江國さんのちょっと不思議なファンタジーというかおとぎばなしというか。子供向けの感じかというとそうでもなくて、恋のおはなしでもなくて。でも不思議な感じがするところも、なんだかへんてこで頑固な部分があるところも江國さんらしくて好き。
ある街で郵便局を探しているうちに迷いこんだ世界は、いまの時間からきりはなされた別の世界で、おんなのこは「おんなのこ」という存在で、お皿は「お皿」として存在する。ここでは何もかもが決して変わらない。そんな世界にふとした偶然から(それは望むことはできず、どこにあるかもわからない)どこかにある’すきま’から落ちてしまう主人公とその世界に住む「おんなのこ」との友情の物語。
その世界では落ちてきたひとはすべて「客」なのだ。主人公は「おんなのこ」のお客さんとしていつ終わるかわからない(これまたふとしたタイミングで戻ってしまうのだ)その世界で過ごす。最初はなにもわからずぎこちなかった関係も、幾度か出会ううちに、静かに友情のようなものが芽生えて行く。いつ落ちてしまってもその世界は変わらない姿をしている。
過ぎ去る時間や想い出、そういうものを「おんなのこ」の視点から新鮮なものとして発見することができる、そんな物語。
集英社文庫 2005