村上春樹 – 雨天炎天―ギリシャ・トルコ辺境紀行

村上さんのこういう旅の文章ってほんとおもしろい。普通の紀行文とか旅の記録みたいなのとは実に違ってるから。なによりもあくまで主観的立場を貫き続けられる姿勢(当たり前か)、全体的なことより自分が見て感じたあまりにも細かいディティールに関する考察の多さ(笑)、そして文句が多いこと(笑)。もちろん村上さんには会った事ないけれど、人柄がにじみ出てるし、ちょっと意固地インテリっぽいところさえ素敵。

前半はギリシア正教の聖地アトス(半島)の修道院を巡る旅、そして後半はトルコを車で旅する。もちろん行ったところのことのみ記しているけれど、そこで見聞きしたことから村上さんを通して文章としてつづられるこの2つの場所の魅力とまったくそうでない部分、人々の暮らし、国というシステム、日本にいる間には絶対理解できない生き方、そんなものが克明に、かつちょっとひねくれて描かれていて楽しい。でも楽しいだけじゃなくて、ふーんと感心したり、行ってみたくなったり。

この人が書くと「実にしようもない場所である」と書かれたとしても、行ってみたくなっちゃうから不思議。

新潮文庫 1991

浅田次郎 – 地下鉄に乗って

兄の死、父との葛藤、なにかフシギな恋人。地下鉄の構内にあるしがない衣料メーカーに勤める主人公と地下鉄をめぐる不思議な旅。

たしかに地下鉄は空は見えないし、ぼーっとしていると地の底へ、違う時空間へ連れて行かれるような気がすることがある。

割と軽く読めたけれど、実は時代としては重たい題材よね。
細かいけれど、怖かった混沌の時代がさらっと描かれてる。

講談社文庫 1999

田中啓文 – ハナシにならん!―笑酔亭梅寿謎解噺2


前作があまりにおもしろかったので、連続して一気に読んでしまった。

一話完結的な要素は薄まり、前の話がつぎの展開へとつながっていくようになり、竜二こと笑酔亭梅駆の成長記的などたばた劇となっていく。これまた楽しい展開。落語とミステリーという枠組みでなくて、梅寿や梅駆、そして江戸落語の担い手たち、魅力的なキャラクターがたくさんでてくる物語に変化しているあたりが見事。飽きさせずに読ませる。

江戸と上方の比較がしばしば出てくるのだが、これが、なるほどへーっというものばかりで面白い。落語文化をしらないからそう思うのかもしれないけど、お互い認め合うものもあり、確執もあり、ってところが音楽業界と同じかも。もしかして田中氏は両方を掛け合わせて(氏は両方詳しいから)無意識に描いたのかも。たしかに関西にいると東京はそう見えるし、逆もまた然り。これを肯定的に見るか否定的に見るかで先がかわってくるよなぁ。

本書には8編含まれているが、どんどん話が広がっているからか、ひとつの話がふくらんで結構きつきつになってるかも。もっと頁さいてもいいような気がするなー。お話がもったいないかも。

粋、江戸なら「いき」、上方なら「すい」、うーーーーん、なるほど。

集英社文庫 2008

田中啓文 – ハナシがちがう!


前々からのこの著書が気になっていたのだが、なかなか手に取る機会がなく、今まで読んでなかったのだが、ああ、なんで早く読まなかったんだろ!めちゃめちゃ面白いやん。古典落語+ミステリー、田中さんなんて目の付け所いいのだろ。「落下する緑」のジャズ+ミステリーってのもいいけれど(でも割とくっつき易そうな感じはするが)、こっちのほうが断然面白い。というか、ふつうに落語の世界の話としてもおもしろいし(田中さんは結構落語の世界にもぐりこんでいるらしい)、古典落語の題材と謎解きがうまく掛け合わせてあるその掛け合わせ具合も見事としかいいようないし。

師匠梅寿と弟子竜二(そののち梅駆)もすばらしくいいキャラになってるし、舞台やら楽屋やら、実際にその場にいる気持ちになってしまえるぐらいきちっと描かれた様子がすばらしい。

前からすこし落語そのものに興味があったけれど、この本でほんとに興味が湧いてきた。いっぺん観にいきたい。んで、落語によって昔の上方の空気を感じてみたい、です。

集英社文庫 2006

江國香織 – 間宮兄弟


実は前に映画をみたのだが(江國作品とはしらず)、あんましよくわからず、なんだかぼーっとした映画だなーと思ってしまい、途中で観るのやめてしまったのだが、原作を見つけたのでそっちを読んでみることにした。すると、面白い。すごく江國さんぽいし、「へんな兄弟がいる物語」というのが実にユーモラスで、やっぱりおかしくて、静かだけれど確実に何かが壊れる感じがしたりして、この2人に親近感がわいてしまう。実際目の前にいたら、最初の印象はわるいだろうけれど。

