向山貴彦, 宮山香里 – 童話物語

指輪物語やグイン・サーガのように隅々まで細かく設定された世界観で描かれる壮大な物語。クローシャ大陸という場所に生きる人々。妖精のいる世界。

主 人公ペチカがすんでいた村を追われ、果てしない旅に出かける。その村で出会う妖精フィツ。ペチカをいじめるルージャン。教会の子守をする怖い守頭。旅でさ んざん世話になるおばあちゃんとロバのテディー。やさしくしてくれるオルレアとハーティー。そのほかいろんなひとや物事にもまれながら少女ペチカは成長し ていく。

ファンタジー感あふれる作品と世界観なのに、主人公ペチカのどこまでもひねくれて捻じ曲がった性格が最初読んでいて本当に 「いーーーっ!!」となる。途中優しい心に出会ったり、心温まる出来事に触れても、彼女の屈折しきってしまった心はなかなか素直になれない。たったひとこ との「ありがとう」さえ言えない。どうしてそんなに歪んでいるのか、読んでいて心苦しくなるほど。「どうしてダメなんだろう」「どうしてうまくいかないん だろう」そんな気持ちばかりが先行してしまう。諦めてしまいたくなるぐらい長い話の果てに、世の中の憎しみ(つまりそれは自分をも含む)に向かい合ったと き、彼女の心に今まで嫌だったり憎んでいたり信じられなかったりした物事を許すことによって、それらは救われ嫌じゃなくなり受け入れられ信じられるのだと いうことを知る。そんな彼女の成長した姿がまぶしい。

こういうファンタジーのようなものの場合、なにか困難とか問題とか冒険とかそういう ところが主眼になりがちだけれど、それもちゃんと踏まえて、夢のある世界だけども現実の世界に近い感じ、冒険の数々を描きつつ、主人公の内面、すなわち人 間の生き方、苦しみ、そんなものを見事に描いている作品というのは少ないのかも。長編だけれど、あっという間に読んでしまった。

ここまでよくできて、楽しく、かつ人間の嫌な部分を見事に描ききった向山氏がこの作品を20代前半で書いたというのが信じられないくらい。また宮山さんの絵がこの作品によくあっている。

童話物語〈上〉大きなお話の始まり
童話物語〈上〉大きなお話の始まり
童話物語〈下〉大きなお話の終わり
童話物語〈下〉大きなお話の終わり

 

辻仁成 – オキーフの恋人 オズワルドの追憶

ものすごい大作やった。物語の面白さも小説としての巧みさも読み応えも十分。すばらしい!!

新たな連載をはじめる大事な時期なのに失踪し てしまった大作家を捜すはめになってしまう出版社の編集者が主人公の「オキーフの恋人」という物語と、その大作家が連載する探偵小説「オズワルドの追憶」 (小説中小説というのか?)が順番にあらわれるという構成の長編小説。上下巻で1200ページぐらいあった。

上巻において最初は同時並行 に進む両方とも魅力的でそれぞれ面白い物語たちであるが、下巻に進むに従って「オズワルドの追憶」が「オキーフの恋人」に侵入していく。そのあたりからの 明らかになっていく物語の本当の姿や、そのスピード、どんでん返し、そして物語の結末がすごくおもしろい。そこまで長くかかって発展していった物語が最後 にはじけ、「生きているということはなんなのか?」という作者からの問いかけが浮かび上がってくる。

うまく書けないけれど、「人にとって の人生の実感となる記憶とは何か」「人が生きているということは何をもってなのか」などという生きていく上であまりにも身近過ぎ、また当たり前にあるもの すぎて考えもしないこと、そして、「神とは何か、悪魔とは何か」「正義とは何か」というような、多種多様な価値観が同時に存在している世界にとっていちば ん厄介な問題(誰しもが自分が正義であるからゆえ)をテーマに描かれいると思う。

含蓄多い言葉やエピソードや、なるほどとうなってしまう台詞がたくさんあって、何がいいかなんて選べない。辻さんの本でも今までのなかで1、2争うぐらい好き。

オキーフの恋人 オズワルドの追憶〈上〉
オキーフの恋人 オズワルドの追憶〈上〉
オキーフの恋人 オズワルドの追憶〈下〉
オキーフの恋人 オズワルドの追憶〈下〉

 

