田口ランディ – 馬鹿な男ほど愛おしい

田口さんの赤裸々なエッセイ集。彼女の(たぶん)実体験に基づく恋のエピソードがたくさん。彼女が振り返るととても恥ずかしいけれど、その分とても楽しく、素敵だった恋の話ばかり。どれも面白い。

ほんと自分に対しても人に対してもまっすぐな彼女のすがたが目に浮かぶ。まるでテーブル差し向かいでお茶でもしながらしゃべっているような錯覚を覚える。

素敵だなぁと思いつつも、羨ましくもあり、そして少し寂しい。

新潮文庫 2005

田口ランディ – 富士山

ほんと久しぶりにランディさん。なかなか出会わなかったのもあって読んでなかったけれど、久しぶりに読むと、心がわしづかみにされるというか、胸が苦しくなるような文章、突き刺さってくる感情、という感じか。

富士山が近くに遠くにある風景がらみでの短編4つ。夢と現実の境目がうすくいったりきたりしてしまう人間関係がうまく構築できない男、そして女の「青い峰」、中学生たちが冒険の末に出会ったもの、人の生き死にとは「樹海」、閑静な街にそびえるごみ屋敷の住人の本当の顔とは「ジャミラ」、産院の看護士という仕事に悩む女性が女性ばかりの富士登山ツアーに参加する「ひかりの子」。どれも面白いし、どれもぐっとくる。

今まで読んだランディさんのホンとはだいぶ違う感じがする(こちらのほうが好きかも)。これまでに読んだ彼女の本はもっと自分の内面を直接的にさらしだすような感じだったけれど、それにフィルターがかかって、読み物的になってる、というと書き方悪いけれど、彼女のものとは違う、彼女が生んだ物語というような。

富士山、実際遠くからしか眺めたことないけれど、どんな山なのだろうか。確かにあの山にはほかの山にはない何か威厳、もしかしたら人々が信仰することによって築き上げられた大いなる畏怖の念みたいなものを、日本人は心のそこで共有しているのかもしれない。そんな山と比較した人間の小ささ、おろかさ、そして命というもの。お話としてではなく、なにか教え考えさせられる小説だった。

文集文庫 2004

田口ランディ- ほつれとむすぼれ

エッセイ集。たくさんの短いエッセイが含まれているので、少しずつ丁寧に読めるし、彼女の息遣いやその時の心の揺れがダイレクトに伝わってくるようで、とても吸い込まれてしまう本。

細かな感想はさておいて、基本的にこの人が大好き。きっととてもかわいい人なんじゃないんだろうかと勝手に想像しているんだけれど、文章からも、その飾らないというか正直な、わからないことはわからない、右往左往したり苦しんだり悩んだりしている姿をそのまま描いて、それがカッコつけてるようでカッコ悪いなーということをそのまま正直に書いてるとことか、素の彼女の姿が(彼女自体はそれをカッコ悪いとか偽善的だとか言うかもしれないが)透けて見えてくるようで、すごく好感が持てる、というか共感できることがある。もちろん意見の食い違いはあったとしても、それは食い違っているものでそれは悪ではない、というニュアンスで対峙することができる。

小さなことに揺らされ、しょうもないこと(でなかったとしても)に悩み、喜び、そんなことたちを正直に紡いでいっている文章は何か読んでいるというより、話しているような気分になる。そう、確か以前も彼女の文章にはそういうことを感じた。そういうところがとても好きでいいなと思う。

たどたどしいと言われるかもしれないけれど、言葉では滑らかに伝わらないからこそたどたどしくなる、そのたどたどしさに何か生きるヒントをもらえるよう。素敵。

角川文庫 2008

田口ランディ – 昨晩お会いしましょう

女性が主人公の4つの短編集。それぞれの女性はみんなすこしさびしさをもっている。男に振られたり、裏切られたり。でも彼女たちはその彼女の彼、愛人、浮気相手、そんな男たちを全身全霊で愛して、嫌って。それでも少し悲しい。

女 性と男性の人の愛し方はきっと根本的にちがうんじゃないかと思う。女性は染み込むようで、男性は包み込むようで。お互いの欲し方も違うに違いない。でも女 性は女性、男性は男性でお互いの事はほんとうは感覚的には理解できない。でもそんな分からないことを少し理解させてくれるのがこういう小説たちだ。没頭し て読んでいると心も体も女性に鳴ったような気がするときがある。綺麗に描かれなくとも、この短編たちのようにリアルにえぐく、でも節度ある物語たちは、分 からない世界の扉をすこし開いてくれる気がする。

あとがきがいい。

昨晩お会いしましょう
昨晩お会いしましょう – Amazon

田口ランディ – 神様はいますか?

