重松清 – ブランケット・キャッツ

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重松さんで猫の本、となれば読んでしまうよねえ。何も思わずに手に取ったけれど、これちょっと前にNHKでドラマになったたものの原作。設定はだいぶ違ったけれど(飼い主というか猫の世話主側のドラマが結構盛り込まれていた。この本は猫とその借主ばかり)。こっちのほうが面白いかも。ブレてなくて。

ブランケット・キャットは子供の頃から馴染んだ毛布さえあればどこでも落ち着いて眠れるように訓練された猫のことをいうそう。賢く、おとなしく、人に懐く猫にしか資格はない。そういう猫をレンタルしている場所があって、その猫たちを特色ある人たちが借りていく。借り先で猫をめぐるドラマが展開される。

子供のいない夫婦が猫を借りた、それは彼らの子供の代わりなのか?世間とはずれてしまったと考える2人が猫を通して感じたことは「花粉症のブランケット・キャット」。真面目一筋で働いて来たのにふと魔が差して横領を、そしてお気に入りの猫をつれて旅へでる「助手席のブランケット・キャット」、父親がやたらと強がる家庭の子供がいじめに加担している「尻尾のないブランケット・キャット」などなど、7つの短編。

どれもなんでもないけれど、猫を通して家庭や人間が見えてくる。ドラマとはいわないけれど、誰にもある何か、それを猫が現れたことにより浮き彫りにされる。どの猫も賢くていいな。うちのバカやからなー。

朝日文庫 2011

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美智子 – 橋をかける

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皇后美智子さまが1998年の秋にインドのニューデリーで開催された、国際児童図書評議会にビデオテープによって公演された内容を書き起こしたもの。「子供時代の読書の思い出」と題して、美智子さまの幼少時代から戦時中の疎開、そのあと母になってからも、本を通じて人生にどういう影響があったか、などを語ってくださる。子供に本を手にとってほしい、そこから人生の喜怒哀楽を知ってほしい、人生は簡単じゃないけれど子供の時にいい本に出会うとそこから人生の悲しみとそれに立ち向かう勇気、世界へ羽ばたく羽根をもらえると諭してくれる。本が読みたくなるお話でした。いいお話です。薄い著書で、半分はその英訳。

すえもりブックス 1998

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山本幸久 – 床屋さんへちょっと

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山本さんを読むのは若い女の子の漫才コンビを扱った「笑う招き猫」以来かな。なんか文章から伝わってくる優しい波動が似ている。なので安心して読める感じ。なんだろう、悪いことがあったとしてもきっと救いがある、とか思える感じ。

この物語はある一家のお話。若い頃に先代が起こした菓子メーカーを継いだものの10年ほどで潰してしまった2代目、その妻、父に似て短気な娘、そしてしっかりしたその息子。彼らが「床屋」をキーワードにいろんな物語を紡いで行く。よくできてるなーとおもうのは、各短編が時系列的に遡る形になってること(最後の一つだけ違う)。なので一家の辿ってきたことが昔話を思い出すように繋がって行く。終活のために墓地を見に行く2代目、ふと帰り道に昔通った床屋を見つける。そこは会社の跡地の近くだった「桜」、娘が突然結婚すると言い出した彼となぜか二人で旅する羽目に「梳き鋏」、再就職した会社から海外視察にいった先で紹介された床屋は普通の店ではなく「マスターと呼ばれた男」とかとか、どれもいいお話ばかり。不運もあったけれ真面目に働いてきた男と、実は天然で面白い妻、思い通りにいかなくてもめげない娘、しっかりした孫、彼らがほんと微笑ましくて羨ましくなる、あったかい物語。

山本さんいいな。ほっこりする。重松さんも好きだけど、そこまで懐古的でなくて等身大な清々しさというか。他の本も読みたい。

集英社文庫 2012

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桐野夏生 – 水の眠り 灰の夢

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これまたずいぶん前に読んだので備忘録的に。

高度成長期、オリンピックの少し前。東京の下町。フリーの週刊誌記者村野は目の前で地下鉄爆破事件に出会う。折しも草加次郎という連続爆弾魔が世間を賑わせていたため、彼はその関連を追う。そんな彼だったがなぜか彼は女子高生殺人事件の容疑者にされてしまう。その汚名をはらすべく村野は執念で女子高生の殺人の真相を、爆発の真相を追う。

泥臭い事件ものでいい感じ。僕も下町の工場町で育ったのでこういう雰囲気は好きだし、いかにも昭和の有象無象な時期というのは、文章を読んでいるだけで雰囲気が思い出されて、懐かしい気持ちになる。話はとても暗くてかなしいかんじだけれど。

文集文庫 1998

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円居挽 – 丸太町ルヴォワール

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ずいぶん前に読んだので備忘録的に。

大きなグループ企業の社長である父を殺した嫌疑をかけられた息子・論語。その日彼は起きると謎の女がいたというがその痕跡はまったくといっていいほどなかった。この謎と事件の真相を解明するべく開かれたのが、古くから京都で密かに行われて来た私的裁判である、双龍会。追求する側と逃れるがわがお互いに双龍師という弁士をたてて弁舌をふるう会。そこでの駆け引きが勝敗を決する。

もしかしたら歴史的にこういう会があったのかなーとも思う。いまもあったりして。スリルやスピード感というより、なんだろうねっとり重箱の隅をつつくような感じが京都ぽい感じというか。嫌疑をかけられた論語自身もいまいち捉えどころがなく、のらりくらりとしているのもなんか京都っぽい(悪く見過ぎ?)。ゆっくり話は進行してやがて全体像がぼやっと浮かび上がって行く。あまり爽快感とかはないけど、なんかはんなりした気分になったり。

講談社文庫 2012

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大沢在昌 – 調毒師を捜せ

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大沢さんのアルバイト探偵(アイ)シリーズの2作目。今回も冴木父子の切れ味いい痛快な活躍が楽しい。そしてなぜかモテる父子の周りには美人が集まってくる。

政界と太い繋がりがある財界の大物が残したと言われる日記、それが明かされると政界は大打撃、それを消そうと狙うものと護ろうとするもの「避暑地の夏、殺し屋の夏」。ヌシ様と呼ばれる吸血鬼らしい男が都内に潜伏し若い女をかどわかしているらしい「吸血同盟」、表題作、あらゆる日時を設定してターゲットを殺すことができる毒をつくれる調毒師に毒を盛られた美女が父子を担いで彼から解毒剤や毒の秘密を奪おうとする「調毒師を捜せ」、そして海の底から核ミサイルを引き上げそれを第三国に売ろうとする行商人が日本での取引を「アルバイト行商人」

どれもおもしろい。そしてしつこくないというか、カラッとしていて読みやすい。テンポのいい80年代の刑事物ドラマや映画を見ている様な気分。ハードボイルドすぎもしないし、サスペンスすぎないし、かといって軽くなさすぎない。男のかっこよさが短く凝縮されている感じ。こんなに魅力的な女性たくさんでてくるからちょっとロマンスあってもいいのに、それがないのもいい感じ(三角関係みたいになってる、いや、三すくみかw)もっと活躍読みたいねえ。

講談社文庫 1996

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乃南アサ – 風の墓碑銘

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だいぶ前に読んだので備忘録的に。

貸家だった家を取り壊したら軒下から白骨死体が出てきた。事情を聞こうと貸し主今川に聞こうとするが、彼は認知症でいまひとつはっきりしない。徘徊癖もある彼がある日殺されてしまい、白骨死体は迷宮入りしそうになる。しかも白骨死体は親子の可能性がでてた。これらの事件に関連性はあるのか? 「凍える牙」で名コンビだった、女性刑事音道と何かと相性の悪い滝沢はこの謎に挑む。細い糸をたぐっていくと、それはやがて失踪した女性につながっていく。地道に捜査をつづける二人、相性悪いと思っているお互いの気持ちもやがて少しずつ変化して行く。

乃南さんの作品は、なんだろう、サスペンスでも事件の鮮やかさとか犯罪の巧妙さやトリックというところより、人間の愛憎であるとかもっとドロドロした部分が、明るみにでもなく根底にしっかり流れていて、それがすごくリアルさというか人間臭さを醸し出している気がする。だから事件が解決したとか物語が終わったという感じよりも、人間て哀しいなあ、というような感想をいつももつ。それが最大の魅力な気がする。音道と滝沢、いい組み合わせだと思うけどな。相手にツンケンしていたり、勝手に拗ねてたりするけど、最終的にいろいろ気遣う関係になるあたりが、この全体にくらい物語に少しだけ軽さを与えてて、それもいい。

