阿刀田高 – コーヒー・ブレイク11夜

初めて読む阿刀田さん。というか男性作家の本を読むのは久しぶり。11の短編を、コーヒーを飲みながらすごす11の夜にたとえて、という洒落たタイトル。

どれもすこしリアルさがあって、ごく身近な誰かのお話のよう。ちょっぴりヒヤリとするかんじ。どのお話も至極リアルで実生活的な星進一ショートショートのような読後感(ちょっとしたどんでん返し)があって、面白いのだが、それが実にリアルなので、ドキッとしたり。

あーあとやるせなくなってしまう「あなたに捧げるブルース」、ロマンチックな「骨の樹」、皮肉な結末「不完全な男」あたりが面白かった。

やっぱり男性が書く文章ってすこし角があるというか、現実的というか、理路整然としているところがあって気持ちいいけれど、もっとアンニュイなんがすきなのよねぇ。

文集文庫 1984

山田詠美 – 色彩の息子

初めてもしくはかなり久しぶりによむ山田詠美さん。色をテーマ(モチーフ)にした12の短編集。どれもすこし物悲しいというか刹那的というかゆるやかに鋭利な感じがする。やるせなさ、妖しさ、とかとか。

世の中にいろんな色があるように、人間関係にもそれを象徴するような色が存在する。身分や位、なにかを示すためにも色は使われる。もちろん気持ちを表現するのにも色はたくさん使われる。見るものだけでなく空想にも、夢にも、色がないことでさえ、色といえるのかもしれない。我々は色を忘れて生きていくことなんてできない。

これらの短編はよそ事のようであって、実は身の回りにある物事を色で象徴して書いてあるよう、いや、自分のことを描かれているようにも思えてしまう。色を通して自分の気持ちが透けて見えるようだ。だからこそ、読み進めたくないような、怖い錯覚を起こしてしまう、くらくらする。

また、本の装丁が面白い。各話にその話を象徴する色の色紙がはさんである。そのページだけ眺めていると綺麗な折り紙なんかを想像してしまうけれど、話の上の色だから、見つめているとその物語がより一層迫ってきてしまう。何か怖い。単に話が怖いのか、リアルな世界が怖いのか?

新潮文庫 1994

乃南アサ – 幸せになりたい

人間だれしも幸せになりたい、そう願うのは普通のことだ。でも少し願い方を誤ってしまう(世間の常識からずれたり、願い過ぎたり)と、幸せからは程遠いところにたどり着いてしまう。そんな歪んだおはなし7つ。

不甲斐ない男か玉の輿か「キャンドル・サービス」、奪った愛人の魅力も奪えたか「背中」、出世欲にとりつかれて「お引っ越し」、母は女性だった「たのしいわが家」、思わぬ形で反撃が「口封じ」、手紙は受け取り方次第「挨拶状」、今日まで恋人明日からは愛人「二人の思い出」。ああ、どれも面白い。けど、ちょっとゾッとしたり。好きなのは「背中」と「二人の思い出」かな。

ほんのちょっとしたことだけれど、人間の愚かなところ、小さな心理、おかしくない程度に病的なことなんか描かせたら乃南さん、うまいなぁ、とほとほと感心。男性、女性両方の心理をよくわかってるなぁ。

祥伝社文庫 1999

乙一 – 暗黒童話

彼にとっては最初の長編だそう。もうタイトルからぞくぞくっとくるような感じで期待してページを繰る。やはり乙一さんらしく、冒頭からいきなり彼独特の世界があふれ、予告もなくその住人にさせられてしまう。鴉、目の見えない少女・・・・

作品全体に漂う雰囲気、なにか明るくてもすこし昏い感じなのも、普通絶対ありえないような設定がでてきても、それが自然に存在しているかのような描写、トーンが見事で、どんな変なことが書かれていても、うん、と頷いてしまえる文章の力強さというか押しの強さというか、決して押し付けがましくはないのだが、静かに強く断定されてる感じなんかがたまらない。

作品自体もすごく複雑に入り組んで章立てになってて、絵本の部分と物語の部分が表裏になってたり、世界がクロスしてたり、どろどろと現実と仮想が溶け合ってしまってるのも見事。だらだらと書いて長くなったのとは全然ちがって、最後までペースも変えずにゆるりとどろりとまとまっていくのがいい。しずかに「え?」て結末になるのも。