だれしもみんな私は普通だと思ってるかもしれないけれど、どこかへんてこなはず。でもそのへんてこなのが普通なのであり、へんてこだから生きていて面白いのだし、悩んだりもするのだろう。つるつるの玉もいいけれど、でこぼこしたじゃがいもも可愛い、みたいな。

原作読んだら、映画もきっと楽しめてみれるかな。でもこの兄弟が佐々木蔵之介と塚地武雅(ドランクドラゴン)てのは、ちょっと違うかなーと思うんだけどな。

小学館文庫 2007

栗本薫 – 謎の聖都(グインサーガ128巻)

ミロク教の聖地ヤガに潜入して、その様子を探ったり、知人を探す日々のヨナとスカール。怪しげな気配がせまる中、魔導師のはたらきもあり、会いたかった人物をみつけたが、気づかぬうちに状況はすでに最悪の方向へ向かっていっており、ヨナの身に危険が・・・・

ああ、物語が急展開してくるわ、秘密がなんだかじんわり見えてくるわ、ケイロニアの様子も急変するわ(外伝一巻とのカラミがより鮮明に)、とこの先を読むのが非常に楽しみになるような巻なのに・・・ああ。

あとがきがないのがめちゃくちゃ淋しいです。

ハヤカワ文庫 2009

藤堂志津子 – 情夫

30~50代の女性を描いた短編5編。女性が女性のために女性の視点で描いた小説だとおもう。もしかしたら男性は話を理解はできるけれど、気持ちはわかんないかも。かくいう自分もわかりきりはしない。そしてその年齢にならなければ、実際にリアルに感じることはできないかも。

若くはない、と自分で思っている女性たちの息づかい、ことばたち、性、内面がいやらしくなく描かれる。どれも必要以上でなく、足りなくもない感じ。女性は共感するし、男性はへーっと思うのかも。実際男の視点から描かれた女性像と女性が思う女性のリアルな感情ってのはこんなに違うものか、いかに世に流れる女性像が男性がつくりあげたものがおおいか、なんてことを感じる。

どれも短編ですっと読めるけれど、なにげに深い。

幻冬舎文庫 2009

村上春樹 – 海辺のカフカ

ずいぶん前に出てたのは知ってたけれど、文庫本になるのを待ってたのと、なんとなくこの人の長編って、ほいっと手に取って読むような気になれず、読みたいなとおもって読むというタイミングが必要な気がする。

一度読んだだけだとなんともレビューかきにくい。

でもこの物語は村上さんの小説のなかでは読みやすいかも。あまりにも観念的になりすぎたり、よく読んでもわかりにくい細かなモチーフでてきたり、理解するまで時間がかかる登場人物がでてくるってわけでもないので、それでも「なんだろ」って思う部分は多々あるにせよ、まだ読みやすいかなーと思ったり。

少年のはっきりいってできすぎた大人びた理屈のわかってるような人間性の間にふと見える子供っぽさとか、ちょろっとでてくる女の子がちょっとワルっぽくてでもかわいい性格してるとか、妙なキャラが突然出て来て物語のキーを握ったりするとことか、なんか村上さんぽくていい。

というか、猫としゃべれるようになりたい。

新潮文庫 2005

 

 

栗本薫 – 遠いうねり(グインサーガ127)

これで栗本さんのグインサーガは終わっちゃうのかな?だとするとものすごく悲しい。話の展開も少し新展開がみえてきて、いまだ物語には話の上でしかでてこなかった聖地ヤガが登場し、ミロク教のいまの姿が垣間見えてきたところだというのに。

また、ついに外伝一巻とのつながりがあるのであろう部分が登場、ここでつながるのか!と驚き、うなり。

少しずつ物語の輪が閉じようとしている矢先だったのに。

悲しい。

ハヤカワ文庫 2009

宮部みゆき – 長い長い殺人

いろんなものを擬人化して主人公にして描いた小説は数あれど、財布が主人公の小説ってのもなかなかないんじゃないかなぁ。10章(とエピローグ)からなる小説でそれぞれ主人公(事件に関係する人物がもつ財布)が入れ替わり、関連すると思われる4つの殺人事件に臨んでいく。その描き方も見事だけれど、事件のまとめかた、謎の明らかになっていく過程も見事。

決してややこしくなることもなく、すいすいと読めるのに、複雑に入り組んでいて、でも読みにくくなく、と、お話としても小説の構成としてもすばらしい。主人公が財布ということで、人間のように見聞きするわけもできず、持ち主の行動に伴って何かが明らかになったりしていくやりかたが面白い。また財布にも持ち主によって性格があったりして、これまたおもしろい。

いやー、見事。

光文社文庫 1999