久しぶりに伊坂さん。やっぱりいいな。とくにこの物語は語り口が軽くて(でてくる連中もなんだか軽くて陽気でいいな)すいすい読める。でも読みやすいだけじゃなくて、話の進み方、出てくるものごとの無駄のなさ(これにいつもすごく感心する)、最後に話がするりとまとまるあたり、やっぱり伊坂さんいいなぁ、とつくづく思う。
実はこの話は映画のほうを先に見ていたので(といってもずいぶん前だけど)そのイメージに振り回されるかなとかも思ったけれど、読み進めていくともう映画のことなんてでてこなくて、また新たなイメージの世界にどっぷりつかってしまった。まぁ物語りもうろ覚えだったし。いままで読んだ伊坂さんの作品の中ではいちばん理屈っぽくない、というかひねくれてないというか(どっちも言葉悪いなぁ)、物語の中でギャングの一人が限られた時間で行う演説のように、すべてが淀みなく、しかもわりに速いスピードで流れていくので、すっきりした感じがあった。かといって物足りないわけでもなく、このあたりのバランスがすごくいい。
あと、やっぱり年齢が近いせいなのか、同じ時代の空気を吸って生きているからか、セリフに含まれるほんのちょっとした物事や表現、しゃべり口、街の空気感、登場人物の(語られない)背景なんかが理由なく腑に落ちてくる感じがする。そうそう、そうよね、うん、そんな感じ、というように、ただただその”感じ”に共感するというか。
ストーリー自体はとくにびっくりするようなどんでん返しがあったりするわけではくコンパクトだけれど、ギャングたちとその周りの人間たちのキャラがたっているのでそれだけでも面白い。やっぱり響野の語りが面白いなぁ。こんな人一度でいいから一緒にお茶のんでみたいなーと思ってしまうなぁ。それでいて話したこと片っ端から忘れてたりして(笑)。あ、あとこの話が仙台が舞台じゃなかったのも、ちょっと新鮮だった(ま、ふつうなんだけれど)。
そしてもうひとつ、伊坂さんの話には音楽(ジャズ系が多いように思う)のことがいろいろでてくるけれどこの物語にでてきた『僕は誰よりも速くなりたい。寒さよりも、一人よりも、地球、アンドロメダよりも』というところにドキっとした。阿部薫よねぇ。17年前の阪神大震災の1週間後、阿部薫をモデルにした音楽劇をしたことを思い出した。懐かしいが、昨日のことのように新鮮だ。