石田衣良 – 愛がいない部屋

神楽坂にそびえるある高層マンションの住人たちの恋愛短編集。それぞれの部屋でそれぞれの住人がそれぞれの悩みをだかえる。そびえる塔はいまの社会の縮図のよう。

10 ある短編のどれもがどこかよくて、哀しくて、なぜか想像で東京の白くかすんだ空を窓から眺める図ばかり思い浮かんでしまう。中でも本を読むだけの愛人とい う設定の「本のある部屋」が好き。老齢になっても人は恋をするんだという「落ち葉焚き」、ニートの息子と窓際の父親が涙する「ホームシアター」もいいな。 子どもをもたないから、母親にはなれないからわからないで生きていくんだろうけれど、子どもをもった母親の気分がすこしわかる「十七ヶ月」もいいな。

あとがきで名越康文氏が書いているけれど、”愛”ということばがどんなに危険かと。抜粋

” (前略)僕は「愛」ほど善の顔をして日本を徹底的に支配したものはないと思う。日本人を明治時代以前「愛」という言葉を使わず、その瞬間の気持ちを自分な りに考えたり、表現したり、感じ取ったりしてきたはずです。(略)「愛している」ということは絶対に正しいと信じることで、その実態のほとんどが支配であ り、不安であり、呪縛であるということから目を背けてしまっているのです。(略)たとえば「愛してる?」という言葉で相手との関係を確認しようとするよ り、「今朝のパンの焼き方どうだった?」「ああ、おいしかった!」という何気ないやり取りから汲み取るほうがより正確に関係を実感できるのではないかとお もうのです。現代の日本人が人生において怠惰で、身勝手になってしまったのは、国民全体が「愛」という言葉のトリックにひっかかってきたためだ、とこの小 説を読んで僕は勝手に確信しました(後略)”

なるほど、たしかに実際のことじゃなくて、言葉のひびき、イメージ、勝手な想像に振り回されてるな。

愛がいない部屋
愛がいない部屋 – Amazon

石田衣良 – 下北サンデーズ

下北に居をおく小劇団「下北サンデーズ」のサクセスストーリー。劇団という小宇宙のなかだからこそ起こる人間関係の浮き沈み、劇団員というすごく魅力的か つかなり変わった人間たちの喜怒哀楽、下北という不思議な街(知らないけれど、そうなんだろう)、それらをコミカルにテンポよく描いていて、すごく軽く読 めて面白い。ちょっとだけ舞台にあがった経験があるから、すごく親近感をもって読めたのもよかったのかも。

ほんと近寄らなかったら全く知 りようのない世界、劇団・舞台。外からみてると貧乏臭くて暗くて堅くて支離滅裂でおかしな人間ばかりいるような世界ってイメージだったけれど、いやいや、 あそこには魅力的な人間(ばかり?)がたくさんいるし、誰よりも人間とか世界とか笑いとかリアルとかフィクションとかそんなんを真剣に見つめてる人たちが いるし、狭い世界だからこそ見える世界の縮図みたいなものがある。そういうことたちを素晴らしく瑞々しく描いていると思う。

また舞台に上がりたくなるなー。

下北サンデーズ
下北サンデーズ – Amazon

辻仁成 – 太陽待ち

とても分厚いので、少し読書モードでなかった時期に読んだために時間がかかってしまった。でも時間がかかったのはそれが理由だけでない。じっくりと話を噛み砕きながら読みたかったから。それほど、内容の濃い、複雑な、いい話だった。

書 き方自体もすごく不思議な構成になっていて、各章がそれぞれ登場人物の一人称でつづられていく。物語の最初は登場人物たちの関係がどんどん描かれていき、 ラストに向かうにしたがって各人の一人称的な描き方になっていく。最初はあちこち話は飛ぶし、一人称が変わっていくので話についていきにくいのだけれど、 そのジグソーパズルのように散らかった話が、どんどん結びついていって、まとめあげられていく構成は見事だった。そしてなんといっても物語の端々に登場人 物たちの台詞(とくに独白)から辻さんの考えがひしひしとつたわってくるのが、とてもいい。

老映画監督が抱える戦時中のトラウマ、兄の元 恋人への恋心に悩む弟、その恋人が抱える兄への断ち切れない思い、広島原爆投下の下見中に捕虜となったアメリカ兵の自分の行為への懺悔、その息子が抱える 日本社会で生きる異人の苦悩。そんなものたちが複雑に絡まりながら、やがて、生きていくこととは?死ぬこととは?老いるとは?なすべきこととは?などな ど、考えても果てのない誰もが抱く人生に対する疑問を浮き彫りにしていく。決して「こうである」と明快に答えをだせるものでないけれど、登場人物たちのな かにそのヒントというか答えの一端を探す事ができる、と思う。