いろいろランディさんの本読んでるけれど、こんな本あるって全くしらなかった!!!

このひとのお話や、実際の体験やら、行動やら、もの の捉え方やら、そんなんがどれも好きで、彼女の本は見れば手に取って読んでいる。だからこの人の書くものたちがとても好きで、きっとこの人の事も好きなん だろうなーと思っていたが、この本を読んで確信した、というと大げさだけれど、気づいた事。

どうやらこの人に憧れている、というより、 この人は自分の代弁をしてくれているような気がする。もっというと同じようなこと考えて同じように悩んで、自分では抽象的すぎてうまく言語化できないよう なもやもやとした気持ちや考えや何か(としか書けないような体の中のもの)を、なんとか人に伝えられるようにと果敢に言語化してくれているような気がす る。この本のいくつかのお話(この本のテーマは編集者があらかじめ用意した12のテーマについて答えるという形式になっている)については、まったくおな じ気持ちというか、文字になって初めて「あ、そうだそうだ、そうなんだ!」とすっと腑に落ちたり、「なるほど、そうか、そうだ、そうだよな!」と激しく共 感できるものだった。

さっと飛ばし読みしてしまうと、もしかしてそこらにあるような言っちゃ悪いがしょうもない啓蒙本やら、生き方指南 みたいな類いの書物の読みやすい版かな?とか思われてしまうかもしれないけれど、そんな本たちよりも、もっともっと生臭くて、じたばたしていて、汗まみれ で、生きている感じ。すばらしい。この本読めてよかった。

また挿入されているしりあがり寿先生のまんがが最高。芸術のある到達点だ。

神様はいますか?
神様はいますか? – Amazon

田口ランディ – できればムカつかずに生きたい

表題を含む、26編からなる短編集。いろんな時期に書かれたものを3つのカテゴリにわけて収録している。ランディさんの本をたくさん読んでいると、「あの ころの話かなー」とか「ああどこかで読んだ事あるな」のような話題が多いのだが、そうでないものもあるし、そういったものもまた読んで、微妙にトーンが 違っているので面白くよめる。

やっぱりこの人の文章というか、語り口が好き。「どうして?なぜ?」と自他に問う姿勢が好きなのかも。そして、自分が感じたことを難しい言葉をつかわずに、なぜあんなにストレートに伝わるようにかけるのだろう。今回もいくつも「はっ」とする言葉があった。

特に好きなのは「寺山修司の宿題」という編。ねこの絵本の話にはほろりとしてしまった。

できればムカつかずに生きたい
できればムカつかずに生きたい – Amazon

田口ランディ – 忘れないよヴェトナム

ランディさんがまだ大分若い頃にふとしたことから偶然にも訪れるベトナムの旅行記。

96年頃に書かれた本なので、もしかするともうベトナ ム(とくにホーチミンとか)はダ大分様子がかわってしまっているのかもしれないけれど、この本を読んでみても、一度訪れたくなる国。ホーチミンからはじま る旅行は、その文章からも、あのアジアの南方の特有のむっとするような湿度と、街の騒がしさがつたわってくる。行った事ないけれど、なんとなく想像でき る、アジアの街角たち。

しかしこのときのランディさんはベトナムが気に食わなかったみたい。それは彼女の状態がよくなかったからかもしれ ないし、ベトナムと彼女の波長があわなかったからかもしれない。なので、彼女は10年前にたまたま友人からきいた「メコン川に沈む夕日を見る」という目的 をもってメコンデルタへと出かける。そこは何か彼女にひっかかるものがあったらしく、カントーという街を中心に彼女はだらだら居座ることになる。なんか、 うらやましいなぁ。

