池井戸潤 – シャイロックの子供たち

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東京の下町のある銀行支店のなかで起こるいろいろな事件。それはそのまま支店内部の人間模様、そしてその銀行そのものの組織の闇に繋がっている。 10編の短編で構成されてて、主人公が変わっていくのだが、どれも同じ支店内の人間。バラバラの人間模様かと思えば、それらが最後にまとまっていくのが面白い。

ある日起こった現金喪失事件。その犯人と目されたのは若い女性行員だった。しかし 時を同じくして別の男性行員が失踪。若手ナンバーワンと自他共に認める行員のおかしな成績、社内恋愛のもつれ、上層部の軋轢、、、、表からは見えない銀行の裏側の人間関係とそれを引き起こすゆがんだ体質、銀行そのもののおかしさが浮き彫りになる。

整然と冷静に、効率よく、数字がすべてできっちり動いているように見える銀行も、それらはすべて結局人間が動かしている。とするとそこには数字にはでない人間模様が。実際池井戸さんが描くような内実はどこにもあるようなものなのか、それとも突飛なものなのかわからないけれど、銀行という立場や組織が特殊であるのはなんとなくわかる。そして怖い。金と成績がすべて、というような世界には生きたくない。でもそうではなくて社会的意義に燃える人もいるのだろう。いろんな人がいて、そして彼らには家族がある。この物語では個人個人に焦点を当てながらかれらの家族とのことも描かれる。なぜ銀行で働くのか、どうしてそんなことになってしまったのか。

シャイロッックというのは、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に登場する悪辣、非道、 強欲な金貸しで、そこから転じてそういう人物をシャイロックと呼ぶそう。

2006 文集文庫

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上橋菜穂子 – 流れ行く者(守り人短編集)

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守り人シリーズの短編集。主にバルサとタンダの子供時代の話が絵が描かれる。彼らが出会った頃。

大好きだが村のはみ出者である叔父の死とそれにまつわる噂について悩む幼いタンダ「浮き籾」、しばらく定住したある街の宿にいた賭事師の老婆から人生について学ぶ「ラフラ」、商人の隊列に護衛として父子ともに雇われるジグロとバルサ、しかしその隊商の護衛が裏切る「流れ行く者」の3編。いずれもバルサは子供だが、守り人シリーズにつながっていく素質が垣間見えるように描かれている。

もしかしたらこの短編集から読んで本編にいっても大丈夫かも。本編を読み終えてからしばらく空いたけれど、すっかりこのバルサの世界も僕の体のどこかに出来上がってしまっているようで、すぐにこの世界に戻ってこれるようになった。解説で幸村さんが書いているように、それは上橋さんがこの世界を構築するにあたって、なんでもない日常のことをすごくきちんと描いているから。だからこそ世界がしっかりした土台の上に自由に作り上げられている。それはやはり人類学の研究者としての面をもつ上橋さんならではの視点なのかも。

2013 新潮文庫

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森山威男さんと

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憧れの一人である森山さん。学生時代だったかに見た森山さんのバンドと演奏が強烈すぎました。ジャズの発展とその流れを感じ演奏しつづけけてきた人間から放たれるエネルギーと底知れないパワー、喜び、悩み、恐ろしさ、いろんなものが混沌となって波のようにうねってきて、圧倒されっぱなしでした。

そして堪らなく格好いいです。格好いいとはこういうことかと思いました。

一緒に演奏しながら少年のようなというかひよっこのような気分になり、とてもとても楽しかったです。何も出来なかったけど、ただただ一生懸命吹くという原点だけを考えて演奏していました。ほんと一瞬で終わってしまったので、もっともっとやってみたいです。

まだコーフン冷めやらぬ状態ですが、また出来たらと切に願います。いい夜でした。そしてきっといい演奏だったと思います。

いらしていただいたたくさんのみなさん、メンバー、森山さん、そしてblue note ならまちのみなさん、本当にありがとうございました!

エピメテウスの眼鏡

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来年1月にまた劇団レトルト内閣の本公演に参加させてもらうことになりました。今回は「エピメテウスの眼鏡」というお話。今回も楽団でお芝居にいろいろ色をつけられたらと思ってます。前作「オフィス座の怪人」に引き続き同じメンバーで。また曲も書き下ろしますよ。まだ稽古が始まってないので、どんな風になっていくのかはわからないですが、またきっと面白いお芝居であると確信しています。今日11/11からチケットも発売になりました。またたくさんの方に見ていただけたらと思います。乞うご期待!

