奥田英朗 – 噂の女

奥田さんは久しぶり。以前はよく読んだけれど最近はちっとも読んでなかったので手に取って見た本。でもこれまただいぶ前に読んだのでほとんど覚えていないので備忘録的に。

学生の頃はおとなしく地味で目立たない女性だったのに、短大時代に何があったのかその女としての潜在能力を開花したらしい女性、糸井美幸。たくみに女性の武器を使い、玉の輿を繰り返す。そしてその相手たちは不自然ではないにしろ亡くなっていく。やがて彼女は高級クラブのママにまでのし上がった。黒い噂が絶えない彼女の周りだが、彼女はどこ吹く風。読めば読むほど魅力はあるが怖い女性。くわばらくわばら。

新潮文庫 2015

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奥田英朗 – 東京物語


1978年、名古屋出身の18歳の青年が上京する。なれない大都会、学生時代の淡い恋、仕事に追われるだけの日々、少し得意になっていてもまだまだと実感する20代半ば、そして30歳を前にして思うこと。友人と、恋人と、仕事の仲間と過ごす青春の日々。そのときどきにはその時代のトピックがあった。ジョンレノンの射殺、キャンディーズの解散、ベルリンの壁崩壊などなど。80年代を経験した人は(そうでないひとも)あのころのことを追体験するような時代の匂いがする小説。

奥田さんの作品でも初めての感じ。これとてもいい。まあたんにこの時代が懐かしいからというのもあるのかもしれないけれど、バブルにむけて時代が大きく派手に動いていた時代、みんな忙しくも楽しく輝いて生きていた。なにもすべてが良かったというわけじゃないけれど。そういう気持ちをすごくよく思い出させてくれる。とくにキャンディーズの解散は懐かしい、70年代が終わったって感じしたもんなぁ、幼かったけど何か変わるんだって感じた。

まあ20代ってほんと甘酸っぱかったり青春って感じで、誰も大なり小なりこういう経験してきているとおもうけど、僕らぐらいの年代の人間にはさらにその青春に80年代というのがかぶさると堪らない気持ちになってしまう。懐かしい、ほんと懐かしい。いい時代だったとおもう。読みながらあのころの空気の感じとか、街の変わっていく様子とか、音とか、匂いとか、いろいろフラッシュバックしてしまう。

またなんとなーく片岡義男っぽいところもあったりして(ブランド名の出てき方とか、服装の描き方とかとか)それもまた好きな要因かな。「彼女のハイヒール」なんてタイトルそのまんまぽいもんw

楽しかった。

集英社文庫 2004

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奥田英朗 – 町長選挙

奥田さんもだいぶ久しぶり。この本はシリーズにもなってるヘンテコ精神科医の伊良部一郎の第三弾。今回もヘンテコぶりを発揮して周囲を困らせているけれど、この人分かってやってんだかどうなんだか。

大手新聞会社のワンマンで人気野球チームのオーナーでもある男が恐れる闇「オーナー」、ITにより時代の寵児となった男が物忘れに頓着しない「アンポンマン」、歳をとっても若い姿でいようと努力しすぎる女優「カリスマ稼業」、そして表題作でもある孤島を二分する選挙に引き裂かれる男「町長選挙」の4つの短編。

伊良部の何を考えてるのか分からないところ、計算で動いてるのでもなさそうなのにたまにすごく的確な指摘をするところなんかが相変わらずとても面白い。4編のうち最初の2編についてはもう、あの人のことよね、とはっきりわかるモデルが現実にいる。実際描かれているように世間から(もっとも僕たちはメディアを通してしか知り得ないけど)見られてる/見えているけれど、それを本人視点から描いてるのが面白いし、もしかしたらこのお話したちのように悩んでるかもしれないし、話そのものも面白さもあるけれど、彼らはどう思ってるんだろうとか考えさせられて、奥田さんそこが狙いなのか?と深読みしてしまう。

表題作でもある「町長選挙」、ぱっと読むと非常に異常な感じを受ける(前時代的というか、関西の昔のあかん感じ)のだけれど、結局はそこに見える表面的なことではなくて、住民たちがほんとに思ってること、それをうまく描いてるなーと思う。そんなバカな!的な展開をするけれど、そこにはもう僕たちが忘れてしまったことや体験することなく過ぎ去ってしまった、村的ないいところ、そういうところを思い出したりかいま見せてくれたりする。

どの話もそうだけれど、話の主人公たちそのものよりも、人と人との関係によって社会は成り立ってるし、そういうのがないのは寂しいよ、と言われてるような気がする。

面白かった!

