伊坂幸太郎 – チルドレン


伊坂さん初の短編集だそう。本人いわく「短編のふりをした長編」だそうだけれど、なるほど読んでいくと分かるけれど、おもに3人を主人公として、話ごとに視点がかわっていく連作のような感じ。ただし、短編ごとに時代というか時期が前後するので、全体を通して時間の流れがわかったりする仕掛けがあるのも伊坂さんぽいか。

長編に比べてこねくり回し感が少ないのですっと読めて気持ちいい。でも短編といえどいろりろ仕掛けがあって読んでて楽しい。とくに陣内というキャラが何かと強烈ですっとするところもあればいらいらするところもあり、魅力的。彼を見ていると時間の進み具合がわかる。

分かりやすいかもしれないけれど、中では「チルドレンⅡ」が好き。ぼくたちも人生の中でなにか奇跡を起こしたいと思っている。それがどんな形であってもいいから。奇跡なんてない、と思うより奇跡は起こせる/起こると思っていたほうが幸せに生きられるんじゃないかな。

あと先天的に目の不自由な永瀬、彼が哲学的で面白いし、思考も論理的でなるほどなーとおもうところがあって楽しい。こういうキャラも伊坂さんぽいなぁ。「イン」でおもに音を題材とした話が描かれるけれど、なるほど、ぼくたち音楽に携わるものにもヒントを与えてくれるようなエピソードがちらほら。

”・・・僕は耳に神経を集中させる。耳の外側に、大きなメガホンを取り付け、遠くの音までを拾う。そういう感覚だった。僕はこういう時、川の中に立っている気分になる。(中略) 自分の身体の周囲を、水が次々に流れていく。温かい場合もあれば、冷たい場合もある。周囲の音も同じだ。僕のまわりを次々と、音が、音楽や声や雑音や騒音が、通り過ぎていく。(中略)そして、川の中を泳ぐ魚や、落ちている小石、流れる小枝、水生の昆虫、そう言ったものを手で掬うように、僕は必要な音を拾い上げる。すごく神経を尖らせて、タイミングを見計らわないとつかまえられないものもあれば、さほど苦労もなくひっかかるものもある。・・・”

なるほど。普段無意識にやっている聞く(聞こえる)という行為。もう少し見直す必要ありかと。

講談社文庫 2007

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