ーー

「メガネを探す、簡単なお仕事です」という張り紙につられてやってきた男女が巻き込まれるある騒動。エピメテウスの眼鏡とは世の権力者たちが血眼になって探しているという宝。そしてそれを見つけられるのはもっとも愚かな人間なのだという。。。。

 

劇団レトルト内閣 第27回本公演 / Ho-Me-I-Ku音楽劇
「エピメテウスの眼鏡」

【日時】
2018年1月26日(金)~28日(日) 全6回公演
1月26日(金) 15:00★/19:30
1月27日(土) 15:00 /19:00★
1月28日(日) 13:00 /17:00★
★の回はアフターイベント「ほめ育講座」開催

【会場】
HEP HALL

【チケット】
前売り3,500円 当日3,800円
全席指定/税込
2017年11月11日(土)一般発売開始
チケットはこちらから >> チケット予約ページ

【脚本/演出/音楽】
三名刺繍

【出演】
福田恵 / 川内信弥 / たはらもえ

向田倫子(ババロワーズ) / 若木志帆 / 川添公二(テノヒラサイズ) / 亀山貴也 / 鈴木洋平 / 佐藤都輝子(劇団とっても便利) / 奥田さぶりな美樹てぃー(IsLand☆12) / 古橋定子 / 佐藤みか(crashrush) / 宮本リュウジ / 飯嶋松之助(KING&HEAVY) / 森口稜 / 今西由夏 / 酒井未波 / 伊藤卯咲

【楽団】
武井努(Sax)、菱沼カンタ(Gt)、井上歩(Bass)、原口裕司(Ds)

豊橋〜岡崎JS

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先週末、昨年にひきつづき三河は豊橋のHouse Of Crazyとすっかり恒例となった岡崎ジャズストリートにMITCH ALL STARSで出演してきました。MCでも言っていたように毎年この時だけの特別編成で関東のメンバーと関西のメンバーがちょうど中間で合流してのバンドで、特別感もありますが、何より演奏が毎回楽しいのです。

3連休初日は豊橋へ。ここで毎年開催されている「とよはしまちなかスロータウン映画祭」に出演させてもらったのがきっかけでできた繋がりからこうして去年に続いて演奏を届けにくることができました。ことの起こりから関わっているので嬉しさはひとしおで。帰ってきたなーという感じがします。そして迎えてくれるHouse Of Crazyに集うみなさんの熱いこと!こっちが鼓舞されまくりで、演奏は熱く熱く長丁場になりましたが、みなさん大丈夫でしたか?^^; 

そして土日は8回目の出演となった岡崎ジャズストリートへ。今回もリブラホールと能楽堂という大きくとても素晴らしいステージを用意していただき、昨年に引き続き大勢の方々に応援してもらえて嬉しかったです。毎年見にきてくださる方や誘われてきた方からのたくさんの笑顔と手拍子がぼくたちの演奏を後押ししてくれました。今年は好天にも恵まれて能楽堂でのステージは本当に気持ちよかったです。今年からすこしスケジュールが変わって、2日目は朝11時からのステージだったのでいろいろ心配したのですが、あたたかな日差しと爽やかな空気の中あのステージで演奏できたのは至福でした。

間の時間はほかの出演者の演奏を聞きに行ったり、市民祭をのぞいたり、すっかりバンド内で恒例の味噌掬いをしたりと今年もまたジャズストリートを満喫できました。

毎回来るたびに、この岡崎ジャズストリートは本当にいいイベントで、いらしてくださるみなさんや、街のみなさんの大きな支えがあって、健やかに運営されてるなあと思います。普段なかなか顔を合わせられないあちこちのミュージシャンに会えるのも楽しみですが、やはり毎年顔をみせてくれるお客さんに会えるのが何よりの楽しみですし、お祭りで活気ある街をふらりと歩くのもいいものです。岡崎ジャズストリートが安定してずっと続いてくれることを期待しますし、応援していけたらと思っています。

この三河のツアーでお会いできたみなさん、ほんとありがとうございました!ボランティアやスタッフやお店のみなさん、お疲れ様でした!またお会いしましょう。

(写真は安藤くんより拝借)