そして日本人たちにいまだに影をおとす戦争とはいったいなんだったのか?も う直接しるものは少なくなってきたにせよ、その次の世代の人間もやはり影響をうけている。それは一体なんなのか?原爆はいったいなんだったのか?そんなこ とへの問題提起的な小説にもなっていると思う。すぐ隣にあることだけれど、普段は意識していないものごとが目の前におかれた感じ。

こんな長い小説のレビューなんて簡単にかけない。消化に時間がかかりそう。でもすごく読み応えあってよかった。辻さんの作品のなかでも好きな部類。刹那的でないのが珍しいような気がする。

太陽待ち
太陽待ち – Amazon

辻仁成 – 目下の恋人

めちゃめちゃひさしぶりに辻さん。このところ女性作家ばっかり読んでいたので、男性作家の、しかも恋愛ものを読むととてもその違いにびっくりする。とくに この人の場合はどーしても刹那的だったり恵まれなかったり、なにかすこし哀しい感じがしてしまうことがおおいのだけれど、この短編集はそうでもなく、心温 まるものやら、もっと悩んでしまうようなものまで。

表題作である「目下の恋人」がとてもいい作品だと思う。男の人ならこういう感覚がわか る(決して刹那的ではなく)ひとも少なくないのではないか。何か未来的なゴールやら結末というものを設定せずに、それでも大事な人を今まさに大事におもえ る/思うがために、目下の(いまのところの)恋人、と呼びたくなるような気持ち。実現できたらそれはすごく素敵な事なんだろうなと思う。

そのほかにも哀しくなるくらい奔放すぎる「青空放し飼い」「裸の王様」という連作やら、長い人生における恋愛?を舗装増させる「愛という名の報復」とか、どれも愛や恋についての話。どれもいいなーと思えるものばかり。

でもあとがきでも書かれているように、愛と恋は連立するようでしないものなのかも、これはぜんぜんわからない。恋はしたくなるものだけれど、愛はやってくるもの?はぐぐむもの?両者は同居できない?感覚的にも理性的にもぜんぜんわからない問題だ。悩んでしまう。

そして一番哀しかったのが、この本の一番最初の言葉

一瞬が永遠になるものが恋
永遠が一瞬になるものが愛

この言葉たちが実感できない自分。

目下の恋人
目下の恋人 – Amazon

宮部みゆき – R.P.G.

久しぶりに宮部さん。今回もいいミステリー。というか劇中劇じゃないけれど、すばらしい展開。最後までどうなるのかわかんなかった。

これまたネットなお話で、ネットだからこそこんな風になりうるよねー、と思えるのはネットで結構遊んだ人だけかもしれない。だからネットをあんまりしないひとにはこの物語の肝心な感じ、というかこういうふうになるっていう感覚がわかりにくいかも。

メ ル友というのも考えてみると実際に不思議な人間関係なのだが、ネットの世界でももちろんそうで、やろうと思えば(思わなくてもやってしまう部分もある)自 分を違うキャラに仕立て上げたり、もっといけば違う人格になれたりする。リアルの世界とは違う次元だから、最初にそうやって存在してしまえればそういう人 物になりうる。

そうであるがゆえに、揺さぶりがあったときなどにその人格(キャラ)は崩壊しやすい(と思う)。ゆえにネットの関係とリ アルの関係がなかなかうまく結びつかない。だからネット社会での人々の人間性については悪く言われる場合が多いんだと思う。リアルの社会の通念からする と。

でもネットのなかだけで通用するものをもっていてもいいかもしれない。現実社会のしがらみからはまったく独立していられるから。けれどもやはりそこは弱い人間のあつまり、いったん実体にも興味をもってしまうと、混同してしまいがちだと思う。

何かいてるかわかんなくなってきた。
こうやってこの文章を書いてるキャラだって、自分のそのまんまか、といわれると、ちょっと疑問だし。ネット上に存在する自分っていったい自分の何なんだろう。

