上橋菜穂子 – 流れ行く者(守り人短編集)

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守り人シリーズの短編集。主にバルサとタンダの子供時代の話が絵が描かれる。彼らが出会った頃。

大好きだが村のはみ出者である叔父の死とそれにまつわる噂について悩む幼いタンダ「浮き籾」、しばらく定住したある街の宿にいた賭事師の老婆から人生について学ぶ「ラフラ」、商人の隊列に護衛として父子ともに雇われるジグロとバルサ、しかしその隊商の護衛が裏切る「流れ行く者」の3編。いずれもバルサは子供だが、守り人シリーズにつながっていく素質が垣間見えるように描かれている。

もしかしたらこの短編集から読んで本編にいっても大丈夫かも。本編を読み終えてからしばらく空いたけれど、すっかりこのバルサの世界も僕の体のどこかに出来上がってしまっているようで、すぐにこの世界に戻ってこれるようになった。解説で幸村さんが書いているように、それは上橋さんがこの世界を構築するにあたって、なんでもない日常のことをすごくきちんと描いているから。だからこそ世界がしっかりした土台の上に自由に作り上げられている。それはやはり人類学の研究者としての面をもつ上橋さんならではの視点なのかも。

2013 新潮文庫

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上橋菜穂子 – 天と地の守り人

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上橋さん、守り人シリーズの最終章。ロタ王国編、カンバル王国編、新ヨゴ皇国編と3冊になっているけど、面白くて一気読みしてしまった。

ここまで6つの守り人シリーズ・旅人シリーズを経てのこの3冊はここまでが大いなる伏線だったかのように、以前のお話が絡んできて、この北の大陸にある三つの国の命運と新ヨゴ皇国の皇子チャグム、そしてバルサの運命を巻き込んでいく。ここにきて一気に壮大なドラマ感がでてきた。いままで大きな世界の一部の物語っていう感じだったけれど、ついに大きな世界から見える視点に、というか、頭のどこかにこの守り人シリーズの世界が宿って、グインの世界のように、きっといまこの世のどこかにある別の場所、というような感覚になった。

南の大陸の強国タルシュの囚われの身になった皇子チャグムは隙を見て海へ飛び込んで脱走し、行方知れずとなっていたが、無事ロタ王国へとたどり着いていた。しかしそこから苦難の道が。タルシュの侵攻は着実に進んでおり、もはや北の大陸にある一国ずつでは抗うことができないと感じたチャグムはまずロタ王にと足を進めるが、この国の内紛問題に阻まれ、おまけに刺客を差し向けられる。そして済んでのところでバルサに助けられた彼は王の弟と謁見し、やがてサンガル王国へ。

一方、現実世界と並行して存在しお互い影響しあう異界ナユグに春が訪れているいま、こちらの世界は温暖になりいつもより暖かな冬。そして急な雪解けが進んでいた。それはサンガルの別世界山の王の世界でも同じであり、異変を訴えるものが次々とでていた。南からのタルシュの侵攻と、北からの天変地異にはさまれた形になった新ヨゴ皇国。チャグムはこの危機をどう乗り越えるのか。父との確執は。

本当に手に汗を握る展開というか、いままで読んできた各国の物語がこの話でひとつにまとまるあたりが素晴らしい。見事としかいいようがない。いまから読んでみると、ああ、あそこにこんなエピソードがあったなあなど灌漑深い。最初の「精霊の守り人」で幼いチャグムと旅をした日々がもうずいぶん前のことのように実感してしまってる。物語を通して長い年月を過ごしたな(実際10年ぐらいか)と。

バルサの人となりはなんとなく最初からイメージが決まっているけれど、チャグムに関しては全然変わった。最初はかわいい子供のイメージだったけれど、いまは線の強い若い男って感じ。どのキャラが好きかと聞かれるとバルサかもだけど、一番成長していいなーと思うのはチャグム。タンダがもっと成長したりするかとおもったけどしなかったなあ^^;

