宮部みゆき – 火車

結婚を目前にあるちょっとしたことから失踪してしまう女性を探していくうちに、彼女のもつ様々な謎が浮き上がってくる。それは彼女が本当は違う人物であって、戸籍からなにからその人物になりかわっているの可能性がある、という仮定に基づく推理だった。彼女はなぜそんなことが必要だったのか?

結構大作で読むのが大変かな?ともおもったけれど、構成とネタがしっかりしているので、前半の謎が謎をよんでいく展開から、後半徐々に謎があきらかになり、その背景にある社会の暗い一面が浮き彫りになっていくにつれ、読むスピードもはやくなり、そんなにタフだとは感じなかった。

この本では宮部さんはわりと人間の暗い部分やら、人の悲しい部分を描くというよりは、どちらかというと、カード社会、金のシステム、についての警鐘を発したかったのだろうか。まんがの「なにわ金融道」を読んでてもでてくるのだが、ほんのちょっとした借金が雪だるま式に大きくなってその人の人生を破壊してしまう、という例は枚挙にいとまがない。それでも昔は貸し借りがはっきりしていたし(人対人で行われていた)、返済能力のないものには金は貸さなかった。でも現代のカード社会は、クレジットやキャッシングが氾濫し、利用している者はそれが単なる借金であることを忘れ、貸す方も無尽蔵にまわすものだから、ふとしたきっかけで借金地獄におち、あとは絵に描いたように「カタにはめられてしまう」。そんな入り口があちこちにあるのに、人はあまり気づいていない。しかしこのカード社会ももうすでにこの国の一大産業になってしまっており、いまさら後戻りすることは不可能なのもまた事実。

借金をつくって自ら破産するような人間は、所詮その人間がわるいのだ。。。普通ならそう思ってしまうけれど、果たしてそうなのか?それは弱い人間だからなのか?それとももっと他の理由があるのか?などなどいろいろ考えさせられる題材。さすが宮部さん。

謎解きのときにやたらとたくさんのヒントを与える人物がでてくるあたりはちょっと辟易したりもしたけれど、ま、実際の話だったとすると、警察やらその他事件を解決していくような過程においてはいろんな人/物から少しずつヒントを得て、それをパズルのように組み合わせていくんだろうから、そんなもんなんだろな、と。

新潮文庫 2008

宮部みゆき – 長い長い殺人

いろんなものを擬人化して主人公にして描いた小説は数あれど、財布が主人公の小説ってのもなかなかないんじゃないかなぁ。10章(とエピローグ)からなる小説でそれぞれ主人公(事件に関係する人物がもつ財布)が入れ替わり、関連すると思われる4つの殺人事件に臨んでいく。その描き方も見事だけれど、事件のまとめかた、謎の明らかになっていく過程も見事。

決してややこしくなることもなく、すいすいと読めるのに、複雑に入り組んでいて、でも読みにくくなく、と、お話としても小説の構成としてもすばらしい。主人公が財布ということで、人間のように見聞きするわけもできず、持ち主の行動に伴って何かが明らかになったりしていくやりかたが面白い。また財布にも持ち主によって性格があったりして、これまたおもしろい。

いやー、見事。

光文社文庫 1999

宮部みゆき – ステップファザー・ステップ

ひょんなことで忍び込もうとした家のとなりの家の住人(双子の兄弟)につかまってしまい、しかもなぜか「お父さん」と呼ばれ、奇妙な関係がスタートする、職業泥棒と双子のおはなし。

ちょっとしたミステリーやマジックぽい話のネタやストーリー展開もいいけれど、このまったくの他人同士の間に時間とともに生じてくる一種家族のような気持ちや意識の通じ合いがどんどん濃くなっていく様子の描き方が見事というか。話自体はわりと軽いのでさっさかさーと読めるのだが、そんな擬似親子の気持ちの通じ合い、そして実際の社会とのギャップでの悩み、それによる不信、などなどまるで恋人の話のよう。おもしろい。

講談社文庫 1996

宮部みゆき – 幻色江戸ごよみ

また宮部さんの時代もの。時代劇時代劇しすぎていず、普通に現代ものの時代を300年ぐらい前に持ってきました~的な普通な感じがいい。

今 回はすこしオカルトチックな短編が12話。どれも結局人情がらみっぽいところが宮部さんぽいところか。どれもかなりの貧乏暮らしの人たちが主人公になって おり、その描写が見事。すごく読みやすい文体なのに江戸時代の風俗(っていうても知らないけれど)がありありと眼前に浮かぶ。

