石田衣良 – 池袋ウエストゲートパーク

石田さんの本は相変わらず視点がするどく面白い。かなり今風な若者たちストリート系の話を、また若者たちの言葉で、でもそれらに詳しくないものたちにも、なぜかわかる(とくにそういう雰囲気がすごく良く伝わってくる)書き方で、いまの世相なんかをびしびしと。

池袋の片隅で果物屋を手伝う主人公真島誠に舞い込む数々の難題たち。池袋の街、ストリートからそれらはやってくる。それらをストリートのチームやら、警察やら、ときには組関係やらと関わりながら解決していく。こんなにいろんな人間関係持ってると楽しいだろうなー。

こういう風俗の描写の徹底さ加減もすばらしいけれど、起こる数々の事件(この本ではおはなしは4つ)の話の組み立てもとても面白い。すごくなるほどなーという展開するし、でもやっぱりストリート、こんな池袋界隈ならではの話題だし、ほんと石田さんって徹底しててすごいな。

池袋ウエストゲートパーク
池袋ウエストゲートパーク – Amazon

石田衣良 – 1ポンドの悲しみ

著者本人いわく「三十代の恋愛」を描いた短編10編集。結局のところは解説でも著者がいうように「三十代前半だった」そうだけれど、それでもちょうどその世代にあたる自分にはダイレクトな感触のある物語だった。

素敵な恋と逃げられない現実。そのいちばん分かりやすい狭間にいるのが三十代か。いろんな恋愛のかたちがあるけれど、夢見るだけでは生きていけない。でもそこにはなにがしかの生きる原動力がある。

ほんと、小品ながらにいい話ばかり。品のよさも読み心地よくていい。

集英社 2007

1ポンドの悲しみ
1ポンドの悲しみ – Amazon

石田衣良 – 約束

不幸なできごとのために、人生の時がとまってしまったひとたちが、またその時をきざみはじめる、そんな様子を描いた短編7本。

これ、も のすごくいいお話ばかり。いい、というか、勇気付けられる、というか、心のどこかや背中のどこかのスイッチを押されるような感じがする。大げさでなく、小 さな、でも深刻な、日常にありそうな、そんな悲しい不幸な出来事。それはそれを体験した人にしかわかんないだろうけれど、大なり小なり他人も共感できる。 そういった共感者になれる、そんな本。

個人的には「夕日へ続く道」と「ハートストーン」がすき。

こんなことめったに思わないのだけれど、折に触れて読み返したい本。

角川書店 2007

約束
約束 – Amazon

石田衣良 – LAST

ほんとこの人のかく小説群はどれもリアル。リアルという言葉がリアルさをなくすほど現実的、というか現実的ではなくて、”まさにいまそこにあること”という感覚か。ドキュメントでもない。ほんと今進行してることのように思える。生々しすぎるというか。

LAST、ということでいろんな人間の最後の何か、を描いた短編集。どの話もすごく現実感を伴うので、読んでいて胸がえぐれそう。怖い。きつい。ドキドキする。

なかでもひとつ、ラストホーム、という話。ある男が職を失い(怪我が原因で)、家を失い、ホームレスとなって公園のビニールハウスに居をうつすのだが、そうなる男、そしてそこにいついている人たちの暮らし、それと関係なく佇む現実社会、そんなものが自分のこれからとすこしオーバーラップしてしまう。不安。

講談社 2005

石田衣良 - LAST
石田衣良 – LAST

石田衣良 – 4TEEN

またまた石田さんの作品。彼はこの作品で直木賞をとった。本人はあぁいう直木賞にあるような重厚な文章感のある小説でないのになぁ、と漏らしてたらしいが(あとがきかなんかに書いてた)、いやいや、いまの時風をほんとうまく描いてると思うな。すごいよなぁ。

この人の描く少年たちの素顔はほんと飾らなく、大人の希望的観測もはいってなく(多分)、ほんと、今生きている10代の子たちの気持ち、行動などを実に的確に表現してると思う。もしかして相当のリサーチをしたのか、すごくわかりやすい事例がそばにいるのか、はたまた彼がまるで10代の少年のような感覚をもっているからか、わかんないけれど、読んでみて、なるほどこんな風に感じてるのかなー、僕らの頃と一緒のところはいっしょだけれど、違うところ、進んだところ、寂しいところがあるのね、なんてことが感じ取られる。

物語的には現在東京版(ま、正確には千葉だが)スタンド・バイー・ミー的なものなのだが、やっぱり、あぁいうような、「こんな少年達だったらいいねぇ」「平和ねぇ」っていうところじゃなく、ほんと隣に住んでそうな、まさに今の子供たちって感じがする。

だから、いま、子育て中の父親とか、中学の先生とかに読んでほしいな。なにかヒントがあるかも(無責任な意見だけれど)

新潮社 2005

石田衣良 - 4TEEN
石田衣良 – 4TEEN

石田衣良 – うつくしい子ども

殺人者になってしまった弟を持つ兄をめぐる物語。犯罪後の家族やまわりの大変さがうまく描かれている。いつぞや似たような本を読んだな。

それよりもこの石田さんの本でつくづく感心するのは、少年たちの心理・行動・文化をよく見てるなーと感じるところ。大人たちには理解しがたい行動や思考をする(と感じる)彼らを、実に的確に描いている。なるほどそういうふうに考えるのか?と思ってしまう。まるで作者自身が少年であるかのよう。

いまのお父さん世代の人が読むと、自分の子供を理解できる助けになる、かも。わかんないけど。

しかし子供たちは残酷。で、かわいそう。単に無邪気なだけでいられたらいいのに、今の子供たちは社会の部分部分に器用に自分をあてはめ、場合場面で使い分けられる。だから本当に落ち着くとこがどこかわかんない・・・といったそんな気持ちが描かれてるように、思う。

文芸春秋 2001

石田衣良 - うつくしい子ども
石田衣良 – うつくしい子ども

石田衣良 – 娼年

最初、高級売春クラブ(ただし女性向)が舞台のエロ小説かとおもった。でも実は全然違う。これは面白い。

筋はさておき、主人公はつまるところスカウトされて、高級娼夫となっていろんな女性と出会うのだけれど、まず感心したのはそのセックスの描写の巧さ、というか描き方で、完全にエロいのだけれど、いやらしくない。スポーツ新聞とかのああいう小説とは違うのね。ぎりぎりのところで品があるというか、とても現実的なリアルな描写なのに、グロかったり、エロすぎたりしない。あと、男性作家なのだけど、限りなく中性っぽい感じ、女性が書いたものとも多分違う。あくまで男の視点で描かれているからか。

主人公の目を通して、いろんな女性の欲望の形がでてくるのだけれど、それもまた「へー」と目からウロコなこともあったりして、なるほどーとおもったりして。奥深いというか、男って単純だなーとおもったりして。

なんだろ、知らないというか考えたことないことがたくさん描かれているので、すごく興味が湧いたというか、新しいチャンネルができたというか。うまく書けない。いうても大きなひとつの道だとおもって横をみたら、無数のたくさんの道があった、というような感じか?

書いててよくわかんなくなったけれど、とにかく面白くて一日で読んでしまった。でも電車で隣から覗かれたくはないな、恥ずかしいもん。

集英社 2004

石田衣良 - 娼年
石田衣良 – 娼年