最初は同じファンタジーもののグインシリーズと比べてしまったりしてたけれど、このシリーズはこのシリーズで良さがよくわかってきた。アジアぽいところ、魔法がでてこなくて(呪術はでてくるけど、おどろおどろしくない)、異世界がわりと現実的に存在するところ。タルシュと新ヨゴ皇国の緒戦の描写は見事で映画を見ているかのようだったし、ただの素敵なファンタジーというだけでなくて、すごくリアルな感じがあるのがとてもよかった。まさに大人も読めるファンタジー。

このシリーズ3冊はあとがきのかわりに、上橋さん、荻原規子さん、佐藤多佳子さんの対談が掲載されているのだけれど、お互いファンタジー作家としての経緯とか影響をうけたものとか、自己分析とか他人の分析とかやっていて面白い。ファンタジーを書いている人たちってもっと不思議ちゃんというか現実離れしてる感じがするかと(比較ばっかりして申し訳ないけど栗本さんはそうだよねえ)思ってたけど、この方たちは全然そんな感じがしない。まだ日本にファンタジーがなかったときから外国ファンタジーを読んでというあたりで、この守り人シリーズもなるほどねーとか思う。「指輪物語」「ナルニア王国物語」あたりだそうだけど、ほんとなるほどなー。まあ両方読んだことないけど(指輪物語は3冊目で断念した)。この対談読んでるとそれもまた読みたくなってくる。荻原さん佐藤さんの本も読みたいな。

このシリーズ、アニメ化もドラマ化もしたけれど、普通本で読んでるものはこのイメージ壊したくなくて映像になったものはよっぽどじゃないと見ないようにしているけど、まあこのアニメもドラマも少し機会あってみたりしたけれど、本で出来上がったイメージがこれらに壊されることはなかった。ぼくの中にはちゃんとバルサやチャグムやタンダ、トロガイ師が生きている。読み始めた時はこんな熱量感じなかったけど、いまではすっかり虜。この先にあるあと二冊ほども読みたいし、上橋さんの他の作品もはやく手に取りたい。

なんせ大きなお話を語ってもらった気分。とても面白かった。ありがとう上橋さん。

新潮文庫 2011

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上橋菜穂子 – 蒼路の旅人

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上橋さんの守り人シリーズの7冊目。チャグムの物語、いよいよ物語は大きく進む。

密偵達の密かな報告から、海の向こうの隣国サンガル王国がいよいよ南の大陸の大国タルシュに征服されんとしているらしい。そしてほどなくサンガル王からの親書が届けられ、援軍を送って欲しいと頼まれた新ヨゴ皇国。それは必死の叫びのようにもみえるが、罠かもしれない。

一方その新ヨゴ皇国内部では第一皇子であるチャグムと第二皇子トゥグムとの間で帝の世継ぎの争いが生じていた。それは当の本人たちではなく、どこにでもある国のトップ達の間の派閥争い。そんな中でのサンガル王からの手紙にたいする帝に意見をしたチャグムは、帝の怒りを買い、サンガルへの遠征軍に入れられてしまう。それは同時に彼を支える派閥(海軍が主だったが)の一掃も計るものだった。援軍ならばよいが罠であれば負け戦はできず、かといって、海の王国であるサンガルに海戦で勝つのは難題。

やがて心配は現実となり、王からの手紙は罠であることが判明し、チャグムとその祖父であり後ろ盾であり海軍大提督であるトーサは苦渋の決断の末、自分たちを人質に残りの艦隊を帰国させたのだった。囚われの実となった彼らの命運は。

これまでの物語では北の大陸の国々の話ばかりであったが、ここにきて最初から地図には描いてあったけどほぼ話にでてこなかった南の大陸のことが描かれ、一気に世界の広がりを感じられるようになった。アジアぽいイメージの北の国々とちがって、ある意味エキゾチックな感じで描かれる南の国々があらわれることによって、世界が多様になったというか、複雑な模様になったというか。

自らが井の中の蛙ということがわかったチャグムがどういう心理になったのか。それにより彼はどう行動していくのか。チャグムの今後を大きく左右する出来事がこのお話でたくさんでてきて、そして最終章への布石となっていく。世界はどう変化していくのか、しないのか。この先がすごく気になってこの巻を読んですぐに、最終シリーズに入るつもり。息つかせない展開。

新潮文庫 2010

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上橋菜穂子 – 神の守り人

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上橋さんの守り人シリーズ、5、6卷。二冊で上下巻になってる。

女用心棒バルサはひょんなことから人買いから幼い兄妹を助け出す。彼らはロタ王国では虐げられている民だった。一方そのロタ王国では最近奇怪な事件が起きていた。牢獄である人物が磷付になったのと時をおなじくしてその牢獄が全滅していたのだ。しかもそれはまるで人間の手で起こしたことのようには見えない有様だった。

現実の世界とそれに並行して存在する異界ナユグ。この二つは微妙に関連しながら存在しているが、ナユグ側に春が訪れ始めてその影響が現実世界にも及んできている。そんな中バルサが助けた兄妹の妹アスラは異界の恐ろしい神を宿す者になっていたのだ。現実世界の子供達として庇護しようとするバルサと彼らを追うロタ王国の猟犬(カシャル)と呼ばれる者たち、そして王国を影から密かに支えてきた兄妹の民族たち。王国の未来をも左右しかねない彼らの力をあらゆるものが狙ってくる。この窮地をどうするのか。一方薄々としかこの一大事を感じていない当の本人アスラは自分が神を宿すことの意味をわかっていない。

ようやくこの物語ぐらいになってきて、この守り人シリーズが描く物語の世界の広さとか、国々や人々の違いなんかがわかってきて、”読んでいる物語”という感覚から、グインのように”世界のどこかにある世界”という感じになってきた。そうすると俄然物語が面白く感じるようになる。国や時代というおおきな流れと人という小さなものの対比というか、大きな流れに抗おうとする人間の姿というか。頑張れバルサ!とか思ってしまう。

そして物語は進むに従って三すくみのような様相を呈してくる。現実的な解決策がいいのか、個より全体を重んじた方がいいのか、それともやはり個が大事なのか。アスラはその兄は、そしてバルサはどうするのか。

面白くって上下卷一気読みしてしまった。はやくも続きが読みたくなってきて困ってるw

新潮文庫 2009

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上橋菜穂子 – 虚空の旅人

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ずいぶん前に読んでレビュー書かないままだったのだけれど、どうやら昨日からこのシリーズをNHKで映像化しているらしい、と聞いて思い出して備忘録的に。先に本を読んでいると(しかもこのシリーズはこれで4冊目)かなり世界のイメージが頭の中でできあがっていて、挿絵などもあるけれど、それではない登場人物のイメージや、下手をすると声までを勝手に想像しているので、あらたな映像が受け入れられなかったりするので(もちろんそうでないのもある)、みないで置こうかなーとおもってるけれど、どうだったんだろう?綾瀬はるかのバルサ。ぼくだいぶイメージ違うんだけど。

シリーズ4冊目となる今回は、主人公がチャグム。これはこのシリーズではじめてのことで(ずっとバルサだったから)上橋さんもこの世界をもっと拡げて描いていくことになるかな、みたいなことをあとがきで書いていたけど、うん、もっと拡げていってほしい。楽しいから。ファンタジーものは好きで機会があれば読むけれど、冊数の少ないものはそれなりで終わってしまうけれど、冊数を重ねていけるとその世界がぐんぐん広がっていって、もしかしたら海の向こうに実際にあるんじゃないかという錯覚を持つほどになるので、世界観が広がったものに出会えるのはうれしいこと(グイン・サーガがその最たるもの)。

チャグムが隣国サンガルの新王即位の式に招かれたことから、中のいい星読博士のシュガらと旅へと出る。そこで”ナユーグル・ライタの目”と呼ばれる不思議な少女にである。彼女の海の底にある別の世界のための生贄になるという。彼女と関わりと持ったチャグムは、彼女を助けたいと思ったが、その生贄の謎や、その裏に潜む陰謀に巻き込まれてしまう。海沿いの王国サンガルは多くの島国を従えていたが、陰で離反・転覆を狙っているものがいたのだった。そしてそれを陰から糸引いていたものは、はるか南で覇権をねらう国だった。