R.P.G.
R.P.G. – Amazon

乃南アサ – 幸福な朝食

これがこの人のデビュー作だとは・・・・強烈すぎ。何作か読んでるけれど、どれも人間の心理の微妙さ、エグさ、グロさ、そんなものを実に明白にインパクト 大で描いてるので、読んでいてしんどくなったりもするのだけれど、それ以上に物語がおもしろいし、先の読めない、でもちゃんと落ち着くそんなストーリーが 見事で、読んでいてまったく飽きない。

子供の頃は周囲とは一線を画して器量よしとして生まれた主人公はその美貌を一番役立てられる仕事 として芸能界を目指そうとするが、彼女にうりふたつな女性が先にデビューをしてしまう。そこから起こる二番煎じとしての悲劇。何をしてもぱっとせず、あの 人に似ている”だけ”の人になってしまい、そこで抱いた心の傷により違う人生を選んでいくのだが、悲劇の運命は彼女を手放したりはしなかった・・・

と ても才能があって、その才能と同等の才能があるひとがいて、片方が先に明るみにでたとき、もう片方がどうなってしまうのか。そんなこと考えた事なかったけ れど、それがこの物語のような姿形に関わること(つまり自分とは切っても切れない)であったばあい、後者はどんな心境になるのだろうか。また芸能人であっ たばあい、もし自分にそっくりな人が、とくに女性であれば、その女性としての幸せを満喫している自分とそっくりの人間がいるとしたら、どう思うのか。想像 するにもしきれない世界。

でもそんなことを身を切り刻むかのような描写をもって、主人公の苦悩とそれゆえの人生の変遷、そして自己崩壊してしむようすを隠す事なく描き上げているもんだから、ほんと読んでてしんどいのだけれど、でも面白い。この人、すごすぎると思う。

幸福な朝食
幸福な朝食 – Amazon

我孫子武丸 – メビウスの殺人

初めて読んだ我孫子氏。某先輩作家の話によくでてくる方なので、一度読んでみたかったのだが、ようやく手に取ってみた。なんとなくこの本を選んでみた。

ま だインターネットやらウェブなんて言葉なんてなかったころ、パソコン通信という言葉もまだ認知されてなかったころ、熱心なひとたちは黒い画面にうつされる 白い字だけの世界に次の可能性を見いだしていた。現実世界の時間や距離や民族や地位や名誉と関係ないまだ地平しかないような世界。そこではいまにつづくい ろんな物事の発端があったはず。この話を読んでてまずそれが懐かしかった。

当時としてはなかなかうまいネタなんじゃないかと思う。一般 の人は分かんない世界のことだっただろうし。実際いまでもこんなことは起こる可能性はあるけれど、当時はわかりにくく、うまい仕掛けだったと思う。交換殺 人、そんなことやるやつがいるのかどうか分からないけれど、ネットの世界の没頭していると現実とゲームの世界の区別がつきにくい、というか普通は明らかに 違う世界で別々なのだが、没頭しすぎると現実と連動したりつながったり、境目が希薄になったり。ネットの世界のルールや約束が現実世界に関係あるわけない のに、人を介するとそれが拘束力をもってしまったりする。もはやないと不便なツールだけれど、あまりにも巨大になりすぎて、いまや現実世界を食ってしまい そう。ネットは怖い。

メビウスの殺人
メビウスの殺人

石田衣良 – 反自殺クラブ(池袋ウエストゲートパーク5)

5冊目、今回もスピード感リアル感があって読みやすくて読み応えあって面白い。でもまぁちょっと話の度に新しいキャラがでてくる(そりゃ話のネタだから当然なのだが)ってパターン(とくに新登場かつえらく派手なやつ、みたいな)には、すこし飽きてきたかも。

4 編あるうち、若くてかわいくて人なつっこい風俗のスカウトマンの話「スカウトマンズ・ブルース」と日本やそのほか先進資本主義諸国のしょうもない大量消費 のために陰で労働力の提供ばかりさせられ、しかも劣悪な環境のために姉が死んでしまう「死に至る玩具」が好き。身近にこういう中国人がいないから、北京オ リンピックが終わった今もあまり中国に対するイメージがかわらない(昔のまま)。アメリカ人とかもそうだけれど、国とか全体にするとへんこりんでも、個人 個人はいいやつ、みたいなこともあるはずだし。

表題の「反自殺クラブ」。昨今は睡眠薬や練炭よりも、洗剤等の混合化学ガスによる自殺がおおいけれど、これらも発端はネット。2004年に書かれたみたいだけれど、石田さんてほんといろんな流行の先読んでるよな。すばらしい。

反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉
反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉 – Amazon