乃南アサ – 窓

「鍵」という小説の続編にあたるそう。先にこっちから読んでしまった。でも登場人物や背景は同じでも違う題材なので、前後しても大丈夫。

聴覚障害のある人というのはいまは身近にはいないが、昔は少しつながりがあったのだけれど、彼らの気持ちや考えていることなんて意識したことなかったし、耳が不自由なことってのは単に耳がふさがった状態だ、という認識ぐらいしかなかったけど、聴こえないということでどれほど不自由な生活、コミュニケーションの難しさ、社会システムからの孤立、人々の無理解、なんかがあるのかということの考えを改めさせられた。自分が・・・と思い描いてみても想像しきれない。

そんな障害によって社会からはじかれた存在と、甘やかされ育ちうまく社会適合できない若者、彼らは立場はぜんぜんちがっているけれど、もしかすると同じ気持ちをもってしまうかもしれない。どう生きていくかによって違いは出るけれど、世間からは同じように扱われてしまうかもしれない。

いまの(といってもこの本が書かれたのはもうずいぶん前だけれど)社会の、とくに核家族化した社会のひずみ、ゆがみと、障害をもつものの世界を見事にリンクさせて、人とのつながりがどうあってほしいのか、ということを考えさせられる本だった。

講談社文庫 1999

石田衣良 – 40―翼ふたたび


活字たちが熱をもって心にダイレクトに飛んでくるよう。

いまアラフォーと呼ばれている世代にはぜひとも読んでもらいたい作品。買って配りたくなるほどすばらしい。めったにないことなのに電車で思わず泣いてしまった。ストーリーのよさ・うまさもあるけれど、主人公たちの気持ちがダイレクトに理性をつきぬけて伝わってくる。まさにアラフォーの、諦めとほんの少しの期待をないまぜにした気持ちが押し寄せてくる。物語が物語でなく、まるで自分のすぐとなりの物事のように感じられる。

きっと10代は10代なりに、20代は20代なりに・・・みんなその年代ごとに変化があって、悩んだり喜んだり、人生につまづいたり、いろんなことがあって嫌でも大人になっていったり、そっから逸脱したり、復帰したりといろいろあるはず。この本はいろいろあってついに40になった人たちが主人公。その「人生の半分がおわってしまった。しかもいいほうの・・・」と思っている(たぶんほとんどの人が同じように感じてるのでは?)人たちの物語。

もちろんどの人が読んでもおもしろい物語として読めると思うけれど、きっとアラフォー世代はそうではなくて、自分のことのように受け止めるんじゃないかと思う。それほど素直にこの世代の人の気持ち、やるせなさ、あきらめ、それらへの微力な抵抗、そんな姿をうつしだしている。いまだからこそわかる「この感じ」というもの、同じ世代の人と共有したい。

めちゃ石田さんの作品ぽいといえばそう。IWGPの40代版といってしまえばわかりやすいかも。でもIWGPほどかっこいい人たちは登場しないし、クールな連れもいない。人生に疲れた男女がいるだけ。のたうちまわって苦しんでもがいて見苦しいかもしれない。でもそれでもすごくいとおしい、美しいと感じてしまう。

あー、もっかい読もう。

講談社文庫 2009

宮部みゆき – ステップファザー・ステップ

ひょんなことで忍び込もうとした家のとなりの家の住人(双子の兄弟)につかまってしまい、しかもなぜか「お父さん」と呼ばれ、奇妙な関係がスタートする、職業泥棒と双子のおはなし。

ちょっとしたミステリーやマジックぽい話のネタやストーリー展開もいいけれど、このまったくの他人同士の間に時間とともに生じてくる一種家族のような気持ちや意識の通じ合いがどんどん濃くなっていく様子の描き方が見事というか。話自体はわりと軽いのでさっさかさーと読めるのだが、そんな擬似親子の気持ちの通じ合い、そして実際の社会とのギャップでの悩み、それによる不信、などなどまるで恋人の話のよう。おもしろい。

講談社文庫 1996

東海林さだお – ショージ君のぐうたら旅行

「にっぽん拝見」のつづき。昭和47年ごろのことが描かれている。
こういうの読んでると、やっぱり昭和って時代が好きだった(いい意味でもアカン意味でも)なーとつくづく思う。

今回も東海林さんは思いつきなのかなんなのかわからないけれど、どこからか面白いネタをみつけてきてはそれを体験取材してルポするということをやりつづけているけれど、やっぱりその興味の対象であるとか、行動力、観察力なんかに脱帽するわけです。はい。それでその何よりも卑屈な態度をとった東海林さんがその視点から見る社会の現象がおもしろおかしく、そしてちょっとホントのところを突いていて、でもなぁ・・・的な文章がとてもうまいなぁと感心させられるわけです。はい。

珍しいものを食べれると聞きでかけてみれば「これっぽっち?」というような量だった、とか、女の子がたくさんいく旅行だからといってみたらぜんぜんだったり、とか(笑)、固い決意で禁煙に臨むが結局できない、とか、ロマンを求めに日本最北端までいったらただの観光地だった、とか(笑)。

時代は違うが感じ方はいまもいっしょ。平成になったからって入れ物がかわっただけで人間はかわんないなーとほほえんだり悩んだり。なんか楽しい。

文春文庫 1977

江國香織 – 赤い長靴

冒頭の一行目から江國さん。なんでこのひとの文章はこうも彼女っぽいの?