ヒロイックファンタジーではないけれど、どこでもないけれどどこかにあって、そんな版図とそこで生きている魅力的なひとたちがいる、という世界観をずいぶん感じられるようになったので、どのページを開いても、さっとそのシーンがイメージされてしまう。この巻になって、バルサやチャグムがいる新ヨゴ皇国以外の風土にふれられたので、実際に添えられている地図よりも、もっと立体的な、なにかそういうイメージができあがっている。なのでまるで旅行をしたような気分になれるお話だった。チャグムまた成長したなあ。彼はどうなるだろう。はやく続き読みたい。

新潮文庫 2008

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上橋菜穂子 – 夢の守り人

上橋さんの守り人シリーズ三作目。人の夢を糧として育つ異世界にある花。そしてその花に誘われ次々に夢見たまま起きなくなってしまう人々。彼らは現実から逃避するために夢見ることを選んだのだった。そんな花に新ヨゴ皇国の第一妃、そして第一王子のチャグムまでが囚われてしまう。そして同じく幼なじみが囚われてしまった呪術師のたまごタンダは彼女を助けに行くのだが、逆に囚われその花を守るものに変化させられてしまう。

そんなタンダを救うべく立ち上がるバルサとタンダの師匠である呪術師トロガイ。ひょんなことからバルサが救った歌うたいユグノが実はこの一連の事件に深く関わっていることがわかる。この男の招待とは?明かされるトロガイの過去。バルサとトロガイはタンダやその他のものたちを救えるのか?

いままでの二作品も現実世界と並行して存在する異世界に関わる部分も描かれてきたが、今回はかなりどっぷり描かれているので、想像力がいるというか、ファンタジーだけれどファンタジーのなかにまたファンタジーがという感じがする。そういう現実でない世界にさらにその現実でない世界を混ぜ入れて、混乱しないように描けている上橋さんさすがだなぁ。

今回のテーマはほんと誰もが一度は思うような、現実逃避してこのまま眠っていたい、という願望。そして、でもそれは願うべきではなく、どんなに辛くてもちゃんと生きて進んでいくべきなんだ、という現実に対する生き方。「もうこのまま全て忘れて寝てた方が楽」なんて思うことよくあるのだけれど、そうしたって何も解決しない。ちょっと先に延びるだけだし大概自体は悪化する。勇気を持って前に進め、と上橋さんに言われた気がする。

養老孟司氏の解説がとてもいい。ファンタジーとは何か、ということにとても簡潔に、潔く書いてくれてる。養老さんの本も読んでみたくなった。

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上橋菜穂子 – 闇の守り人

上橋さんの「守り人」シリーズの2作目。短槍ひとつで女用心棒として生きているバルサ。彼女を育ててくれたのは、ある陰謀により人生のすべてを投げ捨て逃亡生活に身を落としてまで彼女を守ってくれたジグロだった。彼女はジグロの汚名を晴らすべく25年ぶりに生まれ故郷に戻る。が、そこへと抜ける洞窟の中でであった2人の子供がきっかけで彼女が故郷に戻っていることが発覚し、故郷カンバル王国は彼女を捕らえようと躍起になる。

やっぱりファンタジーが好き。でもこのシリーズはグインほど突飛ではない(いまのリアル社会とそう遠くない感じがする、時代や場所が違うだけ、みたいな)ので、入り込みやすくていいんじゃないかと思う。でてくる人たちもわりと普通だし。でも今回のカンバル王国には、地底に住まうという山の民と山の王、小さな牧童の人々なんかもでてくるので、少し西洋的な感じがするかも。そういう意味ではまだ一作目(精霊の守り人)は東洋的だったように思う。

