だけれど、想像したようにこの4人の父というのがうまくキャラの描き分けされていて、野生の勘だけで生きてるタイプ、男らしい力強さを持つタイプ、憎めないぐらい女にモテるタイプ、知性があり冷静沈着に物事を判断できるタイプ。どれも男の子がいつかなりたいとおもうタイプなのかもしれない。主人公はその状況から彼らに素直になじめないのだが、少しずつ(いい意味で)影響され、自分でも知らないうちに全うな人間に成長している。

お話としてはよくあるように、あちこちに張られた伏線が、ある事件のもとにひとつにすっとまとまるという伊坂さんの作品らしいパターンではあるのだけれど、この主人公が成長していってる(ように見える)のがひとつほかの作品と違う感触を得るところか。

個人的にはやはり悟さんの含蓄ある言葉がおもしろいなーと。

2つほど数学の問題(命題?)がでてくるのだけれど、解けない、くやしいw

2013 新潮文庫

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千日紅の恋人 – 帚木蓬生

初めて読む帚木さん、まずお名前読めなかった、はかきぎほうせいさん、だそう。千日紅はかわいらしいちいさな丸い花で、紫やピンクなどいろいろな色があり、長期間咲いている花だそう。

父が遺した、彼が一生懸命に作り上げた安アパート”扇荘”を管理することと、介護施設での仕事をする日々を過ごしている時子。そのアパートには様々な住人が去来する。ずっとすんでいるものもいれば、すぐに出て行くものもいたり。かわった住人もいれば、まじめにコツコツ家賃を支払ういい住人もいる。

代わり映えもしなく、流れて行く、でも悩みのない日々。そこへ有馬という住人が越してくる。彼は古風な好青年で、抜擢された転勤でこの地へやってきて、扇荘にすむことになった。朗らかで、仕事もこなし、時子が手伝う職場にもボランティアでやってきたりする。かれはマメで、アパートの隅にあいていた土地に花壇をつくる。そこに植えられたのは千日紅だった。

今までに不幸な別離を経験してきた時子はそんな有馬を好ましく思うが、いまひとつ踏み込みこともできない。しかし有馬に誘われ母と一緒に鵜飼いを見に行ったり、施設の運動会ではしゃいだり、時子は少しずつ惹かれていく。ついに時子は彼から結婚を申し込まれるが、実は彼は転勤がきまったのだった。父の形見であるアパートと有馬との間で揺れる時子。。。。

男性作家が書く恋愛ものはそんなに読んできてないけれど、この帚木さんの小説はとてもぼくにフィットする(つまり好み)感じがする。ほかの作品も読んでみないとわからないけれど。男性作家特有の強引さ(いい意味でも悪い意味でも)がないし、話を進めるにしても、直接的な描写ではなく、(特にこの作品の場合は女性が主人公だからその視点で)やんわりした描写で無理なく話が景色としてはいってきて、いい読み心地だった。

すごく、すごく大人な恋愛もの。素敵。

新潮文庫 2008

宮部みゆき – 返事はいらない

6編からなる短編集。宮部さんの作品はいつもすこしクールな中に人の暖かさというかやさしさみたいなものが含まれていて、寒々しいことにならなくていい。それがシリアスな作品であっても。短編集ということでひとつひとつのお話はそう長くはないのだけれど、それも骨がある感じがする。

1994年の作品なので、いろいろ時代背景は古く、表題作である「返事はいらない」のキャッシュカードの話なんかは古いしくみ(でもいまでもそんなとこあるかもだが)だし、バブリーな感じのお店がでてきたり、東京がいまの感じとは違うキラキラさ加減で、その中にいるひとたちきらびやかな生活とそれにより浮き彫りになるさみしさ、などなどちょっと前の感じがするけれど、そこに描かれる人間の感じはかわってない。宮部さんぽいかなと。最後の「私はついてない」ってのはあるあるって感じでおもしろかったな。

「返事はいらない」「ドルネシアにようこそ」「言わずにおいて」「聞こえていますか」「裏切らないで」「私はついてない」って、なんかどれも中島みゆきの曲のタイトルみたい。

