伊坂幸太郎 – あるキング


努力と才能で野球界における怪物(異物)といわしめるほどの打者になった王求(おうきゅう)。彼のその数奇な運命の人生を描く物語、と書いてしまうとすごく単純なものなのだけれど、そうなのかそうでないのか。いままでの伊坂さんの作品のように複雑で見事なパズルを解いて行くようなものはなくて、ちょっと面白い運命の輪があるぐらい。

今回のテーマは冒頭に引用される「マクベス」の”Fair is foul, and foul is fair.”。「きれいはきたない、きたないはきれい」などいくつか有名な訳がある言葉。この物語はいたるところでこのマクベスの言葉や物語そのものが出てきたり、解説で柴田元幸氏が「野球をテーマにしている物語を念頭において描いた、と作者がいっていた」というようなことを書いているのだけれど、残念ながらどれも読んだことないので、そのあたりの面白さはわからないのだけれど、伊坂さんは”絶対的なものはない”と言っているんだと思うな。けれどもその”絶対的なものはない”ということすら絶対ではなくて、けれども”すべては相対的なものである”かといえばそうでもない、という、まさに現代の感覚という感じか。

ま、そういうこともありつつだけれど、サクセスストーリーというのとはちょっと違うけれど、この主人公がどんどん成長して行くのをみるのは面白いし、いろいろトンチの効いた言葉でてくるし、面白い物語だった。いまちょっと読み直してみたけれど、ずるずると最後までまた読んでしまいそうになった、あぶないあぶない。

しかし最近(?)伊坂さん適当に当て字すんの流行ってるのかなぁ。「仙醍市」とか「東卿ジャイアンツ」とか(笑)

徳間文庫 2012

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