見事。

集英社文庫 2004

田口ランディ- ほつれとむすぼれ

エッセイ集。たくさんの短いエッセイが含まれているので、少しずつ丁寧に読めるし、彼女の息遣いやその時の心の揺れがダイレクトに伝わってくるようで、とても吸い込まれてしまう本。

細かな感想はさておいて、基本的にこの人が大好き。きっととてもかわいい人なんじゃないんだろうかと勝手に想像しているんだけれど、文章からも、その飾らないというか正直な、わからないことはわからない、右往左往したり苦しんだり悩んだりしている姿をそのまま描いて、それがカッコつけてるようでカッコ悪いなーということをそのまま正直に書いてるとことか、素の彼女の姿が(彼女自体はそれをカッコ悪いとか偽善的だとか言うかもしれないが)透けて見えてくるようで、すごく好感が持てる、というか共感できることがある。もちろん意見の食い違いはあったとしても、それは食い違っているものでそれは悪ではない、というニュアンスで対峙することができる。

小さなことに揺らされ、しょうもないこと(でなかったとしても)に悩み、喜び、そんなことたちを正直に紡いでいっている文章は何か読んでいるというより、話しているような気分になる。そう、確か以前も彼女の文章にはそういうことを感じた。そういうところがとても好きでいいなと思う。

たどたどしいと言われるかもしれないけれど、言葉では滑らかに伝わらないからこそたどたどしくなる、そのたどたどしさに何か生きるヒントをもらえるよう。素敵。

角川文庫 2008

奥田英朗 – 空中ブランコ


さる大病院の陰気な地下にある精神科。そこには中年で太っててへんてこな精神科医とミニの看護服にやたらと態度の悪い看護婦がいて、2人ともやたらと注射が好き・・・とか書くとめちゃくちゃ変な小説っぽいけれど、中身はなぜかのほほんとして、ちょっとおかしくおちゃめで、ホロリとしたり。2004年直木賞受賞作。

自分にはすごく自信があるはずなのに、何か不安だ、うまくいかない、自分は何も悪くないはずなのに・・・など、その道のプロフェッショナルでも普通のサラリーマンでもいつも何がしか悩みを抱いている。この本に出てくる5人の人たちもそういう人たちだ(短編5編からなる)。飛べなくなった空中ブランコの達人、先端恐怖症のヤクザ、教授であり義理の父のカツラが気になってしかたない大学の先生、まっすぐ投げられない野球選手、そして書けなくなった人気作家。

どの人もが何が原因か分からずにうまくいかないことに思い悩む。その前に現れる精神科医伊良部。このおかしな姿のおかしなキャラの人物に翻弄され、やがて心がほどけていく。彼にはなにか癒されるというか物事の真ん中を突いているようにも見えるところがある。でも彼の言動からはそれはよくわからない。変態なのか天然なのかはたまた天才なのか。そこが面白い。

これもっとシリーズで出て欲しいなー。

奥田さんの本たちはなにか救われる感じがして好感がもてるものばかりだ。

文集文庫 2008

乙一 – 平面いぬ。

めちゃ久しぶりに乙一さん。以前読んだのはドロドロして怖くて、なにか次元や時間がずれてしまっているような不思議な話ばっかりだったけれど、この本は表題の「平面いぬ。」を含めて4つのこれまたちょっと不思議で少し切ないお話たち。

目が合ったものは石になってしまうという伝説のある街で幼い頃に失踪した母親を探し不思議な場所に迷い込む「石ノ目」、ちょっとした嘘からうまれた想像上の女の子がやがて意識の上では実在してしまう「はじめ」、不思議な布でつくられ命をもってしまった5体の人形の一つは切れ端で適当に作られた醜いできそこないだったため他の4体にいじめられてしまう「BLUE」、ちょっとしたことから彫ってもらった犬のタトゥーがある日動き、鳴くようになってしまう「平面いぬ。」

どれも短編ですっと読めるというのもあるんだけれど、それだけじゃなくて、ネタであるとか話の展開の仕方であるとか、すごく上手くて面白い。とくに気に入ったのは「BLUE」と「平面いぬ。」。突飛なアイデアと不思議な世界観でぐいぐい引き込まれるし、短編なのになんだか濃い内容だし、少し寂しいような切ない気持ちにさせてくれる物語のまとまりかたとかたまらない。