新潮文庫 1994

小川洋子 – 偶然の祝福

一瞬小川さん自身のエッセイか?と思ってしまうような、連作短編小説。

息子と愛犬アポロと暮らす主人公の私。私の周りでは不思議なことがいろいろ起こる。伯母がびっくりするくらい”きちん”と失踪してみせたり、お手伝いさんをしているキリコさんが実になくしものを取り戻す名人であったり、作家である私の熱烈なファンであるへんな男につきまとわれたり、病気になった愛犬をふと助けてくれる獣医が現れたり。

なにかがなくなったり、欠けたりするとなにかが訪れる。それは幸せというもの、なのだろうか。

形あるようで実体のない、でも嫌な感じではなくて、雲のように軽やかだけど、霧のように冷たい空気がまとわりついてくる、そんな感じがする小説。しっかり景色が目に浮かんで、断片的な物語がまぶたに焼き付くのに、読み終わってみると、それらは軽やかにどこかにいってしまい、きれいに忘れ去られ、すこし甘くて苦いような、でもさわやかな感触だけが残ってる。実に不思議。

解説が川上弘美さんてのも面白いな。

角川文庫 2004

有川浩 – フリーター家を買う。


またまた有川さん。この作品もまた面白いタイトル。”フリーター”と”家を買う”っていう言葉、ある意味(リアルな世界においては)真逆なものに感じられる昨今、いったいどんな物語なのかなーとベージをめくると、今まで読んだ有川さんと全然違うトーンの物語が始まる。

折角就職した会社をたった3ヶ月で「自分にあわない社風だ」と思ってやめてしまい、フリーターをしている息子。そんな中、実は彼の知らないうちに長い年月ストレスをためていた母親が鬱になってしまう。自分がかわいくて自分のため以外には何もしようとしない父と衝突する病院に嫁いだ姉。殺伐とする家庭内。とにかくいざという時のために金を貯めねばと肉体労働のバイトに精を出しはじめた主人公にひょんなことから再就職のチャンスがやってくる。

後半はどんどん展開が明るくなっていくあたり、やっぱり有川さんらしいなとおもったけれど、前半の胸が痛くなるような感じははじめて。甘さのかけらもない物語の展開は読んでいて苦しくなってしまった。決して誰もがこんな状況には陥らないとは思うけれど、でも、誰しもがこの可能性がないとはいえないし、特に息子の立場である自分のことを考えてみても、こういうことや似たようなことになる可能性はなきにしもあらずなので、すごく怖かった。

そして後半は生活を安定させたり、地位を得る、という以上に、働くってのはとてもいいことよね、と思わせてくれる内容だった。何かを成し遂げることも楽しいけど、人とのつながりとか、そこで生まれてくる物事とか、そういうことに触れたり、出会ったりできるのは非常に楽しいことだと思う。

主人公の悩みや逃避、気づきや成長を通して、じぶんを眺めてみて(比較する?)一体自分はどうなんだろうと考えたり。自身のためには何かできているかもしれないけれど、少なくなってしまった家族やその周りの人、仲間たち、というような人間関係に与えたもの、そして生み出してきているはずのもの、そんなものがちゃんとあるのかな、と。毎日を消費してしまって(いるように感じる)このところに何か一石を投じられた気がする。停滞して悩んでいるばかりではだめよね。

重松清氏の解説もまたいい。

幻冬舎文庫 2012

新田次郎 – 山が見ていた

初めて読む新田さん。某ジャズ喫茶のママから「荷物整理するのに欲しかったらもってって」と言われたので数冊貰い受けたもののひとつ。「新田次郎おもしろいよ」と言われて半信半疑で読み出したのだが、おもしろくて一気読み。いまぼくが好んで読んでいる作家達にくらべたら一時代前の作家さんだけれど、文体や表現される時代に古さを感じるけれど、物語は全然古さを感じない。