幻色江戸ごよみ
幻色江戸ごよみ

宮部みゆき – 淋しい狩人

東京の下町、荒川土手下にある小さな古本屋田辺書店の店主イワさんとその孫稔の周りで起こる小さな事件たちを描いた短編集。それらはすべて何かしか「本」にかかわる事件なのだ。

本というものを介してつながる人や場所や時間。そういう連作ってのもなかなかいいアイデアだなーと思う。さらにそれに加えて一話完結の形をとりながら、主人公であるイワさんと稔の人間関係の変化を短編をまたがった時間軸で描いていってるのもすばらしい。

短編なのでするっと読めるけれど、やっぱりどこか人間の哀しさをじんわり感じてしまう、そんな物語ばかり。

淋しい狩人
淋しい狩人

宮部みゆき – かまいたち

宮部さんが時代物書いてたってしらなかった。それで驚いて手にした一冊。デビュー当時に書かれたものをまとめた短編集。

時代小説にしては あまりいわゆる時代物のように読みにくさとか複雑な時代背景をしらないと理解しにくいような物語ではなく、すごく読みやすいなという第一印象。解説におい て笹川氏が書いているように、宮部さんは現代ものと時代物との書き方の区別をいい意味でしていないよう。たまたま素材が時代的だったから時代物だというよ うなトーン。なるほどねぇ。

いわゆる謎解きものではなくて、コロンボのように(ふるい?)犯人やら結果が読者にわかっている上で、人間の 物語を描いていくのが宮部さんらしい。あまりおどろおどろしくもなく、えぐくもなく、かといってあっさりもしてないので読み進むごとに楽しい。よくできて るなぁ。デビュー当時からこれか、すごいなぁ。

かまいたち
かまいたち

宮部みゆき – R.P.G.

久しぶりに宮部さん。今回もいいミステリー。というか劇中劇じゃないけれど、すばらしい展開。最後までどうなるのかわかんなかった。

これまたネットなお話で、ネットだからこそこんな風になりうるよねー、と思えるのはネットで結構遊んだ人だけかもしれない。だからネットをあんまりしないひとにはこの物語の肝心な感じ、というかこういうふうになるっていう感覚がわかりにくいかも。

メ ル友というのも考えてみると実際に不思議な人間関係なのだが、ネットの世界でももちろんそうで、やろうと思えば(思わなくてもやってしまう部分もある)自 分を違うキャラに仕立て上げたり、もっといけば違う人格になれたりする。リアルの世界とは違う次元だから、最初にそうやって存在してしまえればそういう人 物になりうる。

そうであるがゆえに、揺さぶりがあったときなどにその人格(キャラ)は崩壊しやすい(と思う)。ゆえにネットの関係とリ アルの関係がなかなかうまく結びつかない。だからネット社会での人々の人間性については悪く言われる場合が多いんだと思う。リアルの社会の通念からする と。

でもネットのなかだけで通用するものをもっていてもいいかもしれない。現実社会のしがらみからはまったく独立していられるから。けれどもやはりそこは弱い人間のあつまり、いったん実体にも興味をもってしまうと、混同してしまいがちだと思う。

何かいてるかわかんなくなってきた。
こうやってこの文章を書いてるキャラだって、自分のそのまんまか、といわれると、ちょっと疑問だし。ネット上に存在する自分っていったい自分の何なんだろう。

R.P.G.
R.P.G. – Amazon

宮部みゆき – 魔術はささやく

これってだいぶ昔の本だったのねぇ。また古本で買ってきて読んだ。宮部みゆき読むのは初めてかな?

ミステリーだけれど、単純でなくて、この話は奇をてらわないように、うまくプロットされた別の物語、シーン、人物たちが、じんわりと結びついていって、どんどんタネが明かされていくのだけれど、いくつかの大きなテーマがあって、それがまた関連づいてるという、結構複雑な話なのに、あたまがこんがることもなく、すきっと読める、話も夢中になってしまえるぐらい面白い。

きっとすごい才能ある人なんやなーと勝手に想像。

人や社会にあるひずみや暗い部分をうまく拾い上げてるように思う。他の本も読んでみたいな。

新潮社 1993

宮部みゆき - 魔術はささやく
宮部みゆき – 魔術はささやく