2017.11月のスケジュール

2017.10 2017.12 >


201711

※先の予定は随時変更されることがあります。line
11/2(Thu) Pop’n Rock Brasileira
梅田 Always 06-6809-6696
19:30- 予約\3,300 / 当日\3,800
[メ] 高尾典江(Vo,A-Gt)、カオリーニョ藤原(E-Gt,Vo)、武井努(Sax)、時安吉宏(B)、池田安友子(Perc) ゲスト 岡本健太(Ds)

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11/3(Fri) MITCH ALL STARS
愛知 豊橋 House Of Crazy 0532-55-9000
20:00-  前\3,500 / 当\4,000
[メ] MITCH(Tp,Vo)、武井努(Sax)、小林創(Pf)、富永寛之(Gt)、清水興(B)、木村おーじ(Ds)
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11/4(Sat)-5(Sun) MITCH ALL STARS
岡崎ジャズストリート
11/4 岡崎市図書館交流プラザ Libraホール 14:30- / 17:30-
11/5 岡崎城 二の丸能楽堂 11:00- / 14:30-
[メ] MITCH(Tp,Vo)、武井努(Sax)、小林創(Pf)、富永寛之(Gt)、清水興(B)、永田光康(Ds)
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11/7(Tue) 牧川4
HOUSE OF JAZZ 0722-27-9886
20:00- \2,500
[メ] 牧川義之(Ds)、馬田さとし(Gt)、武井努(Sax)、時安吉宏(B)
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11/8(Wed) 低音マニア!
神戸 Big Apple 078-251-7049
19:30- 前\2,500 / 当\2,800
[メ] 清水武志(B-Cl,Pf)、武井努(Bsax,B-cl)、横野真哉(bass sax)、西川悟志(eb)、光田臣(ds)
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11/11(Sat) MITCH’S LIL BRATS BRASS BAND
岡山 ルネスホール 086-225-3003
19:00- 前\3,000 / 当\3,500 (高校生以下\1,000 ルネスメイト\2,800)
[メ] MITCH(tp)、井上敦之(tp)、武井努(sax)、鈴木健司(sax)、鈴木康司(tb)、西本翔一(sousa)、木村オージ(SD)、永田充康(BD)
[info] En’s Music(井口) 090-4892-9670
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11/12(Fri) MITCH’S LIL BRATS BRASS BAND
岡山 津山 ONSAYA COFFEE 0868-35-0900
観覧無料
17:00~ DJ 18:00~ show
[メ] MITCH(tp)、井上敦之(tp)、武井努(sax)、鈴木健司(sax)、鈴木康司(tb)、西本翔一(sousa)、木村オージ(SD)、永田充康(BD)
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11/14(Tue) The Symphony Hall Big Band ~Music Director 菊池寿人~ Vol.8
大阪 福島 ザ・シンフォニーホール 06-6453-1010
18:00 開場 / 19:00 開演
[メ] Tp 菊池寿人、築山昌広、広瀬未来、塩ノ谷幸司
Tb 大島一郎、Tommy、山内淳史、川口哲史
A.sax 小林充、藤吉悠
T.sax 武井努、高橋知道
B.sax 里村稔
Pf 宮川真由美
Bass 藤村竜也
Drs 岡本健太
スペシャルゲスト 木村優一(和太鼓)
[料金] S\5,000 / A\4,000 / B\3,000 (全席指定 税込)
[問] 大阪アートエージェンシー 06-6459-9612(平日10:00〜17:00)
[チケット] ザ・シンフォニー チケットセンター 06-6453-2333

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11/15(Wed) MITCH(Tp, Vo) ALL STARS
大阪 梅田 ニューサントリー5 06-6312-8912
19:30- \1,800
[メ] MITCH(Tp,Vo)、武井努(Sax)、永田充康(Ds)、杉山悟史(Pf)、光岡尚紀(B)
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11/16(Thu) ジモティーズ
西宮 Three Codes 0798-55-5184
19:30- \2,000
[メ] 武井努(Sax)、阪本正明(Gt)
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11/18(Sat) 武井3
大阪 梅田 神山町 焼酎Bar純 06-6585-0565
第1部 18:30- / 第2部 21:00-
《1部2部は入替え制》 charge \3,000
[メ] 武井努(Sax)、東ともみ(B)、広瀬正人Bar純マスター(Gt)

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11/19(Sun) 永田有吾DUO
大阪 朝潮橋 Piano Bar KIYOMI 06-4395-1200
15:00- \2,000
[メ]永田有吾(Pf)、武井努(Sax)