あとがきで上橋さん本人が書いているように、この作品は大人が読んでも楽しめる(もっとも”大人に支持されている”という書き方だったけど)作品だとおもう。ファンタジーというとどうしても夢の世界、想像の世界、現実離れしてとっつきにくい世界観というイメージで大人は読みにくい子供のものみたいなイメージだけれど、この作品は人間のドラマのようなところがあって(陰謀などのどろどろした部分も多く描かれるし)、そういう風に言われているんじゃないかと思う。実際読んでみて、もちろんファンタジックな部分はふんだんにありつつも、そういうドラマ的な部分もしっかりあって、物語としての骨組みがずっしりしてる感じがする。へんな例えだけど、一作目は明らかに子供向けだった映画ハリーポッターシリーズが2作目以降大人も楽しめるものになった、そんな感じ?(もっともこの本は大人ぽいけど)

話の進め方がうまいのか、章立てが細かいので、区切りよく読めるためか、とても読みやすくて一気読みしてしまった(前の本もそうだった)、400ページほどあるけど。単純に面白くてわくわくする。読後に爽やかさって感じはないけれど、なにかちょっとした達成感とほどよい疲労感があるのもいい。

このお話でもやはり現実と併行して存在する別世界がでてくる。実際こういうことがある(別次元とか、死後の世界とか、そんな言葉で語られるところ)と考えると現実に起こってること感じられることっていうのが、そういう世界からの干渉であったり、たまたまうっすら現れたりしたものだと思えなくもない。だいたい見えてることなんて、ほんとに狭い世界でしかないのだし。

シリーズ次作も早く読もう。

PS
あとがきで知ったけど(書いてるのがアニメ化した神山監督だった)、アニメ化されてるらしい。見るべきか見ざるべきか。。。。

新潮文庫 2007

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上橋菜穂子 – 精霊の守り人


最近何かと話題になっているのか本屋さんで目立つ上橋さん。もともとSFとかヒロイックファンタジーものが好きなので、栗本さん亡き今、そういう類いの本を読む機会がぐっと減った(たまには読むけれど、シリーズ物はあまりないのか出会わない。和製がいいし)。で、本屋さんで最近発刊された「鹿の王」を見て、あ、もしかして僕好きな感じなのかもと思い、その本はまたの機会にとっておくことにして、上橋さんの本を探していてたまたま出会ったこの本を手に。偶然だったけれど、これは「守り人」シリーズの一作目だった。また楽しめそうなものに出会えて嬉しい。

短槍ひとつで用心棒をする女、バルサ。ひょんなことから新ヨゴ皇国の第二皇子チャグムを助けたことから、チャグムに潜む秘密に巻き込まれる。彼には異界の卵が宿っているという。そしてその卵はこの世界に100年に一度の大旱魃をもたらす魔物という伝説と関わりがあるらしい。皇国から、そして異界の魔物からも狙われるチャグムをバルサは守り続けられるのか。

そんな長くない物語なのに、国の様子や成り立ちや文化、先住民や異文化との交流なども描かれていて、頭の中にその世界が構築されていき、そこでバルサやチャグム、タンダなど、魅力的なキャラクター(ぼくは呪術師トロガイが好きだな)が動き回るのが楽しくなってくる。こういう物語ってどれだけ世界観やその細部まで考えて構築しているかでずいぶんのめり込み方というか受け入れやすさが変わるように思う。その点この物語はすごく魅力的で読んでいるときは一冊で終わるのもったいないなーとか思っていたけれど、解説を読んでシリーズ物であることを知って、とても嬉しかった。栗本さんのグインシリーズの世界以外にまたこういう物語の世界がもてるというのは楽しいこと。そういう点では宮部さんの「ブレイブストーリー」より全然いい感じだなあ(これは面白かったけど、世界観という意味ではちょっと断片的だったように思う)。

現実に併行して異界があったり、そことの密接な関係や異界の民たち。国の興りを表現する神話や伝承、そしてそれらがときはねつ造されることもある、などなど、この世の中であるようなことをいろいろ示唆してるあたりも、上橋さんが文化人類学者という肩書きがあるからの発想なのかも。素晴らしいなぁ。面白かった。はやく続き読もう。

新潮文庫 2007