石田衣良- 美丘


相変わらず石田さんのこの手の話は美しく、美しいがゆえにうねる波のように猛々しく、激しく、圧倒的なスピードで過ぎ去っていってしまう。

章立てが短くて、すべて過去形で書き始められる文なので、あっという間に読んでしまう。というか読み出したらとまらない。そして物語りも転がり落ちていくようにスピードアップしていく。悲しい寂しい恋の物語。

そのひとがそのひとたるゆえんは何か?姿形?声?考え?
それが失われていくということは、どんな気持ちなのか?そのひとは?そのパートナーは?

めったにないことのはずなのに、すぐとなりでおきてしまいそうな、そんな気持ちがわらわらする、物語でした。

角川文庫 2009

石田衣良 – 池袋ウエストゲートパーク6(灰色のピーターパン)


IWGPの6冊目。今回も4つの短編。今回もやっぱり面白い。ちっとも飽きない。やっぱりネタの面白さ、と、石田さんの話の切り口のつくりかた、そして魅力的なキャラクターたちがいるから、だろうなぁ。

とくに2編が気に入った。傷害の被害者と加害者の間をえがく「野獣とリユニオン」、無認可の保育園を取り巻く問題を描く「駅前無認可ガーデン」。当たり前に 存在している社会問題を、暗くなることなく、やたらとドラマティックすることもなく、両方ともうまくわかりやすく描いてるのがすごいとおもう。

仲間っていいな。

石田衣良 – アキハバラ@DEEP

漫画やらドラマにもなったんかな?この作品。やっとこさ読んだ。すごく分厚いけれど、すっと読める。革新的なサーチエンジン「クルーク」を生み出した6人の天才たちとそれを奪おうとする大手ソフト会社がアキハバラで戦う。

あ まりよくしらないけれど何かとイメージが先行するアキハバラという町の風俗や人々、それに数年前までのITバブルのときのコンピュータ関連の世界的な熱 気、そんなものがごちゃまぜになった雰囲気がよく伝わってくる。そのなかで苦しみながら立ち上がっていく主人公たちの冒険談がすごく楽しい。なにかやって やるぞ、という気持ちがわいてくる。

ストーリーは実際にごろごろしていそうなもの。秋葉原やこの業界に縁のない人には気持ち悪いかもしれ ないけれど、ごく普通なことだ。ストリートファイトがあるんかはわかんなけれど。きっと石田さんのことだから、また綿密な調査をしたんだろうなぁ。AIっ てのがどこまでプログラミングできるのかはよく知らないけれど。

この先どうなっていったかも、読んでみたいなぁ。書いて欲しい。

アキハバラ@DEEP
アキハバラ@DEEP

 

石田衣良 – 眠れぬ真珠

17歳年下の彼と恋に落ちていく版画作家の女性「黒の咲世子」。年の差ゆえに、生きる世界が違うがゆえに、彼女はこの恋を一時のもの、彼がもとの世界へ巣立っていくまでのものとしようとするが。。。

とても美しくて、とてつもなく哀しい。そして淋しい。

自分が同じような年齢になってきたからなのか、同年代の女性の気持ちもすこしは分かるようになった気がする。そんな気持ちで読むと、異性のことなのに自分が同化してしまう。咲世子がまるで自分のような気がしてきてしまう。こんな話みたいなことになったらどうなるんだろ。

し かし石田さんすごい話書くなぁ。たしかに解説で小池真理子さんが書いているように、まるで女性が書いた作品のように、この妙齢の女性の心理を見事に描き出 している。そんな40代の女性の心理や行動や生態を描くという点でも、版画作家そして映像作家とはどんなものかという点でも、読んでいて、なるほどと思う ことばかり。やはり石田さん相変わらず観察眼も知識も想像力も豊か。すばらしい。もちろん小説としても見事なバランスとテンポだと思う。

