浅田次郎 – 月のしずく

相変わらず浅田さんの物語は暖かさに包まれている。そしてちょっぴり切ない。大人の男のやるせない気持ちがにじみ出ている。そんな物語だけれど文章がドラマチックなわけでもなく、平滑な簡単な言葉で淡々とつづられていく。そのおかげで主人公達の気持ちがひたひたと心にはいりこんでくる。

表題作でもあるコンビナートで荷役をしつづけ30年以上という男がある月夜の晩に偶然出会った若い女との数夜を描いた「月のしずく」がとてもいい。やっぱり年をくうとこういう物語が沁みてしかたない。聖夜に今でも愛してやまない昔の恋人に出あう「聖夜の肖像」、抗争で追われる身となった男を匿う役目をおった若い男女「銀色の雨」、幼少時代を過ごした土地を探す/辛い男女の物語「琉璃想」、残念な理由で飲み過ぎて電車を乗り過ごしてしまった男女の一夜「花や今宵」、まじめ一本だった男がブラジル行きを目指す「ふくちゃんのジャックナイフ」、自分を捨てた母に会いにイタリアへゆく「ピエタ」。いまさっと読み返してみてもどれもいい話。ほんと、いい話だな、と思える。

じんわり味わえる本はいい。

文集文庫 2000

“浅田次郎 – 月のしずく” への2件の返信

  1. 初めて浅田さんの本を読みました。
    どの話もぐっと心に入ってきて、切なさの後にほんのり灯りがともった様な感じ。
    どの話からも『誠実』という言葉が思い浮かびました。『誠実』で居る事は当り前のようで、難しい。
    そして『弱さ』に見える事が実は『強さ』だったり、『虚勢』は『怯え』だったり…そんな事を感じました。
    個人的には『聖夜の肖像』と『ピエタ』に共感。作者は男性だけど、女性主人公だからだろうか?

    つとむさんの読書、これからも参考にさせていただきますね^^

  2. Mさん
    浅田さんの本はほんといいですねぇ。切なくてあったかくて。で、中年のおっさんの気持ちそのまんまのような気がします。なるほどたしかに誠実という言葉がぴったりきそうです。正直とか。ほんとどの本読んでもいいなーとおもえるので、浅田さんもっとぜひぜひ。

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