結婚12年目を迎えるある夫婦の日常を14の短編で描いた作品。妻・日和子の視点で描かれたものが多いが、同じ事柄を夫・逍三の視点で描いたものもあり、両側面からの気持ちが見えてなるほどとおもったり、どうなんだろうとおもったり。

夫の愛想なさにどうしようもないいとおしさや淋しさを感じ、くつくつ笑う妻・日和子。通常会話のなりゆきや内容によって物がたりは構成されていくのに、このお話は大半の会話が成り立ってない。返事がなかったり、ずれたり。お互いに発してる言葉と聞いてる言葉が違っていたり。物語としてはおかしな感じだけれど、実際こういうことって多いんじゃないか?そんななかにこそ夫婦のなんでもない日常があり、危うさがあり、それを乗り越えていく力がある、っていうことを描きたかったのかな?

不気味さや怖さを感じてしまうかもしれないけれど、一段と江國さんの素晴らしさを感じてしまう一冊でした。

文春文庫 2008

乃南アサ – 5年目の魔女

やっぱこういう女性心理の暗い側面を描かせたら乃南さんてほんとうまいというか、凄いな。景子と喜世美、2人の女性の切っても切れない関係。それは縁というものではなく、執着や怨念やらいうものを感じてしまうほど。はっきりいって、こわい。きっと女性にしかわからない女性だけが感じる女性の怖さ。それらがまざまざと描かれている。

魔女的な女性っているけれど、実は見てわかるようなものはほんとじゃなくて、誰しもが幾分かずつもってる性質なんじゃないかな?

新潮文庫 2005

東海林さだお – ショージ君のにっぽん拝見

昭和43~46年あたりに、漫画讀本、オール讀物に連載されていた東海林さだおのエッセイ集(当時エッセイって言葉なんかなかったかも)。たしか中島らもの本で東海林さんの本がおもしろい、と書いていたのでいつか読んでやろうと思ってついに手をだした。結構何冊もつづいているはず。

著者がちょうど30代にはいったころで、ようやく物書きとしてなんとかかんとかやっていたころだと思うのだけれど、まずは当時の風俗が赤裸々に描かれていてすごく面白い(どうも昭和40年代にはとても興味があるのだな)と思うし、あと話題も競馬だとか、男女関係だとか、新婚旅行とか、ハワイアンセンター(ちょっとまえに映画フラガールの舞台になった常磐炭坑)とかとか、当時話題になっていたようなことが、当時の視点・考え方、そして著者の視点でおかしく描かれていて非常に楽しく読める。

あとやっぱり著者のちょっと卑屈な、ヘイコラした、頑固な自分のキャラが何事にも「すんません」的な態度でルポしていくのだが、その中にキラリと光るニヒルな笑い、目立たないけど鋭い観察、柔らかく言ってるけれど実はすごい社会批評など、読んでいて「なるほど」とか「にやにや」とかすることばかり。うまいなぁ。それともこれが自然なのか。

漫画家として知られる彼の挿絵も的を得ていておもしろく、このシリーズ癖になりそう。

文春文庫 1976

栗本薫 – 黒衣の女王(グイン・サーガ 126)

前巻の最終章で突然出てきたイシュトバーン。いきなりパロにいきたいと言い出す。そう、それまで怪我しておとなしくしてたんだった、そうだそうだ。

その彼が突然パロに現れ、クリスタルが騒ぎとなる。
もちろんタイトルの黒衣の女王といえばリンダ。話の展開は読めてしまうけれど、通らなきゃならないターにニグポイントか。でもリンダがほだされてしまって・・・・ていう展開になってしまったら?なんて考えても面白い。

イシュトとパロ。なかなか因縁だなぁ。

ハヤカワ文庫 2009

栗本薫 – ヤーンの選択(グイン・サーガ 125)

栗本さん、亡くなってしまった。
もうこの物語もあと数冊で未完でおわってしまうのか。寂しすぎる。

とにかくご冥福を。

草原地方を横断していたヨナ。しかし騎馬民族に襲われてあわや全滅の憂き目にあうところ、偶然通りかかったスカール一行に救われ、彼だけが生き残る。そしてスカールと行動をともにしヤガへ。

大自然に大して、人の生き死になんてすごく小さなこと。まるで人間が踏みつぶした虫けらのようなもの。生きているとはなに?そんなヨナの心の言葉がなかなか興味深い。

しかし、ヤガっていったいなんなんだ?

ハヤカワ文庫 2009

山本文緒 – 恋愛中毒

とある事務所につとめる女性の恋愛の独白。結構長編なので、一度読んだだけだとこの物語というか、書き口の凄さを感じきれなかったけれど、それでも、迫力ある物語だった。

プロローグではその事務所の男性の視点で始まるのに、いつのまにやらその女性の視点にすり替わっている。これが見事というか、物語の構造の複雑さと、その女性の心理の複雑さを見事に表しているように思える。

最初はちょっとおとなしい、そんな女性像を想像して読み進むが、どんどん狂気を孕んでいく様子が、こわい。エピローグまでしっかり読むと、プロローグとのつながり、視点の、見え方の違いがわかって、わぉ!と思うようなたくみな文章。うーん、すごいなぁ。

でも、もっかい読まないとなぁ。

角川文庫 2002