文章中からなるほどと思う事ひとつ。

「そう。女はね、二種類に分かれるの。ダイヤモンドの女とパールの女。光りを外側に放つタイプと内側に引きこむタイプ。幸せになるのは、男たちの誰にでも値段がわかるゴージャスなダイヤモンドの女ね。真珠のよしあしがわかる男なんて、めったにいないから」
「ダイヤの女は幸せになれて、パールの女は幸せになれないの」
「そんなに人生は単純なものじゃない」

なるほどなぁ。

眠れぬ真珠
眠れぬ真珠

石田衣良 – 愛がいない部屋

神楽坂にそびえるある高層マンションの住人たちの恋愛短編集。それぞれの部屋でそれぞれの住人がそれぞれの悩みをだかえる。そびえる塔はいまの社会の縮図のよう。

10 ある短編のどれもがどこかよくて、哀しくて、なぜか想像で東京の白くかすんだ空を窓から眺める図ばかり思い浮かんでしまう。中でも本を読むだけの愛人とい う設定の「本のある部屋」が好き。老齢になっても人は恋をするんだという「落ち葉焚き」、ニートの息子と窓際の父親が涙する「ホームシアター」もいいな。 子どもをもたないから、母親にはなれないからわからないで生きていくんだろうけれど、子どもをもった母親の気分がすこしわかる「十七ヶ月」もいいな。

あとがきで名越康文氏が書いているけれど、”愛”ということばがどんなに危険かと。抜粋

” (前略)僕は「愛」ほど善の顔をして日本を徹底的に支配したものはないと思う。日本人を明治時代以前「愛」という言葉を使わず、その瞬間の気持ちを自分な りに考えたり、表現したり、感じ取ったりしてきたはずです。(略)「愛している」ということは絶対に正しいと信じることで、その実態のほとんどが支配であ り、不安であり、呪縛であるということから目を背けてしまっているのです。(略)たとえば「愛してる?」という言葉で相手との関係を確認しようとするよ り、「今朝のパンの焼き方どうだった?」「ああ、おいしかった!」という何気ないやり取りから汲み取るほうがより正確に関係を実感できるのではないかとお もうのです。現代の日本人が人生において怠惰で、身勝手になってしまったのは、国民全体が「愛」という言葉のトリックにひっかかってきたためだ、とこの小 説を読んで僕は勝手に確信しました(後略)”

なるほど、たしかに実際のことじゃなくて、言葉のひびき、イメージ、勝手な想像に振り回されてるな。

愛がいない部屋
愛がいない部屋 – Amazon

石田衣良 – 下北サンデーズ

下北に居をおく小劇団「下北サンデーズ」のサクセスストーリー。劇団という小宇宙のなかだからこそ起こる人間関係の浮き沈み、劇団員というすごく魅力的か つかなり変わった人間たちの喜怒哀楽、下北という不思議な街(知らないけれど、そうなんだろう)、それらをコミカルにテンポよく描いていて、すごく軽く読 めて面白い。ちょっとだけ舞台にあがった経験があるから、すごく親近感をもって読めたのもよかったのかも。

ほんと近寄らなかったら全く知 りようのない世界、劇団・舞台。外からみてると貧乏臭くて暗くて堅くて支離滅裂でおかしな人間ばかりいるような世界ってイメージだったけれど、いやいや、 あそこには魅力的な人間(ばかり?)がたくさんいるし、誰よりも人間とか世界とか笑いとかリアルとかフィクションとかそんなんを真剣に見つめてる人たちが いるし、狭い世界だからこそ見える世界の縮図みたいなものがある。そういうことたちを素晴らしく瑞々しく描いていると思う。

また舞台に上がりたくなるなー。

下北サンデーズ
下北サンデーズ – Amazon

石田衣良 – 反自殺クラブ(池袋ウエストゲートパーク5)

5冊目、今回もスピード感リアル感があって読みやすくて読み応えあって面白い。でもまぁちょっと話の度に新しいキャラがでてくる(そりゃ話のネタだから当然なのだが)ってパターン(とくに新登場かつえらく派手なやつ、みたいな)には、すこし飽きてきたかも。