旅行記といっても、話の中心は出会った人間のことが大半。しかも偶然こんなにいろいろ出会うか?というぐらいいろんな 人がでてくる。それらはベトナム人だけではなく、旅行をしてる日本人、外国人、さまざま。こんな人たちに出会える旅というのは、ほんと楽しいんだろうな。 でもそういうことができるのも、彼女の持ち前のバイタリティからだろう。本人はそう思ってないかもしれないけれど、ほとんどしゃべれない英語を駆使して人 とつながって行く様子はうらやましくもありほほえましくもあり。いいな。

でもほんとは外国にいくって、旅行ということは楽しくても、煩わ しいこと(とくにこういう国々にいくと)も多いだろうし、危険もたくさんある。それでもやはり旅することに憧れるのは、もともともっている素質なのか、そ れとも旅というものが抱かせる幻想なのか。こういう旅をしてみたい。でもたくましくないと。

旅に出たくなる本だった。
2001 幻冬舍文庫

忘れないよ!ヴェトナム
忘れないよ!ヴェトナム – Amazon

田口ランディ – ミッドナイト・コール

少しずつさみしい女性がでてくる9編からなる短編集。みんな自分を見失って苦しんでいる。それらがごくふつうにあるような景色のなかで見事に描かれてい る。自分が女性でなくてもこの物語たちのなかにでてくる女性たちの気持ちはなにかしら染みてくる。それはこの話が立場逆にしても少しはわかる物事を描いて いるからなのか、単に僕がそういう性格だからなのか、はわかんない。でもこの物語たちの中に出てくる女性たちの相手、つまり男性、の立場でみても「あぁ、 こういう男いるなぁ」と思ったり、「こういう態度とることあるよなぁ」なんて思う。ランディさんってなんて観察眼がいいのか。経験してるよなぁ。

「ア カシアの雨にうたれて」に出てくる男性は、男がだれしも一度はそんな経験あるんじゃないかな、こんな風にするの。「花嫁の男友達」はこれまたよくわかる (といってもこんな経験ないけど)話。「海辺のピクニック」「海辺のピクニック、その後」は男が「あちゃー」と思う男がでてくるけれど、僕なんかそんな風 になってしまいそう、いや、なってしまうんちゃうかなー、と思うような情けない男が、「100万年の孤独」を読んだら”100万回生きたねこ”が読みたく なった。

ほかにも短編あるけれど、これらが好き。

PHP研究所 2003

ミッドナイト・コール
ミッドナイト・コール – Amazon

田口ランディ – ひかりのあめふるしま屋久島

ランディさんの、たぶん、割と作家人生最初のころの作品、かな?不思議な縁(というかたんなる思いつきで)訪れた屋久島にみるみるうちにはまっていく作者が描かれたエッセイ。

海やら森って町からは遠い世界で、実は無意識には怖がっているのだが、こうやって、森や海の不思議、すばらしさ、自然の偉大さについて、こうもストレートに描かれると、畏怖をこえて、すばらしさを垣間みたような気がして、そんなものたちに触れたくなってくる。

実はすごく行ってみたい島なのだが、ランディさんも書いてるように、なんかこの島の場合、島に行くのではなくて、島に呼ばれるらしくて、そんなに遠くもないからいつでも行けるといえばいけるのだが、なんか行くまでに至らないのよね。でもいつか呼ばれてみたい!

幻冬舎 2001

ひかりのあめふるしま屋久島
ひかりのあめふるしま屋久島 – Amazon

田口ランディ – ドリームタイム

わりとオカルトチックな短編集。13のいろんなお話が描かれているが、どうもほかの本のことを思い出してみると、ランディ氏本人の体験に基づいた物事から ひろいおこしてみたお話の(つまり体験談+脚色)のよーな気もするけれど、こんな体験ばっかりしてたら、まいってしまいそう。怖くはなく、どちらかという とあったかな、ありがたい気持ちになる物語ばかり。

「シェルター」の中で描かれる遊びはやってみると楽しい(辛らつかも)。「生け贄」の中で描かれる中国の不思議な村にいってみたい。「繭のシールド」着物、なるほど、なるほど。

このひとの本を読んでいると、その向こうに存在する、まだ知らない世界に気づかされ、すごく興味が湧く。エネルギーをもらえる本だ。

文藝春秋 2007

ドリームタイム
ドリームタイム – Amazon