上橋さんの守り人シリーズの7冊目。チャグムの物語、いよいよ物語は大きく進む。
密偵達の密かな報告から、海の向こうの隣国サンガル王国がいよいよ南の大陸の大国タルシュに征服されんとしているらしい。そしてほどなくサンガル王からの親書が届けられ、援軍を送って欲しいと頼まれた新ヨゴ皇国。それは必死の叫びのようにもみえるが、罠かもしれない。
一方その新ヨゴ皇国内部では第一皇子であるチャグムと第二皇子トゥグムとの間で帝の世継ぎの争いが生じていた。それは当の本人たちではなく、どこにでもある国のトップ達の間の派閥争い。そんな中でのサンガル王からの手紙にたいする帝に意見をしたチャグムは、帝の怒りを買い、サンガルへの遠征軍に入れられてしまう。それは同時に彼を支える派閥(海軍が主だったが)の一掃も計るものだった。援軍ならばよいが罠であれば負け戦はできず、かといって、海の王国であるサンガルに海戦で勝つのは難題。
やがて心配は現実となり、王からの手紙は罠であることが判明し、チャグムとその祖父であり後ろ盾であり海軍大提督であるトーサは苦渋の決断の末、自分たちを人質に残りの艦隊を帰国させたのだった。囚われの実となった彼らの命運は。
これまでの物語では北の大陸の国々の話ばかりであったが、ここにきて最初から地図には描いてあったけどほぼ話にでてこなかった南の大陸のことが描かれ、一気に世界の広がりを感じられるようになった。アジアぽいイメージの北の国々とちがって、ある意味エキゾチックな感じで描かれる南の国々があらわれることによって、世界が多様になったというか、複雑な模様になったというか。
自らが井の中の蛙ということがわかったチャグムがどういう心理になったのか。それにより彼はどう行動していくのか。チャグムの今後を大きく左右する出来事がこのお話でたくさんでてきて、そして最終章への布石となっていく。世界はどう変化していくのか、しないのか。この先がすごく気になってこの巻を読んですぐに、最終シリーズに入るつもり。息つかせない展開。
新潮文庫 2010