いしいしんじ – トリツカレ男

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最近いしいさんにトリツカレております。まあそれの主は日記のほうだけれど。いままでポツポツと読んできたけど、いしいさんの描く物語はほんと唐突なまでに夢っぽくていい。説明もなく、感覚ですっとそのいしいさんの世界へ入っていけるからいい。男性作家でこの感じする人ってなかなかいないのじゃないかなあ。歳が近いというのも嬉しいし。日記を読んでいると、それはいしいさん本人がしゃべっているそのままの感じがするけど、その感じのまま本を読むと、これまたいしいさんが話してくれる面白い話を聴かされているような気持ちがして、心地いい。そして話が面白いのよねえ。

ある街にすむ、なにかに取り憑かれるとそのことばかりになってしまうジュゼッペ。彼のあだ名は「トリツカレ男」。いままでにもサングラスやら三段跳びやらオペラ、息を止める、昆虫採集、潮干狩り、ハツカネズミの飼育、などなどいろんなものに取り憑かれてきた。街の人たちが次は何に取り憑かれるんだろう?と思っていたときに、ジュゼッペが取り憑かれたのは異国から来た風船売りの女の子だった。

面白いお話をつくるのが上手なお父さんに、おとぎ話を読んでもらっている感じ。ただただ不思議な感じがするけれど(現実じゃあないよねえという感じ)、どこかみんなに共通する、こうだったらいいなーとか、こうなって欲しいなあー、というような夢が詰まっていて、それが少しずつ溶けて目の前に広がっていく感じ。そしてこの物語の場合は、こういう話だとなかなかなさそうな伏線がすごくうまく結実していくのが素晴らしい。短い物語なのに、すごく長く誰かと人生を共にした感じがする。そして無理なく心があったかくなる感じがする。

ほんといい物語。あまりにも素敵なので、読み終わってから、すぐにもう一度読んでしまった。

新潮文庫 2006

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五代ゆう – 永訣の波濤(グイン・サーガ143)

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備忘録的に。グインサーガ143巻。自分の弟が誘拐の事件に巻き込まれたことを遠視で知ったスーティーが彼を助けに行こうと駄々をこね、そこからグラチウスとウーラというへんな組み合わせで冒険が始まる。いっぽうヤガでは「新しいミロク教団」に潜入したスカールとブランが秘密を暴くべく行動を。そしてカメロン提督の遺骨とともに故郷を目指し沿海州を移動するドライドン騎士団。ヴァラキアについてついにカメロンの葬儀が行われる。またケイロニアの辺境ワルスタットでは主人不在の城で異変がおこっているようだった。

異界のものに蹂躙されてすっかり変わってしまい、イシュトバーンが巣食うパロ、そしてパロと関係の深い沿海州の諸国の関係が変化していきそうな予感と、ねじ曲げられたヤガが伝説の魔導師たちにより取り戻されようとしているのと、静かに国の中で陰謀らしきものが蠢くケイロニア。この三つの話がいずれどこかで結びついたりするんだろうな。あとシルヴィアの件もあるし。

なかなか続けていくのが難しいプロジェクトかもしれないけど、次巻以降も楽しみにしてます!

ハヤカワ文庫 2018

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田中啓文 – イルカは笑う

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かわいい表紙が気になって手に取って見たら田中さんの短編集だった。

宇宙に昭和のSFアニメなどのメカを目玉にしたテーマパークがある未来、手塚治虫の霊が地球の危機を囁く「ガラスの地球を救え」、表題にもなっている最後の人類にイルカが会いに来る「イルカは笑う」、秀吉が信長に進呈した丸薬は体が巨大化する妙薬だった「本能寺の大変」、などなど14編。どれも田中さんらしくて好き。

ゾンビが蔓延した世界で料理人が食にこだわる「屍者の定食」がめちゃ面白い。こういうの好きだなあ。B級SF映画にありそうなネタの「集団自殺と百二十億頭のイノシシ」もいい、くだらない(失礼!)な感じがいいなあ。同じような感じで「あるいはマンボウでいっぱいの海」もいいなあ。

こういうのばっかりかと思えば、「あの言葉」や「歌姫のくちびる」のように一転シリアスなストーリーもあったり、落語のネタぽいのもあったり、田中さんの百貨店みたいな本でとても楽しめた。おもしろい!

河出文庫 2015

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高橋由太 – 猫は仕事人

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猫が好きーとか言っているといろんな人が猫関連の情報くれたり、グッズくれたり、エサくれたりするけど、本もそのひとつ。最近NHK-BSとかで作家さんとその飼い猫のドキュメントみたいな番組やってるけど、本(作家さん)と猫はわりと近いのかも。そういう流れでもらった本。

高橋さんは初めまして。どんな話かなーとおもってたら猫大活躍の話でした。世の中には化け猫が普通にたくさんいるという設定(人間は気づいてないし、猫は気づかれないようにしている)で、彼らはいわゆる仕事人(法で裁けないものに制裁を下す)をしていた。そんな江戸の春、町娘姉妹に降りかかる不幸。小さい頃に母をなくし途方にくれる父、それを励ましてくれる人が表れ、やがて立ち直って商売も軌道にのり繁盛していったが、実はそれは乗っ取りのためだった。姉妹は父をもなくし、身代も奪われて、ある知り合いに預けられるが、これも策略だった。そしてそういう事情を知った化け猫たちが、人助けをしようと立ち上がる。さてどうやって?

ここでも猫は人間の言っていることはわかるが、人間はわからない。猫の方が実は賢いという設定になってて楽しい。実際猫見ててもそう思う時とかあるもんな。こいつなんでもわかってるんじゃないかなーとかw。高橋さんの描く猫の感じもどこか見慣れた感じで親しみを感じる。そう分厚い本でもないけど、字が少し大きいのもあってか、物語が面白いのもあってか、一瞬で読み終わった。これ第一弾らしいので、続きも読みたいな。駄猫まるが他にどんな活躍するのかみてみたい。

文春文庫 2014

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いしいしんじ – いしいしんじのごはん日記

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このところ本はまあまあのペースで読んでいるけど、このレビューを書くのを怠っていて、パソコンの横に本が山積みになっている。書いておかないと忘れていくのでレビューにならない(というか自分のための備忘録という意味合いが大きいけど)ので早く書かなきゃと思うのだけれど、日々のバタバタにかまけてほったらかしにしているのはほんとよくないよなあ。

友人に勧められて手に取ったこの本。いしいさんの本は何冊か読んでいるけど、物語じゃなくて、こういうのは初めて。編集部かなにかに勧められてwebに連載し始めたのが最初だそう。2001年の9月くらいから2002年終わりまでのほぼ毎日のちょっとした日記と食べたものが記されているだけなのだけど、なんかこの毎日の短い文章からいしいさんのキャラクターが透けて見えて来てとても楽しく、読んでて飽きない。ただの日記なのに。

もともとご飯とかに無頓着だったのに、あるとき外食にいったらカードが使えなくて現金がたくさんなくて、それで何かを買って帰って自炊したのが自炊生活の始まりだそう。始まり方もとぼけているけど、最初は苦手だったのが楽しくなって、浅草から神奈川の三崎という港町に引っ越したのをきっかけに、近所の魚屋さんからいろいろ買うようになったり教えてもらったりして自炊がより楽しくなり、毎日地元でとれたものを美味しく料理して食べるというのがとても幸せなこと、というのが文章からビンビン伝わって来る。美味しそうでいいなー、というより、いしいさんが生活を楽しんでいるのが伝わって来て楽しい。近所のこどもたちもかわいいし。

本半ばぐらいにある写真のコーナーもなんか楽しいし、巻末のその近所の魚屋さんとの対談も面白い。なんか田舎で暮らしたくなる本。

新潮文庫 2006

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東野圭吾 – 探偵ガリレオ

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なんか読まないうちから敬遠している東野さん。人気もあるし面白いらしいのだけれど、なんだろう、ちょっと遠慮がちになってしまっている。でも人からどうぞーともらったので読んでみた。それにこれはテレビドラマになってたの見たことあったので興味もあって。

一流大学の理工学部物理学科にいる助教授・湯川(途中からガリレオというあだ名がついてることになってた)が、同級生でもある警視庁の草薙から解決できない難事件のヒントを依頼され、それを科学的な側面から解決する。もえる、うつる、くさる、はぜる、ぬける、の5つの言葉で表される事件が彼の元へ持ち込まれる。

科学的であったり物理的である現象をつかっての犯罪を前提にかいているので、物語的には深くはないけれど、理系的な話が面白いと思える人には楽しいかなとおもう。もう少しドラマ的なものがあったらもっと面白いのかなーとも思うけれど、これくらいあっさりしてるほうがいいのかも。ミステリーのアイデアとしては面白い。

テレビの影響で湯川が福山雅治とダブってしまうけれど、いやいやもう少し朴訥とした感じのほうがいいような気もする。ドラマでは警視庁の草薙じゃなくて新人女性刑事の内海(柴咲コウ)だったけれど、原作の同級生設定のほうが自然だなあ。テレビってこいうことするのね。解説で俳優の佐野史郎氏が書いてるけど、彼曰くガリレオは佐野さんのイメージで書いたと作者は言ってるそう。じゃあ、佐野さんでやってほしかったなあ。なんか福山さんだと出来すぎなんだよねえ。ああやだやだテレビって。

文集文庫 2002

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いしいしんじ – うなぎのダンス

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いしいさんはいくつか読んだことがあったけれど、こんなのは初めて。対談集なのだけれど、いやいやこれがw

20組のゲストの方と対談しているのだけど、きんさんぎんさん(懐かしい!)から始まり、赤塚不二夫さん、柳美里さん、トランプマン(懐かし!)、、、といろんな人とつながりあるんだなーとか面白く読んで(対談もなんかまともな感じではなく、ただの雑談みたいな感じなのをそのまま文章に起こしてる気がする!)いたのだけれど、進んでいくと、勝新太郎、、、あれ?亡くなってたんじゃ?、、、とか、謎のロッカーだの、やたらセラピストだの怪しげというか面白い方がでてきたり、挙げ句の果てには凸版印刷機まで。対談というより脳内インタビューになったりしてて、いしいさんだいぶやばいなーって感じ。

でもなんかおかしいのだけれど、この対談を通してすけ見えるいしいさんのキャラがなんか楽しくて、ついついなんでもオッケーと思ってしまったり、かわいいなとおもってしまったり。全くもって謎の方です。

河出文庫 2008

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花村萬月 – ワルツ

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ずいぶん前に読んだので備忘録的に。

戦後すぐ、占領下の東京が舞台。特攻隊に選ばれた方死に損なった男・城山。朝鮮人である自分を隠し自分が何者であるか悩み強くなりたいと願う男・林。そして疎開先から単身流れてきた天涯孤独の美女・百合子。彼らがその怒涛の時代に出会い、惹かれあい、憎しみあい、また交わっていく。三人の人生がからまる様子を踊るワルツにたとえて。

現在の個人主義がすっかり台頭してしまった世では、戦前戦後のような、たとえそれが間違っていたとしても貫く義であったり礼であったり、そんなものはよしともされないし、思い出しもされない。でも人と人との間には憎しみであっても愛情であっても義理であってもたしかに熱いものがあふれていて、そうして人間は生きてきた。どこかに死に場所を求めるにしろ、この世で成り上がっていくにしろ、何かと戦うにしろ。

物語の三人が運命に翻弄されながらも一生懸命に生きていく姿、それがうまくいったりいかなかったり、いろいろあっても、そういう姿と意思に心打たれる。熱くなる。正しいとか正しくないとかじゃなくて、どう生きていくかを悩んで一生懸命に生きる姿に。ほとんど任侠物語みたいなところあるけれど、芯の部分は人間の物語。

戦後のどさくさあたりの雰囲気が、生々しく感じられるのもいいなあと思う作品だった。

角川文庫 2008

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宮部みゆき – あかんべえ

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宮部さんの江戸もの。深川に出店した料理屋「ふね屋」。長年の念願であった出店だったが、最初の宴でいきなり抜き身の刀が出現して暴れまわるという怪異現象がおこって宴はめちゃめちゃに。いきなり出鼻をくじかれ、客もさっぱりになったふね屋に今度は霊払いの宴の話までもちあがって、、、、お化けのでる料理屋として有名になってしまった。

一方この料理屋の娘おりんはある日高熱をだして生死をさまよい、不思議な夢をみる。それはまるで三途の川のようだった。そこで不思議な男に出会う。その夢を見て以来、おりんはこの料理屋で起こる怪異の原因は亡者だと知るようになる。あかんべえをする少女、美しい侍、艶やかな姉さん、あんまをして病人を治癒するおじいさん、そして例の騒動のもとになったおどろ髪の侍。

すこしずつ彼らと打ち解け、なぜ彼らがここにいるのか、どうしたいのか?そういうことを知るようになっていき、やがて昔の大きな事件へと繋がっていく。

彼らは何者なのか?成仏できるのか?おりんは、料理屋ふなやはどうなるのか?

ミステリーとしても、時代を感じる小説としてもよくできてるなーとひたすら感心。目の覚めるような話の展開をしたり、大きな感動を呼ぶわけでもないけれど、しみじみとした味を感じる。怖いけど怖くなくて、優しい気持ちになれる作品。よかった。

新潮文庫 2007

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岡嶋二人 – ちょっと探偵してみませんか

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岡嶋二人さんの短編推理小説。25の短編が収録されていて、そのタイトルからわかるように、読者に謎解きを挑んでくる。犯人はだれか?なぜ犯人だとわかったのか?謎はどう解く?などなど。全部シチュエーションもパターンも違うお話だし、短いのさっと読めるのだが、なかなか答えを出すのは難しい。いろんな知識やひらめき、読解力が必要だったり。

短いのでさっと読めるのもいいし、どの短編も秀逸なので飽きない。これすごいなあ。

講談社文庫 1989

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