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2014-08

池井戸潤 – 下町ロケット


いやあ、面白かった!ストーリーが単純というわけではないけれど、はっきりしていて読みやすかった。登場人物もだけれどやはりロケットや技術、町工場、大手重工業なんてシチュエーションも面白いわけで(自分の経験してきたこととかと重なるし)。もちろんこの「下町ロケット」が直木賞を取ったときから気になっていたのだけれど、池井戸さん面白い。文章がわかりやすくてすいすい読めてしまった。理系の話だからかな。

長年ロケットエンジンの研究を続けていた主人公佃はある国家的プロジェクトで失敗し、その責任を感じて辞めてしまう。そして父の築いた町工場を引き継いで社長業をしていた。小型のエンジンを主力製品とする工場だったが、大口契約の取引先からの取引停止や、ライバル企業からの特許侵害訴訟などあって資金繰りに窮してしまう。一方佃自身はロケットへの憧れを捨てがたく独自に研究をすすめていた。その研究の結果取得した特許が、大手重工メーカーの一大プロジェクトの根幹を為す技術であったために、佃製作所を揺るがす騒動に。大手企業と町工場の攻防が(それ以外もあるけど)面白く、そして実に現実的に描かれる。

この話ほんとに面白いなと思ったのは、僕がこの本で描かれるところの帝国重工という企業(現実にはM重工ですな)のようなとこにいたからというのが大きい。だから帝国重工側の人間の立ち振る舞いやら考え方やら組織のありかたなんてのがよくわかる、というか、そうそうそんな感じよねと思わされた。そして町工場。ぼくの父は小さな町工場をやっていた。しかも企業を退職して。この本で絵が描かれるような大きな町工場でもないし、特許をとったり何かを開発したりするようなところではなく、黙々と小さな部品(とくに自転車部品だった)を作るような工場だったけれど、働いている人がみんな家族のようで喜びもつらさも分かち合うような場所だった。描かれる佃製作所はもっと大きな工場でたくさんの人がいろんな考えをもって働いている設定になっていて、働く人たちはここは自分の職場なんだ/金をもらう手段でしかないのだとかいろんな風に思っているんだけど、危機に際すると一致団結するような感じになるあたり、ああ日本の工場だなあという(単純すぎるかもしれないけれど、実際そういうところあるし、そうあってほしい)気がした。僕が育った町の小さな個人経営の工場はみんなそんな感じだったから。

しかしこのお話、夢があっていいな。国産のロケットやジェット機などというものはある技術者たちにとっては長年の夢。それらは戦後解体され多くの技術や人を失った日本の企業が明に暗に持ちつづけてきた夢でもある。まだまだ現段階では純国産で飛ぶものというのは作りにくい(技術的なものもあるだろうけれど外交的なことも大きいだろうし)んだろうけれど、この本で描かれるようなことが現実になったら、うれしいだろうなぁ。そう、スポーツや文化もだけれど、なにか自分たちの技術と力だけで何事かを成し得る、というのは人々や国とか社会にとっても大きな力になるものだと思う。大きな、それこそ国家的なモノ作りは下手をすると談合だ癒着だ天下りだと、モノや技術者とは関係ない世界からの横やりでマイナスイメージが大きくなる感があるが、現場にいる人間たちが大きな夢あるモノを作るというのは何者にも代えがたいロマンがある。単純に「やった!」感が。そういうことを共有できれば、また違う面からこの国を誇れると思うのだけれど、今そういうのすごく希薄で寂しい。モノ作りは金にならんから、もっと安く作れる国があるから、そんなしょうもない理由で先細って行くのは悲しいことだし、生み出されるモノや技術者に失礼。もっともっといろいろできる技術と人間がこの国にはある、と思っていたい。

話が大きくそれちゃったけれど、大企業と町工場が対峙する下りはよその国とこの国の対峙に似ているかもしれない。やっぱりモノ作りは楽しいし、夢がある。この国や人々に足らないのは夢やロマンだ。

解説で村上貴史氏が池井戸さんのいろんな作品を紹介しているので、また見つけたら読もうと思う。池井戸さんおもしろい、しばらく癖になりそう。

小学館文庫 2013

吉村昭 – 仮釈放


あるお店Jに閉店間際にいったときに「好きなのもっていきー」といわれてもって帰ってきた本のうちの一冊。なんとなくタイトルだけでもらったのだが、なかなかいい作品だった。

教師という社会的立場もあった人間だったが不貞から妻を殺してしまった主人公。自身が為したその行為におののき模範的な服役生活を送っていたが、やがてその態度を認められ仮釈放されることになった。16年後の社会に戻った彼は戸惑いながらもその社会生活になじもうと努力する。そして一定の社会復帰はできたはずだった。しかし彼は16年前の行為を悔いていなかったことに気づき戸惑う。それに気づいたとき彼は自身のその感覚から逃れることはできるのか?