4つの話がどれも全然違っていていい。どれもすこしお化けぽいかもね。

集英社文庫 2003

乃南アサ – いつか陽のあたる場所で

東京のある街のすみっこでひっそり暮らす芭子(はこ)、そして友人というにはちょっと年上の綾香。彼女たちがあまり目立たないようにしているのには理由があった。彼女たちは塀の中にいたのだ。

そんな設定でのおはなし。全く知らない世界だから、あまりにも芭子がおどおどしたり、おとなしすぎたりすることにイライラしてしまうが、そうか、そんなふうに考えてしまうのか、世間は(自分も含めて)きっと同じような反応をして、刑期を終えて償った人間を同じ一種類の人間として見てしまうだろう、そんなことがショックだった。重罪を犯した者も軽微な罪で悔い改めた人間でも、塀の中から出てきた人間に対し、そうでないものたちは異常なまでの興味を示すか、蔑んでしまうだろう。数多の出所者たちがまともに社会復帰できない理由のひとつもそこにある。

主人公の2人も同じように出所してきたことを知られることを異常に怖がる。当たり前だ。でもなんとか社会の隅で生き抜こうとする。でも知られるのが嫌だから思い切ったこともできず、人目につかないようにし、家族からも絶縁され、セクハラを我慢し、何を生きていったらいいのかわからない。普通ならばいろいろ文句のひとつも言えるようなちょっとした世間の悪意に翻弄されてしまう。

それでも若者にドジ呼ばわりされながらパン職人に挑む綾香の姿や、少しずつ近所の人を受け入れる芭子の姿、彼女たちのたくましい生き様を見ていると何がしか勇気をもらえる。

これらの物語はシリーズになっていくそうだが、とても楽しみだ。
重里徹也さんの解説もいい。

新潮文庫 2010

荻原浩 – サニーサイドエッグ

「ハードボイルド・エッグ」の続編。今回もハードボイルドに憧れるもなりきれない探偵最上俊平が難事件に挑む。

前作が犬がらみだったからか、本作は猫がらみ(笑)。しかもロシアンブルー。ロシアンブルーって猫の中でもちょっと違う感じよねぇ。そしてもうひとつのキーワードは”2”というか表裏というか、ダブルというか。。。同時に同じ種類の猫の捜査を頼まれる最上。ひょんなことから押し付けられた秘書(?)の派手な女子高生とともに気楽に調査を始めるが、その裏になにやらややこしそうな影が・・・・

2作品続けて読んだためか、今回はなんとなく展開が読めたというか、前作に少し構成が似ている気がする。最上のいちいちうっとおしいまでのマーロウ度が減っている気もする。が、同じく前作で関わりをもったマーロウを愛する警官とのやりとりはなんか面白い。

テンポ感もなんとなく落ち着いた感じだったけれど、やはり前作同様すすすっと読めた。なんでもない愚痴を聞いてるつもりがいつの間にかえらく重い人生相談の解決を請け負ってしまったかのような滑らかさ。でもこの作品のいいところはシリアスなもの描いているのにシリアスになりすぎない味付け加減。だから軽く読める。でもちょっと考えさせられる。

というのと、やっぱ猫がたくさん出てくるので猫好きにはちょっといい(笑)猫をよく観察してるなーと思われる箇所多数。だし、猫についてまたいろいろ知ることできた、かも。

創元推理文庫 2010

荻原 浩 – ハードボイルド・エッグ

フィリップ・マーロウに憧れ、その言動を真似て生きていく孤独な探偵最上。ハードボイルドな生き方とその探偵業に憧れるが、舞い込む以来はペット捜索ばかり。ある日秘書にと雇おうとした女性は憧れのグラマーではなく和装の婆さん。一体この先どうなるのやら?

軽妙な語り口と、最初からテンポのある文章で、矢継ぎ早に場面や対象が変わっていくので、車にのって車窓を眺めているように飽きずに物語りがつづいていく。そのこまかな事柄たちが実はひとつずつ小さな伏線となって気づくと大きな崖の淵にきている、というような見事な構成。すばらしい。でもそれらがシリアスにならないのは、自称ハードボイルドだけれど、なにかしら抜けのある主人公最上と、時折口にするマーロウのセリフのギャップ感とかユーモア。

やがて一人の身近な人物の殺人事件から、おおきな土地権利取引のウラ話が浮上し、そこに絡むヤクザ、そしてペットの犬。すべてが綺麗に解決するかと思いきや、実は巧妙に糸を引いていたのは・・・・。悲しく驚きの結末。うーん、おもしろい。

双葉文庫 2002