ちょっと時間がかかってしまったけれど読了。これまでに何冊か伊坂さんの作品を読んできて、その作品たちに前の作品の人物なんかが出てくるのを読むにつれ、「やっぱり一冊目から読むべきかな」と思って手にとった一冊目「オーデュポンの祈り」。「ゴールデンスランバー」から読み始めたので、このオーデュポン~の文体がちょっと今とは違う(今のほうがより構造が明確でいろいろはっきりしていると思う)ために、最初だいぶ戸惑ったのだが、我慢して読み進んでいくうちになれて、また違う感じの伊坂ワールドを楽しむことができた。
つい出来心でコンビニ強盗を働き捕まってしまう主人公伊藤。ちょっとしたきっかけで逃走するのだが、気づいてみると見知らぬ土地にいる。そこは誰も知らない島。現在社会から切り離された場所。変わった人間ばかりがいて、さらにはしゃべるカカシまでがいる・・・・。
ぼーっと読んでいると、ただただ主人公がよくわからない島でよくわからない人たちに会い、よくわからない会話を繰り返すだけの、焦点のちょっとだけずれたへんな物語にしか読めないのだけれど、ある事件をきっかけにそれまでのちょっとした会話、人のつながり、そんなものから歯車がかみ合っていって・・・すべてのことに因果があってつながっている、という見事に伊坂さんらしく物語をまとめあげていくところが、おおー、という感じなのだが、そのタイミングがすごく最後のほうなので、いったいどうなるのかわかんないと読みながら不安になる。表から見てる分にはちんぷんかんぷんな紋様が、裏から見たら見事に均整を取れて美しい紋様になっていた、のような。
解説で吉野仁さんが書いているようにこの作品で描かれるありえない世界に引き込まれる感覚=シュール(超現実的)な感覚がこの作品の最初の醍醐味であり、そして次々に謎が出てくるミステリー、最後までわからない「この島に欠けているもの」などなどがこの作品の魅力となっている。名探偵に関する考察もおもしろい。「名探偵は事件を解き明かすために存在する。しかし誰も救わない。名探偵がいるから事件は起こるのではないか」・・・これとカカシ優午がリンクしていく。今の社会への風刺だともとれる。
「この島に欠けているものはなにか」がわかったとき、思わず感嘆の声を上げそうになった。そう!そう、本では描けない(こともないか)けれど、いつもそこにあるはずのもの。そして伊坂さんがすごく大事にしているもの。そう!
この作品を皮切りにして、今まで読んだ物語やそれ以外の物語が生まれていったのか、伊坂さんと同じ時間に同じ空気吸って生きているんだ、まだこの人から生まれていない作品にまた出会うことができるのだと思うと、うれしくなってしまう。
新潮文庫 2003