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11/23(Thu) 森山威男(Ds)
奈良 blue note Naramachi 0742-27-8230
16:00- 前\4,500 / 当\5,000
[メ] 森山威男(Ds)、清水武志(p)、武井努(Sax)、田中洋一(Tp)、船戸博史(B) guest 今岡友美(Vo)

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11/24(Fri) E.D.F.
大阪 桃谷 M’s Hall 06-6771-2541
20:00- \1,800
[メ] 清水武志(Pf)、武井努(Sax)、田中洋一(Tp)、西川サトシ(B)、光田じん(Ds)
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11/25(Sat) ジプシー・ジャズ・トリオ
明石 POCHI 078-911-3100
19:30- \3,000
[メ] Tommy(Tb)、伊藤淳介(マカフェリギター)、武井努(Sax.Fl)
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11/26(Sun) 中島・武井 DUO
豊中 我巣灯 06-6848-3608
14:30- \2,000
[メ] 中島教秀(B)、武井努(Sax)
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11/27(Mon) たけうまDUO
寝屋川 萱島 アナンカフェ 072-823-5852
20:00- \2,000
[メ] 武井努(Sax)、馬田さとし(Gt)
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11/30(Thu) Tommy’s TT Quintet
京都 木屋町 LIVE SPOT RAG 075-241-0446
19:30- 前\3,000 / 当\3,500
[メ] TOMMY(Tb)、中島徹(Pf)、中島かつき(B)、雅隆(Ds)、武井努(Sax)
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徳島Jazz2017

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先週末開催された徳島Jazz2017にいらして下さったみなさん、悪天候の中でしたが、たくさん応援していただいてありがとうございました!ぼくは15日だけの参加でしたが、とても楽しかったです。急遽メンバー変更もありましたが、桝井さんのリードでいい演奏になったかなと思います。

そしてフェスの終わりにゲスト出演者でおこなったスペシャルセッションがとても楽しかったです。賑やかでアグレッシブなだけじゃなく、ちゃんと音楽としても面白く、各プレイヤーのいいところたくさん見ていただけたんじゃないかなと思います。ピアノ堀くんの名采配でした。

また最後は全員でステージ上がってのセッションでしたが、これが賑やかで、まさに”フェス”て感じで、いい感じに盛り上がってた時代を思い出しました。やっぱりこういうのって単純に楽しいです。少数精鋭できっちり魅せるのもいいけど、こうやってわいわいステージ上で大勢が楽しんでるのって見ててもきっと楽しいので、こういうの見せたらもっとジャズファンも増えるんじゃないかなと思うんです。

最近はジャズストリートは沢山催されますが、これはだいたいみんなバラバラにあちこちでやってそれを見て回るのが面白いんですが、大きな会場で最後に一同に会して大団円ってのはなかなかないですよね。フェスでいろいろ出演者出て、最後に一度限りのセッションでみんなで盛り上がるのって采配は難しいけど、見る方もやる方も面白いので、ぜひ機会を増やしてほしいですね。

改めて今回のフェスを運営してくださったみなさん、出演者のみなさん、そして応援してくださったみなさん、ありがとうございました。また来年もぜひ開催を!

写真はスイングのママから拝借

MITCH ALL STARS@名古屋

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昨夜のMITCH ALL STARS@名古屋キャバレロクラブにいらしてくださった皆さん、ありがとうございました!このバンド初出演でしたがすこぶる楽しかったです。やっぱりこのメンバーはいいですねえ。とことん楽しめるかんじで、音がハッピー。これも聴いてくださったみなさん、お店、そしてボッチャンのお陰です、感謝。

またこのメンツでここに出たいなーと思います。応援よろしくお願いしますね!

(写真は安藤くんから拝借)

田中啓文 – 京へ上った鍋奉行

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鍋奉行シリーズ第4弾。今回も鍋奉行こと大坂西町奉行・大邉久右衛門が今回も難題を食で解決する?!