短編が15。なのでどれもそんな長くないのに、描写力というのか、余分なものがいっさいそぎ落とされていて、物語が始まったとたんその情景にすぐに没入できる(景色がイメージできる)のがすごいなと思った。あいまいさや(ぼくが好むような)ふわっとしたイメージをあたえてくれるようなものはないけれど、逆にあんまりにもがちがちに描いてるわけでもないのに、確固たるイメージが形作られていく。物語で描かれる時代、たぶん昭和30年代後半とか40年代前半ぐらいの感じなんだけれど(実際そんな時代のことは知らない)、それがイメージさせることができるってすごいなあと。

表題「山が見ていた」はある事件を起こして自殺願望をもった男が、死ぬために山にはいるのだが、ひょんなことから人を助けて結局街にもどってきてしまい、、、という物語。完結だけど山の厳しさがよく沁みる作品。その他にも村の龍神様がまつられる沼を守ろうとする「沼」、頑固一徹な保険販売員の運命「死亡勧誘員」、七年前に万引き犯に間違われた恨みをはらそうとする「七年前の顔」などなど、どれも秀逸な、そしてアクがつよく、ちょっとぞっとする作品が目白押し。新田さんのミステリー、知らなくて損したなぁ。

文集文庫 1983

西加奈子 – きりこについて

西さん2作品目。表紙にピンク色の猫が描いてあった、というそれだけの理由で手に取ったのだけれど、なんていうか、とても特徴のあるお話だった。きりこというすごく不細工な女の子のお話。救い用もないほど不細工なのに、両親の愛情と「可愛いね」という言葉を全身にうけて育ったきりこは、自分の容姿が一般では「ぶす」であることを全く知らず、堂々と女王のように振る舞うものだから、子供時代は(子供の時にだけある特有のマジックによって)まわりもその容姿のことを全然気にしない。しかしあるとき一人の男子の言葉からその世界は崩壊する。自分の容姿がぶすであることを理解できなかったきりこはひきこもってしまう。そして。。。。

と、ここまでだと哀しいお話のようだが、すごく勇気をもらえる物語。ひきこもったきりこがこのあとどうなるのかは読んでのお楽しみ。西さんが高らかに宣言する「一番大事なことはなにか?」ということを教えてくれる本。とくに女性(男性もそうだろうけど)は納得するところがあるのではないかな(想像だけれど)。それはなにかは読んでみてほしい。

とにかく、痛快というか、すっとした、というか、ああ、と思える物語だった。

きりこにずっと付いていろいろ話を聞く猫・ラムセス二世が素敵すぎて、その誇らしげな、賢げな姿が目に浮かぶ。やっぱ猫ってぼくたちより遥かに世の中のこと分かってるよね、きっとw

角川文庫 2011

辻仁成 – マダムと奥様


久々に辻さんの本。新刊ならともかく、だいぶ彼の本を読んでるのでなかなか読んでない本にあたらないので寂しい。が、久々に知らないタイトルあったので手に取った本。2007年ごろに雑誌「女性自身」で連載されていたコーナーの書籍化。

主に辻さんから女性へのいろんな助言やら、辻さんの意見やら(とにかく女性に元気になってほしい、と願ってらっしゃるみたい)がおもしろくまとめられているのだけれど、それよりも普段まず垣間みることのできない辻家(フランス在住)の様子が透け見えて面白い。奥さん(言わずとも知れた中山美穂さんですな)との生活の様子やら、フランス生活への馴染み方、お子さんのことなどなど、フランスと日本のギャップを軸にして、日本の女性に願うことやら日本についてやらをさらさらっと書いているところがおもしろい。普段の辻さんの小説と全然カラーが違ってるのも。文体が口語調なのだけれど決して普段はこの文体のような話かたしないと思う、けど、なんかもしかしたらこういう感じなんかなーとか。もしかして結構人見知りなんかなーとかw ロッカーなのにw 優しい旦那さんなんかなぁ。

やっぱ小説読みたいなぁ。瀬戸内寂聴さんと(心的な)師弟関係とは知らなかった。同業界に尊敬できて可愛がってくれる先輩がいるのというのはとてもすばらしく、うらやましいこと。

光文社文庫 2009