新潮文庫 2009

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いしいしんじ – 三崎日和

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まったくもっていしいさんにはまっている。なんだろうねえ、この読んでてほのぼのというか、可愛い動物を見ているかのような感覚。そして美味しそうなごはんと、気持ち豊かな生活。いしいさんが順調にやっていけてるというのもあるのかもしれないけれど、やっぱり人柄なんだろうなあ。

いしいしんじのごはん日記」につづいて2003年のWEB連載していた日記をまとめたもの。神奈川の西のほうの昔すごく栄えたらしい三崎に引っ越してからのいしいさんの毎日の生活。お魚がおいしそうだし、東京行ったり松本行ったり、たまには実家(大阪)帰ったり。いろいろ生活の様子が丸見えで面白いし、ご近所さんとの付き合いも、仕事も含めていろいろ楽しそうでいいなーと思う。羨ましいというより、いいなーって感じw ただの日記なのに読んでて飽きないのよね。この本のおかげで、いしいさんの他の作品が、まるでいしいさんが目の前で物語をその場で作りながら話してくれるような気分で読めるようになった。

まだつづきあるようなので、読もうっと。

新潮文庫 2008

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伊坂幸太郎 – 3652

3652

伊坂さんのエッセイをまとめたもの。デビューの2000年から2015年のものまでいろいろ。3652って10年分の日数(最初の1,2年目がうるう年でなければ^^)だけどエッセイは15年ぶんだけどなんでだろう?とおもってたら、最初に出した時に10年目だったからだそう。文庫本は2015年までのものも掲載されているのでなんかお得感あり。

伊坂さんはエッセイは得意ではないといっているけれど、いやいや、なんだろう物語じゃなくて、普通に喫茶店でしゃべってて面白い話とか、ふーんと思うこと聞かせてもらっているような感じがしていい。最近はまってるいしいさんは、なんか腐れ縁の幼馴染と話している感じだけれど、伊坂さんは大学で出会った知的な同期としゃべってるような感じがする(偏見?)。

干支のエッセイにやたら苦労してるところとかもいいけど、この本の場合、そういう書き物をしたからというのがあるんだけれど、毎年伊坂さんが読んで面白かった本を推薦する文章とか、好きな本を紹介するものがあったりして、これがまた他の本を連鎖的に読みたくなってしまう衝動になるので、いいんだけど、困る。そんなたくさん読めないぞーw

こういうエッセイを読んでいても、どこかしら伊坂さんの控えめで、きちんとした(例えば江國さんだったら、もっと堕落した感じがするし、村上さんだったらもっとヒネた感じがする)感触がする。それは物語でも変わらない。そしてそんな伊坂さんがどうやら普通に仙台の駅前をうろちょろしているというのは本当らしいので、いつか出会ったときにパッとCD渡せるようにいつも持って歩こうと思うのでした。なんのこっちゃw

新潮文庫 2015

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徳永圭 – 片桐酒店の副業

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徳永さんの本を読むのは初めて。さてどんな物語を書く人なんだろう。

とある地方(どうやら名古屋)の外れの古びた商店街にあるこれまた古びた酒店。ここの2代目の片桐は酒屋なのになぜかスーツにネクタイ姿。もともとはサラリーマンをしていたらしい。そんな酒店の業務はむろん酒類の販売だが、先代が配送ついでに何か他のものも運んであげた(まごころ)ことから、ちょっとした届け物(人間にできる範囲で、法に触れない範疇で)をする副業があった。

アイドルに自作のケーキを届けたい、憎いあいつに悪意を届けたい、記憶をなくした母に贈り物をとどけたい。。。。様々な人が様々な依頼をしてきて、それに真面目に応え続ける片桐。そこまで仕事に没頭する彼には実は忘れてしまえない過去があり。。。

すこしシリアスな感じやミステリアスな感じもあって、ややもすれば暗い感じになりそうなのだけれど、でも、どこかのほんとした感じがするのは描かれる土地の長閑さからかもしれないし、作者の好みなのかもしれない。いいドラマを観たような読後感。妙なロマンスとかがないのがいいのかもな。この話続いて欲しいなあ。ほかもあるのかなあ。

角川文庫 2016

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