徳川のご落胤を名乗る男子が大坂城下にやってきた騒動が、また、同じくして問屋の騒動から油不足が城下で広まっていた。久右衛門はそんなことは関係なくうまい天ぷらを食べたいということばかり。しかしやがてこの三つが結びついて「ご落胤波乱盤上」、さる店の名前の件で問題が、、、しかしそれを解決したのは奉行ではなく、、「浮瀬騒動。そして謎の書置きをおいて奉行が消えた。それは実は京都のさるお方からのたっての願いだった「京へ上った鍋奉行」、の3話。

これまでと同じく奉行の食い意地がいろんな面倒を起こし、それがなぜか別の事件の解決の糸口になったりする、っていう展開は似ているものの、このシリーズどんどん時代風俗ものの体が濃くなってきたような気がする。面白おかしいというよりは、ふつうに大坂の人々の日常話を聞いているような。当時の時代背景や(とくに食に関すること)、時勢なんかのことがほんとよく映されてて、そうなんだ、とおもうことたくさん。どうも江戸時代とかいうことになると、テレビでやってるような時代劇のイメージしかないので(そもそもああいうのほとんど江戸だし)、大坂の風俗、時代が見えるというのはほんとすごいなあと思う。

移動にしても、船や、馬や、なんなら走ったり、歩いたりなわけで、いまの距離感、時間感覚とはずいぶん違うというだろうというのは想像はできても、実感はできない。きっといまと全然違うものの考えのものさしだったんだろうと思う。京都から大坂に魚の買い付けにいって戻ってくるってのがどれほど大変か、、、想像もできない。でもほんまにあんなことが可能なんだろうか?か、久右衛門の食い意地がなせる技なのか。

いやー。おもしろい。で、読んでてお腹減る!

集英社文庫 2014

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伊坂幸太郎 – 死神の浮力

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伊坂さんの「死神の精度」の続編として書かれた長編。前作を読んでなくてもこれ単体で楽しめる。今回も人間の死の時期の見極めにやってきた死神たちが人間の生活と微妙に関わる。

死神・千葉(死神はなぜか都道府県名)が今回担当するのは、1年前に娘を殺害されたという作家・山野辺。まさにその犯人である本城への無罪判決が出た直後に彼らを訪ねる。山野辺夫妻は世間の興味の目をさけ家にこもっていたが、彼らは本城への復習を緻密に計画していた。しかし実は本城は彼らの予想を上回る頭の切れ味をみせる。彼はサイコパスだった。

そんな彼らの復讐劇を横目に見ながら死神・千葉は山野辺の力になるでも邪魔になるでもなく彼らに付き合う。時には結果的に助けることになったり、邪魔になったり、肝心なことをスルーしたり。死神が自分の仕事を全うするために、人間だったらこうするのにーというようなことをしなかったり、思わなかったり、言わなかったりするあたりが面白く、逆にこのことによって人間が普段どういう風に生きている生き物なのかということを目の当たりにさせられる。それがひとつの伊坂さんの狙いでもあるのか。そして本城はサイコパスという役割のもとで、生きていく上での絶対的な悪というか、悪意とか運命的なものの象徴になってるようにおもう。ほんと読んでて憎らしい。でもそういうものを前にした時の人間の言動にまたはっと気づかされる。

伊坂さんの作品はこんな死とか悪意とか人間にとっては大きな壁となるようなシリアスなものの存在を示唆しつつ、それをあくまでもシリアスじゃなくてエンターテインメントの中で表現しているので、読んでいて本当に怖くないというか、シリアスな気分に落ちていかないのがいいと思う。それでも大事なことはちゃんと伝わるようにしている。これこれこんな恐ろしいことがあるんです、怖いですよねー、僕も怖いんです、的な、読者側と同じ視点にいるというか。もちろん作者と読者は物語からすると神のような位置にいる(全部を見渡せるわけだから)けれど、大概は作者が提示して、読者がうけとるのだけれど、伊坂さんの場合、気づくと横にいて同じ方向から眺めているような感覚になるときがある。

結構大作で、結構シリアスで、いわゆるパズルのピースのようなバラバラの物語がひとつになるっていうタイプじゃなくふつうに進んでいく物語だけれど、最後までどうなるんだろう(つまり本城が予想の上を行き続ける)という感じがおもしろく、でも悪意と失意に満ちている。けれども死神がたまに口にする我々人間にとってはトンチンカンにうつることが少しユーモアを与え、文字から聞こえてくる音楽が潤いを与えているよう。

端々に引用されるパスカル、渡辺一夫の言葉が重くておもしろい。死、というものについて、誰にでも訪れるものということを人間が見ないようにしている事実。人間という生物の特殊さ。今回のこの死神の物語は、そのあたりが見せたかったことなんだろうか。

とても面白かった。

文集文庫 2016

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