獄中生活、そして仮釈放の手続きや主人公の心理的な変化、仮釈放後の社会への恐れの描写など、普通想像しても描きにくいことがすごく細かく描かれているので、よく取材した作品なのかなと思う。獄中ものや釈放された人間を扱った作品も数多くあるんだろうけれど、こういう視点はなかなかないのでじゃないかな。すごく興味深く読めた。と、同時に主人公の心のありどころがよくわかり、恐ろしくもあった。犯罪を繰り返してしまう人間。それは悲劇。

1991 新潮文庫

東直己 – 探偵はバーにいる


たしか大泉洋さんか誰かが主役でドラマか映画になったのあったよなー、と思って手に取った本。初めて読む東さん。札幌に住んで、まるでこの物語の主人公のようにいろんな仕事を転々とし、どうやって生きてるのかわからん怪しいでもかっこいいおじさまのよう(でも物語の主人公は20代後半)。最近札幌行くことも少なくないので、札幌というあの大きくも田舎ででも整理されててでもごみごみしている不思議な魅力ある街の別の顔も知りたくて読んでみたい。

札幌で便利屋のようなことをしている主人公”俺”に舞い込んだ一つの厄介そうな話。同棲している彼女が帰ってこないらしい。簡単で面倒な話かと思っていたが物語はいろいろな人間関係を巻き込んで怪しげな方向に転んで行く。。。。

まあ、とにかくよく呑む主人公。読んでるだけで酔いそう。朝(昼?)ごはんとともにバーボンストレート2杯とかそんな調子だし、どこの店にいっても一定量以上呑むので、ほんと主人公に入り込んでしまうと本当にそんなに呑んだ気分になっていしまい、酔いはしないものの、「えーと明日の予定大丈夫だっけ?」とか物語(の中で飲み過ぎているなと誤認してる感じ)と現実がごっちゃになってしまうw。

札幌の街の感じとか周辺の土地勘がないとちょっと物語について行けないところもあるけれど、ほとんどススキノで話は進むのでそうややこしいことはないけれど、現実にありそうな(場所はそうだがビルとか)ものもでてくるので知らないと景色思い描けなくてちょっと悔しい。でもこの物語が書かれたのは1992年だからだいぶ街の景色や雰囲気も違うんだろうな。今の札幌しか知らないからなぁ。

酔っぱらった気分になっているからか物語の展開にうまくついて行けない(登場人物を把握しきれなかったり、お店がたくさんでてくるので区別できなくなったり)ところもあったけれど、物語はいろいろな人間を巻き込んで軟着陸する。そのあたりがスキッとした感じでもないのが、またいいのかもしれない。

なんせハードボイルドなのに、ちょっとふにゃっとしたところもあったりするけれど、この主人公”俺”がかっこいい(完璧でないけど)、いわゆる男、なのでこの後も気になるところ。ちょっと続きも読んでみようか。

ハヤカワ文庫 1995

重松清 – 口笛吹いて


相変わらず重松さんの描く文章はやさしい。とくにこの本におさめられている物語は弱きものに優しい。何かでつまずいたり、時代についていけなかったり、正直だけど不器用な人たちが必死に生きる姿を暖かく見守る感じ。

幼い頃近所にいた野球のヒーローと再会する「口笛吹いて」、全く生徒に感心を示さず淡々と授業をする毎日の教師を描く「タンタン」、リストラにあった父親を負け組だと決めつける息子「かたつむり疾走」、臨時代理教師の苦悩「春になれば」、嫁子どもが出て行き途方にくれる男の家に不思議な老人が遊びにやってくる「グッド・ラック」。どの物語も小品だけれど、なにか心をくすぐられる。というのはやっぱり歳を食ったからなんだろうか。ちょうどこの本が書かれたころ重松さんも同じ歳ぐらいだった。

中年の苦悩と諦観と少しの希望・夢。うーん。哀しくもまだ捨てられない。

文春文庫 2004

有川浩 – シアター!


子どもの頃ちょっとだけ引っ込み思案だったおかげでいじめられ、兄だけが遊び相手だったという巧は父の才能を受け継いだの話を作るのがうまく、やがて演劇にのめりこみ劇作家として劇団を主宰するまでになる。が、ファンが多いとはいえ彼が主催する劇団「シアターフラッグ」は多くの小劇団と同じように貧乏劇団。しかも劇団の方針を変えようとしたことから劇団員が激減、おまけにずっと見えていなかった負債が300万もあることが判明。

そんな危機的状況で巧が泣きついたのは兄・司。会社員として普通に働く司から見れば劇団の経営はずさん極まるものだった。そこで兄が負債を肩代わりするために出した条件、それは「2年間で劇団の収益のみでこの金を返せ」だった。

ふとしたきっかけで見に行った劇団から着想してこの物語を書いたという有川さん。相変わらずアンテナが広いというか、敏感。この物語をいろいろつくりあげる弟・巧の感じって有川さんそのものなんじゃないだろうか。小気味いいテンポで軽すぎず重すぎず、でも内容と背景はしっかりあって、ちょっと薄いけどいつもの恋愛要素もあって、と有川さん得意なパターン。でもぜんぜん劇団のことなんか知らなかった人が3ヶ月でこんな劇団よく知ってる人のような感じで物語を作り出せるもんだろうか?ほとほと感心。

読んでいて、以前劇団に参加させてもらったことをいろいろ思い出した、もうずいぶん前だけれど。練習はほんといくらやっても足りないし、何もないところにお客さんに景色を見せようとするといろいろ道具もいるし、それが大掛りになればなるほどいろんなものが必要になって大変になる。でもそんな苦労をしょってまで(結構肉体的にも精神的にもお財布にも厳しいw)しても芝居をしたい人はたくさんいる。でも「貧乏と芝居は3日やったらやめられない」(だったか?)と言われるように、あれは面白い。独特の世界。非日常にすべてを没頭できるということは、本を読んだり、映画をみたり、ゲームにのめり込んだりすることなどよりもっともっと刺激的でかつ現実から乖離できる(夢の世界で遊んでいられる)楽しさを与えてくれるので、やってみたらわかる、癖になるもの、なんだと思う(そう思った。また芝居やりたい!一度でいいから映画でたい!)。

この「シアター!」まだ続きがあるはずだから、はやく読みたい!

2009 メディアワークス文庫

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