文集文庫 2009

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奥田英朗 – 最悪


こんなタイトルだし、えらく分厚い(600ページ以上ある)のでどんな話なんだろうと読み出したけれど、これが面白くて、しかもタイトルどおり主人公たち(3人の群像劇である)が転がり落ちていくので、いや面白いというより「どうなるんやろ?」感が強く、一気に読んでしまった。いまひとつなにもやる気がおきずだらだらと退屈な日常をすごす青年、変化のない毎日が少し憂鬱な女子銀行員、そしてこつこつまじめに仕事に追われる町工場の社長。最初の青年はさておき、女性行員と町工場のおっちゃんは実際にそのへんにいそう。

それぞれがちょっとしたことから巻き込まれるトラブルや人間関係の隙間などから日常を少しずつ逸脱していく。そしてそれらがやがて結びつく・・・これだけ分厚い本だと散漫になりそうなのに、ぜんぜん退屈するところがない。また3人が介する(2人でもいいが)ときにそれぞれの視点から同じシーンを描くのだけれど、それがまたリアルな感じで、ひとつの物事を立体的に見せ、物語に奥行きが出来てゆく。ああ見事。

最悪といえば最悪だけれど、最低なことにはなってなくてよかったが、ほんとのほんとに最悪になるような感じでもよかったな、と思わなくはない。読んでるほうは気が滅入るだろうけれど。

とくに同じ自営業だからか町工場のおっちゃんの気持ちは痛いほどわかる。明日はわからない身だもんな。身につまされるな。

講談社文庫 2002

奥田英朗 – 空中ブランコ


さる大病院の陰気な地下にある精神科。そこには中年で太っててへんてこな精神科医とミニの看護服にやたらと態度の悪い看護婦がいて、2人ともやたらと注射が好き・・・とか書くとめちゃくちゃ変な小説っぽいけれど、中身はなぜかのほほんとして、ちょっとおかしくおちゃめで、ホロリとしたり。2004年直木賞受賞作。

自分にはすごく自信があるはずなのに、何か不安だ、うまくいかない、自分は何も悪くないはずなのに・・・など、その道のプロフェッショナルでも普通のサラリーマンでもいつも何がしか悩みを抱いている。この本に出てくる5人の人たちもそういう人たちだ(短編5編からなる)。飛べなくなった空中ブランコの達人、先端恐怖症のヤクザ、教授であり義理の父のカツラが気になってしかたない大学の先生、まっすぐ投げられない野球選手、そして書けなくなった人気作家。

どの人もが何が原因か分からずにうまくいかないことに思い悩む。その前に現れる精神科医伊良部。このおかしな姿のおかしなキャラの人物に翻弄され、やがて心がほどけていく。彼にはなにか癒されるというか物事の真ん中を突いているようにも見えるところがある。でも彼の言動からはそれはよくわからない。変態なのか天然なのかはたまた天才なのか。そこが面白い。

これもっとシリーズで出て欲しいなー。

奥田さんの本たちはなにか救われる感じがして好感がもてるものばかりだ。

文集文庫 2008

奥田英朗 – サウスバウンド

 

上下巻。一気に読んだ。おもしろかった。
なんか血がさわぐ物語だった。

主人公の小学六年生二郎の父母は実は元過激派。東京の 小学校での仲間との生活、不良中学生からのいじめ、そんな日常に、ちょっとしたことから起こる父がからんだ事件。そのせいで慣れ親しんだ東京を、そのとき 初めてしった父母以外の身内がいるという事実、そんなものを捨てて、家族で西表島へ移住する。しかし移り住んだその土地での島民たちとのあたたかい交流も つかのまのこと、実は住んだ土地はさる開発業者の土地で、また父母がそれとやりあい・・・・

ほんとに豊かな生活とは何が必要でなにがいらないのか?どうしていまの社会はこんな形になっているのか?沖縄(琉球)や八重山はどういった歴史をたどってきたのか?国と民、権力、金、世間、そんなものはいったい何なのか?必要なのかどうなのか?
そんなことを考えさせてくれる物語。安穏とした生活を送っていると忘れてしまっているというよりも気づきさえしない社会という名のゆがみを痛切に教えられる。

自分は何かと戦っているか?戦うのか?

角川書店 2007

サウスバウンド 上
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サウスバウンド 下
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奥田英朗 – イン・ザ・プール


精神科の医学博士 伊良部一郎のもとを訪れる一風変わった患者たちのショートストーリー5編。通常の医療では解決困難な病気?を持つ5人が一風変わった(まるでただの子供のような)医者によってなんらかの解決をみていく。もちろんこれらは今の社会に実際にあるであろう病気なんだろうけれど、ほんと奇妙やなぁ。

しかしその精神的な病に冒されている患者たちが、なんだかおかしな伊良部によって、遠回りに見えるけれど、確実な方法をもって(これはわざとなのか、天性なのか?)回復していくのが楽しい。ちょっとおかしくて楽しい。

単なるおもしろいお話としても読めるけれど、今の社会に確実に広がる新たな病魔への明るい対処法の示唆か?

文藝春秋 2006

奥田英朗 - イン・ザ・プール
奥田英朗 – イン・ザ・プール