もうこのシリーズも9作目。すごいなぁ。相変わらず時事ネタをうまく取り入れて作品に生かしている。今回はリーマンショックなどの経済不況が原因のひとつとなった貧困、社会の底辺のまだ下の世界のお話が4つ。
テレビで流行り華やかなエステの世界の裏の顔を描く「キャッチャー・オン・ザ・目白通り」、街の片隅をねぐらにしている底辺労働者の実態「家なき者のパレード」、借金が生む悲劇「出会い系サンタクロース」、じわりじわりと広がる中国系社会の表と裏「ドラゴン・ティアーズ – 龍涙」、どれも実際にある話(だろうな)で、大きな視野から描かれがちだけれど、石田さんはあくまでマコトの目と耳、そして池袋という街を通して語る。だから目線が低い。なので大きすぎて実感できない社会の波が、実感できる大きさの出来事として入ってくる。
実際コンビニや最近はやりの安売り店、百均ショップなどなどモノやサービスそんなものたちがどんどんどんどん安くなっていっている。表面的にはうれしい話のように思えるが、ちょっと考えたら恐ろしい話じゃないだろうか?たとえば300円を切るような値段でつくられるお弁当。どう考えても自分じゃ作れない。たくさんつくって販売したっていったいどこに利益が?と思ってしまう。食べ物だけじゃない、さまざまなモノが(きっとどこかで誰かが作ったはず)安くなってる。ということは原価が異常に安いということだ。以前は”安かろう悪かろう”といって安さは品質の悪さ、というのが当たり前な考え方だったが、いまは悪くないものでもなんでも安い、安すぎる。サービスや労働についても同じだ。
ということは僕たちが想像する以上に社会には底辺のさらに下に底辺があり、そこでまたうごめく人々がいるということ。そんな人たちの上にぼくたちは暮らしているが、彼らの姿はまったく見えない。実際にいるはずなのに。そしてそこに巣食う魔物たち。それらも含めてぼくたちは立っている。そんなことを無視していたわけでも忘れていたわけでもなく、知らずにいままですごしてきていた。いや、考えたり知ろうとすればわかることだったのかもしれないが、それを怠ってきたのかもしれない。
安ければいい、楽だったらいい、それは魅力的な言葉だけれど、なにか形や得るものがあるのならば、それを生み出したひとがいる、ということを考え、それを通して透けて見える、そばにあるのに知らない世界のことをもっと考えたほうがいいんだろうな。
文集文庫 2011