4 編あるうち、若くてかわいくて人なつっこい風俗のスカウトマンの話「スカウトマンズ・ブルース」と日本やそのほか先進資本主義諸国のしょうもない大量消費 のために陰で労働力の提供ばかりさせられ、しかも劣悪な環境のために姉が死んでしまう「死に至る玩具」が好き。身近にこういう中国人がいないから、北京オ リンピックが終わった今もあまり中国に対するイメージがかわらない(昔のまま)。アメリカ人とかもそうだけれど、国とか全体にするとへんこりんでも、個人 個人はいいやつ、みたいなこともあるはずだし。

表題の「反自殺クラブ」。昨今は睡眠薬や練炭よりも、洗剤等の混合化学ガスによる自殺がおおいけれど、これらも発端はネット。2004年に書かれたみたいだけれど、石田さんてほんといろんな流行の先読んでるよな。すばらしい。

反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉
反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉 – Amazon

石田衣良 – 電子の星 池袋ウエストゲートパークIV

4冊目。4つの短編。やっぱり面白い。たしかにこうやって続けて読んでいると、話口とか展開が似てもなくないので、飽きてしまいそうになるけれど、でもそこはネタの面白さ、新しさ、意外さなんかのほうが勝るわけで、飽きはしない。

「東 口ラーメンライン」「ワルツ・フォー・ベビー」はふうんという感じだったけれど、「黒いフードの夜」は実際こういうことがいまもあるんだろうなー、という 少年売春とその背景、よその国の出来事だけれど目の前にある事、この国では考えられないようなこと、そして流れてきた外国人にとっては日本は本当は夢の国 なんかじゃないという事実にうーんとうなり、表題「電子の星」はたぶんほんとにこういうアングラSMの世界があってと想像が膨らんでしまう一作(漫画だか テレビかでみたような気がする)。

面白い。また一気読みしてしまった。

電子の星 池袋ウエストゲートパークIV
電子の星 池袋ウエストゲートパークIV – Amazon

石田衣良 – 骨音 池袋ウェストゲートパーク3

3冊目。飽きない。面白い。よくこんなけネタを思いつくな~という感心よりも、実際リアルタイムで(本書が書かれた頃ならまさに旬なネタだったろうな)街をよく観察してるんだろうなー、とひたすら感心する。

全 4編中「骨音」と「西口ミッドサマー狂乱」の2つが音楽(音)関連なだけに、かなり興味惹かれた。音やらライブ、そしてアーティストの感じなんかの描写な んかも、~っぽい、って感じでなく、限りなくリアルで飾りのない、そんままな感じの描き方されていて、本当にすごいなと思う。実際すこし田舎の山頂でやる 野外のライブの開放的な感じ、なんでもオッケーて思ってしまえるようなあの雰囲気って、実際に言って知ってないと絶対描けないだろうし。”音の速さ”なん て、体験しないと書けない表現だろうし。

すごいなぁ。あー、面白かった。一気に読んでしまった。

骨音―池袋ウエストゲートパーク3
骨音―池袋ウエストゲートパーク3 – Amazon

石田衣良 – 少年計数機―池袋ウエストゲートパーク2

ウエストゲートパークシリーズ2作目。今回も池袋の路上からさまざまな事件がおこり、トラブルシューターの真島誠が立ち上がる。

今回 は、ネットの覗き部屋に住む女の子、LD(ラーニング・ディスアビリティ)の少年、新鋭銀細工デザイナー、非合法の売春宿・・・・、今どれも実際にある (いる)ものたち。石田さんはこれらの素材をごまかしなく徹底した視点と描写で見事に描き、それが主人公真島の視点と口から、「~ぽい」感じじゃなくて、 まさにそのまんま20代前半の青年の語り口で語られる。だからもしかすると少し読みにくいのかも。実際少し時間かかるし。でも、一度この語り口になれる と、もう読み手さえそのストリートの住人であるかのような錯覚さえ覚えてしまう。自分の視線の先の出来事のような。

しかし、一体、どんなフィールドワークしてるんやろ。面白すぎる。

少年計数機―池袋ウエストゲートパーク〈2〉
少年計数機―池袋ウエストゲートパーク〈2〉 – Amazon