石田衣良- 美丘


相変わらず石田さんのこの手の話は美しく、美しいがゆえにうねる波のように猛々しく、激しく、圧倒的なスピードで過ぎ去っていってしまう。

章立てが短くて、すべて過去形で書き始められる文なので、あっという間に読んでしまう。というか読み出したらとまらない。そして物語りも転がり落ちていくようにスピードアップしていく。悲しい寂しい恋の物語。

そのひとがそのひとたるゆえんは何か?姿形?声?考え?
それが失われていくということは、どんな気持ちなのか?そのひとは?そのパートナーは?

めったにないことのはずなのに、すぐとなりでおきてしまいそうな、そんな気持ちがわらわらする、物語でした。

角川文庫 2009

矢野顕子 – 愛は海山越えて

月刊カドカワに連載されていたあっこちゃんをまとめたもの。ちょうど坂本龍一と結婚した後、NYに移り住んだころ、90年ごろのおはなしばかり。だから写 真とかがやたらと時代を感じる(眉毛がみんな太い(笑))ものだったり、やたらと景気の良い話(そういやそのころ、日本企業がアメリカのビルとかを買収し まくってたよなぁ)ばかり。懐かしい時代やな~。

なんでもない事柄をあっこちゃんがインタビューして、あのしゃべりの感じそのまんまな文体となって描かれているのが、あのキャラを知ってる人にはいとおしく感じられるだろうな。そうじゃなきゃ、もしかすると、ちょっとうっとおしいかも(笑)

こまごまと彼女の知り合いとかのひとことが出てきたりするのだけれど、その人物たちの多岐にわたること!音楽家はもちろん、作家、デザイナー、漫画家、プロレスラーに学者に軍関係者まで!すごいなぁ。奥田民生としりあったのもこのころなのね。

最後に「佐野元春さんがきく矢野顕子への50の質問」てコーナーがおまけでついてるのだが、これが、なかなか、質問の選び方もなるほどなら、答えもなるほど、で、おもしろい。

 

群ようこ – 猫と女たち

猫についてのショートエッセイたちと、女性を描いた短編集。

群さんの近所に住み着いてる猫たち、そして飼い猫のしい。猫を飼ってるもしく は猫大好きなひとならすっごくわかる、そんな話や描写ばかり。読んでいてほほえんでしまったり。そうやって町中にいる猫にたくさん出会える町に住んでるっ ていいなぁ。そんなかわいい猫たちとそれを取り巻く人々を実に実にほほえましく描いている文章がどれもかわいくていとおしい。猫好きなんだーってことがす ごく伝わってくる。あ、犬もね。

一方女たちを描いた短編集はなんだか別の人が書いたような。でてくるひとたちが実にリアルというか飾り気ないというか、小説っぽくない。実にずばっと入ってくるような文章なので、うろたえるというか「そんなんでいいのか?」と思ってしまう。でもどの人もすてきだな。

猫と女たち
猫と女たち

村上春樹 – 中国行きのスロウ・ボート

めちゃ久しぶりに村上さん。彼がデビューして間もない頃に書かれた短編たち7編。どの短編も村上さんぽい、なんとも抽象的なとらえどころのない、という か、すごく高尚なことを伝えようとしてるような気がするけれど、実はただの愚痴だった、みたいな、いったい何がいいたいのかわからないのだけれど、でも実 は一生懸命何かを伝えようとしているということは伝わってきてるような気がする、と思わせられる、でも実はなにもない、のような、文章。このレビュー自体 もそんな文になっちゃった。でも面白いのよ。理解をはずして、感覚や色やサウンドで追っていけば、なんだかすとんと落ちてきたりするのよね。不思議。「貧 乏な叔母さんの話」はたのしい。「最後の午後の芝生」はなんか男だけがわかる、若いときのアノ感じっぽい。

中国行きのスロウ・ボート
中国行きのスロウ・ボート

石田衣良 – 池袋ウエストゲートパーク6(灰色のピーターパン)


IWGPの6冊目。今回も4つの短編。今回もやっぱり面白い。ちっとも飽きない。やっぱりネタの面白さ、と、石田さんの話の切り口のつくりかた、そして魅力的なキャラクターたちがいるから、だろうなぁ。

とくに2編が気に入った。傷害の被害者と加害者の間をえがく「野獣とリユニオン」、無認可の保育園を取り巻く問題を描く「駅前無認可ガーデン」。当たり前に 存在している社会問題を、暗くなることなく、やたらとドラマティックすることもなく、両方ともうまくわかりやすく描いてるのがすごいとおもう。

仲間っていいな。

辻仁成 – いつか、一緒にパリに行こう

2003年からパリで暮らしている辻さんの、極々個人的なパリ初心者にむけたパリのガイド本、といったらいいのか、ただの「ぼくパリ好きだもんねー」的自 慢(?)本といったらいいのか(笑)。少なくとも彼にとってはパリ、そしてフランスはとても馴染みやすい魅力的な場所のようで、そこを愛する気持ちがあふ れている。パリ好きなのね。ま、似合ってるなぁ。

