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カズオ・イシグロ – 日の名残り

はじめて読むイシグロさん。子供の頃から英国に渡って住んでいる方だそう。英国文学はとくに読んだことない(イシグロさんの場合、外国人による英国文学。それが英国人には描けない視点での英国文学になっていると解説で丸谷さんは言う)のだけれど、なんとなくお堅いイメージなんだろうかとページをひらいた。

時代は20世紀初頭ぐらいか。スティーブンスという執事は自身の仕事の一番大事なことは「品格」であると認識し、その道を邁進しつづける真面目な男。長く仕えたダーリントン卿がいなくなり、新しくやってきたアメリカ人の主人ファラディから少し旅にでておいでと提案を受け、ある目的も兼ねて短い旅にでる。その旅先で思い出す昔のダーリントン卿時代の栄華、執事としての自分の人生。そして執事とはいったい何者であるのかという自己分析。美しい英国の田舎風景や人々との交わりもあるのに、彼は自己回想ばかり繰り返す。

旅の目的でもあったある人に会う時が近づくにつれ、思い出は鮮明になり、自分がどう生きてきたのか、それは良かったのか、それが明確には描かれないけれど、スティーブンスの微妙な気持ちの揺れとなって読者につわたってくる。伝統的に、正しく、品位をもって生きてきた。それは古いやり方だけれどもとても大切にすべきこと。しかしそのために失ったこと、間違いを正せなかったこと、そういうものがいくつもあった。だが、それは誤ったといえるのか?正しいと信じきってそれを遂行しつづけたことは無駄なことだったのか、間違ったことだったなのか?

スティーブンスの自己肯定とそれが産んだ結果のあいだで悩む姿に、英国という国のあり方が透け見える(そう)。哀しくなるかもしれないけれど、ほんのりした気分になる作品だった。

土屋正雄訳

ハヤカワepi文庫 2001

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