とりとめなくパリやらフランスの、風俗やら人々やらについて雑多にかいてある。ちょっと 文体が嫌みったらしい感じもしなくはないけれど、でも、それでも、「あ、パリってフランスって刷り込まれてるイメージとはちょっと違って、あれ?素敵か も?」なんて思えてくるあたりはさすがというか。とくにフランス人に関しての観察(恋愛感であるとか、優しさとか勝手気侭さとか、ヴァカンスのこととか、 とにかく自由が生まれた国の住人である自負とか)はなるほどなーとうなずくことばかり。さすが暮らしているだけあるなぁ。

パリというか、ヨーロッパにいってみたくなる、そんな本。

いつか、一緒にパリに行こう―パリ・ライフ・ブック
いつか、一緒にパリに行こう―パリ・ライフ・ブック

宮部みゆき – 幻色江戸ごよみ

また宮部さんの時代もの。時代劇時代劇しすぎていず、普通に現代ものの時代を300年ぐらい前に持ってきました~的な普通な感じがいい。

今 回はすこしオカルトチックな短編が12話。どれも結局人情がらみっぽいところが宮部さんぽいところか。どれもかなりの貧乏暮らしの人たちが主人公になって おり、その描写が見事。すごく読みやすい文体なのに江戸時代の風俗(っていうても知らないけれど)がありありと眼前に浮かぶ。

幻色江戸ごよみ
幻色江戸ごよみ

石田衣良 – アキハバラ@DEEP

漫画やらドラマにもなったんかな?この作品。やっとこさ読んだ。すごく分厚いけれど、すっと読める。革新的なサーチエンジン「クルーク」を生み出した6人の天才たちとそれを奪おうとする大手ソフト会社がアキハバラで戦う。

あ まりよくしらないけれど何かとイメージが先行するアキハバラという町の風俗や人々、それに数年前までのITバブルのときのコンピュータ関連の世界的な熱 気、そんなものがごちゃまぜになった雰囲気がよく伝わってくる。そのなかで苦しみながら立ち上がっていく主人公たちの冒険談がすごく楽しい。なにかやって やるぞ、という気持ちがわいてくる。

ストーリーは実際にごろごろしていそうなもの。秋葉原やこの業界に縁のない人には気持ち悪いかもしれ ないけれど、ごく普通なことだ。ストリートファイトがあるんかはわかんなけれど。きっと石田さんのことだから、また綿密な調査をしたんだろうなぁ。AIっ てのがどこまでプログラミングできるのかはよく知らないけれど。

この先どうなっていったかも、読んでみたいなぁ。書いて欲しい。

アキハバラ@DEEP
アキハバラ@DEEP

 

石田衣良 – 眠れぬ真珠

17歳年下の彼と恋に落ちていく版画作家の女性「黒の咲世子」。年の差ゆえに、生きる世界が違うがゆえに、彼女はこの恋を一時のもの、彼がもとの世界へ巣立っていくまでのものとしようとするが。。。

とても美しくて、とてつもなく哀しい。そして淋しい。

自分が同じような年齢になってきたからなのか、同年代の女性の気持ちもすこしは分かるようになった気がする。そんな気持ちで読むと、異性のことなのに自分が同化してしまう。咲世子がまるで自分のような気がしてきてしまう。こんな話みたいなことになったらどうなるんだろ。

し かし石田さんすごい話書くなぁ。たしかに解説で小池真理子さんが書いているように、まるで女性が書いた作品のように、この妙齢の女性の心理を見事に描き出 している。そんな40代の女性の心理や行動や生態を描くという点でも、版画作家そして映像作家とはどんなものかという点でも、読んでいて、なるほどと思う ことばかり。やはり石田さん相変わらず観察眼も知識も想像力も豊か。すばらしい。もちろん小説としても見事なバランスとテンポだと思う。

文章中からなるほどと思う事ひとつ。

「そう。女はね、二種類に分かれるの。ダイヤモンドの女とパールの女。光りを外側に放つタイプと内側に引きこむタイプ。幸せになるのは、男たちの誰にでも値段がわかるゴージャスなダイヤモンドの女ね。真珠のよしあしがわかる男なんて、めったにいないから」
「ダイヤの女は幸せになれて、パールの女は幸せになれないの」
「そんなに人生は単純なものじゃない」

なるほどなぁ。

眠れぬ真珠
眠れぬ真珠

乃南アサ – 6月19日の花嫁

記憶喪失にからむミステリー。主人公が自分の過去を捜していくストーリー。はたして6月19日とは何の日であるのか?

乃南さんのものとしては軽めですいすい読める感じ。仕掛けも複雑じゃないし、どっちかいうと単純なストーリー。相方の男の心情が日記形式でつづられるのが変わってるかなーって感じかな。

それほどインパクトはつよくなかった。

6月19日の花嫁
6月19日の花嫁